黒猫の庭 4
陽が落ちかけて、周囲が段々と暗くなっている。
そう周囲が暗くなっているのだ!
ダンジョンってファンタジーなものだからずっと陽が落ちないと思っていたけど、普通に周りが暗くなっているんですけど。
普通に良く考えればここはダンジョンと言っても外なのだから普通に暗くなるのは頷ける。
それで周囲が暗くなるということはこのまま出口に向かうことは危険ということだ。
つまりはここで彼らと一夜過ごさないということだ。
非常に嫌だ。
こいつらのことだから夜の番を任せても寝てそうだ……。
うあ~、ホームに帰って布団でぐっすり眠りてえ。
そう思いつつ、俺は仕方なく話を切り出すことにした。
「ビーン、さすがに暗くなってきたからここら辺で夜を明かすか?」
「そうだな、さすがに暗くなってきたからここらで一夜を明かすか」
ビーンは一夜を明かすのが当然といった風に答えた。
てか、ここで一夜を過ごす気満々だったのかよ。
ほんとに大丈夫なのかと心配だ。
夕ご飯の準備は粛々と進められた。
その手際の具合から見て手慣れていることが窺えた。
俺はというとそんなことしたこともないので黙って見ていたが、ギルドで商隊護衛の依頼とか受けたらこういうこともできないといけないのかと思うと少しでもためになるので見習おうと彼らの動きを見ていた。
俺がじっと見ている間に料理の準備は終わり。
「大斗、飯が出来たぜ器は予備があるからこれで食べてくれ」
そう言って木の器に何かのスープが入ったものを渡される。
俺がこれは材料何なんだろうとじっと見ていると。
「ガハハハ、心配するなおかわり出来るよういっぱい作ってあるからな」
いやそういう意味で見ていたんじゃないんですけど。
そう思いつつスープを一口飲んでみたが……。
「微妙」
果てしなく微妙だった。
まあ、こんなダンジョンでの食事だから期待してなかったのだけど。
最近は美味しい店で食べていたせいか、そのギャップで普通の食事も微妙に感じられるようになったのだろう。
まあ、ただでさえこの世界の食事は薄味で俺の好みとは違うからな。
え?
濃いものばかり食べていたら繊細な味が分からなくなるって?
いや、確かにそうなんだけど。
好みってそう簡単に変えられないじゃん。
「そりゃ料理店とかの料理と比べて貰うと微妙だけど、はっきり言うな大斗は」
そういって俺の背中をばしばし叩いてくる。
さすがに作った人だけあって自分の料理が微妙だと自覚しているのだろうか、あまり怒っていないようだ。
「それと霊獣様の分だ」
そういってコンの分のスープをコンの前に置くが、コンは臭いを嗅ぐとぷいとそっぽを向いた。
コン、さすがにそれは失礼じゃ。
俺も失礼なこと言っているけど。
料理を作った人、名前はえっとガイルさんだったかな。
そのガイルさんも苦笑いしている。
「すみませんね、コンは好き嫌いが激しいので、それにコンは元々食事をする必要がない存在ですから」
「へ~、さすがは霊獣様だ」
さすがに出されたものを捨てるのは勿体ないのでコンの分も俺が食べることにした。
そして、食事も終わり俺がガイルさんと話しているときにビーンが声を掛けて来た。
「よう、楽しんでいるか?」
「ええ、ガイルさんが料理関係のことに詳しくて色々な話を聞いてます」
ガイルさんは昔は料理人を目指していたらしく。
料理の修業をしていたらしいのだが、才能がなく料理スキルを取得することが出来なかったらしい。
なんでもこの世界の人間はこの手のことを才能がないというらしい。
ある種のことについて試してみてスキルの取得が出来なかった場合は才能なしとなり、他の職業を目指すことになるらしい。
例えスキルを取れたとしても上げることが出来るスキルレベルも人によって違うらしい。
もしもそれが本当なら俺の上がらない剣術Lv1は才能がないからなのか……。
でもカタログを使えば上げれそうな気もするけど。
しかしながら、才能がない、スキルのレベルが上がることがなくても料理とか練習すれば、料理の腕は上手くなってくことは確かだからそういうことはしないのかと聞くと。
スキルの補正というものが馬鹿に出来ないらしく。
スキルレベルが1や2は練習すればそれぐらいの腕に慣れるが3、4となっていくとかなり難しく、スキルレベル5となるとスキルなしの者では到底埋めることのできない差が出るらしい。
確かにイスカの街で行きつけの店の料理人はスキルレベル5であったが、確かにあれはおかしいと思った。
俺は薄味があまり好きではないというのになぜか知らないが美味しく感じるという謎の状態だったからな、あれは料理人の腕がどうこうという次元ではなかったのかもしれない。
おそらく俺が濃い味好きでなければ絶賛していたことは確かだ。
「それでどうだい、俺たちのパーティーワイルドウルフは良いところだろう」
良い所って……俺何かこのパーティーの良いところ見せて貰ったっけ?
多少一般常識を教えて貰っただけでそれだけだと思うんだけど……。
さすがにそれに諸手を上げて賛成できるはずもないので、俺は正直に言うことにした。
「いやあ、正直言って微妙ですね。私が出会った魔物全部倒したから、戦うとこ見せて貰ってませんし、料理も美味しくなかったですし、特別なスキルを持った人も居なさそうですし」
俺の発言にビーンは乾いた笑みを浮かべていた。
だけどすぐに笑顔を張り付けて。
「だけど大斗は常識がなってないよな、そんなんじゃこの先冒険者稼業で苦労するぜ、どうだ俺たちのパーティーに入ったら色々教えてやるぜ」
なるほど。
どうやら彼は自分のパーティーに俺を入れたいみたいだ。
しかしながら、彼らは正直言って弱いし、マナーがなってないし、ただの足手まといだ。
それに正直このビーンという男を信用できない。
俺はカタログという秘密を持っている、それを十全に発揮するためにはやはりコンと二人っきりの方が良いに決まっている。
だけど少人数での闘いに限界が来ればその時は誰か信頼できる人をパーティーに加えると思う。
まあ、俺ははっきり言って二次元大好きのロリコンでケモナーだから、信頼できるやつができるなんてことは有りそうにないと思うけどな。
俺はビーンの提案をはっきりと断ることにした。
「悪いがワイルドウルフに入ることは遠慮させて貰うよ、俺とコンはどこまで二人で行けるか試してみたいんでね」
「そうか」
ビーンは一言で答えると無表情のまま別の人の所に戻っていった。
その後ガイルさんと少し話した後、俺は見張りを他の人に任せて寝ることにした。
それから数時間後ビーンは大斗とコンが眠ったことを確認すると仲間を起こす。
「どうしたんだ、ビーン?」
「小僧を仲間にできなかったんで予定通りこの小僧を殺して魔道具と霊獣を奪う」
「そうですか、残念ですね。随分若い子だというのに」
「ガイル、ちゃんと小僧には眠り薬を入れたスープを飲ませたんだろうな?」
「ええ、遅行性の薬ですが眠り始めたら朝まではぐっすりですよ」
「そうか、じゃあ早速小僧と霊獣を殺そうじゃないか」
「ですがっ、小僧はともかく霊獣様を殺して罰が当たりませんかね?」
「んなもん気にしてたら、盗賊の副業なんてできねえだろ、霊獣を専門に狙うやつもいるがそいつらは霊獣を何体も仕留めても死んでねえ、そんなもん迷信だよ」
「そうですか」
「さっさと殺すぞ」
ビーンは剣を抜きゆっくり大斗とコンに近づこうとして。
「おやおや、やっと本性を出しましたか」
声が掛けられた。
彼らはぎょっとして声の主を探すと今までぐっすり寝ていたコンが立ちあがっていた。
「あなたたちの様な下種は私の贄に、いえ私たちの贄に相応しくありません。生きたまま焼かれるが良い『狐火!』」
コンから放たれた炎はすぐに彼らを焼き始めた。
「「「ぎゃああああああああああああああああ」」」
「熱い熱い熱いいいいいいいいいいい」
「た、たすけて、たすけてくれ」
「悪かった、悪かったからこの炎を止めて」
彼らは炎に焼かれながら地面をのた打ち回る。
「ふふふ、すぐには殺して上げませんよ。ゆっくり、ゆーっくりと殺してあげますから、それを楽しみなさい」
「いやあああああああああああ」
「あがああああああああああ」
彼らは十数分かけてゆっくりと殺された。
殺したコンはというとゴミが燃えて清々したという顔で塵も残らず消えた彼らの荷物を見た。
そして、殺した後になって、そういえばちゃんと財布を抜いておいて殺すべきでしたねと反省した。
まあ、殺してしまったことは仕方ないですし、荷物の方に財布があることを祈りましょうと考えを打ち切り。
大斗の横まで歩いて寝ようとしたところで何かに撫でられた。
コンははっとして上を見上げると大斗が起きて自分を撫でていることに気付いた。
「大斗起きていたのですか? 薬で眠っていたはずじゃ」
コンがそういうと大斗はくすくす笑う。
「忘れたのかい、俺は毒耐性Lv3を持っているんだよ。あの程度の毒は効かないよ」
コンはそれがあったかという顔をしつつ、不思議そうに大斗を見つめる。
ならばどうして大斗は私の行為を見ていたのか?
起きていたのならば物納すれば良かったのではないか。
そう思い大斗を見つめると。
「悪いね、最後の最後まで彼らを殺すという決断が取れなくてね。手を拱いているとさっさとコンがやり始めちゃって」
そういうことですか。
大斗は優しいですから一時とはいえ一緒に過ごした彼らに情が湧いてしまったということ?
いやいや、あいつらは全開でウザかったですからその線はないですね。
ただ単に人を殺すという覚悟ができなかったというだけなのか。
ならば自分の手を汚さずに物納すれば良かったのではないか?
やはり大斗の考えがよくわからない。
私が不思議そうに大斗を見ているとそれに気付いたのか大斗が。
「すまないね、情が湧いたっていうのもあるけど、助けた相手に裏切られるってのがショックでね、少しは彼らを信じてやりたいと思ったんだよ。結果は散々だったけどな」
大斗は笑いながら言うが見るからに無理をしている顔をしている。
「大斗はこの世界の人間じゃないんですから、無理しなくても良いですよ。辛いことは私に任せてくれれば大丈夫です。ほら今日は特別に私の尻尾を貸して上げますから」
そういって私は大斗の方に尻尾を差しだす。
大斗は間髪入れず尻尾を揉み出す。
許可をしたとはいえ反応が速すぎますよ!
む~、他人に尻尾を触れているとなんだか体がむずむずしますね。
私は大斗を見上げてみると――。
そこにはさっきより気分の悪そうな顔をした大斗が居た。
あれ?
これってもしや。
「コン、さっきまでずっと人間の焼ける臭いがしていて我慢していたんだけど……もう限界で」
「ちょっ、私の尻尾を離してください! こら! 早く離せ! 吐くならもっとむこうにいきなさああああああああああい!」
黒猫の庭にコンの悲しき叫び声が響き渡った。
朝になると大斗が焦げていたのは気のせいではないだろう。
現在のカタログポイントは26134となっています。
大斗の変態度ですが賛否両論で難しいところですね。
折衷案としてリザードマン(女性)をペロペロ未遂ぐらいでどうでしょう。
これなら皆さんも納得できると思います!
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