リミッター
「さてと今日も一日頑張りますかね」
俺は大きく伸びをした後、コンに声を掛ける。
「大丈夫ですか、大斗?」
心配そうにコンが見上げてきている。
俺は心配ないとばかりコンの頭を撫でる。
「大丈夫だって、今度はあんなヘマしないからな、あの手の依頼は受けないことにして体力系の依頼を受けてランクを上げていこう。ぶっちゃけ、もの足りない日々が続くと思うけどね」
「そうですね、まあ、昨日分かった体の調整とか、気の扱いなんてほとんど前進してませんしね」
「そう言われると残念なやつにしか見えないなあ」
「事実だから仕方ないですけどね」
「さてとコン、今何時くらいだ?」
「大体朝の八時くらいですね」
「冒険者ギルドって何時から空いているんだろう?」
「そういえば聞いてませんでしたね」
「まあ、取り敢えず行ってみるか」
「ですね」
俺たちは外に人が居ないことを確認してホームから街の路地裏へと戻り、ギルドへと目指して歩き始めた。
そして歩くこと五分ほどで冒険者ギルドの前に着いた。
朝早いとは言い難いがこの時間なのにけっこうな人がギルドに出入りしていた。
やっぱ元の世界と違って日が出ている間しか働かないから、その分早く起きて早く寝るというやつなのだろう。
ここで行き交う人を見ていてもしょうがないので俺はギルドに入った。
ギルドの中は夕方に比べればそこまで多くない様だった。
まあ、依頼を受ける手続きだけだろうから、手続きしたらみんなすぐに出発してしまう感じだからだろう。
俺は取り敢えずFランクの依頼が張ってあるボードの所に行き、何か良さそうなのがないか見てみる。
う~ん、やっぱ『薬草採集』以外は全部雑用系の仕事ばかりだな、FランクとEランクはそもそもレベル不問だったし、こういう依頼ばかりなのだろう。
俺は『物品運搬』の依頼を剥ぎ取ると依頼を受領するために、一番人が少ないであろう受付、昨日の少女の所に並んだ。
五分ほどすると順番が回って来たようで、俺は『物品運搬』の依頼書を受付に置き、冒険者カードを取り出して。
「あーーーー! 昨日の霊獣の人!」
なぜか大声で目の前の少女が叫んだ。
「もう、なんで昨日は手続きの途中で帰っちゃったんですか! おかげでリムはギルドマスターに怒られちゃったんですよ! 人の話は最後まで聞けと親に習わなかったのですか!」
「そ、それは済まなかった」
俺は突然キレだした、少女にどうしていいか分からず、取り敢えず目を逸らしつつ答える。
「取り敢えず、さっさと冒険者カードを出してください!」
俺は少女に言われるまま冒険者カードを少女の前に出す。
少女はそれを奪い取り、すぐに何かの箱の中に挿入した。
「はい、これで昨日の依頼の手続きが完了しました。今回は厳重注意だけですかまた同様に手続きの途中で逃げ出すということがあったら、冒険者カードを取り上げられますからね!」
「以後、気を付けます」
「はい、それじゃあ今日の依頼の手続きをしますから逃げないでくださいね」
そう言って少女は依頼書を片手に何か作業をし始めた。
俺は暇になり、注意を周りに向けて見ると。
「おい、あの霊獣を連れているやつ昨日『薬草採集』失敗したやつだぜ」
「マジかよ、あの依頼をどうやったら失敗するんだよ」
「あの霊獣なんとしゃべれるらしいぜ、しかし、なんで『薬草採集』失敗するような餓鬼と一緒に居るのかね」
「へぇー、それならあの霊獣簡単に奪えそうだな。一稼ぎするか?」
「馬鹿! こんなとこで物騒な事を言うなよ」
昨日の件ですっかり有名になっているらしい。
『薬草採集』を失敗するやつがそれほど珍しかったのか。
それともコンのことが珍しかったのか。
おそらくは後者の方だろうが。
そのせいで絡まれたり、コンを奪おうと襲ってくる奴が居るかも知れないな。
まあ、その時は容赦なく物納してやるが。
そもそも、ここじゃ碌にポイントを貯められないんだよな。
この街の近くは弱い魔物ばかりで、当分の間は盗賊や俺を襲ってきたやつらを物納して稼ぐしかないだろう。
そんなことを考えていると少女が続きが終わったみたいで、冒険者カードと依頼書を渡してきた。
「依頼が終わったらこの依頼書にサイン貰って来てね、忘れずによ!」
「ああ、分かったよ」
俺は依頼書を折りたたんで腰の袋に入れると、受付を離れようとしたところで。
「頑張りなさいよ!」
少女が檄を飛ばしてくれた。
そのことに俺は笑みを浮かべつつギルドを出て行った。
そして、その五分後、俺は依頼のビル商会の場所が分からなくて、ギルドに舞い戻ることになり少女に呆れられることになった。
「ふぅ、やっと着いたか」
俺はやっとビル商会の前まで着いていた。
ここにたどり着くまで道を2度間違え、人に道を聞く羽目になったのは気にしないことにしよう。
とりあえず仕事だ、仕事。
「すいません。ギルドから依頼で来たものですがー」
「はーい、あなたがギルドから来た――」
店から出てきたのは恰幅の良いおばさんだったが、コンの方を見ると驚いている。
みんな、こんな反応ばっかりだな。
「まあまあ、霊獣様を連れた冒険者とは良いことありそうだねえ。今回の依頼はそこにある荷物を指定の店まで運んで貰うから」
「はい、分かりました」
とりあえず俺は置いてある荷物の一つを持ってみるが。
「けっこう重たい……」
「はっはっは、だからこそ依頼を出したんじゃない」
まあ、しかし持てないほどではないが。
これを持って街を移動するとか拷問じゃね?
そう思いつつ、俺は指定の店の場所を聞いて運んでいく。
「やべえ、マジで辛いな、おい」
俺は3つ目の荷物を運んでいる途中でダウンしていた。
え? 非力だって?
一応レベルは29あるから余裕だと思っていたんだけど……。
思った以上にこの荷物が重いせいかなんか知らないが疲れてしまったのだ。
俺がぜいぜいいいながら地べたに座っていると。
「大斗、本気を出しているのですか?」
コンが何かを疑うような目でこちらを見ている。
「本当だよ、本気でこれが重いだけだって」
俺は片手で荷物を上げようとして、その重さにより持ち上げることを断念する。
「いえ、大斗のレベルならその程度の荷物軽く片手どころか、小指一つで運べなきゃならないのですが」
「え?」
でも俺この荷物を重く感じるんだけど。
「ですからそれがおかしいのです。なぜこんなことになっているのか……」
コンがぶつぶつ何か小言を言いだした。
俺はよく分からずにコンがぶつぶつ言うのを止めるのを待つことにした。
そして、数分後。
「まずは実験をしてみましょう。この石を手で握り潰してください」
――と言ってコンが石を渡して来た。
「いやいや、無理でしょ。常識で考えて」
「その考えがいけないんです。それを握り潰せると信じて握ってください」
一応コンの言う通りにやってみよう。
俺はコンの言う通り全力で。
昨日俺が叩きだしたスペックを思い浮かべて。
バキッ
「…………」
普通に石が粉々になったんですけど。
コンの方を見ているとやはりかという顔でこちらを見ている。
「おそらく急激なレベル上げによる肉体の強化による反動でリミッターが付いてしまったんでしょう」
「リミッター?」
「そうです、戦闘中はそこまで動きは悪くありませんでしたけど、普通の時は動きが明らかにレベルが一桁の時と一緒でした。本当なら急激にレベルが上がったことにより生活に支障が出るはずだったんですが、リミッターが付きそれが起こらなかったのでしょう。まあ、その代わりまともに力が出せる状態でなかったというわけですが」
コンの言っていることが正直信じられないが。
さっき重いと思ってた荷物を持ってみると――。
簡単に持ち上げることが出来た。
え?
俺が今まで頑張って運んできた苦労はなんだったの?
「今度からリミッターの外し方の練習と力の制御をしないといけませんね」
「え~、またすること増えるの?」
「大斗は黙ってその荷物を運んでください。十分休んだでしょう?」
「あー、さっさと運ばないとおばさんに怒られるわ」
俺とコンは急いで荷物を運ぶことにした。
その後はコツを掴んだのか簡単に荷物を運ぶことが出来た。
しかし、それでもまだスペックを十分使いきれてないようで力の練習をしないといけないようだ。
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