始まりの空
始まりの空、誰しも最初は小さな船と少ないクレジットから始まる。
ー惑星リズ建国記念博物館の収蔵品説明ー
・エルーラ E-900 S/M
フルジア王国軍で運用されていたエルーラ社製の小型戦術偵察機。後継のE-1000シリーズ転換に伴い、民間に払い下げられた。最大定員3名。(改造内容により異なる)
S型は高速性に長けたレジャー機、M型はカーゴスペースを拡張した民間貨物事業者向け改造を施した物。いずれも武装や偵察装備は全て外されている。
フルジア王国の中古船市場ではシャトルなどの公共交通を使わずして宇宙に乗り出すにはもっとも手頃なボロ船、型式が古い程船体耐久性は保証できない。操船免許が必要な船の最小クラスに該当する。
最新型はE-1200シリーズ。E-1000Mも同様にE-1100シリーズ機首転換に伴う払い下げ機種である。
ファルマンが所有する機体はE-900MのFZR-805
「ステージアコロニーB3ドック管制よりB3-C-L137へのドッキング許可が承諾されました」
自動音声に従い、青白く光るタッチパネルを操作する。目の前には巨大な構造物、マスビダ星系フルジア王国の首都惑星、ランザールの衛星を周回するコロニーの一つ、ステージアだ。
「B3ドックからのローカライザーを取得、オートパイロットを起動してください」
操縦スティックから手を放し、入港をオートパイロットに委ねた、その瞬間にシートに押し付けられる。旧式機なのでロープで引っ張られたような挙動を見せつつ、ステーション入口のオゾンシールド区画を抜けていく、その先に広がるのは小型機用の駐機エリア、その手前で一旦着陸、ドーリー型のドローンが接続され、借りている所定の駐機場所まで運ばれる・・・その時いつも安心感に包まれるのだ、仕事からの解放、機体トラブルや事故無く帰って来られた安心感、その理由は色々であるので具体的に何とまでは断言できない。
・・・今日の仕事はここまでだ。
下船準備を始める。駐機場所でアンカー固定されれば機体の電源をシャットダウンする。本来ならばそんな事せずとも港湾の電源に自動接続される為、自動的に待機モードになるのだが、外部電源を認識しない為、修理するお金を稼ぐまではバッテリー上がりを防ぐ為にもこうする他無い。
ゆっくりコックピットシートから立ち上がり、荷物を持ち、機外へ出る為のエアロックを開ける。一度内側に引き込み横にスライドしていくタイプで、一番薄い所でも厚さ40cmもあるドアだ、流石に自動、手動は見た事が無い。
ステージアコロニーの駐機エリアに降り立って深呼吸、何かと鉄とオイル臭い空気、港湾なんて何処も似たような空気である。
タラップを格納して機体のカーゴベイを目指す。周りの機体に比べても輸送業者らしく塵や小傷が目立つ、年に数回しか動かない隣のレジャー機とはまた違った汚れ方をしているみずぼらしいこの機体、エルーラ社製の戦術偵察機、E-900Mと言う。戦術偵察機と言うくらいなのだから勿論元軍用機、民間に払い下げられたモデルである。多くの民間貨物業者は星間貨物を運ぶ為、偵察装置を外して貨物室化、そして機体を延長、カーゴスペースをさらに拡張する改造を施して運用している・・・このE-900Mはそれのさらにお古だ。金属スクラップとほぼ同程度の代物、この機体を購入して一月経つが修理費もかさむので利益があまり出ない。
貨物室からロックベルト星系のシーモア共和国から持ってきた医療品を降ろしていく。S貨物コンテナ3つ分が入るこのカーゴスペース、最大積載量は20トンなのでコロニー内を走る大型トラックの荷室と大体同程度、小型機と言えども全長は20mを越える、勿論無重力では無い限りは人力で荷下ろしは無理なので、荷下ろしもドローンの役目、昇降式の平たいドーリーが荷室後部に待機していた。貨物ドアを開けると貨物フロアに合わせてテーブルが上がって来る仕組み・・・だが、この貨物ドアも壊れている、どうせ壊れているんだろ?とでも思った事だろう。大当たりだ。
この貨物ドアは半手動・・・本来は密閉ロックを解除した後、扉が自動的に上にスイングしていくのだがモーターが片側壊れていて持ち上がらない。手動で持ち上げる他無いのだ・・・これがどれだけ重い事か・・・。
「もうちょっと待てこら」
早くしろと荷物ドローンが膝の裏をつついてきたので足で後ろへ蹴り戻す・・・蹴り戻した所でコイツ自体は0,5トンあるので人間一人の片足程度ではほとんどびくともしない。ちなみにそこまで高級なドローンでも無いので床を認識したら直ぐ動き出す、勿論本来はごく当たり前の動作、本来この間に人間が入り込むプロセスが発生しないからだ。そもそも中古機を買った自分が悪い。
・・・だがもう少し、あと一年くらいの辛抱だ。
自分には大きな夢がある、大きな星間貨物輸送会社を設立する事だ。大企業のように大きなロジスティックコロニーを持ち、巨大な貨物船を一万隻以上保有する、この機体はその夢の第一歩目、どの物流会社も最初は何処もここから始めている。
・・・なぜ物流会社を作りたいか、薬不足で親を失ったからだ。
特に銀河の田舎であるマスビダ星系は物流が細い。薬に困る事もよくある事で、ガンの治療薬なんか10錠で高級車1台ほどの値段がする。それを製造するシーモア共和国の薬は非常に性能が高く、人間種族が抱える難病を幾度となく解消してきた。自国で生産しようにも環境の不適合で原料の生産が困難なので輸入に頼る他無い。元々は大量生産もされている安価な薬だが、供給不足でここまで高騰してしまっている。
そんな物流障害を抱えるフルジア王国、元はビーア星系のオヴェルツィッヒ帝国の開拓惑星で、元はと言うからにはそこから独立した国家である。だが国としての国力は貧弱極まりない・・・ゆえに物流が細く、大手物流企業が育ち切っていないフルジア王国がシーモア共和国の流通を少しでも広げるのは至難の技、シーモア共和国も運んでさえくれるならいくらでも薬品を融通してくれる温厚な国家だが運び手が居ない・・・ここからが一番の大問題、ある程度大きくなってしまえば赤字に転落する為、稼ぎを求めてより大きな流通ルートへ出て行ってしまう、これがフルジア王国が慢性的に抱える問題である。
・・・だがそれ以前に、やはりこの機体を買った事が間違えだったかもしれない。
全てにおいて無難、それに尽きるこのE-900M、エルーラ社最新型のE-1200シリーズも他の国家の偵察機に比べれば無難中の無難、何かに偏っている訳でもないし、何か飛びぬけて良い所も無い、リセールも比較的安価、その中の底値に近かった機体なので、お値段相応の故障が非常に多いのが現状、新参者がまず手にするにはサイズや値段、性能全てにおいて一番オードソックスな機体である。理由は勿論、無難だからであり、この無難さが操船免許取り立ての新参者には一番扱いやすいのだ。
E-900Mが何故扱いやすいのか、まず小型機クラスであると言う事、一般的に宇宙空間から大気圏内までの飛行を想定しており、高い機動性を有している。このクラスは一般的には大気圏突入やステーション間の近距離少量貨物輸送や定員20人以上のステーションシャトルなどの近距離旅客輸送に良く使われるクラス、細かく言えば操船免許を必要とする機種と自動車免許で済む機種が存在するが、初心者でも扱いやすいサイズ感である事である。つまり駆け出しでも扱いやすい、それはどの種族の国でも大体共通しているのだが、E-900Mベースが他の小型機と優れている点こそが、長距離航行を前提とした設計をしている事にある。それは本来不向きな・・・と言うより設計段階から既に想定すらされていない星間貨物輸送をも可能としており、他国の小型輸送機と比較してもより幅広く使えるのが何よりの魅力、勿論機体サイズが小型クラスなので価格帯も宇宙船としては安価な部類とお買い求め易さもある・・・とは言えども、E-900Mも1世紀前の機体、1世紀前の技術レベルはほとんど現在に通用しない、そして特別優れた所が無いのも、やはりメーカーその物の技術力の低さに起因する。人間族で良い船なら堅牢な帝国製の船を選ぶべきであるが、そんな物はいくら程度の悪い底値でもエルーラ製に比べたら遥かに高級機なので田舎の市場に流れても来ない・・・そもそもそんな高級機を乗り回す田舎者は居ない、おまけに帝国機は領外でしか見た事が無い。
ドローンに納品会社の倉庫を指定して後は終わり、荷室にある室内清掃用のプラスチック製のほうきを上手い事ヒンジにひっかけて半手動の貨物ドアを閉めて隣のE-1100Sを見る。これはお金持ちのレジャー機、M型に比べれば機体の大幅な構造改造は無いはずである、偵察装備を降ろして空きスペースを居住スペースとした物、若干速度と機動力を上げる改造を施して民間に払い下げられた物なので動いている事など稀だが程度は雲泥の差だ。
・・・もう少しお金を貯めてE-1000Mにすればよかった。
ドアをロックして機体を後にする、携帯端末を取り出して今日の収入を確認する。
生活必需品はあまり金にはならない・・・。
・・・薬は高い、だが、価格規制もあり輸送費がかなり削られてしまう上に、フルジア王国路線の貨物は基本滞納貨物、保管料もさらに輸送費から引かれてしまっているのだ。
港湾のコンテナハウスに等しいようなアパート地区を目指す。そこに自宅がある。船乗りならば船が家と言い張るべきではあるが、E-900Mも偵察機とはいえ、居住に適する船とは言えない・・・言えないのだが、この部屋も独房のような狭さ、正直どちらも変わらないが、水の使用に制限無いアパートの方が軍配は上だ、小型機ユーザーにとっては住む価値が十分にある物件で、中型輸送船を持って初めてここから出られると言う物である・・・しかし、完全に引き払う事が出来ない、あくまでもフルジア王国国民として必要な住所の登録地に過ぎず、このような極小アパートでも零細企業の事務所になっている事も多い、勿論ここもそう、自分の会社の登録住所にしている。
棚からカップラーメンを取り出し、お湯を沸かしている間にシャワー、電気ケトルなら数十秒だが、お湯自体数秒で冷める代物でもないのでシャワーから出た後にそれをカップラーメンに注ぎベッドに座ってそれを食べる。ソファー?食卓?そんな物を置くスペースなんてそもそも無い、備え付けのベッドの横に座卓でもう後は通路しか無い部屋である、せめてロフトベッドならベッドの下のスペースが使えるのだが、残念ながら隣の部屋の住人と共用スペース、ベッドの上は張り出しがある、ここが隣の住人のベッドである、隣は二階建てベッドの2階のみが部屋に面している構造だ。
カップラーメンを食べた後はベッドに横になる・・・明日も仕事なのである。
「今日も気合い入れてくか」
別に起きても窓の外は変わらない景色、いつも若干薄暗く、そして時間経過で照度変化が無い、居住区に行けば別だが、24時間営業の港湾地区に照度変化システムなんて必要無い、明るくて眠れない人は遮光窓で部屋を暗くする事をおススメする。ちなみに住居であれば故障を除いて装備していない建物は完全に存在しないと言う当たり前の設備なので安心して欲しい。
翌日もシーモア共和国行きの郵便物や工業製品を満載にしてE-900Mの電源を入れた。シーモア共和国はジャンプゲートを5つ経由した先だ、小型機は足が速いので2日とちょっとあれば往復可能だが中型輸送船などでは4日もかかるルート、大型船なら一週間の長旅となる。
・お知らせ
前書きは艦船説明、後書きは種族(国家)説明とします。括弧内の説明は本編には登場しない要素となります。
ー銀河の常識ー
・フルジア王国
居住可能惑星:ランザール
領有星系:マスビダ星系、リストーン星系、オロラ星系、(シェルカ星系)計4星系
元オヴィルツィッヒ帝国の開拓星系、マスビダ星系惑星ランザールを首都惑星とする田舎国家、ただでさえ物流が細いのに大手のサリマン運輸が星系を離れ、物流機能が全滅した事で物流が滞り、倒産する企業も増え、社会福祉の税金も上がり、これまでにない経済低下をする。人間族の国家。
主なコロニー
ステージアコロニー
ラザーニャコロニー
(アヴェックコロニー)
(クシェルコロニー)
(スペルカコロニー)
(アリソンコロニー)




