第20話 合同練習【6月】
「亘先生、双葉高校の阿部です。早速、合同練習の件ですが…」
「はい。その日程でいきましょう。よろしくお願いします」
阿部さんから電話があったのは、春祭りの翌週だった。
あの場では二つ返事で承諾したものの、俺は本当に実施するべきか考えていた。
俺はまだ指導者として未熟だし、少し調べたら双葉高校の部員数は全員で約100名。
そんな大所帯を目の前にしたら、うちの部員たちは圧倒されて練習どころじゃなくなりそうな気もする。
「双葉高校と合同練習するって本当ですか!?」
「え、それどこで…?」
「春祭りで先生が話してるの、盗み聞きしちゃって!」
心配したのが間違いだった。もう既に情報は部員たちに広まっていた。
そして驚く、というよりもみんなワクワクしているように見えた。
目を輝かせていつもより盛り上がる部室。
彼女たちより俺がビビっていたのかもしれない。
「聞かれてたのか…まぁいずれ話す予定だったからいいか」
「で、いつなんですか??」
「早く合同練習したいです!」
「双葉高校の周りって結構都会だよね〜」
みんな思い思いに話すから、質問に答えそびれた。
それに、合同練習ならではの『全体合奏』をやるからその譜面も渡さないと。
「ちょっといいか、一旦落ち着いて聞いてくれ」
「はい!」
「合同練習は1ヶ月後の土日だ。そこで両校合わせて『全体合奏』をやる。前もって阿部さんと譜面を決めたから、今日以降はその練習をしてほしい」
「『全体合奏』って普通の合奏と何が違うんですか?」
「両校がひとつのチームになって合奏する感じかな。学校関係なくパートごとに分かれて練習したりもする」
「1曲に乗る(演奏する)人数はどうするんですか?」
「多分オーディションだな。だから、しっかり練習して行くぞ」
「はい!!」
部員数が多いとパートごとに演奏できるメンバーを選抜することは当たり前。
うちの部ではまず考えられないシチュエーションだから、ここは気合い入れてやらないとやばい。
今回は俺が参加できるわけでもない。
だから双葉高校に行く前に、全員の実力の底上げをしなければいけない。
さて、どうするかな。
パーカッションは俺が見るとして、他のパートは…音大時代のツテを使ってみるか。




