ユニス村
「おとうさん、おかえりなさい!」
「ただいま、ミキ。ちゃんとお母さんの言うことを聞いていたかい」
「うん! ミキ、ちゃんとおかあさんのいうこときいて、いえでちゃんとまっていたよ!」
「そうかい、そうかい、ミキは良い子だね。お土産にゴンリの実を取ってきたよ」
「わーい、ゴンリのみだあ! おかあさんはやくかわむいて~」
私は娘のミキがゴンリを受け取って妻の元に走って行くのを見つめつつ、私も妻の元へと歩いていく。
「お帰りなさい、あなた」
「ただいま」
「それで森の様子はどうだったの?」
「あまり良いとは言えないな、ラザレスの森からこの村に向かって魔物が流れてきているようだ。今朝もゴブリンとコボルトの群れを倒した。ゴブリンやコボルト程度ならなんとかなるが、オークなんかが群れで来るとかなりきつい、ましてやブラックベアーの群れなんてものが来たら……」
「きっと大丈夫よ、この時期はフォッグビートルの繁殖時期だから、ブラックベアー達はフォッグビートルの巣を襲っているはずだからこっちには来ないはずでしょ」
「それはそうなんだが」
「それにラザレスの森から魔物が流れてくる原因はわかったの?」
「いや、残念ながらそれは分からなかった。こういうことが起こるのは稀に強い魔物が現れた時に起こると聞いてこともあるが」
「もし本当に強い魔物が生まれていてこっちに向かっているとしたら?」
「いや、そんなことは……」
私は妻の問いに答えることが出来なかった。
もし実際強い魔物が生まれてラザレスの森にいる弱い魔物たちを追いたてているとしたら……。
おそらく私達、村の自警団だけでは対処できないだろう。
すぐに街に行って腕利きの冒険者を呼んで来なければならないが、間に合うかどうか。
それに村に腕利きの冒険者に依頼を頼めるほどのお金はない。
せいぜいCランクがやっとだろう。
Cランクと言えばいちお冒険者の中では一人前として扱われるがせいぜい平均レベルが15から20くらいだ。
1つのパーティーでなんとか1体のブラックベアーを倒せるかどうかくらいの戦力だ。
もしブラックベアーさえも追い立てるような魔物がラザレスの森に生まれていたら……。
いや、こんなことを考えていても仕方ない。
とりあえず、村長に会いに行ってどうにかBランクの冒険者を呼べるよう資金がないか聞いてみなければ。
私は妻と娘と少し話をした後、すぐに家を出て村長の家に向かった。
「やはりBランクの冒険者を呼べるほどのお金はないか」
「残念ながらそこまでこの村は裕福ではない」
思った通りこの村にそんな余力はなかった。
大体この村はラザレスの森の近くにあり、ラザレスの森の手前で取れる薬草や木の実を採って生計を立てている。
そのためここの猟師兼自警団は一般の人に比べてレベルは高く、平均レベルが13くらいだ。
その中でも私は獣人であるので戦闘能力が優れているので、レベルが20とこの村の中では突出している。
そんな私でもブラックベアーを1対1で倒せるかどうか怪しい。
そんな状況でCランクの冒険者を呼んでこの問題が解決するのか?
いや、それでもCランクでもいいから冒険者を呼んだ方が良いだろう。
呼ばないよりはマシというくらいだろうが。
私はどうにか村長を説得しCランクの冒険者を呼ぶことが決定したが。
突然家のドアが乱暴に開けられた。
「村長大変だ! 物凄い数の魔物が村に向かってきている!」
どうやら遅かったようだ。
もはや俺達自警団の力でなんとかするしかないだろう。
私は覚悟を決めると立ちあがり。
「村の男連中と自警団に至急連絡だ、魔物を迎え打つぞ」
村の総力を結集して魔物を迎え打つことになった。
私は振り上げた剣を振り下ろしゴブリンを切る。
私は次の敵へと目を向けるが、周りには魔物ばかり。
しかも魔物の種類はめちゃくちゃだ。
ゴブリン、コボルト、オーク、ワイルドボア、トレントなど。
これだけの種類の魔物が押し寄せてくるなんておかしい。
しかもこいつらは私たちのことなど無視して、とにかく何かから逃げようとしているかのように先を争っている。
そのため隙も多いのでこれだけの数でもなんとか捌けている。
私はとにかく魔物をこれ以上先に行かせないために剣を振るう。
「ブラックベアーが出たぞ! 数は1、2,3どんどん増えていく!」
クソッ。
ブラックベアーまで出張ってきたか。
しかしブラックベアーたちの動きもどこかおかしい。
まるで奴らもまた何かから逃げているかのようだ。
とにかく今はそんなことを気にしている場合ではない。
敵を倒すのみ!
私はゴブリンやコボルトを切り裂きつつ、ブラックベアーへと向かっていく。
「スラッシュ!」
私はスキルを発動し何かに気を取られているブラックベアーを切り裂いた。
あまりにも簡単にブラックベアーの首は落ちた。
このまま、全部のブラックベアーを同様に倒していければ楽だが。
そんな簡単にいくわけはなく。
他のブラックベアーは仲間が殺されたことで、私を脅威として認めたのか2頭が同時に私に襲いかかってきた。
私に向かって2頭のブラックベアーが爪を振り下ろしてくる。
私は向かってくるそれを確認し、ジャンプをする。
そして私はもう一度ジャンプをする、空中で。
パッシブスキル2段ジャンプ。
私を狙った爪は空振り、相手に隙が出来る。
私はそれを見逃さずスキルを発動する。
「スラッシュ!」
2つの頭が飛んだ。
私は着地すると同時に状況を確認する。
自警団や村の男たちはなんとかゴブリンや他の魔物たちと戦っていて村への侵入はまだ許していない。
ブラックベアーが来たがまだ他の魔物が邪魔になって戦闘にはなってないようでこちらはそこまで打撃を受けていない。
私がこのままブラックベアーを少しずつ倒しきれば、どうにかなるのではないか、そんな希望の光が見えて来た。
私はこっちに襲いかかってくるブラックベアーをまた1体倒しながらそんなことを考える。
だがそんな現状を破壊するべくさらにブラックベアーが森の中から出てきた。
20体近くのブラックベアーだと?
私の心に灯った希望の光は淡くすぐに消えてしまったようだ。
ブラックベアーの相手は私以外ではキツイというのに、それが20体だと。
無理だ。
このままでは確実に村は滅んでしまう。
しかし、私はやらねばならないだろう。
妻のため。
そして家で待っている娘のミキのため。
私は剣を握り、次のブラックベアーへと向かおうとして。
私の隣を何か白いものが高速で複数通り過ぎていった。
私は驚いて後ろを振り向いてみると、変わった服を着た少年が一人、何か良く分からない黒い物体を構えてこちらを見ていた。
そ、そんなことをしている場合じゃない、前に居るブラックベアーを倒さなければ俺は正面を向き直るとそこには、そこには20体ほど居たブラックベアーが全て穴だらけになり死んでいた。
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