第2章 その④ ~激闘の果てに語られる真実~
今回、長いです(^^;)
マップが示している青い丸へ急いで向かうタケル。
「ハハ!ほんとだ!さっきより全然軽い!!」
ミノタウルスに追いかけられていた時よりも体が軽くなった感覚を味わいながら、曲がりくねった険しい森の道を縫うように走り抜ける。そして1分ほどで森の外へと抜け出たが、その途端に足を止めた。
「…なんだよここ…。」
そこに広がっていたのは山奥の田舎を思わせる雰囲気の場所で、イネの田植えを終えた水田と車がギリギリで離合できるくらいのアスファルトの道が1本走っている。それはテレビなどで見る現実世界の風景で、ファイナルウェポン上には存在しないものだった。
「……ネクストはこんな世界を冒険するのか?……っていうか今はユウトのところに急がなきゃな!」
その景色に少し拍子抜けしたタケルだったが、すぐに本来の目的へと頭を切り替え、アスファルトの道にのり森の中では発揮できていなかった全力の走りを開放させる。
「うおッッ!!はえーーーーーー!!!」
その速度は驚くべき事に100メートル7秒台。2009年以降破られていない短距離世界記録9秒58を優に超えるスピード。
おまけにスタミナも鍛えられていたため速度が落ちることはほとんどなく、平均で9秒台を保ち続けた。
そして5分が経過したころ、相変わらずの田舎の情景が繰り返されるその先に見えてきたのは、干からびた田んぼの中で剣を構えるユウト。そしてユウトの周りには背の低い怪物が7匹。まだ遠くからで小さかったが、そのシルエットでタケルは正体を察していた。
「あれゴブリンか!?ユウーートーーーー!!!タケル様が助けにきたぞーーーーーーーー!!!!」
その声に気付いたユウトはタケルを見るなり安堵の表情を浮かべ、タケルもまたその表情を見て満面の笑みで返すと、走りながらショートソードを召喚してそのまま突っ込んでいく。
「うぅぉおおおおおおーーーーーーー!!!」
先程のミノタウルス戦で見せた弱気な姿勢からは一変、この世界がゲームだとわかったことや熟練度の存在とその実感、そして何より無事に生きていたユウトと再会できたことでその気構えは変わり、勢いを落とすことなくゴブリンに切りかかる。
そのタケルの攻撃で勢いづいたのか、ユウトもすかさず攻撃を開始する。
「絶対来るって信じてたぞタケル!!!」
「当たり前だっての!!」
タケルは1体目に続き2体目も軽々と倒すと、ユウトの所にたどり着いて背中合わせに構えた。
「ミノタウルスに比べれば!全然怖くないっての!!!」
「ミノタウルス!?そんなのとやり合ってきたのか!?」
「まぁね!っと!」
互いに再会を喜びあいながら会話を交わすも、確実にゴブリンを討伐していく。
そして最後の1体に二人で切りかかろうとした時、ゴブリンは後ろを向いて一目散に逃げ出したが、
二人はそれを追わず、林の中へと消えていく姿を眺めていた。
「ハハ、出直してこいっての!」
「タケル、ありがとな。探しに来てくれて。」
「ったく、心配させるんじゃないっての!」
その言葉に優しい笑みで答えるユウト。
「お前が居なくなったって、家や学校が大騒ぎだったぞ。」
「そうなるよな。俺もまさかこうなるなんて思わなかったよ。でもま、ちょっと期待はあったんだがな。」
「そのオカルト好きも今回で少しは懲りたんじゃない?」
「だな。さすがの俺もあれは怖かった…。」
「でしょ!でしょ!俺本当に死んだかと思ったっての!」
「ハハ、俺が怖かったんだからタケルなら死にかけたろうな。見たかったぜその顔。」
二人は少し目を潤ませながら大声で笑った。
「そういえばタケル。ここにきてゴトウさんと会ったか?」
「ああ、さっき会ってきたぜ。ユウトの居場所はアイツに聞いたんだよ。それと、ここがファイナルウェポンの次回作っていうのも」
「……その話だけど、信じられるか?」
「いや…正直まだ半信半疑ってとこ。確かにこのバングル。剣。怪物。そして熟練度。どれもファイナルウェポンと同じだけど…。」
「俺も、ここは本当にゲームの世界なのかって……。これだけの証拠があるのに疑うのもどうかと思うけど、ゲームにしちゃ凄すぎるよな。」
ユウトはそう言うと、倒れている6体のゴブリンを見渡した。
するとミノタウルスと同様に倒れたゴブリン達に青いラインが現れ、削られるように消えていく。しかし、6体のうち3体が装備していたそれぞれのナイフや片足のみの革靴1個にはそれが現れず、そのままその場に残っていた。
「ん、なんだ?」
不思議に思ったタケルはそう言って1本のナイフを拾い上げた瞬間、左腕のバングルが光だし、脈側のエメラルドの円からそのナイフに向けて光が照射されたかと思うと、倒した敵と同じようにナイフにも青い格子状の模様が描かれ、細かい立方体にバラバラになっていきながらバングルへと吸い込まれていく。その流れを驚いた表情で見つめるタケル。
「ゴトウさんに聞かなかったのか?それは戦利品。」
「マジで!?」
その言葉にピンと来たタケルが急にテンションを上げてユウトに聞き返した。
「敵を倒したときに身体から離れてる装備品はそうやって残って、それを拾い上げると自動的にバングルが解析を始めて取り込む仕組みらしい。」
「へー!あ、ほんとだ!画面に出てる。鉄10個に皮2枚か!」
「ゴブリンのナイフだったらそんくらいだな。」
「ってことは、ここでも武器とか作れるのか!?」
そう聞き返しながらタケルのテンションは更に上がっていき、落ちている残り2本のナイフと革靴を興奮しながら拾い集めた。
その姿を笑いながら見ていたユウトは、右手に持っていた自分の剣をタケルに見せる。
「ほら。」
「あ!ショートソードじゃない!」
「さっき作ってみた。タケルのデザインには劣るがな。」
「すげーーー!!ますます楽しくなってきたーーー!!!あ、でも何でそんなこと知ってんだ?」
「あのなぁさっき言ったろ?ゴトウさんに聞かなかったのかって。俺がここにきたの9時間も前だぞ。ゴトウさんに色々と教えてもらったし、自分で試す時間もあったんだよ。」
「そっか。よし!俺も何か作ってみようっと!」
タケルはユウトの話をさらっと聞き流すと、早速バングルからディスプレイを呼び出してメニューを開く。
「で…どうするの?」
この世界での精製方法を知らないタケルはユウトに助言を求め、武器精製を開始する。
「なるほど、これでペンが出てくるのか。」
表示されているボタンアイコンにタッチすると、バングルから光が照射されて空間にディスプレイと同じ色のペンが現れる。
「すげ~…まんまファイナルウェポンだな…。」
教わっていたユウトをそっちのけで一人呟きながら作業を進めるタケル。
ユウトはそれを呆れ気味ながら優しく見守っている。
タケルは早速、まっさらになったディスプレイにペンを走らせた。
「うお、何だこの描きやすさ!紙に描いてる感覚と同じだっての!!」
すらすらとペンを走らせるその顔は真剣そのもので、タケルの周りには少し張りつめた空気すら感じとれる。
そしていつもながらの速さで描き終えると、早速 変換操作を行ったが、それを見守っていたユウトが突然ニヤリと笑う。
「ん?どうしたんだよユウト。ニヤニヤ笑って。」
「見てればわかるよ。後何分だ?」
「10秒」
「早!何でそんなに早いんだよ!」
ユウトが納得いかない様子でタケルにツッコんだその時だった。
バングル上側のエメラルドの円からは懐中電灯のように逆円錐の光が現れ、タケルの描いた剣が空間に投影される。
「うそマジで!立体で確認できるの!?」
「な、すげーだろ?ネクストだと変換の時点で立体化されるんだと。…にしても、やっぱ流石だな。」
現れた剣は、ユウトの身の丈より少し高い全長170cmぐらいの片刃の大剣で、切っ先はカッターのような形をしており、刃側はそのまま真っ直ぐ鍔を通り越して握りの最下部まで降りている。そして約2cmほどの刃幅を残して鍔へ戻ってきており、手を保護するガードの役割りを担っているのが分かる。
鍔そのものは無かったが、その付近には峰側から刃の手前まで刀身の上から補強するような形で、黒い金属が添えつけられており、その高さは約10cmほど。
握りの部分は黒い革製のようで、一般的な剣とは逆の作りで刃側に差し込まれた形になっている。
「でもこれ、素材足りてないだろ。」
「やっぱそう思う?」
ユウトの指摘で画面を再確認すると、そこには鉄160個、皮20個、黒色剤10個と表示されている。
「うわ、全然足りない…!っていうか黒色剤ってどうやって手に入れるんだっての。」
「いきなり強そうな武器は諦めるしかなさそうだな。」
「…仕方ない、違うの描くか…。」
「そんな落ち込むタケルに朗報があるんだが。」
「は?」
「実はもう一つ驚きの機能があってな、さっき書いた状態のがまだ画面に残ってるだろ?」
「あぁ、あるけど?」
「その画面をタブレットと同じ感覚で摘まむ動作をすると縮小できるんだよな。」
「…!それってつまり……!」
「そう、縮小する事で素材を減らすことができる。しかも握りの部分やそのガードの部分は使い勝手が変らないように自動で補正がはいるという優れもの。」
「マジで!すげー!さすがネクストって言うだけの事はあるっての!」
「まぁ当然威力は落ちるけどな。」
「じゃあ早速、こいつを小さくすると…」
無邪気に浮かれた声でそう言って画面を操作すると、今度は変換を行ずして投影されている剣の形が変化していく。
「うおお!すげーッ!」
変更された素材の必要数は、鉄50個、皮10個、黒色剤1個と表示されている。
「だいぶ減ったな。皮はクリアしたから、さっきの弱っちいゴブリンを倒してナイフを数本頂けば作れそうだなっと。ちょと不恰好になったけど………あ、そっか。だからユウトの剣もちょっと可笑しかったんだ。」
「これは素だ…。」
「あ…。」
タケルの失言にちょっと悲しくなるユウトだったが、タケルに対するレクチャーは続く。
「それとさらにもう一つ。これは俺が試してみて分かったことだが、相手を倒さなくてもその身体から離れた物は全て解析・取り込みが出来るみたいだ。」
「なるほど、奪い取るってのも有りなわけだ。」
「そう言うことだな。ただ、手に触れた瞬間解析を始めてしまうから奪ったものをそのまま使うってのは無理なようだ。」
「そっか。俺は自分のデザインした装備品しか付けたくないから別にいいけど。」
「以上が、精製の基本ってところだな。」
「ありがとうユウト先生!」
「どういたしまして。じゃ、今度は俺の番な。楽しくなってきた所悪いんだが、この世界きてからもう結構立つし、一回帰りたいんだけどいいか。」
「えー、もう帰るの?これからって時に~…。って冗談。ここに来たのもユウトを連れ戻しにきたんだからな。」
「悪いな。ゲームなんだしまた来れるだろきっと。で、帰り方はどうするんだ?」
「……………え?」
「あれ…………マジか?ゴトウさんに聞いてきたんじゃないの?」
「いや…ハハ、ユウトが危ないって言うから飛んできちゃって……。あ、ほら、呼べばポロっと出てくるんじゃない?」
「……だったら俺、既にここに居ないんだけどな……」
「……ハハ、そりゃ、ヤバイなっと………………………ゴトウさぁぁ~~~ん!!!」
晴天に向けられたタケルの情けない叫びが響くも周囲に変化は無く、気まずい雰囲気が二人を包む。
その時だった。
二人のバングルが突然赤く変色し、淡い光を放ちながらゆっくりと点灯し始める。
「ユウト、何これ?」
「俺も、知らない。」
「何か雰囲気的にヤバイ感じしない?」
「ああ、するな…。」
そう言って周囲を警戒するように見渡すと、タケルが前方の空間に半透明をした細い線が4本引かれているのに気づく。それは縦線3メートル程度が2本づつ、横線5メートル程度が2本づつ。
「ユウト!あれ、何だろう?」
「…わからない。でもなんか、構えといた方が良さそうだよな。」
ユウトの提案で二人とも身構えて剣を握りしめ、その方向を注視する。
その後空間のラインは高速で増えていき瞬く間に網目状になったかと思うと、今度はその中心から人型をしたものが歩いて出てくるような動きで網目が盛り上がり、出てきた網目のマスは一定距離で青白い光を放って色や形を変えていく。
現れたそれは、人間のようなシルエットで細身ながらも筋肉質な体格をしており、170cmほどの身長に全身暗い紺色のウェットスーツのようなものを身にまとい、肘・膝には金属製と思われる当て具、手や足・頭部には近未来を感じさせるデザインのこちらも金属製と思われるグローブ、ブーツ、マスクをはめており、赤く光った眼でタケル達を見ている。
「ファイルウェポンにはいないヤツだな…ネクストの新種族かな、あいつ。」
「さっきから悪いがさっぱりわからない…。でもあれが敵なら1体だし、なんとかなりそうじゃないか?」
ユウトがそう言った直後、まだ消えてはいなかった先程の空間から同じように、左側に2体、右側に2体の計4体、今度はスーツが黒色をした人型が現れ、後ろの空間は消失した。
「ユウト…今の聞こえてたんじゃない?」
「ハハ、なんてこった……数的に不利になったがどうするタケル?」
「どうするっても、得たいが知れないしなぁ……かといって何もない所から現れたってことは…逃げてもムダっぽくない?」
「確かに…」
そう話し合っていた最中だった。真ん中の人型の目が鋭く発光した瞬間、明らかな敵意を向けて左右の4体がタケル達の方に突っ込んでくる。
「…!きたぞタケル!」
「くそ!あいつらやっぱ敵か!?ユウト、右の2体を頼む!俺は左!」
「了解!」
向かってくる人型に対し、普段からファイナルウェポンを遊び倒していた二人は、複数戦でも物怖じせずに立ち向かっていく。
やがて左側の2体がタケルの間合いまで接近、そのうちの1体がそのままタケルに殴りかかってきた。
その攻撃速度はなぜかタケルには遅く感じ、楽々と右にかわす。そして遅れて正面から近づいてくるもう1体の方に目を向けて袈裟斬りを放つも、左手の平で受け止められると同時に剣を握り締めて引き寄せられながら腹部目掛けて腰の入った右ストレートを打ってくる。タケルは一瞬体制を崩しながらもそれをギリギリでかわし、そのまま咄嗟に右足で突き放すように蹴りを放つと見事に敵の腹部を捉えて深くめり込み、その直後敵は体を浮かせて吹っ飛んでいく。その距離実に3メートル強。さらに地面へと叩きつけられた後も1メートルほど滑っていく。
「なんだ、今の…。」
少し離れて交戦中だったユウトが吹っ飛んでいく様を目撃してそう呟くと、同じく他の敵3体も手を止めて吹っ飛ばされた敵の方を向き、驚きのあまり全員がしばらく硬直する。
しかし、一番驚いていたのは当人であるタケルだった。
「ハハ…何これ…今のも脚の熟練度の力?…すげぇ………スゲェェーーーー!!!」
タケルの叫び声で全員ハッとするように我にかえり、硬直がとけて再び戦闘が始まると、真っ先に動いたタケルはすかさず後ろにいたもう一体を左足で蹴り飛ばす。
その敵は1体目同様に吹っ飛んでいき、その後2体はピクリとも動かずに青い線が現れて消えていった。
倒した事を確認したタケルはユウトの方に目をやったが、ユウト側はまだ戦闘中、というよりも硬直状態が続いていた。
2体を正面に見据え、静かに正眼の構えを取っているユウト。
タケルの時とは違いジリジリと間合いを詰めるように迫る敵2体だったが、業を煮やしたかのように1体目がユウトに襲い掛かると、それにつられたかのように2体目も続く。
それは刹那だった。
一気に間合いを詰めてきた1体目が左ストレートを放ってきた瞬間ユウトは一足飛びで右斜め後ろに下がり、着地と同時に剣を切りあげて敵の左腕を切り落したかと思うと、そこから流れるように銅を払い抜ける。そしてその動作の終わり際の隙をつくように、前に出てきたユウトに合わせてもう1体が回し蹴りを放ってきたが、しゃがみながらそれをかわすとそのまま回転して剣を斜め上に切りあげて敵を切り裂いた。
倒れた2体にも青いラインが現れて消えていく。
「………すげぇ。ユウトってあんなに強かったっけ?」
それを一部始終見ていたタケルは驚きのあまりそう呟き、ユウトに駆け寄っていく。
「すげぇなユウト!あんな動き部活でも見た事なかったっての!」
「そりゃそうだ。ここに来てないとあんなの絶対無理だって。」
「そっか!ユウトも熟練度上げてたんだな!」
「ああ。…って、話してる場合じゃなかったな。アイツ、さっきより目の色強く光ってないか?」
「…確かに。でもこれで2対1。他のヤツらも大したことなかったし、問題ないんじゃない?」
「よし。じゃあさっさと片づけて、あの腕を手に入れるとするか。」
先ほど切り落とした腕の方をみながらユウトはそう言った。
「うわ……ユウト、結構残酷だな…。」
「そうか?新しい敵に遭遇すれば落とす素材が気になるからついな。それに所詮はゲーム。血だって出てるわけじゃないし。」
「そ、そういうもん?」
「…!きたぞタケル。」
いままでの様子をずっと静観していた紺色の1体が、歩いて近づいてくる。
その動きを注視しながら二人は左右に離れて行き、挟み打つような陣形を取る。
先程のヤツらとは少し違う雰囲気と、漂う異様な空気を感じとっていたのか、タケルはごくりと唾を飲み込んだ。その刹那。
「…!消えた!?」
「隣だタケル!!」
それは一瞬だった。敵は目の前から消えると共にいつの間にか二人の間に立っていた。タケルには消えて見えたようだったが、動体視力の熟練度の違いからかユウトはその動きを目で追う事が出来、正面を向いたままのタケルにそれを知らせるとともに咄嗟に敵に切りかかる。
しかし敵はユウトの攻撃を見ることなく剣を手で止めるとそのまま軽々とへし折り、折った剣先をタケルへと投げつけた。
「ッッッーーーー!!」
投げられた剣は右肩に突き刺さり、その激痛でタケルは苦悶の叫びをあげてその場に倒れ込んだ。
突き刺さった所からは、真っ赤な血が流れ出てきている。
「タケルーーーーー!!」
「(ッッだよこれ!!超痛ぇー!!血!?ここ、ゲームだろ!?)」
痛みによる苦しみの中、タケルの頭に駆け巡る疑問。しかしそれもつかの間、しかめて瞑っていた両目の片方を開くと、その眼に飛び込んできたのは信じられない光景。
敵に腹部を貫かれているユウトの姿…。
「(!?!!!?!!)」
タケルは一瞬何が起きているのか理解できなかった。ユウトの折れた剣は敵の左肩に当たっているようだったがそこに傷は無く、その剣を構えたままの体制で貫かれて動かなくなっているユウトが見える。しかし次第にその状況を脳が理解し始め、ある感情が身体を支配する。
恐怖。
肩の痛み、流れ出る血、目の前のあり得ない光景、そして親友の絶望的な姿。それは普通の人間、さらにはまだ幼い中学生には想像を絶する恐怖を生み出す。
身体が震えだし、右肩の痛みを忘れたかのように無意識にそこから後ずさりを始める。
「(何だよこれ……逃げなきゃ……逃げなきゃ殺される……殺される!)」
死の危険を感じ、タケルが無意識に取った行動は震える身体を必死に動かしながら後ずさりして逃げること。その情けのない姿を、腕を腹から引き抜いた敵がゆっくりと振り返り、特に動く様子もなくただじっと見つめている。
ゆっくりと、ゆっくりと後ろに下がっていくタケルだったがその途中、肩から流れでる血でまみれた右手に何かが当たる。それはユウトの側にあったはずの切り落とされた敵の腕。本来ならば真っ先に喜んで解析し取り込みを行うタケルだったが、近くにあった不自然さや触れたことで付着した血が余計に不気味に見え、今は恐怖を煽る材料でしかなかった。
しかしその時だった。
タケルの手に触れた直後にバングルが反応し、自動で解析が始まったかと思うと瞬く間に完了。付着した血ごとバラバラの立方体になって取りこまれていく。
そして画面には、腕に装備されていた金属製のグローブのものであろう“鉄50個”と、聞いた事もない素材“クロロプレンゴム30個”。そして“[強化素材]”と補足が添えられたこちらもきいた事がない素材“立方晶窒化ホウ素 (りっぽうしょうちっかほうそ)10個”と“[属性素材]”と補足された“白血球5個”が表示されている。
ファイナルウェポンでは見た事のないそれらの素材名を目にしたタケルは、全身を支配していた恐怖心を強い好奇心が押し黙らせて行くのを感じ、自分の世界へと没入していく。そしてメニュー画面を開き、登録しておいたガードのついた剣の縮小タイプを選択して作成可能になっているのを確認すると、ユウトの剣が折られた事や効いていなかった事などを思い返しながら先程の強化素材と属性素材を全てつぎ込んで実体化を開始する。
実体化まであと1分。
その動きを不審に思ったのか、今までその様子を傍観していた敵がゆっくりと近づいてくる。
タケルに生まれた好奇心は静かな興奮へと変わり、それはやがて怒りへと転換されていく。
その怒りは完全に恐怖を制し、身体の震えを止めてタケルを立ち上がらせた。
「…よくもユウトを…」
抑えきれないくらいに膨れ上がった怒りを少し放出するかのように静かな口調でそう発すると、今にも落としてしまいそうな右手の剣を左手に持ち替えて握りしめる。するとちょうど時間が来たのか、剣が光り始めて握りの部分から変化していく。
その現象に何かを感じたのか、敵の赤い眼が強く発光したかと思うとその姿は消え、突然タケルの目の前へと現れる。
しかしその動きを読んでいたかのようにタケルは、出来上がっていた剣をすでに敵めがけて振りおろしていた。完璧なタイミングの不意打ちとも言えるその動きにも敵は反応し、特に脅威と感じていないそぶりで右手を軽く上げて止めようとする。
「…S……it……!」
しかし、敵が一瞬何かの言葉を発すると同時にその剣は右手を砕きながら突き進み、そのまま身体をも砕いて突き抜けた。そしてその部分から二分された上半身が滑るように地面へと落ちるとその衝撃で粉々に砕け、下半身も後ろに倒れて砕け散った。
「…!ユウト!ユウトーー!!」
タケルはそう叫びながらすぐにユウトへと駆け寄っていく。
痛々しい姿で倒れているユウト。ピクリとも動かず呼吸もしていない。その姿を目の当たりにした途端にまた恐怖が体を襲うも、懸命に呼び掛けるタケル。
「…ユウト……ユウト!…しっかりしろよー、ゲームなんだから死ぬわけないっての…早く目を覚ませよ…!」
その呼びかけもむなしく、ユウトからの反応はない。
「何とかしろよ………何とかしろよゴトーーーーーー!!!」
自分ではどうしようもない状況に、ふと頭に浮かんだのは後藤。後藤ならこの状況を何とかできるのではという、今までの流れを思い返した上で出た当然の叫びだった。
しかしその時だった。
突然マップ画面が開いたかと思うとそこには、二人の居場所を示す赤と青の丸に向かって猛スピードで近づいてくる黒い点が表示されていた。
タケルは驚きと共にすぐにその方角へ目をやると、震える体を押さえこんで立ち上がり、左手の剣を構える。すると遠くの方の空に何かが動いているのが見えてきた。それは大きな白い羽根を羽ばたかせて近づいてくる人型の何か。
恐怖のあまり体は震えたままだったが、その異形から敵であると確信したタケルは必死に身構える。
「また…敵なのかよ……!もう俺は、ユウトを見捨てない!」
ユウトが敵にやられた時に恐怖で後ずさってしまった事を後悔して言っているのか、気合を入れるようにタケルは唇を噛みしめた。
徐々に近づいてくる何か。そしてついにその姿が確認できる距離まで近づいてきた時、それを見たタケルが呟く。
「……………人間!?」
それは怪物や先程の敵とは完全に非なるもの、黒髪のショートヘアをした女性、人間だった。
白い羽を広げたその女は、タケル達から少し離れたところへと降下して来る。そして広げていたはずの羽根はキラキラと輝きを放ちながら消えていき、着地と同時にタケル達の元へと足早に歩いてくる。
「誰だよお前!!」
その姿を見ても恐怖からか警戒を解く事が出来ず、タケルは震える体のままその女を威圧する。
「どきなさい!邪魔よ。」
しかし女は怯むことなく厳しくも冷静な言葉をタケルに言い放ち、それに圧倒されたのか、または人間の言葉を聞いて少し落ち着きを取り戻したのか、タケルは口を閉じて呆然とした。そんなタケルを素通りしてユウトに駆け寄る女。
「…!何すんだよ!」
「この子を助けたいなら少し黙ってなさい!」
「…!?助けてくれるのか…?」
ユウトの側にしゃがみこんだ女はタケルのその言葉に返答しなかったが、左腕にはめたバングルからディスプレイを表示してメニュー画面を開くと、手慣れた手つきで何やら操作し始めた。それを後ろから見ていたタケルは画面構成が自分たちとまったく異なっている事に気づき、また言語が英語であったために何をしているのかさっぱり分からなかったが、藁にもすがる思いだったため女の言葉を信じ、その場にへたれこんで静かに動向を見守る事にした。
「酷い…何でこんなことに…。」
女は真剣な眼差しでユウトを見ながらディスプレイに表示されたものを操作していく。
「(人体構成解析…止血及び血液生産プログラム投与…)」
するとバングルの脈側からは戦利品を解析するのと同じ光が放たれ、ユウトの傷口に照射される。
そして小さな機械音がなると共にその光が今度は淡い赤色に変わっていく。
「(解析完了ね……細胞活性化プログラムに修復プログラム……実行)」
赤い光が傷口を照射し始めて約3分が経過したころだった。流れていた血はゆっくりと止まり、真っ青だったユウトの体が赤みを帯びていく。そして今度は痛ましい傷口が青く光り始めると、白い光を放つ極少の立方体が次から次へと現れては色や形を変えていき、どんどん傷口が塞がっていく。そして約30分が経過し、最後の傷が完全になくなった時だった。
「ガハッ!!ゲホ!」
ユウトは息を吹き返した。
「ユウト…!…ユウトーーーー!!!」
その瞬間、タケルは抑えていた涙を一気に放出して泣きながらユウトへと駆け寄っていく。
「ハァハァ……タケル?俺……」
そう言ってまだうつろな眼をしているユウトはゆっくりと自分の腹を見て触って確認する。
「あなたも、その右肩を治してあげるから、見せなさい。」
女は優しくそう言うと、泣きじゃくるタケルの右肩も同じように修復して行く。
タケルの治療が続く中、自分の腹を確かめながら今までの経緯を整理したユウトは突然眼を覚まされたかのように両目を見開き、声をあげる。
「!?俺、どうなったんだ!?アイツは…!?」
「グス……アイツは、あそこで粉々になってるよ…。」
タケルはその粉々になって散らばっている紺色の敵を指さした。
「(…!あれは!?)あなた達、あれを倒したの!?」
今度はそれを見た女が突然声を上げてタケル達に問いかけた。
「…この人は?」
「そうだった!この人がユウトを助けてくれたんだぞ!…本当に!ありがとうございます!!」
タケルはさきほどの憔悴しきって涙で皺くちゃになった顔立ちから一気に生気を取り戻した様子で、涙を拭いながら元気よく女に礼を述べた。
「そうだったんですか!?ありがとうございます!本当に、死んだと思った…。」
「いいわよお礼なんて。こっちで戦闘が起きてるのを知って駆け付けてみればあの状況だもの。助けるのは当り前よ。それに、あなた達に死なれなくて助かったのはどうやら私の方みたい。」
「…?どういうことですか?」
「あれを倒したの、あなた達よね?」
「倒したのは、こっちのタケルです。」
「俺、サトウタケルです!こいつはシバサキユウト!最初、あいつの他に黒いヤツが4体いて、それを二人で倒したんです。そしてあいつを倒そうとしたんですが、めちゃくちゃ強くって、それで気づいたらユウトがあんな風に…。」
「黒いのが…4体…。」
「俺、すっげぇ怖くて…怖くて、逃げだそうとしてた時に、ユウトが切り落としてた黒いヤツの腕が近くにあって、それをバングルに吸収してこれを作って…そしたら何とか倒せたんです。」
タケルは自分の剣を前に出した。
「タケルそれ、作れたんだな。」
「ああ。お前が切り落とした腕がなぜか近くにあってさ。それを取りこんだら金属グローブで鉄が補充できて、おまけに強化素材なんかも手に入っちゃったから、無我夢中で全部混ぜちゃったっての。あ、そういや俺の血も混じったみたい。“白血球”とか表示されてたし。」
「白血球!?ちょっとその剣見せてもらっていい?」
その言葉に反応した女が急にタケルに話しかけた。
「いいですけど…」
女は剣を受け取ると、バングルから光を照射して調べ始める。
「どうしたんだろうな。」
ユウトが小声でタケルに話しかけて続ける。
「にしても、蹴っといてよかったぜあの腕。」
「…!あれユウトがやったの!?マジで!」
「ああ。あいつに攻撃される直前にタケルの方に蹴飛ばしといたんだ。ほら、おれの剣軽く折られただろ?その事が気になって、もしかしたら何か役立つかもってな。」
「このやろーー!!さすがユウト!!!!!お前ってヤツはどこまで冷静なんだよ!!!お前のおかげだ、こうして二人生きてられるのは。それに比べて俺…一度逃げようとしたんだ…。ごめん、ユウト…。」
「気にすんなって。結果オーライだろ?それに、実際アイツを倒したのはお前だからな。大した奴だよ。」
自分の過ちを全て洗い流すかのようなユウトの優しい笑顔に、タケルは眼をうるませながら嬉しそうに笑って応えた。
「なあユウト。俺、ものすごく気になる事があるんだけど…。」
「それ…多分俺が思ってるのと同じだと思うが……この世界のことだろ?」
「うん。あの痛みは…本物だった。血も…。」
「俺も痛みを通り越して意識が遠のいていくのを感じたよ…まるで眠るようにな。」
少し難しい顔で二人が会話していると、剣を調べ終わった女が話しかけてくる。
「剣、ありがとう。返すわね。」
「あの、どうかしたんですか?」
タケルは剣を受け取ると不思議そうに尋ねた。
「ええ。とても嬉しい情報だったわ。あなた達のおかげで、真っ暗だった道に少しの光が見えてきた。」
「どういう、ことですか?」
理解できない女の言葉にユウトが問いかけた。
「白血球よ。まさかそんな使い方が出来るなんて思わなかったわ。人間の血を取りこむなんてね。」
「血……。あの、この世界ってゲームなんですよね?」
何かを知っていそうな口ぶりで語る女に対し、タケルは疑問に思っていた事を質問してみた。
「ゲーム?……あなた達、もしかして何も知らないでここにいるの!?」
「そこまでだミレイ。後は私から話す。」
突然背後から声が聞こえ、振り返るとそこには後藤が立っていた。
「…!ゴトウ…さん!?」
その声に真っ先に反応したのはミレイと呼ばれた女。タケル達が後藤の声に驚いて振り返り声をかけようとするも、激しい剣幕で後藤に話しかけるミレイの言葉に遮られる。
「あなたは!まだこんな事をやってるんですか!?」
「ミレイ…仕方がなかったんだ…。この子達はまだ若すぎる。しかしその潜在能力は私の予想を遥かに超えている。現にその結果を先程見せてくれた。この世界に順応させるには、この子たちの思い描く世界で成長を促す他なかった…。」
「でも…!」
さらに激しい剣幕で後藤を問い詰めようとしたミレイだったが、そこにタケルが大声で割って入る。
「どういうことだゴトーーーー!!!」
タケルの声に皆が驚き、辺りが静まり返る。
「ユウト…、死ぬとこだったんだぞ…!!!俺も、肩に剣が刺さって!血が出て!怖くて……!!親友を置いて逃げようとした!!!!お前にこの気持ちが、分かるかーーーーー!!!!!!」
やはり、ユウトに許されるもあの時の自分の行動が許せていなかったタケルは、後藤にあたるべきことではないと知りつつも、やり場のない怒りを後藤へと向けて叫んだ。
そこに、ユウトが割って入る。
「ゴトウさん!ここは、一体何なんですか!?このリアル過ぎる感じ、激痛や血!ゲームであるはずがない!!!」
普段目にすることのないタケルの悔しそうな顔を見たせいか、ユウトが珍しく熱く声を張り上げ、後藤を問い詰めた。
しばらく静寂が続いた後、後藤が静かに口を開く。
「ここは、USAネットワーク…。アメリカが開発した……シェルターだ。」