馬車ってさぁ……
「どうもありがとうございます。盗賊を倒していただいただけでなく、街までの護衛を引き受けてくださって」
「いえいえ、良いですよ。俺たちもちょうどイスカの街に向かう途中でしたから」
俺とコンは引き返してきた馬車に同乗していた。
盗賊に襲われてほとんどの護衛は死んでしまったそうで、護衛のほとんど居ない状態では危ないのでイスカの街に戻るから護衛をしてくれということだった。
まあ、行く方向は一緒だし、馬車に乗れて楽できるのなら良いと思い了承したのだ。
「本当にありがとうございます。イスカの街を出て数時間のところで盗賊に襲われ、護衛は居ましたが向こうの方の人数が多く、なんとかその場は逃げきりましたが、そのまま追いかけられまして」
なるほど護衛を捨て駒にしてどうにか敵の包囲網を突破したが、追いつかれそうになっていたと、そういうことだろう。
商人えげつねえとか思いながらも、この世界でそういう命のやり取りは当たり前なんだなとよく実感をする。
まあ、アザレスの森でもそんな感じだったから、そこまで気にしないけどな。
「しかし霊獣様をお連れになり、あれほどの魔法を使えるとはさぞかし有名な冒険者ですか?」
「いえいえ、少々腕に覚えがあるくらいですよ、まだ無名の冒険者ですしね」
「そうなのですか? それはぜひとも我がダルティア商会の専属の護衛になりませんか? 給料は弾みますよ」
商人が営業スマイルで言ってくる。
「残念ながら俺たちは気楽な冒険者になりたいので、その話は遠慮させてもらうよ」
「そうですか、残念です。では何か御入り用がありましたら、我がダルティア商会に来てください。特別に値引き致しましょう」
「ああ、何か欲しいものが有ったら寄るとするよ」
「ああ、めんどくさいなあ」
「どうしたんですか、大斗?」
俺は商人との話が終わり、馬車の端に座っているコンの所まで戻るとコンに愚痴を言い始めた。
「俺、ああいう何考えているか分からない奴と話すの苦手なんだよな」
「そうなんですか?」
「そうだよ、俺は元々2次元と獣をこよなく愛していた奴だぜ。3次元になんて興味なかったから人と話すなんてこと上手い筈がないじゃないか」
「ああー、そうでしたね。そういえばユニス村での祭りの時もあんまり話さずに食べ物ばかり食べていたような気もしますね」
「それに色々疑って掛からないといけないからな、コンの事があるから笑顔で近寄ってきてぶすりということが普通に有る気しかしない。そのせいで人と話していてこいつはほんとうに信用できるかとか考えていると凄く疲れるんだよね」
「すみません私のせいで」
コンがしゅんとして誤って来る。
「別に良いって、俺はそもそも3次元は好きじゃないし、獣人は2次か3次かと言われると凄く困るけど」
俺は笑いながら答える。
別に気にすることはないのにな。
「それで一番怖いのが不意打ちなんだよね。寝るときとかはホームで寝るから絶対安心だけど、まあ、付き合いでホームに入らず過ごさないといけないこともあるかもしれないけど。とにかく食べ物に毒物とか眠り薬とかしびれ薬とか混ぜてくるのが怖いんだよね、だからそこらへんの対策として、耐性スキルか毒を見破るタイプのスキルのどちらかが欲しいだけど」
「完全に安全志向ですね。俺TUEEEEEとかする気なくて、まず取るのは耐性スキルとは、そういう人はなかなかいませんよ」
「はははっはは、褒められると照れるじゃないか」
「では探してみますね……見つかりました。鑑定スキルLv1が1万ポイント、実用的なレベルで毒耐性Lv3までで5千ポイントですね」
鑑定スキルが一万ポイントって高いなあ。
しかもこれLv1での値段だよな。
鑑定スキルは次回にして、毒耐性にしよう、うん。
でも毒耐性は安いんだな。
つかこれ買ったら俺のスキルの中で一番高いの毒耐性になるんじゃね?
悲しい、なんか悲しくなってきたわ。
まあ、買うんだけどね。
「スキルはやっぱ高いなあ、でも必要だからそれを購入で、っとそういえばここで購入したらカタログが光ってまずいんじゃないのか?」
「いえ、スキルの場合は光らないのでばれることはないと思いますよ」
「そうか、なら購入で」
「はい、購入完了しました」
残念ながらさっきと変った気がしない。
こうよく有るように体の奥の方から何かが上がって来たみたいなのを期待していたんだけどな。
取り敢えず、俺はステータスを確認してみる。
名前:犂宮 大斗
年齢:18
レベル:29
<固有スキル> なし
<スキル> 異世界共通語 剣術 Lv1 射撃Lv1 狙撃Lv1 毒耐性Lv3
ちゃんとスキルは増えているな。
毒耐性だけ高い謎の構成になっているけど。
しかし、これで毒に対してはあまり気にしないで良いだろう。
もしかしたらもっと強い毒が盛られるかもしれないので、一応もっと高くしといたほうがいいかもしれないが。
まだ後、一万6千ポイントくらいあるから、上げるか?
いや、非常用に1万ポイント分は貯めて置いた方が良いだろう。
あんな虫とまた出会うかもしれないからな。
「大斗様、街が見えてきましたよ」
商人の呼びかけに俺は前を見る。
「や、やっと着いたか……」
前を見れば壁に囲まれた街が見える。
おそらくあの壁は魔物対策用だろう。
ここら辺ではあまり魔物は強くないので必要ないと思うが、壁があるという安心感が欲しいのだろうか?
それなら枕を高くして眠れるというやつかな?
まあ、今は戦争してないというけど、昔の戦争の名残というやつかもしれない。
領主が趣味で作ったとかもありそうだが。
俺はとにかく街について思いを馳せる。
取り敢えず、街に着いたら冒険者ギルドに行って冒険者登録するんだ。
受付の美人のお姉さんをちらちら覗き見しつつ、俺は冒険者について色々聞くんだ。
そして、初依頼を成功させお姉さんに褒めて貰うんだ。
そして、お姉さんの高感度を徐々に上げていって攻略を。
そして、そして……。
「大斗、無理することはないと思いますよ。さっさと吐いちゃってください」
コンのその声に俺は現実に引き戻され、気分の悪さに倒れ込む。
「コン、俺が必死に街について思いを馳せ、必死に耐えていたというのに現実に引き戻すなんて……」
「まさか大斗が乗り物酔いをするなんて思いもしませんでした。車とかに乗って平気でPFPとかやっているタイプかと」
「それは弟の方だ、俺は車に乗って買った遊○王のカードを見ていただけで吐き気を催す程のつわものだぞ」
「ああ、それは重症ですね。そのつわものがスプリングもない馬車に乗って平気なわけないですよね」
「その通りだ、無理があったんだ。こんな揺れる馬車に乗るなんて俺には……」
「そうですね、だから耐えていないでちゃっちゃと吐いてきてください。こっちが気分が悪くなりますから」
商人も俺を気遣ってか馬車のスピードを落として降り易くしてくれているらしい。
「ああ、もう駄目だ……」
俺は馬車から素早く飛び降り、一気に街道から離れ全てを解放した。
「ふぅ、多少マシになったぜ」
俺は出すもの出した後、走ってすぐに馬車に追いついた。
商人がスピードを出さないように配慮してくれたおかげでもあるが。
「大丈夫でしたか、大斗様?」
「ああ、なんとかな、済まなかったなわざわざ、馬車のスピードを落として貰ったりして」
「いえいえ、大斗様には助けて貰いましたから、それにしても大斗様がこんなにも乗り物酔いに弱いとは、これでは護衛は難しいかもしれませんね」
「でしょうね、さすがに俺もこんなのに何日も乗っていたら死にます。馬車じゃなくて馬に直接乗る方でも絶対酔う自信が有りますから」
「そうですね、馬車は初めて乗る者は酔う者も多少いますが、大斗様ほど酔う方はあまりいませんから」
「ああ、そうなんですか、まあ、大体の移動手段が馬車だから、それも頷けますね。ところで乗り物酔いの薬とかってないですか? それを飲めば一発で乗り物酔いが治る的な」
「残念ながら私は聞いたことはありませんね。万能薬と呼ばれるエリクサーはどんな病気にも効くと言われていますが、それを乗り物酔いで試した人の話は聞いたことが有りませんね」
エリクサーとか異世界の定番の薬があるのか。
絶対凄く高いと思うけど。
つか、そんなものをただの乗り物酔いに絶対使わないだろ。
結局我慢するしかないわけね。
極力徒歩で移動して行動することにしよう。
馬車に乗らないといけない依頼は拒否の方向で。
「そうこうしている内に街に着きますよ、大斗」
「そうか」
前を向くとすぐ眼の前に壁が広がっている。
そして入口らしき所で検問しているのか少し列が出来ていた。
さてとここまで来たら商人とは別れて並んだ方が良いか。
俺って身分証明書みたいなもの持ってないからな。
「それじゃあ、ここで降ります。どうも乗せてくれてありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそお世話になりました、何か御用時はどうぞダルティア商会まで」
そう言って商人は別の列に並んでいった。
さてと俺たちも列に並ぶとしますかね。
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