黒猫の庭 8
「よしっ、これで終わりっと!」
俺は最後の魔物を切り裂く。
周りには殺した魔物たちの死体がたくさん転がっている。
今は召喚トラップ発動させたの何回目だったけ?
もうめんどくさいので召喚トラップを発動させた回数も数えていない。
上限である10回を超えたら勝手に消えるのだから気にしていないのだ。
しかし、さすがにこれをずっとやっているというのも精神に来るものがあるな。
そろそろ休憩した方がいいだろう。
体は全然平気そうだけど。
メンタルが限界を迎えそうだ。
俺はコンに声を掛ける。
「コン、この召喚トラップが終わったら休憩しよう。さすがに疲れたよ」
「分かりました、今日も朝からずっとやってますからね」
コンも文句はないようだ。
まあ、心配性なコンが無理して狩りさせるなんて事はないと思うけどな。
さてと、魔物たちの死体を物納しますかね。
「物納!」
俺がそう言うと光の渦が現れ、魔物たちの死体をどんどん吸いこんでいく。
俺はそれを眺めていると――。
「え?」
何か声が聞こえた様な気がした。
俺は一応ということで首を巡らすと30メートルくらい先に銀髪の少女が見えた。
「ん?」
おかしいな、なんであんな所に少女がいるんだろう?
「…………」
ってそんな場合じゃねえだろ!
モロに物納の瞬間を見られてる!
俺は急かすように光の渦を睨むがゆっくりと魔物の死体たちが吸い込まれている。
どうしよう、見られちゃった。
俺は急いでコンを抱え込む。
コンの方は少女の存在に気付いていないのか、なんで抱えるんですかと責めるような視線を向けてくる。
俺はそれを無視して、回れ右をしてコンに少女が見えるようにする。
「…………」
コンも少女の存在に気付いたのか固まる。
「どうしよう、コン」
「どうしましょうか、大斗」
その台詞を呟く頃には魔物の死体は全部光の渦に吸い込まれて渦は消えていった。
俺とコンはとりあえず少女が立ち止まっているので小声で相談を始める。
「コン、マジでヤバいってモロに見られちゃったよ、どうやって誤魔化そうか?」
「この際あの少女を消すというのはどうでしょうか、これなら完璧だと思います」
「こんな状況で冗談とか言うなよ、俺がそんなことできるわけないだろ」
「そうですよね~、言ってみただけです」
「もうここはあれだな、強引に誤魔化そうか、ヒカリノウズナンテボクミエナカッタナっ的な」
「さすがに無理があるんじゃないですか、むしろ勘ぐられると思います」
「それならあれだ、これはゴミ処理の画期的な魔法です。吸い込んだものは取り出せない的な」
「それで行きましょう!」
なんかめっちゃ突っ込まれたら困ると思うけど、そこら辺はアドリブで行くしかないな。
「よし、行くぜ!」
俺はとにかく少女の方に歩いていくことにした。
「こんにちは、こちらを見て黙っているけどどうかしたのかな」
俺は優しい笑みを浮かべ少女に話しかける。
「ええ、こっちに魔物が20体近く召喚されたのに、気付いたから助けようと思ってきたのだけど、大丈夫そうだったみたいですね」
「そうですね、腕にそこそこ自信はありますから。わざわざ心配して助けに来てくれてありがとうございます」
俺は笑顔を貼り付け礼を言う。
「凄いですね、たった1人と1匹であれだけの数の魔物を倒してしまうなんて」
「まあ、あの程度の魔物なら問題ありませんね」
「それにあそこに居るのは霊獣様ですか?」
「俺の相棒のコンだ」
ふむ物納のことについて聞いてこないな、これならこのまま適当に誤魔化してこの場を逃れよう。
俺は方針を変えるとすぐに話を切り出そうとして。
「ああ、もう、めんどくさいわ。単刀直入に聞くわね、さっきまで召喚トラップを使ってレベル上げをしていたのは本当? それにさっきの光の渦は何なの?」
少女はめんどくさげに単刀直入に聞いてきた。
ってか召喚トラップのレベル上げまでバレてるし!
おいおい、さらに面倒になったじゃないか。
こうなってしまったらもういいか。
それにもう一人の方にも出てもらうか。
俺はグラディウスを抜き虚空に向かって突き付ける。
「俺も単刀直入に言わせて貰おう、そこの人はちゃんと姿を現してくれないか」
「え?」
コンが驚いた声を上げる。
てかコン気付いていなかったのかよ。
さっき自分で言ってたじゃないか、俺たち以外のこのダンジョンのパーティーの最低人数は2人だって、そして片方はレベル40だと。
俺が剣を突き付けた先の空間が揺れ、メイド服を着た女性が現れる。
「さすがわ、あんな無茶なレベル上げをしているだけありますね」
俺は女性に目を向けると固まった。
馬鹿な……。
なぜこんな人物がここに居るのだ。
俺はあまりの事に女性に向けたグラディウスの剣先が揺れてしまう。
落ち着くんだ、俺。
このままでは相手のペースにハマってしまう。
こういうときは素数を数えるんだったな。
『壱、弐、参、肆、伍、陸、柒、捌、⑨』
くっ、普通に数字を数えてしまった。
なんという恐ろしい敵なのだ。
このままでは俺の精神が崩壊してしまう。
なんとか耐えるんだ。
「どうかしたのですか? 顔色がよろしくないようですが」
くそっ、無表情系クールメイドだとっ!
ヤバい破壊力があり過ぎる。
これ以上は俺のケモナー魂を抑え切れない。
そして、俺は俺のソウルに従うことにした。
私は自らの気配極限まで断ち女性のお手を取る。
「初めまして私の名は犂宮大斗と言います」
「なっ、いつの間に私の間合いに!」
女性は驚き私の手を振り払い、距離を取る。
ふふ、無表情だけではなくそのような顔も出来るんですね。
あなたのその驚きの表情のためなら、私はどれだけのお金も払うでしょう。
「突然失礼しました、あまりにもあなたが美しすぎるから、そのような無作法を取ってしまいました、改めて謝らせていただきます。それよりもどうですか私とお茶をしませんか、このようなダンジョンの前にある街ではあなたに相応しい店はないでしょうが、このようなダンジョンよりは遥かにマシでしょう」
そう言って私は女性の警戒網をほぼ完全に気配を断つことで手を再び取る。
「な、なんでこいつはこんな簡単に私の間合いに入って来れるんだ!」
女性は慌てふためきながら短刀を二本ポケットから取り出し、私に向かって振り下ろしてくる。
ふむ、なかなかの速度ですね。
普段の私ならこれを避けるのも苦労するでしょう。
ですが私にとっては遅いですね。
私は私に振り下ろされる短刀2つを女性の手から、軽く抜き取る。
「あなたの手に似合うのはこのような物騒なものではないはずです」
女性は一瞬何が起こったのか分からなかったみたいだが、すぐに短刀を抜き取られた事に気付き愕然としている。
ふふ、そのような顔をも美しいですね。
私が女性に微笑みかけているとコンが私に向かって『狐火』を放った。
その程度の攻撃は簡単に避けることができるのですが。
私が避けると女性に当たるコースですか、この状態の彼女なら避けることはできないでしょうから、なかなかいじらしいことをしてくれますね。
いいでしょう、その攻撃受けてあげましょう。
そして、私は『狐火』の炎に包まれた。
「やりましたか! 大斗さっさと暴走は止めて元に戻ってください、話が進みません」
コンは私を仕留めた気になっていますが甘いですね。
この程度の炎どうってことはないのですが、彼女を見るのに邪魔ですね。
「気闘術 発 烈風!」
私は気を全身から放ち全身に絡み付いていた『狐火』を弾き飛ばした。
コンはそれを信じられない者を見るような目で見ている。
まあ、普段の私は気をまったくと言っていいほど使いこなしていませんからね。
「コン、この程度の攻撃では私を止めることなどできませんよ。それに嫉妬とはいけませんね、私は等しく獣を愛していますから!」
私はそう言って彼女たちを睥睨する。
少女は何か汚物を見るような目でこちらを睨んでいて、メイド服を着たイヌミミの女性は怯えつつこちらを窺っている、そして、コンは『これは誰にも止められませんね』と諦めの顔でこちらを見ていた。
さぁ、私の時間を始めようではないか。
現在のカタログポイントは276712となっています。
これ、どう収拾つけるんだ?
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