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第1章 その② ~予感への接近~

終礼を告げるチャイムが校内に響き渡る。


タケルは、やり終えたとばかりに満足げな顔で、両手を精一杯広げて背伸びをし、一日の疲れを解放させる。

うんと伸びきった後は机の勉強ノートに目をやり、授業時間を使って描かれたと思われる様々な武器防具の下絵を少し眺めて、ニヤニヤとしながら帰宅の準備にとりかかる。

これが終礼後のお決まりの行動。


早々と教室を出ようとしたタケルの下へ、ユウトが竹刀の入った長い袋を担いで駆け寄ってくる。


「タケル、今日部活は?」


「ごめん!今日はサボり!また新しいの考えたから早く仕上げたくて。それに、朝のユウトの話も気になるし。竹刀もほら、忘れてきちゃったってわけで。ま、先生には上手い事言っといてよ。」


「はー、仕方ねぇな。じゃ今度、俺専用の武器、期待してるからな。」


「オッケー任せとけっと!あ、アドレス送っといてね!」


「了ー解。じゃーな。」


少しあきれ顔ながらも、穏やかな笑顔でユウトはタケルを見送った。


――


「ただいまー」


自宅に帰りつくなり駆け足で階段をのぼり自室に入ったタケルは、すぐにバッグを机に置いて椅子に腰かけ、バッグから勉強ノートとファイナルウェポン用のデザインノートを取り出し、授業中に描き上げた下絵をデザインノートへと書き写していく。

その動きはプロの漫画家顔負けの正確さとスピードで、下絵に少しのアレンジを加えながらも同じ寸法で描き移していき、それをベースに今度は俯瞰図や違う角度から観た図を描いていく。


学校で描き溜めた武具は52,3ほど。その中から、気に入ったものを選び清書していくタケル。


約2時間ほどたっただろうか。選び出した17,8ほどの武具を書き終えたタケルは、やはり満足げな顔で背伸びをし、疲れを解放し終えた後は1階に降りて食事をとり、風呂に入ってまた駆け足で自室へと戻ってくる。


夕日が沈み始め、部屋はその赤みで覆われている。まだ十分に明るいが、先程よりは薄暗い。


「さてと、メール来てるかなっと。」


そう呟きながら部屋に入ってきたタケルは、壁に設置されているボタンに触れる。すると、部屋の電気がつき、テレビには番組が映し出され、エアコンが静かに動き始める。


タケルたちの生きる時代、2022年には、全ての家電は家庭内ネットワークで繋がっており、それを管理するシステムにより、ボタン一つで設定していた家電を動かすことができるようになっている。


明るくなった部屋を眺めて床に座ったタケルは、近くに置いてあった5インチほどのディスプレイが付いたテレビリモコンを両手で持ち、リモコンについている“PC”と書かれたボタンを押す。すると、リモコン画面にはパソコンのデスクトップが映し出された。


そこに表示されている複数のアイコンから、メールソフトをタッチし、早速メールをチェックするタケル。


「お、ちゃんと送ってくれてたな。」


ユウトから送られてきたメールを開き、そこに書かれているウェブサイトアドレスをタッチすると、今度はテレビ番組が消えてウェブサイトが表示されたが、そこには404の数字とサイトが存在しないというような文が書かれてあった。


「…やっぱ、消えてたか。」


少し残念そうな顔でその表示を眺めるタケルが、いつもの癖でふと更新ボタンを押してしまい、ページの再表示が行われる。


「あっと。あれ?なんか出たって…………………はぁ!?え?なんで!!」


更新したことで表示された先程とは違う画面を見て、思わず声を張り上げる。


「なんで俺の名前が書いてあんだっての!それに、蒼穹(そうきゅう)の丘って…!」


表示された内容に驚き戸惑うタケルだったが、すぐにリモコンを操作しはじめる。


リモコン画面に映し出されたのは、0~9までの数字や*・♯、通話と書かれているボタン風のアイコン。

頭に数字を記憶しているのか、慣れた動きで次々と数字を押していき、通話をタッチするタケル。


すると、リモコンから電話の呼び出し音が鳴り始め、しばらくしてリモコン画面に人が映し出された。


「ようタケル、どうした?」


画面に映ったのはユウト。リモコンから声が流れてくる。


「今さ、ユウトから教えてもらったサイト見てるんだけど…」


「もうなかっただろ?」


「それが、ちょっとこれ見てよ。」


そう言ってタケルは、リモコン画面をテレビへと向ける。


「あったのか?」


ユウトは少し驚いた様子で、タケルが向けたことで映し出されたテレビ画面を見た。


「これ……マジか?何でタケルの名前……しかも、蒼穹の丘に来いって…ファイナルウェポンのだよな。っていうかネットに実名って……ちょっとこっちでも見てみるな。」


ユウトはそう言うと、すぐにパソコン画面を開いてサイトを見てみた。


「…ん…?404だぞ?」


「は?え、ちょっとまって、もう一回更新してみる…………いや、映ってるけど…」


「こっちはない。ほら。…どういうことだ?アドレスあってるか?」


「うん、あってる……何だよこれ、すっげぇ怖いんだけど……。」


少し異様な空気が流れ、静まり返る二人。すると、ユウトがたずねる。


「で、行くのか?蒼穹の丘。」


ユウトの問いにまだ少し黙りこむタケルだったが、意を決したかのような顔つきでこう答える。


「ユウト、ちょっと今からつき合わない?」


「オッケー♪」


タケルの逆の問いかけに、この手の話が大好物なユウトが嬉しそうに即答した。


「おま…楽しんでるだろ!」


「ハハ、わりぃわりぃ。でもなんか、ワクワクしねぇ?」


「まぁ…ちょっと。ファイナルウェポンの話となれば別だっての。この誘い、受けてやるぜ!」


「噂のあいつが出てくるかもな。よし、そうと決まれば早速行くか。じゃ、あっちでまたな。」


「おう。」


そう言って通話終了のアイコンを押したタケルは立ちあがり、ヘッドセットマイクと両手にコントローラーを装着し、そのコントローラーについている電源ボタンを押してCONECT3を起動させた。


テレビには、SintendoとCONECT3のロゴが浮かびあがり、そして消えると同時に複数のゲームのスクリーンショットが一覧で表示される。


タケルはその中からファイナルウェポンを選択し、ゲームをスタートさせ、机に置いてあったファイナルウェポン専用ソードコントローラーを手に握りしめた。


――


テレビ画面には、見渡す限りの広い平原。燦々(さんさん)と輝く太陽があたりを明るくりつける。

長剣ミンストレルテインを背負い、一点を見据えている青年キャラクターが映し出されている。


「そっか、ここでやめてたんだ。ユウトは来てるかなっと。」


そういって、手にはめているコントローラーを操作しようとしたその時、タケルのキャラクターが突然小さな影に覆われ、それが徐々に大きくなっていく。


「あーあ、こっちは急いでるってのに。」


タケルはそう呟きながら冷静に、右手に持ったソードコントローラーを頭上にもってきて横に倒し、左手でソードの先を支えるように構えた。


タケルと同じように構えたキャラクターの視点が、真上へと向けられた瞬間、目の前には巨大な羽を広げた鷲のような怪物が足の爪で襲い掛かってきていた。


しかし、それを見る前から分かっていたかのように、すでに防御の姿勢をとっていたキャラクターは、その爪を受け止めてはじき返し、鷲の怪物はそのまま斜め上空へとまた舞い上がる。


「やっぱ、こいつか。余裕。」


そう言うとタケルはソードを下ろし、左足を少し前に出し左手を斜め上に向けて構えた。すると、同じ構えをとったキャラクターの左手を、薄い青緑の光が覆う。

そして次の瞬間、上空をぐるぐると羽ばたきながらこちらの様子を伺っていた怪物を、空気が歪んだような球状の層が覆い、その中を無数の刃のような風が吹き荒れて攻撃したかと思うと、その層から怪物がはじき出されたかのように猛スピードで、錐揉(きりも)み状態になりながらキャラクターの方向に落ちてくる。


その落ちてくる怪物を見据えて静かにゆっくりと長剣を構えたキャラクターは、すれ違いざまに一閃。

怪物は両断され、轟音とともに地面に衝突して転がり、小さな光を拡散させながら消えていった。


「やっぱ“魔剣技まけんぎ蒼空閃そうくうせん”は何回見てもカッコいいなぁ~。って、なんだよ何も落とさなかったし。あーあ、早くユウトの所に飛ぼうっと。」


そう言うと、コントローラーを操作してメニュー画面を開いた。


表示されたメニューから“フレンド”と書かれたボタンを選択し、表示された複数のフレンド名を眺めてユウトのログインを確認したタケルは、その名前を選択して移動と書かれたボタンを押した。


するとキャラクターを中心に、足下の地面に薄い青色をした半透明の円があらわれ、それが頭に向かっていくつも加速するように昇ってはゆっくりと消えていき、次第に青白い光がキャラクターを包みはじめる。

その光が完全に覆われた瞬間、強烈な白い光を発すると同時にキャラクターが消え、青年が居た場所にはキラキラと小さな光が拡散し、そして画面が暗転して別な場所へと切り替わる。


次に表示された場所は、中世風の建物が立ち並ぶ大きな街の大通り。


通りの端には多くの露店が軒を連ね、たくさんのプレイヤーキャラクターが行きかっている。

それは一見すると、どのゲームでも目にするような光景のはずだが、そこには異様とも思える不思議な光景が広がっていた。


自ら武具をデザインできるゲームだけあって、プレイヤーの姿かたちは様々。

中世風の鎧はもちろん、どこかのゲームや映画で見たような格好をした者や現代のスーツのような服装をした者。忍者や侍。また、ギャル系ファッションに身を包んだ女キャラクターや、原色だらけの色をした奇抜で斬新な服装のキャラ。果ては、熊の着ぐるみや股間に白鳥を装備して踊っている男キャラクターまで。プレイを始めたばかりの人は、このカオス状態に驚き戸惑う事必至である。


街の所々では、その異様な光景を生み出す元凶とも言うべき、さまざまな自作の武器防具を販売しているキャラクターの姿が多くうかがえる。


すると、ある場所に人だかりが出来ている。

その中心付近で、小さな光が収束していくように一点に集まり始め、さきほどの移動するのとは逆の流れで、薄い青色の半透明の円が上から下降してはゆっくりと消えていき、青白い光と共にタケルのキャラクターが現れる。


キャラクターの目の前には、全身を青い重鎧(おもよろい)に身を包んだ青年が立っていた。


その青年の鎧は、金色のラインや銀色の装飾がなされており、所々に配色されている黒が絶妙な美しいコントラストを生み出し、見る者を魅了するフォームをしている。

実際、周囲の人だかりは青年を見る目的で出来ていたようだ。


「おぉー、いつ見てもカッコいいな、俺の鎧。」


その青年を目にしているはずのタケルがそう呟くと、青い鎧の青年が話しかけてくる。


「遅かったな、タケル。ってか今はもう俺の鎧だかんな。」


青い鎧の青年はユウトのキャラクター。

ファイナルウェポンは、周囲にフレンドキャラクターが居ると、ヘッドセットマイクを通してしゃべった声が直接相手にも聞こえるようになっており、スムーズに会話をはじめる二人。


「お待たせ。アスガルド平原の方に朝から行ってたもんで。ごめんユウト、やっぱそれ返して。」


「やだね。」


笑いながら突然返却を迫るタケルに、笑いながら即答するユウト。


すると、タケルのゲーム画面にチャットの申請が次々と舞い込んでくる。


「またか…だからあんまこの街好きじゃないんだよね…。なんでお前ここにいたんだよー!」


「わりぃ。まぁそう言わずに、答えてやれよ。」


「はぁ~…嬉しいような悲しいような…」


少し苦笑いを浮かべながらそう呟いたタケルは、チャット画面を開き、申請してきた20名ほどのプレイヤーの中からランダムに5名を選択し、チャット画面へとドラッグする。


すると、次々とメッセージが表示されていく。どうやら、武具製作の依頼のようだ。

タケルはこの世界では有名な武具クリエイター。知らないプレイヤーはほとんどおらず、見つかると途端にこうやって、チャットの申請と武具製作の依頼が舞い込むのだ。


一通り希望の武具を聞き、注文を受けたプレイヤー名を登録し終えたタケル。


「ふぅー。ここじゃ何もできないな。ユウト、蒼穹の丘付近まで飛ぼうぜ。」


「了ー解。」


タケルがそう提案しユウトがうなずくと、次々と舞い込むチャット申請をそのままにし、タケルのキャラクターが一礼をするとともに、二人のキャラクターを移動の光が包み込む。


そして移動した先は、蒼穹の丘へ向かう途中にある、静かな森の中。


そこでは、遠くで数名のプレイヤー達が敵と戦っているのが見えたが、こちらには気づいていない様子で、近くには二人以外誰もいなかった。


「よしっと。これで準備ができるな。」


「しっかし、さすがタケルの武具は人気だな。」


「まぁね。」


そう得意げに答えるタケルに、ユウトが話を続ける。


「そんな注文に困るぐらいだったら、いいかげん武具を流通させればどうだ?」


「いや。俺のポリシーはこの世に一つだっと。武具1種類につき1個限定!その方がレアでカッコいいじゃん!」


「そのこだわりがなー。ま、お前らしいよ。さて、本題いくか。」


「おう!まずは、丘に向かう前に装備を整える。新作出来たんだけど見てよ。」


そう言うとタケルは、自室の机に置いてあったファイナルウェポン用のデザインノートを取りページを開いた。

そこには、青色が少し混じって濁ったような灰色をした古代ギリシャ風の鎧・盾・兜が描かれており、その真上に左手の脈の当たりを持ってきて手のひらのボタンを押す。

すると、シャッター音のような機械音がなり、それを確認したタケルはデザインノートを机に戻した。


ゲーム内ではタケルのキャラクターがその場に座り込み、左腕のバングルをさわってディスプレイを表示し、そこにペンを走らせる動作と共に、ノートに描かれていた鎧などが表示されていく。


表示され終わったのを確認し、変換コンパイルを行ったタケルは、ユウトのキャラクターにコンタクトを取りそれを見せる。


「これどう!」


描かれた鎧を見たユウトは突然噴き出し、タケルに聞き返した。


「そんな装備で大丈夫か?」


「大丈夫だ、問題ない。」


タケルの真顔の返答で更に爆笑するユウト。二人にしか分からない話のネタが展開しているようだ。


「いやいやダメだろそれ。死亡フラグ立つって。」


「やっぱダメ?せっかくユウトにプレゼントしようと思ったのにな。」


「ダメだって、一番いいのを頼む。」


そう真顔で言い放つユウトのセリフに噴き出すタケルだったが、今度は違う鎧と剣をゲームに読み込んでいく。そして出来上がった武具をまたユウトに見せる。


「今度のはどう?」


「お、かっこいいな。今の装備より強いし。装備熟練度も…大丈夫だな。で、こいつはいただけるのかな?」


「もちろん!部活の件があるしな。」


「サンキュー。」


「素材はそろってるし、早速作って渡すよ。」


タケルは実体化サブスタを始め、出来上がった剣と鎧をユウトに渡す。それを早速装備するユウト。


その鎧は上半身装備型の軽鎧(かるよろい)で、白色だが、それはまるで初めて目にするかのような美しい色合いをしており、肩宛ては外に向けて猛々(たけだけ)しく反り出し、紺色のラインが鎧全体のフチを駆け巡っている。


剣は、キャラクターの背丈と同じくらいの両刃の大剣。

切先は山型で、鍔に向かって少し広がりながら降りていき、鍔付近でくびれを作っているシンプルな形。刀身の色は鎧と反した深みのある黒。刃の中心には金色をした溝が鍔から切先に向けてY字に走っている。

鍔は、刀身の五分の一もの長さと幅がある丸い形をしており、中心はくり抜かれた形で、その空いた穴からは刀身の砥がれていない金属部がむき出しとなって握りまで伸び降りている。鍔と握りの色は、血のような濁った赤色。


「ちょっとその鎧にあう配色か心配だったけど、なかなか様になってるじゃん。ユウト。」


「いいなこれ。気に入った!サンキュータケル。」


そう言われたタケルは、少し照れくさそうな笑顔を浮かべた。


「さて、次は俺っと…」


タケルは、すでに実体化サブスタされていた鎧を選択し、それに装備を切り替えた。


その鎧は、ユウトのそれよりも白く…いや、白と決め付けるのもおこがましい見たこともない神々しい色合いで、鎧というよりも衣と言う方が正しいような不思議な質感をしている。そしてさらに不思議なことに、胴体と肩、そして前胸から左肩へ向かい後ろから巻きつくように顔まで反りたった(エリ)まで、まったく継ぎ目が無く、まるで身体を覆うように巻きつくように装着されている。

全体には、シワのような流線が身体のラインを魅せるように走り回っており、その完成された造形美は、見るものを魅了する。


するとその装備を見たユウトが笑いながら声を上げる。


「ずりぃぞタケル!それ、一番いい装備じゃねぇーか。」


「カッコいいっしょ。」


タケルは、ニヤけ顔でそう答えて話を続ける。


「あまりにカッコよかったから俺なりにアレンジを加えて描いてみた。オリジナルデザインじゃないから誰かにあげるのは気が引けててね。でもさ、悔しいけど強いんだこれが。今のユウトの熟練度じゃ全然足りないぜ。」


そう得意げに言うタケルの言葉に、少し悔しそう声をあげるユウトだったが、その鎧の美しさに見とれているようだった。


そして準備を終えた二人は、蒼穹の丘に向けて歩き始めた。


――


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