どうやってだまそうか
国王の私室に入ると、王冠をかぶった全裸の太鼓腹が立っていた。
「ふむ、そなた達が余の新たな服を仕立てるという者達か。
この場では直答を許す。生地を見せてみるがよい」
ああ、生地を当てたいから全裸待機してたのか。詐欺師二人は安堵した。
この二人組、様々な国で数々の詐欺をはたらき荒稼ぎしている。
その都度職業を偽り、手口も変えて、髪の色も染め直す念の入れよう。
各地で手配されていながら逃げおおせているツワモノである。
今回は「賢い者だけが見ることができる布地」で礼服を仕立てます、
という売り込みを、大胆にも国の頂点に対して行うつもりだ。
貴族は基本、見栄で出来ている生物だ。他者に侮られるのを何より嫌う。
自分が愚かな存在であるとは決して認めない。王族ならなおの事。
誇りから、何も見えなくとも「どこにあるのだ」とは言うまい。
詐欺師の一人が、かけていた鞄から大事そうに生地を出すふりをする。
この日のためにパントマイムの腕を磨いてきたのだ。バレまいて。
「ははっ、今拡げておりますこちらが、
『賢い者だけが見ることができる生地』でございます」
「どこにあるのじゃ?」
…あれ?
てっきり困惑した挙句、ふむ、これは見事なものじゃのう、とか言って、
こちらの芝居に騙されると思ったんだが…。
「どうした、どこにあるのじゃ、と聞いておる。答えい」
内心滝のような汗をかく。この場合どう答えるのが正解なのか。
相棒の詐欺師も、こちらを見てどう対応しようか悩んでいるようだ。
「あー…陛下のお目には見えておられませなんだか。
申し訳ございませぬ。私どもが間違えて持ってきたようでございます。
どうやらこちらは『愚かな者だけが見ることができる生地』で」
ここは下手に出て、国王を持ちあげておこう。
機嫌を取っておけば、この後も切り抜けやすくなる。
少し首を傾げた太鼓腹、間をおいて口を開く。
「おや、そうかそうか。だからそなた達にはそれが見えておるのだな。
まあよい。一度は許そう。次はないが」
いきなり命の危機に直面した詐欺師たち。しかも軽く馬鹿にされている。
ここは出直して、件の生地を持ってまいります、と逃げてしまおうか。
しかし。
「はて、そうなると疑問があるな。答えい」
なんだ?何かしくじったか?
「なんでございましょうか」
「『賢い者だけが見ることができる布地』を、
どうやって愚かなそなた達が見つけてきたのじゃ?」
…答えられない。件の生地も見えると言えば前提が根本から崩れる。
手で触れますので、などと誤魔化しても、見えなければ探せないだろう、
と返される。無言の時間がしばし続く。
「答えられぬのか。ああ、逃げられるとは思わぬことだ。
扉の向こうには衛兵が待機しておる。
ここに入ってきた時点でそなた達は終わっていたのだ」
太鼓腹はにんまりと笑った。売り込んだ最初から疑われていたのだ。
詐欺師達は崩れ落ちた。
縄を打たれ刃を当てられ、連行される二人組に太鼓腹が声をかける。
「ひとつ、教えておいてやろうか。余と言ったが、わしは陛下ではない。
弟の王弟じゃ。万が一のためにな。王冠は陛下に模造品をお借りした。
どうやって詐欺師をだましてやろうか、と策を考えて、な。
他愛もなかったが」
詐欺師の一人は、うなだれていた頭を上げた。
「もうひとつお答えください。なぜ入室を許された時、
王弟殿下は裸でおられたのですか?あれも策のひとつで?」
王弟は自慢げに答えた。
「あれは趣味じゃ」
趣味なら仕方ない。




