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第1章 その③ ~予感との接触~

雲ひとつない澄みきった青空と、広大な丘があたり一面に広がっている。


ここは、蒼穹の丘。


周りには、遠くで怪物がうろついているだけで、プレイヤーは見当たらない。


この辺り一帯の敵レベルは中の下程度で、タケルとユウトにとっては雑魚でしかなく、丘に来る途中に出くわした数々の怪物たちも難なく蹴散らしてきた二人。

しかし、キャラクターを操る本人達が疲れたのか、今は座り込んでいる。


休憩の為か、しばらく黙り込んでいた二人だったが、タケルがユウトに話しかける。


「なんで、この丘なんだろ?」


「…だな。しかも誰もいないし。着いてもう10分経つってのに。」


「もしかして…手の込んだイタズラってオチ?いつの間にかパソコンに侵入されてたとか…。」


「それは難しいと思うけどな。一昔前のパソコンならありえるけど、今は何でもネットワークで繋げられるから、その辺はしっかりしてるし。」


「でもさ、なんであのページ、俺のにしか表示されなかったんだ?」


「そこだよな。…タケル、国家にたて突く事でもしたか?」


「は!?んなことしてないっての!なんだよそれ!」


「ハハ、いやそんな侵入とか高度な技術持ってるの、国か天才ハッカーぐらいだろうと思ってな。」


そんな談笑ともとれる会話を続ける二人だったが、突然ユウトの叫び声が響いた。


「タケルけろーッ!!!!」


その声をあげると共にその場から飛び退いたユウトのキャラクターだったが、少しよそ見をしていたのか、タケルがそれに気づいた時にはすでに遅く、キャラクターの目の前には直径3メートルはあろう真っ赤に燃え盛った巨大な炎の球が迫っていた。


「やばいッ!!」


タケルはそう叫ぶと同時に剣を前に出し防御の姿勢をとったが、炎の球が剣にぶつかり、轟音と共に砕けて飛び散ったかと思うと、当たり一面をキャラクターごと業火が丸のみにした。


「いきなりかよ!!」


タケルはそう叫びながら業火から必死に抜け出し、すかさず周囲を確認すると、飛び退いたはずのユウトのキャラクターも含めて広い範囲が少し暗い事に気がついた。すぐに視点を上空に向けたその時、ユウトが半笑いで呟く。


「これ…大龍…ティアマットじゃね…?」


ユウトのキャラクターが見上げているその先には、キャラクターの数十倍、いや、豪快に地上をあおぐように羽ばたかせている6枚の翼まで合わせると、百倍近い大きさの巨大な龍が滞空していた。

全身は金属質のように光る漆黒の鱗で覆われ、体と同じ大きさほどの尻尾を垂らしなびかせながら、ルビーのように赤く光った鋭い眼でタケルとユウトを睨みつけている。


タケルは、そんなまさかという気持ちで画面に映るその龍を睨み返したが、さらなる驚愕の事実に気づいたのか、引きつり笑いのような声で呟く。


「…6枚ばね……?…うそだろおい…、ティアマットじゃないよこいつ!……その上だっての!!」


「…上?! まさか、バハムーティアか?!」


「何で…こんなとこにいるんだよ……!今の俺らじゃ、絶対勝てないっての!っていうか、実装はまだなはずだって!!」


「はぁ!?どうするタケル!こんなヤツ相手じゃ逃げるのも無理だぞ!」


「わかってるっての!今考えてる!とにかく、攻撃は絶対受けちゃダメだ!さっきの一撃、防御したのに体力ヒットポイント半分近く持ってかれてた!受けたら死ぬ!!」


「マジかよ!…せっかくタケルにいい剣と鎧もらったってのに…。死んだらまた作ってくれるよな!」


「いやだ!ってかそれ素材見つけるの大変だったんだぞ!もう二度と作らないっての!」


「だよな…マジで…どうするか」


次第に顔つきが険しくなっていく二人がそんな掛け合いをしている最中、しばらく様子を見るように滞空していたバハムーティアが動き出す。


口を大きく広げ、極少な青白い光の球が現れたかと思うと、そこに青い光の線がどこからともなく現れては集まって行き、青白い光の球が徐々に大きくなり輝きを増していく。


「やばいって…やばいよユウト…。あれ、雑誌に載ってた…。“移動術いどうじゅつしゅん”のアビリティ持ってるなら、すぐ使っといたほうがいい…!」


タケルは龍を睨みつけまばたきもせず見据えながらそう言うと、自身も“しゅん”を使い、キャラクターの全身から青い光が放たれて消え、ユウトのキャラクターにもそれが起きた。それを確認したタケルが話を続ける。


「あれが放たれた瞬間、前方に全力でダッシュして回避な…。その後俺は、ヤツに少しのすきが出来てる筈だから、今の武器でどれだけダメージ与えられるか仕掛けてみる。その先にユウトは逃げろよ。せっかく作った装備、壊されたらたまったもんじゃないからな。」


「マジでか?強気だなタケル。」


「逃げられないなら、やるだけやってみるしかないじゃん。それに、ユウトだけでも助かれば上出来だっての。」


「……よし、なら俺ものった。」


「は?」


その刹那だった。

龍の口から×字型をしたまばゆい光と、その中心から外に広がるように光の輪が放たれて衝撃波を生み、青白い光の球が猛スピードで飛んでくる。大きさはバスケットボールほどだったが、放たれた瞬間に龍の巨体が反動で後ろに下がっており、もはやたまとなっているそれの質量がどれだけすごいかを物語っていた。

放たれたその瞬間を何とか目視もくしできた二人は、光の弾が二人の間の地面に着弾するその刹那、消えて見えるような猛スピードで前へ突進、回避し、その勢いで龍目掛けて飛び上がっていた。


「おまっ、なんで一緒に飛んでんだよー!」


「2人で攻撃した方が2人とも逃げれる可能性があるだろ!」


その背後では、地面に着弾した光の弾が大爆発を起こし、爆音爆風を撒き散らして直径50メートルはあるだろう光の柱を遥か上空まで作り上げている。


その今まで見た事もない光景を目の当たりにしながらも、二人は不思議と冷静でいた。それは、今のレベルや人数では到底かなわない筈の巨大な龍と対峙しているためであり、攻撃を当てる事ができる最大のチャンスに集中していたからであった。


そしてタケルの予想通り、先程の攻撃により隙が生じた龍に対し、タケルが先に仕掛ける。


「長剣ミンストレルテインで身に付けた、現レベル最強技!!“極剣技きょくけんぎくう”!!」


そう叫ぶとともに剣を振り上げると、刀身が淡く黄色い光に包まれ、その光がやがて龍の体ほどに巨大な斧を形作り、タケルはそれを一気に振り下ろした。


「効いてくれぇーーーーーーーー!!“断、罪だんざい”!!!!」


振り下ろされた光の斧は、隙だらけの龍を直撃。

龍はよろめいて体制を崩し、地面へと落下し始める。その瞬間を逃さなかったユウトが続けて仕掛ける。


「俺もこの剣で手に入れた新技しんぎ、試したかったんだよな!!“殺剣技さつけんぎくう!!”」


落下していく龍を追うような形で一緒に落ちていくユウトが剣を振り上げると、深みのあった黒色の刀身が赤みを帯びていき、溶岩のような赤色に変ると同時に力強い火花を放ち始める。

そして龍が地面に激突し、鳴り響く轟音と大地が砕かれ粉じんが巻きあがる最中、その巨体にユウトが追撃。灼熱の刀身のひらを、力いっぱいという言葉がふさわしいモーションで振り下ろした。


「これで効かなかったら、どんだけだよーーーーーーー!!“爆、砕ばくさい”!!!」


その瞬間、刀身を中心に凄まじい爆発が起こり、龍を丸呑みにするかのような炎の柱が立ちのぼりその巨体を焼き尽くす。


その場から急いで離れたユウトのキャラクターが、先に着地していたタケルのキャラクターに駆け寄り、話しかける。


「タケル!今のうちに逃げるぞ!」


すると、業火に呑まれて横たわったままの龍を見ていたタケルが呟く。


「…おかしいな…。」


「何がだ?」


「俺の一撃はよろめく程度かと思ってたんだけど、まさかそのまま落下するほどダメージを与えてたなんて…。それに、ユウトの攻撃もあそこまで効くなんて…。」


そう話している時だった。龍の巨体は見る見る焼け焦げていき、小さな光が拡散し始める。


「は?うそだろ…何であれだけで…倒せるんだっての。」


「ハハ、これ、消えていってるよな。やったのか?」


「いや、こんな弱いはずないっての。雑誌じゃ20人がかりだったぜ?」


すると、辺りには誰もいないはずなのにヘッドセットから、中年ぐらいの渋い男の声が聞こえてくる。


「ほう、ガキんちょにしてはやるじゃないか。」


その声に一瞬びくつく二人。


「何だ、今の声…?まわり、誰もいないよな…。ユウト、聞こえたか。」


「あ、ああ聞こえた…。フレンドも近くにはいないぞ」


急に聞こえてきたその声に驚きを隠せないタケルと、少しワクワクしているかのようなユウト。


声は続く。


「なかなかのいさぎよさ。恐怖に立ち向かう心。冷静な判断力。突然の出来事でも機転をきかせられるその頭。打ち合わせなしの連携。そしてその、装備品。見させてもらったよ、クリエイタータケルくん。そして…ユウトくんか。」


「は!?何だよこれ!?」


「そう取り乱すな、タケルくん。さっきの褒め言葉が台無しになるぞ?」


すると、ユウトが冷静にたずねる。


「あなたは、誰ですか…?」


「君は落ち着いているようだな。しかし、俺のことはもう知ってるだろ?」


そう聞こえた直後、テレビ画面には、キャラクターでも怪物でもない、後ろの背景が透けて見える中年の男が現れていた。その男はまさにテレビに映る人、日本人であり、肩につかない程度に伸びたクセっ毛の髪と無精ひげではあったが、180cm近くはあるだろう細身の長身で、服装は薄いピンク色のYシャツとグレーのスーツパンツ、磨かれた革靴という小奇麗な身なりで、膝下までの長さがある白衣を羽織っている。そして、その男はキャラクターの方ではなく、画面越しにタケルたちを見つめていた。


「ゆ…ゆ、幽霊だぁーーーーー!!!」


それを見てさらに取り乱すタケル。


「ほう、タケルくんは幽霊が苦手か?それは驚かせたな。だが、俺は幽霊ではないぞ。」


その言葉に落ち着きを取り戻したのか、タケルが聞き返す。


「はい?…いや、でも何でゲームにそんな姿で…って、なんだこの状況…?」


混乱しているタケルをよそに、冷静ながら好奇心を隠せないでいるユウトがたずねる。


「もしかしてあなたは……後頭さん……ですか?」


「そうだ。俺は後藤。君らは“後”に“頭”と思ってるだろうが、普通の後藤だからな。」


「聞いていた感じとは、だいぶ違う…。」


「ハハ、あの噂だろ?俺が面白半分で書いただけだよ。俺もオカルトファンでね。ユウトくんもそうなんだろ?気が合いそうだ。」


その言葉に反応したタケルが割って入る。


「じゃ、あのページ使って俺をココに誘い出したのってアンタか!!」


「ほう、アンタとは、大人に対する口のきき方がなっていないな。でも、そんな元気なガキんちょ、おじさんは好きだぞ。」


「得たいの知れない大人にタメ口きいて何が悪いっての!何で俺の名前、実名知ってるんだよ!」


さっき驚かされた事が後を引いているのか、後藤に強くあたるタケル。


「知ろうと思えばなんだって調べられる。そういう世の中さ。」


「やっぱり俺のパソコンに侵入したんだな!!」


「いや、そうじゃないんだが…ま、それはどうでもいいじゃないか。いずれ、どうでもよくなる。それより、時間がないから本題だ。」


「あ!まだ聞きたいことあんだぞ!」


「これ、欲しくないか?」


後藤がタケルの声を無視してそう言った瞬間、ゲーム内の地面にファイルのようなアイコンをしたものが現れた。


「知っての通り、それはパソコン用の実行ファイルだ。…君たちなら…」


そう言った直後、後藤は画面からスっと消えていた。


「あ!待て!どこいったんだよおい!」


辺りを見渡しながら探しまわるタケルのキャラクターを余所目に、ユウトが落ちているファイルを拾う。


「ホントにいたよ…後藤さん。」


「なんだよったく!人を呼び出しといて、しかもあんな強いヤツと戦わせて、きっとあれもアイツの仕業だと思うけど。自分の言いたいことだけ言って変なファイル置いていきやがった。」


次第に冷静さを取り戻してきたタケルに、ユウトが話を続ける。


「なぁ。これ実行するとさ、本当に冥界に行けると思うか?」


「いや、いやいやいや、それはないって。アイツも言ってたじゃん、面白半分で書いたって。」


「だよな、ちょっと残念。でもこれ、何が起こるんだろう。以外と重要な機密情報とか書いてあったりしてな。」


「なんでそんなの俺らに渡すんだっての。あーあ、疲れた!もう寝る!ユウト、解散!」


「だな、さすがに俺もバハムーティアとの一戦は疲れた。じゃ、また明日なタケル。このファイル、コピーとってメールしとくから。」


「別に興味ないけど…一応よろしく。じゃーな。」


そう言うとタケルはメニューを表示し、ログアウトのアイコンを選択してゲームを終了した。


ユウトに言った通り疲れていたため、すぐに床に就いたタケルだったが、今日起きたあの出来事を振り返るうちに、静かな興奮が生まれて中々寝付けづにいた。が、そのうち眠気が気持ちを上回り、タケルは静かに寝息を立てはじめた。


――

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