黒猫の庭 2
「ふむ、けっこう奥まで来たな」
「そうですね、ここからならボスがいるところまでは1時間って所でしょうか」
あれから何度かの戦闘をこなしてずんずん進んでいるとダンジョンのかなり奥の方まで来てしまったようだ。
ここまで戦闘をこなしつつ来るのに5時間といったところだろう。
ダンジョンと言っても三級だからかあんまりここは広くないような気がする。
攻略に何日もかかるのがダンジョンだと思っていたのに……。
それにしても奥の方に来ているからといってもここの敵は大したことが無い。
レベル差があるせいかもしれないが、これはボス以外は期待できそうにないな。
そんなことを考えつつ歩いていると。
「こちらに冒険者たちが向かっているようです。しかもトレイン状態です」
「トレイン状態ってここの魔物そんな多くないのによくトレイン状態にできるな」
トレインとはネットゲームの用語で多数の魔物を電車ごっこのように引き回す行為のことだ。
この多数の魔物を引き連れた状態は非常に危険で、例えば通りかかった人とかに連れて来た魔物が大量に襲いかかったりとかすることがあるのだ。
特にひどい奴なんかだとこうやってトレインを起こして、それを他人に押し付け殺そうとする行為MPK(monster player killer)なんかをする者が居る。
「恐らくはトラップの類を発動させてしまったのでしょう」
「へ? ここのダンジョンってトラップもあるの?」
「ええ、ありますよ。私は罠の探知なんかもできますから、1回も引っかかっていませんが」
「いやいや、それ初耳ですよ、コンさん」
「まあ、いいじゃないですか。それよりも逃げている彼らをどうしますか?」
「ううん、あんまり他の冒険者を助けるなんて真似したくないんだけど、無視して死んだら目覚めが悪いから助けますか」
「大斗はお人好しですね」
「そうか? 俺はそんなことはないと思っているけど」
「ふふふ、そうこう言っているうちに視認できるほど近づいて来ましたよ」
コンが向いている方向を見ると必死に逃げてくる男たちが見えた。
ちっ、男だけかよ。
普通ならここでかわいい女の子たちが登場だというのに。
全員男とか。
相変わらず運がないな。
まあ、冒険者って危険な仕事だから男が多いのは分かるが。
夢くらい見させてくれてもいいじゃないか!
俺は残念がりながらもグラディウスを抜き放ち。
男たちの方に駆けていく。
コンも俺の後を付けて走る。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「くそう、何で俺たちがこんな目に!」
俺は悪態を吐きながら必死に魔物たちから逃げる。
俺の名前はビーン、Cランクの冒険者だ。
同じくCランクの仲間たち5人とワイルドウルフというパーティーを組んでいる。
今回メンバー全員がCランクに上がったお祝いに、さらに全員のレベルを上げようとこの三級ダンジョン、黒猫の庭の攻略をしようと挑戦したのだ。
俺たちはダンジョンでレベル上げなどもしたことはなく、効率的なレベル上げができるらしいという噂を聞いて行ってみたのだ。
最初は出てくる魔物も大したことがないものばかりでどんどん奥へ進んで行ったのだが、奥になるとさすがに敵が強くなったが倒せないほどではない。
そこで俺たちはレベル上げを行っていたのだが仲間の一人がトラップを発動させてしまった。
ただのトラップなら問題はなかったのだが、最悪な事に発動させたトラップが魔物召喚のトラップだった。
20体近くの魔物が召喚され俺らは逃げるしかできなかった。
そして、どうにか逃げているのだがこのままでは俺たちはこの魔物たちにやられてしまうだろう。
何か何か打開策を出さねば本当にここで俺たちは死んでしまう。
そして、俺の脳裏に一つの案が浮かぶ。
確かにこの案を実行すれば俺たちの生き残る確率が上がる。
トラップを発動させた、ガイルをちら見する。
ここであいつを生贄にすれば俺たちが逃げる時間を稼げるのではないか?
このピンチはあいつがトラップを発動させたのが悪いんだし。
あいつは俺達の中で一番レベルが低い。
あいつがトラップを発動させたことが原因だから、それを償わなければならないよな?
俺の中のどす黒い感情があいつを殺せと言っている。
俺が腰の剣を抜こうとして――。
視界にこちらに向かってくる少年が一人目に入った。
こちらに向かっているということは俺たちに加勢してくれるかもしれない。
俺は希望の光が見えてきたと、少年以外に加勢してくれる冒険者がいるか探すが周りには見当たらない。
もしかして、こいつ一人が加勢しに来て、後のやつは死ぬ可能性があると逃げたのか?
くそっ、使えない加勢だな。
あの少年がこれだけの魔物を相手にして倒せるはずがない。
だがあいつが魔物と戦っている間に逃げ切れる可能性が出てくる。
ここは少年には悪いが少年が戦っている間にせいぜい俺たちは距離を稼がせて貰おう。
俺がそんなことを考えながら少年と擦れ違う。
少年は俺達を一瞥すると手に持った剣を突きだして大声で叫ぶ。
「ライトニング!」
そして、閃光が弾けた。
俺は眩しい光に驚き脚を止めた。
他の仲間も同様に驚いて脚を止め。
少年と魔物たちの方を振り向く。
そして、そこには――。
黒焦げになった魔物たちの死体が転がっていた。
魔物の肉を焦がした様な異臭が周囲には漂っていた。
俺はそれに顔を顰めながら信じられない光景を見つめる。
もしかしてこの少年はかなり腕の立つ魔法使いなのかもしれない。
これで俺たちは助かった?という思いが出始めたが。
焦げた死体の後ろから続々と新たな魔物が出てきた。
あれは俺たちが召喚された魔物から逃げている途中に、俺達のことを見つけ襲ってきた魔物だ。
そういえば必死に逃げていたから分からないが、そうやって魔物に会いながらも逃げていたから雪だるま式に追いかけてくる魔物が増えていた?
俺はその事実に愕然としつつ、周囲の仲間にあいつが戦っている間に逃げようと提案しようとして――。
再び雷光が魔物たちを襲った。
眩しさに俺は目を瞑りながらも、雷があの剣から放たれた事に気付いた。
もしかしてあれは魔道具か?
しかし、あれほどの雷を放つ魔道具なんて普通売っていない。
あったとしてもそれはダンジョンの宝箱からめったに出てくることのない魔道具ぐらいしか。
もしかしてあれは白金貨ぐらいすると言われる魔道具なのか?
あれを売ったら大金持ちか……。
そんなことを考えながら少年の方を見ていると地面に何かいることに気付いた。
キツネ?
いやあのサイズのキツネなんて有り得ない。
そもそも普通のキツネなんかをこんなダンジョンの中に連れて来れるはずがない。
だとしたら霊獣?
売れば白金貨数枚になるのは確実と言われるほどの存在がなぜこんなところに?
と思いつつ俺たちは彼らの闘いを見守ることにした。
闘いはワンサイドゲームだった。
剣から放たれる雷は3回撃った後は魔力切れなのか、雷を使わず剣で襲ってくる魔物たちを次々と倒して行っていた。
霊獣らしきキツネも炎を出して次々と敵を焼いていった。
そして、魔物の襲来が無くなる頃にはかなりの数の死体が転がることになっていた。
雷や炎で焼かれた魔物は素材としては使いものにならないだろうが、魔石を取り出して売ればあれだけの数だ。かなりの金額になるだろう。
それに少年が剣で倒した魔物もかなりの数だから総額を考えると金貨数枚にはなるだろう。
俺はどうやってこの少年を俺達のパーティー、ワイルドウルフに入れようか思案し始めた。
現在のカタログポイントは21721となっています。
今回は意外にも難産でした。前回の主人公の変態度ですがこのままでいいという意見が多かったのでこのまま変態街道まっしぐらにします。
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