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この宇宙の片隅に  作者: verisuta
ネドリー運輸
2/2

ファルマン・ネドリー

主人公、ファルマン・ネドリー・・・主人公であるからこそ、厄介事は付き物である。


ー惑星リズ建国記念博物館の収蔵品ー

・海賊船

銀河に蔓延る宇宙海賊が建造する強襲攻撃母艦。主に中、大型艦に移乗攻撃を仕掛ける用途で建造される海賊の主力艦。種族により組み合わせは異なるが、人間族の領域ではエルーラ社製の中型輸送船、G-4000シリーズとベルドナカンパニー製のジャガー級中型輸送船を繋ぎ合わせた組み合わせが比較的多い、エルーラ社製の警察艦のPC-500ベースも一定数あり、完全同型艦は恐らく存在しないと言われるほぼワンオフで建造される中型クラスの船。

性能にバラつきはあるものの、中型クラスの巡視船と貨物船の中間性能を有している為、実はバランスが良く、多種多様な用途にも使用できる万能艦でもある。

・主なネドリー運輸所有艦

NSS-143オーエンス

MTZ-789 ヴァルカン

WER-675ホーネット

SSZ-222ドーファン

VPA-897ランスロット

 ある日のシーモア共和国からの帰りの事だ。

 「他星系の船乗りから聞いたが・・・今回は凄まじい・・・こんな所まで・・・」

 何が凄まじいか、戦争である。勿論この宇宙には様々な知的生命体が居る、やはり資源問題や外交問題で落としどころがある事の方が珍しい、戦争とはやはりどうしても発生してしまう物である・・・そして自分達商人はその戦場をも時には航行しなければならない・・・今回出くわしたのは戦場跡である、それも決着がついたばかりの場所である。

 銀河議会に名を連ねる共同体は内戦は頻繁でも派閥を越えた戦争はそう簡単に起こす種族ばかりでは無い・・・極一部を除きの話であるが、そのごく一部、三つ目で背の高い、人間族とは比にならない寿命を持つ種族である巨人族のエマンクリシット皇国と人間種族のオヴェルツィッヒ帝国が現在戦争をしている最中である。ほぼ万年戦争状態にあり、ここ最近は衝突が激しい、リストーン星系の領有権を巡ってずっと戦争をしている。リストーン星系がエマンクリシット皇国の手に落ちれば同族扱いでフルジア王国へその戦果が飛び火し、滅亡まではあっという間だろう。

 そもそも生まれる前から続くこの戦争、一応エマンクリシット皇国の宗教価値観の押し付けとオヴェルツィッヒ帝国の上位種族は人間属族である事の押し付けでずっと続けている宇宙戦争とは言われているが、事の発端はもはや銀河のあらゆる種族も覚えてないくらい昔の事で、何故戦争をしているのか分からない状況にもある。他の種族からはわがままな奴らと言われているだけあり、常にどこかしらで衝突をしつつ、色々な星系の資源を食いつぶしている・・・その資源を生み出す過程で生まれたのもフルジア王国だが、巨人族陣営にも勿論そういう国は存在しており、我々商人はそう言った国々と交易している。ある意味では命がけな仕事、商船も巻き込まれる事は非常に多いので、難破事故を減らす為にも商人同士で航路の情報共有が盛んに行われている。大きく避けたつもりだったが、帝国のフリーゲートが一隻大破している現場に遭遇してしまった。

 「死体だらけだな・・・こりゃ」

 まずはめんどくさい、その一言が脳裏に浮かぶが、人命救助はしなければならない・・・した所でこの船も独房並みの居住スペースの狭さ、収容出来る人数もたかが知れる。最悪、他の船を呼んで収容してもらう他無い・・・なにせこの船は偵察機だ、船員室が最低でも10室以上ある中型貨物船とかでは無い、しかも本来あるべき居住スペースを貨物室に改造を施してあるので居住空間なんて後ろの仮眠スペースが全てである。休憩出来ればそれでいいだけ・・・戦術偵察機に休憩スペースがある事自体も珍しい程である。

 そう思いながら後ろのスペース問題を確認する。無い物はしょうがないのでここが溢れるようなら他の同業他社を引き留めなければならない。中型なら多少許容オーバーしても問題ないが、小型機は酸素問題が特にシビアとなる・・・ちなみにこの休憩スペース、戦闘機なら完全に無い、そもそも戦闘機なんて母艦か基地やコロニーなどの静止衛星に配備される物、元々長距離を飛ぶ設計をしていない・・・大体の偵察機もそれは同じ事ではあるのだが、長距離偵察が前提ならまた話は変わって来る・・・偵察機が何かと民間に払い下げられている理由がこれである。

 面倒だがこれも船乗りの責務、宇宙服に着替えて船外作業用エアロックから出る。

 「・・・駄目か」

 宇宙服に付いている生命維持システムのパネルの生体ソナー情報を見ながら周囲を見て回る、酸素の有無から生体確認まで出来る代物だが、壊れているんじゃないかと疑う程にその辺に漂う人影に近づいても生体反応がない、しかもこの宇宙服もE-900Mのオマケで付いてきた年期物なので宇宙服から拾える救難信号を捜索できる範囲が非常に狭い、真っ二つの船体をくまなく探しても生きている人間は一人も居やしない。そもそも壊れていそうな気がしていたので新しいのをそのうち買おうかと思っていたが、この残骸から未使用の新品を探して盗んでいっても良いかもしれない・・・それもアリだな?

 ・・・ここで最後。

 新しい宇宙服でも探しつつ、酸素残量も厳しくなってきた所でたどり着いた所、艦橋だ・・・新しい宇宙服は無かったが生存者が居た・・・どうやら壊れていなかったらしい。

 ・・・気を失ってるな。

 スーツの酸素残量もほぼ無い、このままではこの生存者も窒息死だ。

 酸素!酸素!

 辺りを見渡すと破片に刺されて即死の遺体が目につく。

 「・・・悪いな、貰うぞ」

 他の遺体から酸素カプセルを抜いて唯一だった生存者に付け替える。それでも乏しい・・・しかしE-900Mまでは十分持たせられる、船までつけばあとは船の酸素ジェネレーターがある。

 一見宇宙服さえ着ていないように見えるが最新の、ましてや戦闘用宇宙服など先ほどまで着ていた年期物の宇宙服に比べれば薄くて軽い代物、軍服の下に着こむのが現在は主流で軍服のデザイン的に女性である事がよく分かる。

 E-900Mに戻れば直ぐに彼女のヘルメットを外す。赤い髪、そして若い。帝国人特有の白い肌は大変きめ細かく美しい、だが見とれている場合では無い、コックピット裏の仮眠スペースに寝かせる。

 「・・・コーヒーでも飲もうかな」

 実は宇宙で死体を見るのは今回が初めてだった。少し気持ちが動揺している。とにかく何かを飲んで落ち着きたい・・・こういう時はスープか何かだが、残念ながらそんなシャレた物なんてこの船には乗っかっていない。

仮眠スペースの2段目のベッドに置いてあるホットウォーマーでコーヒーのチューブを温める。重力床を大体備えるのは中型船以上からである・・・銀河全体でも中型船ですら備えていない物が多いくらいなので、コーヒーはチューブタイプでないといけない・・・備え付けがあるだろって?冷蔵庫以外は壊れているんだ、当たり前だろ?むしろ一番壊れやすい冷蔵庫が壊れていない方が凄い。

 「うーん・・・不味い、流石安物」

 港湾のコンビニエンスストアで買える10パックセットの安コーヒー、普通ならせいぜい5パックの船乗り用まとめ買いブランド物だが、このよく分からないメーカーのこのコーヒーはそれと同等の値段で5パック多い、金欠ならこれを買う意外の選択肢は無い、安物買いの銭失いとはまさにこういう事を言う。とても息抜きとして満足できる気分にはならない。

 生ぬるいコーヒーを飲んで一息ついた後、コックピットウインドウ越しに手を合わせた。

 ・・・悪いな、他が居ても、この船には収容限界がある。

 ここで死んだ者、大半が徴兵された者だろう・・・そう考えながらコックピットシートに腰掛けてスロットルに手をかけた。その時だ、何か頭に当たる。

 ・・・ん?

 「貴様は誰だ」

 ひとまず両手を上げるべきだろう。ゆっくり両手を持ち上げた。

 「ファルマン・ネドリー・・・フルジア王国籍の商人」

 そして名を名乗る。

 「なんだ、民間人か」

 そう言われて頭に突きつけられていた物が離れた。ひとまずは安心か?

 「どこからどう見ても民間人なんだが?そして悪いがあんたのお仲間は皆勇敢なる死を遂げた」

 「そう・・・私はオヴェルツィッヒ帝国宇宙軍第30E-24艦隊所属、リーサ・ファルマイン中佐である、助けてくれた事は礼を言う」

 鋭い目つきの女性は後ろで腕を組んでいる。

 「その年で中佐?フリーゲートなら艦長様で?悪いがこのポンコツじゃビーア星系に入れない、何処からどう見ても明らかに民間払い下げだが元軍用機だ、普通に落とされる。セルルド星系内でお友達を説得して迎えに来て貰わない限りは無理だ、うちの祖国もあんたらと関係が悪い」

 「喧嘩売ってるの?訓練学校育ちは直ぐにフリーゲートの艦長になれる事くらいご存じでしょう?田舎育ちの底辺職でも知っている事よ?」

 「知ってるさ!それくらい!・・・所構わずドンパチするから万年兵隊不足なんだろ?せっかく育てた上級士官も秒で溶かす国くらい田舎育ちのぺーぺーでも知ってるわ!」

 「そうよ、私も秒で溶かされた身、少しでも長生きする為に訓練学校を選んだだけ、この無意味な戦争に参加して得られる物は何?・・・そのまま田舎に連れて行きなさい、田舎暮らしの方がよっぽど優衣意義な人生を送れるわ」

 「・・・田舎も田舎で別の苦しみはあるけれどな?・・・ひとまず俺の予定通りにさせてもらう、この船は俺の物だからな?」

 通例では近隣のステーションへ降ろして後は所有している国の行政機関になんとかしてもらうのが普通である・・・だが延滞ペナルティで報酬減額は何としてでも避けたい、特にフルジア王国路線の貨物は単価その物も低く、配送料で相殺どころか逆に延滞ペナルティを支払う事も発生しかねない、大概は取引ステーションまで向かってしまう、この船も例外なくステージアコロニーまでそのまま航行させないといけない。

 「何処へでも連れていくといいわ」

 リーサも亡命する気は満々だ、ビーム拳銃を腰のホルスターに戻して後ろの休憩スペースへ戻っていく。

 ・・・面倒なの拾っちまったな。

 だが生きていた以上、拾わなければならない。スロットルを動かしてマスビダ星系へ飛ぶジャンプゲートを目指した。

 「ちょっといいかしら?」

 「なんだ?」

 マスビダ星系への最後のジャンプゲートを突破した後、リーサに声をかけられる。腕のモニターを見せてきた、酸素ゲージが少し低い。

 「・・・乗ってる人数が多いからか?」

 「この船、4人分のベッドがあると言う事は本来4人乗る設計でしょ?2人で酸素ジェネレーターのキャパシティが限界越えます?」

 「・・・それもそうだな?」

 言われてみればそうだ、パイロットとレーダー管制官それぞれに交代要員の合計4人が乗れる設計をしている。偵察レーダーとその管制室はカーゴベイに改造されて今は存在しないが、酸素ジェネレーターはオリジナル、キャパシティ不足など本来あり得ないはずである。そこで考え得る最初の原因・・・。

 「この船、穴開いてるわよ?」

 そう、何処かに穴が空いていると言う事である。

 「・・・穴?開いててもおかしくはないが・・・そんな致命的なダメージは受けていないはず」

 キャパシティ不足以外に考えられる事と言えばそれだ。ガタが至る所にあるし、修理痕もかなりある。

 「穴は私が探します、少しでも目的地まで飛ばしてください」

 「・・・そうだな、そこの棚にコーヒーが入ってる、液体と言えばそれだ・・・適当に絞って探してくれ、頼む」

 そうと決まれば機内のユニットキッチンの上の棚を指さす、ユニットキッチンと言っても電子レンジと冷蔵庫とホットウォーマーが一体化しているだけのモジュール、ちなみに冷蔵機能以外は全部壊れている、やっぱり冷蔵機能が壊れていない方が凄い。

 「・・・普通の水は無いのですか・・・まったく」

 リーサはそう言って棚からコーヒーのチューブを取り出し船内にばらまく、じわじわとエアロックの方へ水玉は動いていき、そして答えが分かった。

 「・・・まさかとは思うけれど、この船を購入してからエアロックを使ったのは私を助ける時が初めてでしょうか?」

 「・・・そうだが?」

 「エアロックモジュールの可動部分から漏れてます、外さないと修理は不可でしょう」

 ・・・それはまずい、リペアキットでも応急修理が出来ない場所だ。

 「警告灯も付いた・・・不味いな、コロニーまで持たない、エンジンも異常発熱してる!」

 「もはや捨てるべき代物では?」

 「・・・つくづくそう思うよ」

 周りを見れば海賊の墓場、見た目こそ使えそうな船がゴロゴロ遺棄されているが、エンジンが駄目だったり、ジェネレーターが破壊されていたり、穴だらけだったり・・・しかしこのままではいずれエンジンが爆発する。デプリ地帯を抜けるにはエンジンを酷使しなければならないのでこれ以上の航行は困難だ。

 フルジア王国の母星、ランザールへ向かうには必ず海賊の墓場と呼ばれるデプリ地帯を通らなければならない。何故この宙域がそう呼ばれるか、海賊の狩場であり星系警察の狩場でもあるからだ。星系警察のステーションから遠いこの宙域は星系警察の巡視船が到達するのに時間がかかる上にステーション同士の巡視管轄の境目、いわゆるデッドセクション、管轄の都合で巡視が行き届かないエリアである・・・そんなエリアだからこそ海賊が湧き、そして星系警察が一斉取り締まりキャンペーンを定期的に企画し、ポイント稼ぎをする場所でもある。

 ・・・損傷覚悟で飛ばすか?それとも冷やすか?・・・もしくは酸素を探すか?

警告灯と周りの船を見つめながら考える。少しチンタラ走っても小型機であれば海賊の襲撃は気にするまでも無い、だが少しでもデプリに当たれば機体がただじゃ済まないのも事実、エンジン冷却で停船すれば酸素がなくなる。

 ・・・なら他の船に逃げるしかない。

 しょうがないのでジェネレーターが破壊され遺棄された海賊船に横づけする。

 「・・・こんな所に停めてどうするつもり?」

 「本当にジェネレーターだけ破壊されていればコイツのジェネレーターでもしかしたら動くかもしれない、操船は出来るか?」

 「当たり前よ」

 「じゃ、とりあえず俺が外へ出る・・・たぶんブースターケーブルの長さは足りると思うんだが・・・」

 「相手は中型船よ?小型機用ジェネレーターで動くと思ってるの?」

 「生命維持システム全カットなら動きはする・・・もちろん出力が足らなさ過ぎて大型船なりの鈍足になるはずだけどな?ちなみに同型っぽい物はもう少し先にもある、エンジンが破壊されている奴だ、おそらくな?・・・ニコイチでそれなりに走れればワンチャン、勿論燃料棒が腐ってなければの話、賭けでしかない・・・じゃ、行ってくる」

 「それに賭けるしか無さそうね」

 宇宙服に酸素ボンベをセット、そしてエアロックから外へ出る。外部バイパス端子から電力供給ブースターケーブルを接続する・・・用途は本来逆だが出来なくは無いはず。艦内電源が入った、その辺に漂っているワイヤーケーブルを拾ってE-900Mの前脚を海賊船の適当な突起と繋いで固定、そして海賊船のエアロックから正規の手順で内部に侵入、案の定酸素は規定値以下だがキッチリ酸素は生成している、ゆっくり回復しているのが分かるがまずは艦橋へ向かった。

 「・・・あー・・・これなら大体分かる」

 勿論外観からもある程度察しはついていた、見ての通りエルーラ社のコンソールである。ベースはエルーラ社製の中型輸送船、G-4000シリーズで確定である。ベルドナカンパニー製のジャガー級中型輸送船を繋ぎ合わせた物、両ベースともにE-900シリーズよりさらに古いが、改造にあたって補強も念入りに施されたか、まだまだ動けそうなスペースデプリなようだ。海賊集団お抱えの修理業者である程度量産されている為、おおよそ同型が多数存在するとも言われる海賊船の標準型、どちらも改造前かつ次世代型の姿は見た事がある為、作りは大体察しがつくがどこまでその基本知識が通用するか・・・。

 船体の主電源を起動させる、至って完全体、そう、ジェネレーターを除いては・・・ジェネレーター損傷で外部電源による航行モードに切り替わっている、外部電源の容量不足警告が表示されている。

 「よっしゃ!アタリだ!」

 ようやく運が回って来たか・・・ついでに言えば船体自体のロックがされていない、つまり星系警察に御用になってそのまま放置された船と言う事、基本的にエアロックは電源喪失時、救援艦が開けられないと船員救助も出来ない為、接続側の電源で開閉出来る設計にするよう義務付けられている。開け方その物は操船免許の実技講習で必ず受ける課程でもある、この船はそれを意図的に実行する為ジェネレーターを破壊して無力化後に接岸する手法が取られたのだろう。下手に船体に穴を空けてしまえばせっかく捕まえた犯罪者が窒息死する可能性がある為、この方法が主流である。

 ・・・だがまだやるべき事がある。

 ジェネレーターユニットが生きている同型の船を探す、これでようやく大型貨物船より早く、そして酸素残量不足に怯えずに済むのだ。

 艦内電源を全てカット、エンジンだけに供給させて船を進める・・・鈍足、非常に鈍足だが目星をつけていた船に確実に接近出来ている。載せ替えは工具が沢山居るが、たぶん星系警察にでも押収される不法船だ。直す価値は無い。帰れれば良いのだ。

 「・・・星系警察?」

 それでようやく思い出した、星系警察に救難信号を送れば良かったのだ・・・だがどの道1日2日経っても来ない事も思い出す・・・駆け付ける頃には酸欠を迎えるはずだ。

 もう一隻の同型の海賊船に横づけする。大抵ブースターケーブルなど非常用品は、どの船にも必ず搭載されている物だ。貨物室にあった。

 もう一隻もエンジン以外はいたって完全体、この船は内部で戦闘があったようで、血痕が目立つが、最終的に無力化されて、星系警察に御用となったようだ。

 ・・・ジェネレーターはシャットダウンされただけか。

 しかも真新しい、最近取り締まられた船だろう。勿論スラスターだけでは逃げる事など不可能、エアロックは大穴が開けられている事から移乗攻撃が実行されたようだ。

 艦内電源がオンになる。それと同時に破損箇所の隔壁が動く音がした、出入りは小型機の格納庫のみからでないと出来ないだろう、こちらは電源不足には陥らない。

 電源が付く事を確認すればスラスターだけで最初の船の真下へ移動し、ブースターケーブルを接続、アンカー同士を絡ませて固定、その頃には両方の船に酸素が最低限供給されていた。片方は大穴が空いているので生成を切っている。

 E-900Mはリーサが最初の船のドックに格納してくれた。

 「ふう、ヤニ臭い」

 「所詮海賊船だ、これがオーエンス号、下がブラッドルビー号、下は血だらけ死体だらけだ、綺麗なこっちのほうがまだマシだぞ?」

 「ところで、田舎の星系警察は幽霊船が動いてるのに全然来ないのね」

 「ここは巡視のデッドセクションだ、海賊取り締まり強化キャンペーンを計画していない限り巡視船もほとんど来ない・・・救難信号は届くとは思うがどうせ駆け付けるのに丸1日くらいかかる、どちらの管轄で対応するか揉めてからだからだ・・・おまけに巡視船もそう多くは無い」

 「その間に窒息死できます」

 「そういう事だ・・・ひとまず拠点のステーションまで帰る、これは遅配ペナルティで減額だな」

 「だったらもう少しマシな船を選べば良かったと思うのですが?」

 「・・・それは同感だよ」

 そうこうしている間にデプリ帯を脱出、そこから3時間かけてステージアコロニーに帰ってこれた、当然コロニー警察に停められる。

 「・・・今更感」

 「ホントだな」

 沖停め宙域侵入時にコロニー警察船に囲まれた・・・本当はもっと前に星系警察に停められると覚悟はしていたのだが、それを突破してきてしまった。

 「こちらはステージアコロニー保安警察である、貴船は上下共に登録の存在しない船舶である、速やかに停船し保安警察の立ち入り検査を受けるよう命ずる」

 「こちらNSS-143オーエンス、検査の為の停船を受け入れる、しかし本船は見ての通り急激な減速が実行できない、時間に猶予を要求する」

 「承知した、ゆっくり停船せよ、特別だぞ」

 保安警察に囲まれながら減速、少し猶予をくれるどころかブラッドルビー号がぶつからないように手伝ってくれたりする辺り、王国の警察はユルユルなのだがしっかり答えねばいけない。なんとか停船をして小型のパトロール船がドッキングしてくる、2人の警官を出迎えた。

 「これより立ち入り検査を実行する、貴殿の名前、所属と航路、当コロニーへの来訪目的を聞く」

 「ステージアコロニーを拠点として個人輸送業を営むファルマン・ネドリーと言う者です、商人登録番号は・・・こちらです」

 携帯端末で商人登録証を警官に提示する。警官は番号を当局と参照する姿をしばし眺める。

 「当コロニーにこんな奇妙な船を使用する事業者は居ないのだが・・・登録は事実だ、そちらは見た所、帝国軍人のようだが」

 「シーモア共和国から医療品を乗せ航行中、セルルド星系で大破した軍艦を発見、宇宙を航行する義務として私が救助しました」

 「オヴェルツィッヒ帝国宇宙軍第30E-24艦隊所属、リーサ・ファルマイン中佐であります」

 「救助義務はご苦労であった、しかし、貴官に関しては帝国軍人の籍である為、原則として3年間はコロニーの港湾地域の出入りには入管の許可が必要となる。それ以外の区画は立ち入りが許可されない・・・で、この奇妙な船は何処で手に入れた?登録の無い船舶は民間事業での使用を認められていない」

 「道中、私の船が故障しまして、海賊の墓場から持ち出してきました、上下の船の差し押さえであれば従います」

 「・・・なんだ?使うつもりで引き上げたとかでも無いのか?海賊船として使われた船であろう?直して使うつもりで引っ張って来る者も少なくは無い、所有者関係なく好きにすると良いが、正規の交易船として使うのならば必ず登録申請をするように・・・他に積み荷は?」

 「小型機分の医療品しかありません・・・下の船は・・・前の所有者達を積んでいますが・・・」

 「・・・星系警察の奴ら、またやるだけやって後処理をしなかったな・・・?・・・死体だけは元の場所に戻しておけ、我々は何も聞かなかった事とする。立ち入り検査は以上だ、これにて失礼する」

 保安警察は端末に検査報告書をまとめ上げ、船を去っていった。

 「・・・緩すぎじゃない?」

 「抵抗さえしなければ寛容的なんだ」

 「だから海賊が沸くのよ」

 「それもそうか・・・しかし、この船が自分の物になるとは」

 「前のよりボロじゃないの・・・直すのを手伝いましょう、どうせ私の家になるんでしょう?下はどうするんですか?部品だけ取って売る?状態が悪いんでしょう?金属スクラップとして売ればポンコツの登録費用とガラクタの修理代にできます」

 「やけにやる気だな・・・」

 「どの道3年は船の上で暮らす事になります、それにこの大きさの船、一人で操船する物ではありません、機関士も含めて少し人を雇うべきかと」

 流石は艦長をしていただけはある、リーサの考えは現実的だ。帝国軍人特有の鋭い目つきが怖い所だが、彼女の言う通りにする他無い。

 「そうしよう、ひとまず俺は納品してくる、明日は修理だな」

 リーサに船を任せてE-900Mで貨物を運んだ、これくらいの距離なら空気が漏れていても酸欠にならないし、エンジンがオーバーヒートする心配も無い。

 翌日、工具を搭載して沖停め宙域に向かう、2隻の海賊船は横づけ状態になっていた。既にリーサが外装パネルを外してオーエンスから破壊されたジェネレーターの摘出作業を始めていた。船と言ってもある程度各システムも規格が存在しユニット化されている。大体が銀河規模で定められた規格通りの大きさ、年式によって多少規格改正で変わるものの、改造も修理も他の種族の修理工場で行えるメリットがある。その為ある程度は簡単、直ぐに使えるように出来てしまうのだ。

 「おはよう」

 「おはようございます、ひとまず搭載されていた工具でパネルは外しました、ユニットの脱着はこれからです」

 「手際が良いな・・・」

 「船舶修理も訓練のうちです、全てのボルトを外して横から船で引き抜きましょう」

 リーサはそう言いながら電動インパクトでボルトを外していく、大変早い、それに負けじとブラッドルビーから部品取りをしていく、やはりユニット化されているので交換もスムーズ、一日あれば終わってしまう。その後も不具合の出ている部品を交換するのに2日要して、交換した部品はブラッドルビー号の荷室へ、この船は内装の状態も悪いので廃船にする。

 「試運転用の限定宙域航行許可は取ってきた、海賊の墓場までを申請してきた」

 携帯端末の画面をリーサへ見せる。

 「・・・そんなに簡単に取れていいのかしら?」

 リーサはパックコーヒーが不味いのか、それとも王国のユルさに唖然としているのかは分からないけれども凄い目つきで睨んでくるが、動かすとなれば話が早い。艦橋へ向かう。

 艦橋は中型船用の空調フィルターと酸素発生装置のフィルターは新品に交換した為ヤニ臭さはだいぶマシにはなった。オーエンスは完全体、動かそうと思えばいつでも動かせる・・・しかしまずはブラッドルビー号の売却からだ。ステージアコロニーから離れた所にあるスクラップ処理業者まで牽引して売却。しかしリーサも想定外の額が付いた。

 「あら、結構良い値段ついたじゃない」

 「ボロの中型輸送船買えちまうぞ・・・?」

 「もうボロだけは止めて」

 「分かってる、オーエンスの登録費用、そして船員の雇用費・・・とはいえ一人が限界だな」

 「でもこの船があれば一日の収益も今までの20倍、直ぐに沢山雇えるようになるはずよ・・・ようやくこの不味いコーヒーからおさらば出来る」

 これだけでE-900Mが6機買える。海賊船は壊れているとはいえ、良い改造がかなり施されていて、パーツとしての価値が相当高いようだ、一隻登録してもお釣りが全然残る。リーサの案に乗らなければ2隻とも復活させて一向に動かせなくて詰む所だったのだ。

 「君の給料も出せるよう努力する」

 「食わせて貰えれば私は十分よ、それより遺体を捨てに行きましょう?腐りかけの20人と同じ船で寝るのは嫌なんですけど」

 「そうだな、さっさと行こう」

 リーサは飲み切ったパックコーヒーを航行コンソールの脇に投げる。それはコンソールの上にとどまった・・・なんとこのシリーズの船、重力床が標準装備されている。パックコーヒーをチューチュー吸わなくても良いのだ。堂々とマグカップに熱いインスタントコーヒーを注いで飲める素晴らしさ、住むのにも困らない、立派な船長室、ちょっと汚い船員室だってある。衛生設備も綺麗とは言えないが完備、食堂も同様だが家具付き道具付き、整理する必要もあるが、コロニー内の豪邸と規模的にはほぼ同等、30人が暮らせる設計だ。

 「機動性もかなり良いじゃないか?速度も」

 実際に走らせてみれば分かる。小型機には劣るがそれでもこのクラスではかなりの機動力、まずそれに驚く。これは中々の掘り出し物だ。

 「海賊の船よ?輸送船より高い機動力、そして輸送船に余裕で追いつけ、襲った後、星系警察を撒く為に速力が必要、その手の改造は抜かりなかった・・・そうでしょう?」

 「それはそうだが・・・ここまでとは予想外だ」

 「これなら中型輸送船より早いペースで交易が可能だと思う。売上も必然的にアップ、やったじゃない」

 「君のおかげだよ」

 「私は拾われただけ、貴方が稼がなければ私は飢え死にする、死ぬ気で稼ぎなさいよね?」

 「今日はコンビニの弁当だ、冷蔵庫に入れてある」

 「よろしい」

 ・・・おそらくはもっと良い食事を取っていた都会っ子だろうとは思うが、3日3食続けてカップラーメンで食事の質が落ち切ったのか、コンビニ弁当でも満足してくれる・・・俺は彼女に今まで通りの食事を与えてやらねば・・・なんか同棲しているような考えだな?

 そうこうしているうちに海賊の墓場へ、海賊の遺体はそっとカーゴデッキから投棄する。目の前の海賊船も金になりそうだなとは思うが、ここは無料の部品ヤードでもある。不用意に持ち出す事もしない方が今後の為だ。

 「終わったぞ」

 着替えを済ませて艦橋に戻る。リーサは暇そうにしていた。

 「帰りましょう、当局へ事業用船舶登録をしなければなりません」

 「それなら整備ドックで軽く検査して終わりだ、今日中に終わる」

 「・・・本当にぬるい」

 リーサは呆れる、色々緩過ぎて拍子抜けしているのだろう。

 「一番船体検査の緩い国だ、ボロい船の定期検査ならうちに限る」

 「ならさっさとこの船で稼ぎ、新品を買えるようになりましょう」

 こんこんとレーダーコンソールを手の甲でノックするリーサ、だがこの船にもデメリットがある。搭載貨物量が中型貨物船の半分程度である事である。理由は・・・フリーゲート並みの武装を搭載しているからだ。少しでも稼ぎを増やすなら全力で走らせて中型船を購入すべきである。

 「もう新居が欲しいってか?豪華な船長室じゃ物足りないか?」

 「あんなヤニ臭い部屋で寝泊りする身にもなってみなさい!」

 「ベッドはキングサイズ、高そうな家具、それなりに豪勢だが・・・」

 「だからと言ってヤニと男臭いベッドでいつまでも寝かせる気なの?私も女よ?勘弁して!」

 「分かった分かった!明日から通常営業再開だ!」

 リーサは腕を組んでふてくされる。住居としては悪くは無いのだが・・・この船の所有者は誰だっけ?

 ステージアコロニーに帰れば直ぐの整備ドックへ、検査ドローンで穴が無いかどうかチェックされて本当に直ぐ終わる。高いのは登録費用、しかしこれでも他の星系と比べると格安な部類・・・大本がいかに高いかよく分かる。

 NSS-143 オーエンス、登録記号もそのまま、安く済ませたのは登録復帰をしたから、これは整備ドックの担当者の入れ知恵、海賊の墓場からサルベージしてくる駆け出し事業者もたまに居るらしいからだ。海賊もまた、海賊行為用の偽装ライセンスとは別に、通常航行用に正規のライセンスを所持している、これがあって初めて特に海賊行為をしていない時も宙域の航行が可能であり、居住ステーションに乗りつける事も出来るようになるのだ・・・まぁ見た目からして怪しいので本物の海賊は貨物船やシャトルで乗りつけるらしいのだが・・・。

船のトランスポンダーに上書きされた情報を見てニヤけが止まらない。

 「・・・ホント、何を見てヨシとしたのやら」

 「ともあれこれでもう合法な船だ、今日くらいは外でどうだ?服とか揃えたいだろ?」

 「いちいち入管まで行かなければならないのよ?そこは流石にユルくないでしょう?」

 「サイン書いて終わりだったと思うぜ?」

 「はー・・・ユルい・・・分かった、行くわよ」

 リーサはあきれ顔で艦橋を出ていく、その間に沖止め宙域にオーエンスを移動させる。離艦の準備をしていれば真っ黒なドレスを着たリーサが格納庫に来た。完璧な体のライン、強調された胸、白い肌に鮮やかな赤髪、全てにおいて完璧だ。

 「・・・そこまで・・・キメなくともだな?」

 「・・・うるさい!帝国軍服で出歩く訳にはいかないでしょう?!」

 「よくそんなのあったな?」

 「商売女でも乗っけてたんでしょう?行くわよ!」

 リーサは真っ赤なテレ顔を隠しながらE-900Mに乗り込む、オーエンスは電源さえ入っていればE-900Mで遠隔操作が出来る。ドッキングから格納、船体の施錠まで・・・出来て当たり前だがこの年式同士でも出来るようだ。

 ステージアコロニーに入港後はリーサは入管へ、しばらく待っていればひと際目立つリーサが入管から出てきた。港湾の男達が皆鼻の下を伸ばしているのは言うまでも無い、ナンパしようと後ろを付いてきている。そんな美人は俺の前で立ち止まる、それで後ろに付いてきた男は散った。

 「本当にたいしたガバセキュリティな事で」

 「その代わり、自由に行動出来るのは港湾地区だけだ、居住区への出入りは帝国の旅行ライセンスが必要だが、出国手続きはしていないだろ?書類不足で入れんさ、だが居住区に入らなくとも港湾の駅の近くに大きな複合スーパーがある、その・・・目のやり場に困る派手なのよりかは安いがな?」

 「安いので良いわ!これは目立ちすぎる」

 強調された胸が揺れるのにまわりの男たちは釘付けにされる・・・見ないようにしているのだが、どうしても目が行ってしまう辺り、俺も男なのだなと思う。リーサは何かを察したのか、突然歩き出した。

 リーサにおいていかれる・・・が、彼女にとって知らない場所・・・少し歩けば位置が前後する。

 スーパーで一週間分の服を買い込み、E-900Mに詰め込んだ後、近くのバーへ行く。

 「そういやビーア星系はどういった所だ?都会なんだろ?」

 「そうね、経済格差がとても激しい、終わらない戦争で武器商人は懐を温め、それ以外は徴兵で前線へ送られる、徴兵が免除されるのは限られた金持ちだけ・・・私は普通の一般市民よ、それでも帝国の経済の中核、人口は多い」

 リーサはカクテルを一口含んでテーブルに置く、そして溜息。

 「貴方の生まれは?」

 そう聞かれて溜息、一口カクテルを含んでゆっくりテーブルにコップを置く、対して言う事も無いが、聞かれた以上答える他無い。

 「生まれ故郷もここ、ステージアコロニー・・・物流が細くてさ、薬が届く前に母親が死んだ、マスビダ星系ではそういう事も日常的、田舎は物が手に入りにくい・・・だからビックになってマスビダ星系の物流を掌握する大企業を作ろうとしている」

 「・・・そう、素敵じゃない」

 「・・・と、そこの若造は言うがその手のナンパに騙されちゃいかんよ?嬢ちゃん!」

 突然リーサの肩に手を乗っけてくる男が現れた。リーサの目つきがかなりキツくなる。明らかに凄く嫌そうな目つきだ。酔っ払いの命が無くなるかもしれない。

 「・・・貴方、誰?」

 「物流こそ細い、ビックになる前に破産しちまう!皆そうして他の星系に行くんだ!俺が整備してやってたあの船も!この船も!」

 質問にも答えないか・・・。

 男はフラフラしながら大声を上げる・・・目の前のマスターも始まってしもうたな?と悩ましい顔をしていた。

 「・・・だから、誰?」

 リーサは再度問いかける、その目つきはさらに険しくなる。やはりこのままではビーム拳銃に指をかけそうな勢いだ。入管はそんな物を持っていても取り上げない、なぜならサインを書いて終わりだからだ、身体検査そのものが無い。

 「この若造もそのうちそうなる!絶対だぁ!」

 結局答えない・・・そうして男は倒れた。さりげなくリーサは男が持っていたカクテルのグラスを奪い取っている。中身を床にぶちまける事だけは防がれたようだ。

 「あの、ひとまず、これ」

 リーサはカクテルをバーテンダーの爺さんに渡す。

 「見慣れない顔だが帝国の人かい?・・・ドミッドラーさんが迷惑かけたの?大口の客が他の星系に移転してからずっとこの調子なんじゃ」

 「それはお気の毒に」

 「この辺では名工なんだが、大口の客がドミッドラーさんの工場を占有してて他の客が入る余地が無かったんだ、大口顧客を失って工場は廃業、以降ここでずっと酒におぼれている始末さ、今日の酒代も置いていかない・・・どうにかして稼いで貰いたい所だが・・・」

 「・・・今日の分は払いましょう」

 「えっ」

 リーサの言葉にうっかり声が出てしまう。

 「異国のお嬢様に流石にそこまでは・・・」

 バーテンダーも困り果てる。

 「だってこの人整備士でしょ?貸しを作れば安給でも働くわ?船の構造を知っているなら機関士としても使えるはずよ、それに今は酒から離すべき、宇宙へ引きずり出せばしばらく酒が飲めない、このお店も支払いが無ければいずれ廃業、どうかしら?」

 ツンとした目つきが何故か突き刺さる。

 「・・・分かった、君が言うのなら」

 ・・・そう言うしか無いじゃないか・・・。

 「そういやお客さんもこの前船を買ったばかりじゃないかね?」

 バーテンダーも心配してくる。自分だって目の前で転がっている男の名前自体は知らなかった訳じゃない、顔は知らなかったが・・・しかしまだ世話になれるほどの船舶を保有していない。彼の工場は大型船舶が主だからだ。そしてバーテンダーに初めて会ったのは2週間前の事である。流石に懐事情も把握されている。

 「いや、訳あって大きい船を手に入れたんだ、飲み代くらい直ぐに稼げるようになる」

 「・・・昔よりもさらに延滞貨物地獄でほとんど儲からないはずじゃがもう次の船を手に入れたと言うのかね?・・・これほどなんだが」

 バーテンダーに渡された伝票を見て真っ青になる、1カ月分の食費が飛ぶ額だ。

 「どうしてもというなら多少安くしよう・・・だが肩代わりは辞めて置け、いずれ身を滅ぼすぞ」

 「・・・払いましょう・・・多少、割引してくれると助かります」

 仮にも女性の前だ、少しくらい男らしい所は見せなければならない。支払いを終えると泥酔した男、ルーガ・ドミッドラーを担ぎ上げる。そしてE-900Mに放り込んでオーエンスに戻った。普通は飲酒で捕まる・・・なので全てオートパイロットに頼った。オートパイロットモードであれば停められる事も無い・・・船へのドッキングくらいなら手動でもバレやしないと思うが、勿論自動でも出来る。イカれていなければな?残念ながらこれは生きている・・・死んでたらそもそも港湾にドッキングが出来ない。

 「ひとまず、船員室にぶち込んでおく、リーサは俺の寝床を作ってくれ」

 「まさか私と寝るつもりぃ?」

 「俺の寝床はこれだ、君の荷物に占領されてるんだ、格納庫に出すだけでもいい、やっといてくれ、ちょっと俺も酒が回って来て眠いんだ」

 E-900Mを指さす、別に船員室で寝ても良いが、どうせ寝るなら見慣れたE-900Mの方が良く眠れる。

 「分かったぁ・・・」

 本当に理解したか不明だが、一応リーサはふらふらとE-900Mから荷物を出し始めたので大丈夫そうだろう。ルーガを担ぎ上げて船員室へ、片付けていないので前の住人の私物がそのまんま。シミのついたシーツにタバコの箱、エッチな雑誌に年代物の酒の空き缶・・・しかも2度無重力状態に晒されているので物は散乱している。ひとまずベッドにルーガを寝転がした後、格納庫に戻ろうとする、しかし人の気配が他にする、リーサじゃない、なぜなら船長室は別の階だからだ。

 「誰だ!」

 ひとまず船員室にあったほうきとちりとりを持って人の気配がした方へゆっくり近づいていく・・・居たのは黒い肌の女の子だ。

 「ここで何をしている?」

 「これは・・・その・・・船が・・・欲しいってお兄ちゃんが・・・」

 「もう一人居るのか?」

 「申し訳・・・ございませんでしたっ!」

 涙目の黒い肌の女の子は逃げようと走り出そうとする、腕を掴んで止めた。

 「この船はやれないが船探しなら手伝ってやる・・・この船も拾い物だからだ・・・さあ、お前の兄貴の場所に案内しろ」

 「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 泣きわめく女の子を引きずりながら食堂へ寄る、ひとまずの包丁を手にした後、艦橋へ、操船ロックを解かずに別の船で操作出来るように細工をしている兄貴が居た。

 「マイラっ!貴様っ!」

 彼女の兄と思わしき男がビーム拳銃を向けてきた、とりあえずは女の子を盾にする、そう簡単に発砲もできないだろう。こっちには人質が居るんだ。

 「お兄ちゃん!この船は諦めよう?」

 「そうだぞ、早くそのビーム拳銃を降ろせ、妹の命は今俺が握ってる」

 マイラと言う子の首元に包丁を突きつける。マイラの体が恐怖で震えている。

 「後もう少しだったのに!」

 「・・・船が欲しいんだな?」

 「この船をくれるのか?」

 「誰がやるか!泥棒少年!・・・だが、タダで船を手に入れる方法は知っている、仕事のついでにサルベージを手伝ってやらなくもない、修理までは手伝ってやってもいいが登録はお前が自力でやれ、参考程度に教えてやるがこの船の登録費用は12,000万クレジットだ、どうだ?美味しい話だろ?泥棒少年?」

 「サルベージ?何の事か分からんが一緒に船を盗んでくれるのか?なら手始めに隣の船から!」

 「バーカ、人の船盗んでどーすんだ、合法的に盗んで良い船はもっと別の場所にある、海賊の墓場と言えば分かるだろ?」

 「海賊の墓場・・・?」

 「知らないのか?よくそんなので人の船盗もうとしたな?そもそもこの船は海賊船だ、普通の船じゃない、だからお前は細工に手こずった」

 「ねぇ!お兄ちゃん!この人の言う事聞こう?このままじゃ殺されちゃう!この人海賊だよ!」

 マイラが暴れるので包丁の平たい所でマイラの顎を軽く叩く、そしたらおとなしくなる。

 「良いから黙ってろ!・・・で、なんで海賊船がこんな公共の駐機宙域に堂々と止まってると思う?俺が海賊じゃ無いからだ!」

 「信用できるか!俺達は今すぐ船が必要なんだ!親の借金を返す為に!」

 「本物だったらここに持って来た瞬間星系警察囲まれるリスクのある船だぞ!これはそう言う代物だ!それに借金・・・ねぇ・・・今すぐには用意出来ないが、海賊じゃなくても海賊船を持つ事が出来る、俺はその方法を知ってる、ひとまず俺の下で働くか?衣食住はこの船は完備している、飲まなきゃ泥棒としてコロニー警察に突き出すが?警察に捕まれば借金もチャラに出来るだろ?ん?」

 依然としてビーム拳銃を向けた兄貴を挑発するようにマイラの顎を包丁で軽くぺしぺし叩く。

 「私!この船で働きます!」

 女の子は泣き声でそう言った、その兄もあの手この手で妹を救い出そうと必死に考えている様子だ、だが、サルベージと言う言葉すら分かっていない奴だ、正直何も思いついていないように見える。

 「マイラ!何を言って・・・!」

 「妹さんはその気だぞ?どうする?シャバで働いて借金も返せるビックチャンスだ」

 「くそっ・・・分かった、働く・・・妹を放せ!」

 ・・・頭が弱い割には意外と物分かりが良い、だがまだやる事がある・・・武装解除である。

 「その前にそれを寄こして貰おうか」

 彼女の兄はビーム拳銃を床に置いた。それを拾ってから女の子を解放する。女の子は兄貴の胸元で大泣きした。

 「名前は?」

 「アズニー・ログッド、妹はマイラ・ログッドだ」

 「俺はファルマン・ネドリーだ、ひとまず、この船の掃除からしてもらう、報酬はこの船とたぶん同型の海賊船本体だ・・・とは言っても修理が必要だ、丁度それが出来る奴を知ってる、ついてこい」

 「はいっ!」

 マイラは殺されないよう必死な様子、アズニーを引っ張って来る。そして船員室区画へ。

 「ルーガ・ドミットラー、近くの民間修理ドックのオーナーだ、たしかサリマン運輸の専用修理ドックになっていた所だな」

 「ドミットラー?あの有名修理工?このオッサンが?なんでこんな所に!?」

 「サリマン運輸が他の星系に移転したからだよ、おかげでこの星系の物流がほぼ消し飛んだし、客も消し飛んだ、おかげで酒に溺れて俺の連れをナンパして今に至るって所だな?」

 「薬が・・・さらに高騰するのかっ!」

 「なんだ、お前らも薬不足で親を無くした身か?借金の取り立てに追われると言う事はそう言う事だろ?奇遇だな、俺もだ、まぁ俺は幸い借金に至らなかったが」

 「この星系は物流が細いのにっ!また大手が出て行ったのかっ!」

 アズニーは壁を強く殴る・・・そこまで薄くは無い・・・はずだ。

 「ま、それに変わるのが俺みたいな弱小だ、今日はここで寝てくれ、汚いが明日から掃除してもらう・・・それと、その本は君には早い」

 顔を真っ赤にしているマイラからエッチな本を取り上げてルーガの手元に投げる、この程度じゃ泥酔して起きやしなかった。

 翌朝、逃げただろうとは思っていたが、アズニーとマイラはしっかり目の前に居た。

 「それ、飯だ、昨日は偉そうな事言ったが、俺もこの船を失うと人生詰むんだ、俺の人生も詰まずにお前らにも合法的なチャンスを与えられるプランは昨日提案した通りだ、不服だろうが前科を背負いたく無ければいう通りにしろ」

 「はい」

 「不服そうだな、アズニー、妹は理解しているぞ」

 「分かってる・・・」

 ファルマンは二人の前にお湯を注いだカップラーメンを置く、そしてリーサの前にも置いて隣に座る。

 「・・・誰?」

 リーサは帝国軍人特有のキツイ目つきでアズニーとマイラを睨む、二人はリーサにビクビクしていた。

 「アズニー・ログッドとマイラ・ログッド、昨日この船を盗もうとした奴らだ」

 「警察に突き出さないの?」

 「この二人は船が欲しいらしい、この船で働くかわりにもう一隻、俺達は海賊船をサルベージ、そしてルーガさんに直して貰う必要がある」

 「船を直すのは構わんが・・・俺は何故ここに居る?お前たちは誰だ?」

 「貴方、昨日私達に絡んで来て、この男に昨日の酒代払わせた事覚えてないの?」

 「何の話だ?昨日の酒代を払ってくれた?頼んじゃいない!・・・はずだ」

 ルーガは軽くパニックになりながらも朝食のカップラーメンを食べる。今日は朝から皆買い置きのカップラーメンだ。食堂には業務用の給湯器がある。熱いお湯も作れる訳だ。ボロには変わりないが最高の船である。

 「昨日払わなければヴェルグーリーさんのバーもアンタの工場のように廃業する事になる、あの人は船長引退後の趣味でやってるつもりとはいえ、あのバーが潰れれば他の奴らも困るんだ、俺はファルマン・ネドリー、こっちはリーサ・ファルマイン、昨日の分とヴェルグーリーさんへのツケはきっちり清算してもらう」

 「かたじけねぇ・・・状況は理解した、良いぜ、丁度客も居ないし、お前の船の専属整備士になってやる。うちの工場も自由に使いやがれ・・・ついでにスクラップも持ってきてもらえると助かる。なにせ財政難でな、部品も買う金は無い、お前がビッグになってこの宙域から出ていく時まで世話してやるよ、だが、他の客も入る余地はくれ、サリマン運輸の二度前はごめんだ」

 「話が早くて助かる、これから何隻かルーガさんの工場まで業務のついでに引っ張っていく、出た金属スクラップはあんたの懐に入れていい」

 「いいや、お前が持ってきた部品は全てお前の物だ、そこまで客の持ち物を好き勝手するほどうちの工場はクズじゃねぇ」

 「だが工場を維持する為の資金稼ぎには必要だ、うちの船の予備部品はしっかり確保してほしいが余剰になった物は他の顧客の船に使うなり、売却しても構わない、どうしようもならない鉄くずも同様だ」

 「・・・本当に良いのか?」

 「サリマン運輸のせいでいまこの星系の物流はほぼ無になったに等しいんだ、他にもビックになって貰わないと困る。中型の多いササラ運輸、ヤマサ物流も知らない間にこの星系から撤退してたらしいからな?」

 「これからビッグになってこの星系からいずれ出ていく奴がなぜこの星系の物流を心配する?」

 「俺は薬が高く、買えなくて親を見殺しにした、ログッドの二人も高価な薬に翻弄されたんだ・・・これからもっと高くなる、俺はそれを見て見ぬふりが出来ない」

 「・・・そういう事か・・・分かった・・・所で船長、この船の不具合は?航行中に直すぜ?今の俺達の生命線なんだろ?」

 「この船の不具合は特に無いんだが・・・E-900Mのエアロックから空気漏れが発生してる」

 「まー・・・なんて骨董品を・・・分かった、任せてくれ」

 ルーガは立ち上がる。朝食のカップラーメンを食べ終えれば仕事開始だ。早速、ステージアステーションの中型交易ドッグへ行く。初めてなので勝手も分からないが、小型貨物とは異なり、シーモア共和国行きの貨物がパンパンではちきれそうになっている。少しでも多く裁く為に港から過積載を要求される始末だ。

 ・・・これは思ったより深刻、サリマン運輸が抜けた穴が酷過ぎる。

 この状況を目の前にして逃げ出した運送会社も非常に多い。今残っている大手は操船免許の要らない大型自動車免許で乗れる短距離シャトルと大気圏突入などを行う国内線専用業者のみ。長距離は専門外しか残っていない状況だ。

 「これは酷い」

 「田舎も大変ね」

 ロードアウトを確認するも1万トン越え、海賊船じゃなければもっと積めるのにと港からも悪態を付かれる程、さらにE-900Mとルーガの個人機、E-1000Mに小型貨物も満載、E-1000Mは船外ドッキング状態だ、これでも頑張った方、空荷で軽快だったオーエンスは凄く重そうにステージアコロニーを出発、勿論ロックベルト星系からの医薬品も過積載である。いつもセルルド星系の状態を教えてくれる巨人族の商人仲間からも、貴殿よ、乗り換えるのが早すぎんか?と言われた。

 「しかしアズニー・・・操船すらまともに出来ずによく船が欲しいと言い出したな?操船免許はおろか、普通自動車免許すら無いとは・・・操船はマイラの方が上手いぞ?」

 「うるせぇ」

 「船を手に入れる前に、まずは操船免許を取る所から始めろ、と言うか、マイラ、お前が取れ」

 「私ですか?」

 「君の方が飲み込みが早い、俺らから独り立ちするには君が操船免許を取った方が一番早い、自動車免許の延長線のような物だ、船を盗む為にレンタルシャトルを乗りつけてきたんだから出来るだろ?」

 「でもお兄ちゃんが・・・」

 「アホ!スペースデプリに真正面から突っ込む奴が直ぐに操船免許が取れる訳ないだろ?こすってギリギリさ!君が独り立ちしてから取らせればいい・・・とりあえず、そこのジェネレーターユニットが壊れてる船に横づけだ、ゆっくり、慎重にだ、大丈夫、ルーガさんが外から見ててくれる、これ以上この船に傷を付けないでくれ」

 「頑張ります!」

 マイラの肩を叩いて接岸の様子を見守る。スペースデプリすら避けられない兄とは違い、とても素質がある。その兄は砲撃コンソールでふてくされているが、マイラの操船は非常に丁寧、ルーガの指示通りに操船をこなす、しかも操船免許を取得した後、特に王国民が非常に苦戦しがちな中型船をさらっと教えた程度でそれなりに飛ばせてしまう。これは素質がある。

 ・・・王国民がなぜ苦戦するかって?検定中にスペースデプリにこすっても操船免許を取得出来るからだ。

 「よし、そこでストップ!完璧だ!今すぐ検定受けても余裕で受かるぞ?・・・実技はな?」

 「法規も勉強します!」

 外からルーガに褒められ、マイラは目を輝かせる、その間に外へ出る準備だ。

 「ひとまずケーブル繋げるぞ?手伝ってくれ」

 ルーガも人手を要求してくる、そうだろうと思ったのでリーサに向き合う、彼女も察したようだ。

 リーサは航行コンソールから立ち上がって操船コンソールまで歩いてくる。

 「リーサ、船を任せる。アズニー、来い」

 「了解」

 「分かったわ・・・さて、マイラちゃん、これからは法規の勉強よ?帝国式だから甘くは無いわ?覚悟しなさい」

 「お・・・お願いします」

 マイラの顔が青ざめる。だが帝国の軍用ライセンスベースなら王国の操船ライセンスなど寝てても取れるような物。オーエンスに乗っかっていた半世紀くらい前の法規の教科書をマイラに渡して艦橋を後にする。E-900Mの宇宙服よりかは新しい宇宙服がオーエンスには搭載されている・・・ヤニ臭さは少し気になる所だが、いずれ新品が欲しい所である。

 エアロックから宇宙へ出る。星系警察のやり口はエンジン破壊かジェネレーターの破壊の2択、貨物船は海賊がボコボコ穴を開けてしまうので使い物にならないが、海賊船なら移乗攻撃マニュアルが星系警察に存在するので割とピンポイントのダメージで済んでいる物も多い。

 ジャンプケーブルを繋いで内部に入れば血だらけ死体だらけ・・・与圧も死んでいる。

 「ひっ!」

 アズニーは悲鳴を上げた。

 「悪いな、こりゃハズレだ」

 「まーバラせば金になる程度ってか?どーする?」

 正直、ブラッドルビー号で見慣れた、だがその現場に居なかったのにも関わらず意外と冷静なルーガ・・・明らかにこの手の船も触った事があるような顔をしていた。

 「メインエンジンは生きている、オートで無理に飛ばすか?」

 「直しても良いが、もっと程度の良い物を探すべきだ・・・出来れば部品取りにしたい所だな・・・掃除が大変過ぎる、取る物取ってさっさと重機の餌にしたいくらいだ」

 「ニコイチで飛ばすか」

 「じゃあ、ジェネレーターが生きている奴だな、アレなんかどうだ?」

 「この際なんでもいい」

 「決まりだな、じゃあ、コイツをオーエンスと同期させる、流石に並走は資格持ちじゃねぇと無理だぜ?戻ってろ」

 「任せた」

 「俺も残る」

 「良いぜ、アズニー、レーダーで距離を見てろ、ズレてきたら俺が調整かける」

 「了解」

 ルーガとアズニーを置いてオーエンスに戻る、艦橋に戻ればこの短時間で直ぐに精気を吸いつくされたマイラが居た。

 「・・・田舎者は軟弱ね」

 「・・・そうだろうか?」

 操船コンソールを代わるとDER-456 マキシム号と連絡を取る。無線がざらついている、重症そうだ。

 「ルーガさん、動かす」

 「了解、いつでもいいぜ?」

 オーエンスとマキシムが同時に動き出す、だがマキシムの方が性能が悪い、ばらつきがあるのも海賊船の醍醐味だ。ほどなくしてエンジンがやられた海賊船にたどり着く、2隻の真下に停めるとアズニーがジャンプケーブルを外しにかかっていた。

 「おいアズニー!こっち側はずしてどうする!オーエンス側外せ!」

 「なんで駄目なんだ?」

 「なんでって・・・おまっ・・・この船とあの船を繋げるからだよ!」

 無線でそういうやり取りが聞こえてくる。

 「アズニー君、ちょっと頭が弱いのね」

 「・・・ごめんなさい」

 リーサのぼやきにマイラが小声で謝った。それはさておき、また外だ。MTZ-789 ヴァルカン号、中はキレイな印象、エンジンをやられて降伏したのだろう。

 「今度はアタリだな」

 「ああ、これで心置きなくマキシムをバラしてスクラップに出来るってもんだぜ?2隻で牽引する」

 「アンカーを繋げる」

 中を確認した後オーエンスとマキシムからアンカーを垂らしてヴァルカンを引っ張る姿勢に、マキシムにルーガが残り、3隻は真っ先にルーガの修理工場を目指した、やはり星系警察が来ない。

 「それじゃ、ヴァルカン号の方を直すぜ?」

 「マキシムから出たスクラップは好きにしてくれ・・・それとマキシムの元持ち主は袋詰めしておいてくれると助かる・・・後で元の場所に戻しておくんだ、積んだままスクラップには出せない、そうだろう?」

 「・・・了解、そうだよ!1体でもあれば事件だ!・・・それと商船登録はどうする?マキシムのスクラップ売却から出して良いか?」

 「そうだな・・・ひとまず俺の名前で登録して後で名義変更だな?」

 「了解、だが良いのか?商売敵が増えるだけだぞ?お前の下で飛ばせばお前の収入も倍になる、俺らにも金が入る、ヴァルカンの整備もオーエンス向けの部品を融通出来る、独り立ちさせるメリットはあまりない」

 「マイラ次第だな、いずれは彼女の船になる、それに、そうなればルーガさんのお望み通り他の業者の仕事も請け負う事になる・・・まあどっちだろうと見る船の総数は変わらないけれどな?」

 「・・・後で聞いといてくれ」

 「分かった」

 ルーガを置いて直ぐにオーエンスまで走る、早々に工場からドッキングを解除した。保管庫で眠ってしまう貨物が優先だが、期間が長いとそれだけ単価も下がる、ただでさえ身の入りの少ない荷物が最優先で積まされる、遅配が発生すれば赤字だ。

 それから一週間、エンジン交換ともなれば流石に複雑、ルーガの要望で状態関係なく海賊船を帰りに引っ張って来る。ルーガの整備工場の周りには海賊船スクラップの山が出来始めていた。整備工場とは言っても基本的にはドローンが大半の作業をこなす、内装の作業は当然人の手だが、従業員は全て解雇してしまっている。最初は船が欲しかったアズニーもルーガのしもべとなり整備士見習いへと姿を変えていた。そして今日はマイラが居ない。

 「受かってると良いわね」

 「余裕でしょ」

 ロックベルト星系からの帰り、今日はエルーラ社製の中型輸送船、G-8000Cの残骸を引っ張っている、これはルーガの整備工場の部品在庫の為である。一週間で整備士が50人戻ってきてくれたので海賊船はヴァルカンの他にWER-675 ホーネットが運用可能となっている。もっぱら残骸牽引船扱いで固定の船長は居ない、それに商船登録をしていないので航行にはいちいち星系管制局に届け出をしなくてはいけない。工場の収入の大半はスクラップ売却、従業員が増えれば解体も細かく出来るようになる。スクラップ売却の売上はどんどん落ちていっていた。

 だから使い物にならない残骸を引っ張って来る必要がある・・・そうしたはずなのだが1隻、大当たりを引いてしまった。外装修理さえすれば使えるG-8000Cを適当に引っ張ってきてしまったのだ。なのでその修理部品を今牽引している。

 ルーガの整備工場の脇にいつものごとく残骸を放置して本業の納品、そしてマイラを出迎える。

 「どうだった?」

 「バッチリです!試験のお金、出していただきありがとうございます!」

 「投資だよ投資、これでヴァルカン号は君の物だが、どうする?自立するか?」

 「その・・・ファルマンさんの下で働かせてください!お兄ちゃん・・・なんかもう整備士になるみたいだし・・・」

 「船が欲しいと言っていたのはアズニーだからな?かわりに船貰っても困るだろ?」

 「そうなんです!私、船乗りを目指したい訳じゃ無かったのに・・・試験のお金、出してもらっておいてなんですが・・・」

「借金を返さなきゃいけない、そうだろ?」

「その為に頑張ります!お仕事の仕方も分からないし・・・」

「分かった、しばらくはオーエンスに随伴してくれ。航法システムを同期させれば一人でどうにかなるだろう?」

「よろしくお願いします!」

マイラは頭を下げてきた、ひとまず肩を叩いてオーエンスに乗せる。ルーガの整備工場に戻ればルーガと従業員が待ち構えていた。

「マイラちゃん、改めておめでとう」

「ルーガさんありがとうございます」

マイラはまわりに向かってぺこぺこ頭を下げる。ルーガの工場も温厚な人が多い、そんな整備士達の間を縫うようにしてアズニーがマイラの前に来た。

「借金は俺がここで働いて返す。借金の事は俺に任せろ」

アズニーは兄らしくそう言う。しかし将来的に稼ぎとしてはマイラの方が上となるだろう・・・彼なりに兄貴らしい事を言いたかったようだが・・・。

「お兄ちゃんがあの船欲しいって言ったのに?」

マイラは首をかしげる。ようやく船の所有権も獲得出来ると言うのにそれを計画した本人は整備士になると言うのだ、そりゃ首をかしげるだろう。

「・・・こっちの方が楽しいんだ」

アズニーは持っていたスパナを眺めてそう言った。

「もう!わがままなんだから!いっつもそう!」

マイラはぷんぷん怒る、怒って当然、ルーガはその仲介にやって来た。

「わりいな、マイラちゃん、お前の兄貴は俺の弟子だ。ここは普段見れない特殊な船が多いからな?その代わり普通の船が無いんだが・・・事務所にケーキ用意してあるぜ?食ってけ」

  「ありがとうございます!」

 マイラはケーキと聞いて事務所に走っていく。その様子を二人で見送る。

 「知ってたのか?」

 「あぁ?ステージアコロニーの電波は余裕でここまで届くぜ?お前らが外回りしている間に直接連絡が来たぞ?ま、受からない方がおかしかったけどな?」

 「そうだよな」

 言われてみればそう、ギャラクシーネットワークを使わなくともステージアコロニーの通信領域に十分入っている立地、ステージアコロニーからそんなに遠くない立地をしている。

 「・・・で、話がある、3人で2隻は無謀だよな?俺も従業員募集のついでに船乗りも募集した、勿論来たぞ?だが全員操船免許無しだ」

 「育成しろって?」

 いつから募集していた?しかし人材なら居ない訳では無い、特に雇用率も低い現状はなおさら追い風にもなっている・・・物流は短期間に稼げると言われる業種だからだ。問題は募集する会社がほとんど無いと言う所なのである。だから物流が細い。

 「・・・そうだ、頼めるか?船なら余ってる、なにせ中型乗りは希少だからな?サリマン運輸が根こそぎ連れて行った、他も釣られて逃げてった、今じゃ専門外の大手、そして小型でチマチマ運んでる野心家しか居ない、そういう奴らは企業の傘下に入ろうとしねぇ」

 「・・・まさに、俺だな」

 「ここを独占してたサリマン運輸が元々大企業に努めたい船乗り雇用を独占してたのは知っているよな?学生上がりは多いぞ?」

 「分かった、やるよ」

 「じゃ、明日事務所に来てくれ、雇用自体はしてあるんだ」

 「話が先に進み過ぎだ!」

 「練習がてら、ホーネットとヴァルカンでサルベージ実習させてたんだ、その中でも腕が良い奴、航法士も良いのが2人居る。ヴァルカンなんかもう船員付き、明日からマイラちゃん一人でヴァルカン操る準備が出来てる。ホーネット組はG-8000Cの船員にするつもり。うちの従業員達は全員操船免許持ちで顧客に整備上がりの船を納品する事も出来るんだ、ホーネットの操縦士はお前と実技さえすればもう楽勝だろ?お前が試験に投げる間に俺達は次を育成する、完璧だろ?」

 「増える船に対して理に叶ってるが・・・」

 「どのみち走らせないと税金で大赤字だ。文句は言ってられないぜ?」

 「やるよ!やりゃいいんだろ?」

 「んじゃ、頼むぜ、サリマン運輸を目指してた奴らで定員オーバーしてるんだ。幸い、他の弱小はうちみたいに世話になっている整備工場くらいはあるはずだが、整備工場そのものを抱えていない、よってゴミから船を作れない、つまりホイホイ人も増やせないんだ。ビックになるチャンスだぞ?」

 ルーガはそう言い残して事務所への通路を歩いて行った。

 翌朝、まずはルーガの整備工場を訪れる、G-8000Cが整備ドックに入っていた。ホーネットの隣に新たな海賊船が置いてある。VPA-897 ランスロット、ベースはエルーラ社製のPC-500型巡視船、それにベルドナカンパニー製のジャガー級のカーゴを取り付けたような船、海賊船にも色々な継ぎ接ぎパターンがある、多いのはG-4000ベースなのだがPC-500ベースも少なからず多い傾向、輸送船とは異なる機動性、そしてベース自体に備え付けの武装がある点である。ちなみにジャガー級のカーゴはどの種族の中型輸送船の中でもトップクラスの容量、機能性、入手のしやすさを誇る、その為どの海賊船にも必ずと言っていい程使われる傾向があるようだ。ちなみに星系警察の巡視船、現行型はPC-700かPC-800なので、PC-500その物は型落ちもいい所である。

 「本当にあの人増やしすぎ」

 「君が拾ったんだろ?」

 「そうだけど!」

 リーサは航行コンソールでコーヒーを飲みながら日に日に増える海賊船を眺める。オーエンスは自動応答で桟橋にドッキング、通路を通って事務所へ、一人の青年がルーガと共に待っていた。

 「エディー君、今日から本試験に向けて実務訓練をしてくれるファルマン・ネドリー君とリーサ・ファルマイン君だ」

 「エディー・リリックです、よろしくお願いします」

 「ファルマンだ、よろしく、リーサと共にオーエンスに向かってくれ、俺はルーガに話がある」

エディーと握手する、とても優秀そう。それもそのはず、ステージアコロニーで一番良い大学を卒業している。エディーとリーサをオーエンスに向かわせるとルーガの渡してきた端末を眺める。

 「何人・・・採用した?」

 「50人だ」

 「まだそこまでの稼ぎ出していないぞ?」

 「心配するな、うちの工場からも少しは出す。実質うちも今お前の子会社みたいなもんだ・・・ま、2隻の売上でギリ黒字と見ている、うちらの船、容量こそ少ないが小型機並みの往復速度を誇るからな?G-8000が就航すれば余裕は出るとは思うが、その分リスクも出てくる」

 「リスク?」

 「海賊だよ、うちは現状海賊船で操業してるから海賊に狙われない、襲っても返り討ちにされるからだ。ところが普通の中型輸送船は経済性重視で武装が少な目、そもそも付いていないのがほとんどだ。商船とはいえどもうちらの船はPMCの巡視船扱い、海賊船は皆そうさ、そうでないと武装が認められない、貧弱でも武装を付けたら巡視船扱い、税金もその分割り増し、稼ぎが悪い、だから皆付けない、そして襲われる」

 「忘れてた」

 そう言えばオーエンスも民間巡視船登録である。元々付いている武装は巡視船登録の範囲ギリギリとかなり強力な物が搭載されているので海賊もそこを狙った船作りをしたのだろう。おかげで税金割り増しなのである。

 「海賊の墓場はうちの工場から訓練生派遣して守らせる事が出来るが、それ以外の星系では無防備な事も忘れるなよ?せいぜい俺が出来る事と言えば装甲を被せる事くらいだ、今それを作ってる所だ」

 「リスクについては分かった・・・で、今後は人事に関してどういう計画を経てている?」

 「練習艦はPC-500ベースの海賊船にするつもりだ。ホーネットを押し出しで貨物船投入する。中型輸送船の再生には務めるが、アタリが中々見つからない。大型でも引っ張ってこようか悩んでる、良いのが1隻あるんだ、だが牽引自体も6隻は無いとしんどいだろう、それまでは海賊船再生だな」

 「ペースが早すぎる」

 「言ったろ?うちはゴミから船を増やしてるって・・・元がタダなんだ、普通は中型船を増やすのに1億クレジットくらい平気で飛ぶ、新品なら2~3億は当たり前だ、今から計画経てて育成していかないと船員不足で詰む・・・まあ、工場の裏でスクラップ扱いで保管する手もあるにはあるんだが、盗む奴もそれそうに居る・・・出来るだけ走らせろ、ビックになるんだろ?」

 「育成は任せた、俺は金を出来るだけ稼ぐ、港もパンクしてるからな?」

 「一隻増えるだけでも港の奴らは喜ぶぜ?今日もしっかり稼いで来い!」

 「分かったよ、今日は何が欲しい?」

 「今日もG-8000辺りかな、中型輸送船なら何でもいい、何発かでも良いからエンジンが無事な奴を頼む」

 「それも拾ってくる」

 事務所を後にしてオーエンスへ急ぐが、急いだ所でもう諦めた方が良いペースで貨物がどんどん溜まる一方、薬の値段もガンガン上がっているニュースばかりだ。ヴァルカンとオーエンスの船外にもMコンテナを括りつけようとまでしてくる、これ以上積めば本当に港からも出られなくなる。

 「頼むからこれ以上はやめてくれ!」

 船外コンテナは小型機用のドッキングベイまでで許して貰う、E-900Mも船外のドッキングベイじゃない所へ固定、これ以上積めばロックベルト星系でしょっ引かれる!

オーエンスとヴァルカンはなんとか港から出てロックベルト星系を目指した。

ー銀河の常識ー

シーモア共和国

居住可能惑星:ヴァルチャー

領有星系:ロックベルト星系(フェスタ星系、ハロルド星系他5星系)計8星系

爬虫類属国家の一つ、シーモア共和国はさらに別爬虫類属国家2つと隣接している。居住惑星はヴァルチャーのみ、残りは各星系に居住コロニーを多く保有している。

ロックベルト星系は交易ハブとして船の往来が非常に多い星系で、人間族方面と昆虫族と獣人族連合方面、巨人族その他へ行く貨物の載せ替え地点として栄えている。

主なコロニー

オデム=ササラ国営ステーション

居住コロニーなど多数

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