表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カタログを持って異世界に行こう!  作者: 天野 洋
一章 アザレスの森編
3/68

悲嘆と3日

「終わった……おわったよ、もう何もかも」


 俺は悲嘆に暮れていた。

 あれだけあったポイントが今は56ポイント

 56ポイントなんだぜ!

 56ポイントじゃまともなモノなんて買えない

 しかもポイントを得るには魔物を狩らなければならない

 俺のステータスはレベル1にスキルもなく固有スキルもない

 もう駄目だ

 もう駄目なんだ

 まさしく人生オワタ


「そんなに悲嘆に暮れないでください、きっと希望だってありますよ」


 56ポイントでどうしろと

 希望なんてありゃしないよ

 このホームにずっと引き籠って餓死して死ぬんだ

 

「これは駄目ですね、まったくとんだヘタレでしたね」

 

 ああ、ヘタレだよ!

 ヘタレで悪いかよ!

 俺の世界というか日本は超平和だから俺みたいに戦うこともないやつばっかだよ!

 こんな魔物とかがうようよいて戦うのが当たり前みたいな世界に来て最初っから戦える奴なんて頭のおかしいやつだけだろう

 それかチート能力でもあれば違うのかもしれないが残念ながら俺にはそんなものなんてない

 結局俺にはこんな世界で生きていくなんて無理だったんだよ

 俺は何もない白い空間に寝そべる。

 そういえばこの世界に来てから2時間くらい歩きっぱなしだったから疲れて……

 俺は静かに眠りに就いた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆




 ふう、快眠の魔法が効いた様で眠ってくれたみたいですね

 あれだけ錯乱していたらまともな思考なんてできないでしょうからじっくり眠ってもらって一度落ち着いてもらうことが必要でしょう。

 私はそう判断して大斗に快眠の魔法をかけて眠らせた。

 え?

 戦う力はないんじゃないのかだって?

 その通り私には一切戦う力が有りません

 しかし、カタログの持ち主を手助けするための補助魔法が初期装備で備わっています。

 魔物が現れた時すぐに察知できたのもこの補助魔法の一つの察知によるおかげです。

 ですが残念ながら私はカタログの持ち主を手伝うことは出来ますが自分から動くことが禁じられています。ポイントを使用し機能の解禁をしなければ私はほんとうに最低限のことしかできません。

 そのため決まったことしかできず、本来勧めるべきものの紹介などもできていない。

 しかも挙げ句の果てにはいきなり100万ポイントも使わせてしまった。

 相手はたかだかレベル20のブラックベアーだというのに

 あの時適切なアドバイスができればあそこまでポイントを消費することはなかっただろう。

 それに転移魔法についてもだ

大斗の方から質問してくれないと答えられないことなのだが残念ながら大斗の世界の住人は魔法を使うことが出来ない。

 なぜなら大斗の世界の人間は魔力というものを一切持ってないからだ。

 そのため大斗に転移魔法と言われた時に候補となるものは『ホーム』の魔法しかなかった。

 この『ホーム』の魔法は特殊魔法に分類されていて魔力を使わずに発動できる特別なものなのだ

 だからこそ大斗でも発動できたのだ。

 もしも、あの場で大斗が転移魔法ではなく転移魔術と言っていればこの状況も変わったかもしれない

 魔法は原則的に自分の体の内にある魔力を使い発動するものであり

 魔術は原則的に自分の体の外にある空気中などの魔力を使い発動するものだ

 なので大斗は魔法は使うことはできないが魔術は使うことが出来る。

それにあのままの話の流れならば大斗は使うことのできない転移魔法のスキルを買ってしまう可能性も無きにしも非ずだったので運が良かったと言えば運が良かった方なのだろう。

 なんとか話を誘導して「とりあえず高くてもなんでもいいから俺を安全な場所に転移してくれ!」という言質を取れたため『ホ―ム』の魔法を買えたのだ。

 自由に発言も出来ずアドバイスも出来ないこの身が情けなくて堪らない。

 とりあえず大斗が次に起きた時はなんとか私が自由にアドバイスできるよう言質を取りたいものだ。


 しかし、少し私には気にかかっていることが有る。

 それは私が誕生したタイミングだ。

 私は大斗と一緒にこの世界に来たのではなく

 大斗が本を開いて何か呟いた瞬間何者かの手により生み出された。

 本来カタログは商品を提供している神魔商会の者が作りだし配布されるものなのだが……

 別に神魔商会以外の者がこのカタログを作れないわけではない

 神魔商会に関係が無いものでも神や悪魔でそれなりに高位な者ならば作ることも可能だ

 しかし、なぜ大斗の元にカタログをわざわざそんな大物が作りだしたのかが分からない

 実は凄い陰謀があって……なんて可能性もあるけど大斗はただの人間でしかも特別なスキルも普通のスキルでさえ持っていない

 なのにそんな可能性があるのだろうか

 まあ、神や悪魔の悪戯と考えるのが妥当かもしれないが。

 ちなみに私に掛っている色々な制限は神魔商会が全てのカタログの守護者に設定している

 決して神とか悪魔が勝手に制限付けたわけではない。

 え?

 そんなことするのはなぜかって?

 そんなのそっちの方が儲かるに決まっているからじゃないか。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆




 う、体が痛い

 床で寝たせいかあちこちが痛い

 体を起して立ち上がり周りを見回すがそこは真っ白の空間で俺の他には横に置いてあるカタログとその上で丸まっているキツネ、コンがいるだけで他は何もない。

 そういえば俺って異世界に来ちゃったんだよな

 俺はゆっくりと昨日の事を思い出す。

 昨日は気付いたらよく分からない森の中に居てそれでどうにか人里に降りようと歩いたけど全然森から抜け出せなくて疲れたから休憩していた時にカタログをめくっていたら本が輝いてついでにコンが出てきた。そして、色々俺の状況教えてくれたけどにわかには信じられないよなここが異世界だなんて、俺も話を聞きながらほとんど信じてなかったからな、でも話の途中に奴が現れて……

 ここが本当に異世界だと実感したよ

 つか普通あそこで出るのはゴブリンとかだろ

 どれだけ俺は運が悪いんだよ

 それで転移魔法を買って逃げられたはいいがあったポイントの大半ってかほとんど全部使っちまってどうにもならなくなったと

 俺はどうにもならない状況にため息を吐く。

 ほんとこれが夢だったら良いのにな

 俺がぼーっとして白い空間を眺めていると視界の隅に居たコンがむくりと起きた。

 あ、欠伸してる。

 屈伸? てか体を伸ばしてる

 つかネコ寝起きとすることあんま変わらないのか? キツネ

 まあ、こいつが本当のキツネでないだろうことは分かり切っているが

 一通り体を伸ばして満足したのか俺の方にてこてこコンが歩いてきた。


「おはようございます、大斗」


「ああ、おはよう」


「昨日と違って今朝はまともなようですね」


「ああ、少しは落ち着いた。というか諦めが付いたみたいなものかな、『なんくるないさ』だよ」


「そうですか、それは良かったです。今から昨日していなかったこの空間の説明をしますか? それとも朝食にしますか?」


 そういえば結局転移した後すぐに寝ちゃってこの空間?の説明を受けてなかったな。

 てか朝食?

 朝食が食べられるのか!

 そういや昨日から何も食べてないから何か食べたいな

 もしかしてカタログにご飯とか載ってて買えるのか

 カタログさすがだわ

 ご飯とかならポイント高くつくことはないだろうしご飯を食べながらこの空間の説明を受けよう。


「ならご飯は一番安いやつで、ご飯食いながらこの空間の説明をしてくれないか?」


「分かりました。一番安い弁当は1ポイントで色々種類がありますよ。焼き肉弁当、しょうが焼き弁当、ノリ弁、幕の内弁当、カレー、そば、ラーメン、など好きな弁当を言ってください。大体の物が有りますので」


 おお、色々な種類が有るんだな

 このカタログやっぱ凄いわ

 さて何を食おうかな

 昨日何も食べてないからがっつりと食いたいな

 肉一択だな

 

「それじゃかつ丼で!」


 う~む

 やっぱ丼ものはかつ丼に限るな

 天丼も捨てがたいが

 がっつり食いたいのならこっち一択だしな

 かつは衣が大事だよな!

 こうカリッと揚ってないと食べた気がしない

 残念ながら弁当だからか衣のカリッと感がまったくないが……

 久しぶりに美味しいかつ丼が食いたいなあ

 福岡の小倉に俺が大好きなかつ屋があるんだよな

 あそこのかつ丼は神だったな

 つか、かつを頼むよりかつ丼を頼む方が美味しかったからな

 あー、久しぶりに行きたくなってきたわ

 

「そろそろこの空間の説明をしてよろしいでしょうか?」


 俺がかつ丼に思いを馳せまくっているとコンが声を掛けてきた。

 そういえばコンはご飯とか食べないのだろうか?

 疑問に思い尋ねてみる。


「別に説明はしてもらってもいいけど、コンはご飯とか食べないのか?」


「はい、私は周囲の魔力を取り込み動いているので食事などは必要ありません」


「そうなのか、なら説明を頼むわ」


「はい、わかりました。それでは説明をさせていただきます。この空間は『ホーム』と言われている空間で自分が招かない限り他の生物は入って来れない仕様になっています。つまり自分だけのセーフティーエリアですね。時間は外と同じように流れています。また外に居る時に『ホーム』と唱えるとこの空間に入れ、出たいときは同じく『ホーム』と唱えると外の入った場所と同じ場所に戻れます。この空間の拡張や家などの居住施設は別途ポイントがかかりますので悪しからず」


「へ~、つまりここに居れば絶対安心ってことだね。てか家とかは欲しいな、何にもない空間の床で寝るだけとかあんま続けたくないし」


「家の値段は一番安いもので10万ポイントとなっています」


「ああ、やっぱたけえな。それとやっぱこの空間にいるだけじゃポイントって増えないよね?」


「はい、基本的にポイントは魔物など魔力を持つ生物を殺すか、生物の死体などの物納で稼ぐことが基本ですからこの空間でポイントを増やすことは難しいですね。例えばこの空間で物凄い発明をするとか物凄い理論を打ち立てるなどしなければポイントを増やすことは無理と思われます」


「そりゃ無理だな。結局外に出て魔物を殺して物納するしかないのか」


「そうなりますね」


「あれ? そういえば今思ったんだがこの『ホーム』中に居る時は大丈夫だと思うが外に出るときって一番危険じゃないか? 昨日のクマとかがまだ外をうろうろしていたりしたら」


「そうですね、そういう場合は非常に危険ですね」


「…………」


「おおおい、危険じゃない場所にいけるのはありがたいけど、出るとき危険ってのはないぜ! なんか外の状況を知るための機能とか付いてないのかよ!」


「残念ながらそのようなオプションは付いていませんね」


「はあ、マジかよ。何かないか安全に外を知るための方法は」


 俺が何かいい案がないかと考え込んでいると

 コンがなぜか前足を片方だけ上げてぷるぷると震えている。

 ????

 何がしたいんだコンは?

 上げた足で自分の方に向けようとしてある一定のとこまで来るとぷるぷる震えて足が戻っていっている。

 ん?

 さっぱりわからん

 可能性としては

 これはあれか何かのジェスチャーなのだろうか

 それとも新しい遊びか

 キツネの求愛行動とか

 う~ん

 やっぱりよく分からんわ


「なあ、コンそれは何がしたいんだ?」


「いいえ、別になんでもありませんよ」


 とコンは否定するのだがなぜかまだ片足あげてぷるぷる震えている。

 まあ、見ている分はキツネが片足上げて震えているからかなり可愛いのだが

 意図がまったく掴めない

 仕方ないのでもう一度よく観察してみよう

 コンは自分の方に前足を向けようとすると途中で止まってぷるぷる震えながら前足が元に戻っていっている。

 つまりコンは自分の方を指したいけどなぜか元に戻っているということなのか?

 う~ん

 さっきまで話していた会話は『安全に外を知るための方法』だ

 そしてコンは自分の方を指そうとしている

 つまりこの問題はコンに頼めば解決するということなのか?


「なあ、コン。この安全に外を知るための方法ってコンならどうにかできないか?」


「はい、できます。私がここで察知スキルを使えば安全を確かめることができます」


 そう言っているコンの表情はどこか嬉しそうに感じた。

 キツネだから表情あんま分かんないんだけどな!

 しかし、疑問が残るなぜコンは自分からそのことを言わなかったのか。

 いや、言わなかったんじゃなくて言えなかったんじゃないのか?

 さっきの自分の方を指すジェスチャーだってコンに聞いてみたら『なんでもないと』答えられた。

 だというのにそのジェスチャーには意味が有った。

 これは聞いてみないといけないな


「コン、質問が有るんだがいいか?」


「はい、いいですよ」


「コン、お前何か制限とかが付けられているんじゃないか? 例えば助言ができないとか自分の意思を持ってしゃべれないとか」


「はい、そうです。私には制限が掛かっており戦闘への参加や助言、自由な発言などのができません」


 やっぱりそうだったか

 なんかおかしいと思ったよ

 そもそも転移魔法を買ってくれって言ったのになぜこの『ホーム』なんて魔法を買ったのかがよく分からなかった。

 それに発言も最初は冗談とか言っていたのにいつまにかそういうことも言わなくなっていたしな。

 しかし、なぜそんな制限が付いているのだろう

 制限を付けるメリットがあるとは思えないのだが

 分からないからコンに聞いてみよう

 変な理由とかじゃなければいいが


「なあ、コンはなんでこのような制限が付いているんだ?」


「それは、それはその方が儲かるからです」


 え?

 今なんて言った?

 その方が儲かる?


「儲かるってそうなの?」


「はい、実際この制限を付ける前と後ではかなり利益に差が出たそうです。制限を付ける前はお勧めの商品ばかり売れ不良在庫が溜まっていましたがこの制限を付けたためオススメの商品以外も多く売れるようになりました。例えオススメの商品でなくとも神魔商会が手を抜いているわけではないのでだいたいのお客さんが納得しますので、ただよく小口のお客様がこれに気付いて文句を言ってきますが大口に比べれば大したものではないので」


「うあー、商売人って怖いわ」


「それで機能の制限を解除しますか? 戦闘への参加、助言、自由な発言はそれぞれ100ポイントずつ掛かります」


「見事に足りてねえじゃねえか!」


「そうですね」


「はあ、結局は外に出て魔物を倒してこないと何も始まらないってことか」


「それでは外に出られますか?」


「いや、俺にそんな勇気はない!」


「ではこのままここで野垂れ死にますか?」


「いや、そこまではいかない3日だ! 3日で覚悟決めるからそれまで待っていてくれ」


「分かりました」


 こうして俺は3日で魔物と戦う覚悟を決めることとなった。

 まあ、3日もあればきっと大丈夫だよね!

 きっと……


ご意見、ご感想お願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ