第18話 川澄春祭り【5月】
いよいよ本番当日。
俺は顧問として、部員たちは今年度初の外部ステージ。
連休中ということもあり、客入りは予想を超えてきた。
失礼だがこんなに集まるものなんだな…帰省中の人たちもいるのかもしれない。
人の心に残る演奏を、とよく3年生たちは言っていた。
たしかに、素人には吹奏楽の技術なんて伝わらない。
だからこそ演奏する人の想いがこもっていれば、少人数だろうが関係ない。
まずはこの吹奏楽部が新たなスタートを切ったということを、周りに知ってほしい。
今日がその日になることを俺は信じている。
「続きまして、県立川澄高校 吹奏楽部の皆さんによる演奏です!どうぞ!」
「え、人数あれだけ…?」
「昔はたしか強かったよね。今はもうダメなんだね」
俺たちが紹介されて出てきた後、ヒソヒソと話す声が聞こえる。
まぁだいたいの人はそう言うだろうな。
それが逆に俺たちにとっては好都合。
今に見てろよ。
「川澄高校 吹奏楽部顧問の亘と申します。本日はお越しくださりありがとうございます。ぜひ最後までお付き合いください」
俺は観客に一礼して部員のほうを振り向き、指揮棒を振り上げた。
俺の呼吸とともに曲が始まる。
初めての合奏練習より遥かに良くなっている。
指揮をするのが心地良い、素直で熱意のある演奏。
今は技術ではなく心で演奏をリードしていく。
新歓のときと同じように、自然と手拍子が沸き起こった。
そして1曲目の終盤、盛り上がるところで吉川がフィル(アドリブ演奏)を入れた。
そんなの教えてない、確実に感覚で入れたフィルだ。
吉川のフィルに気を取られているうちに、1曲目が終わってしまった。
いや、大きな拍手をされているし、結果オーライだが。
余韻に浸っている暇はない。
次は俺が叩く番だ。準備をしないと。
部員2名ずつと俺のドラムでのセッション。
最初、楽器の配置を見て観客は何が始まるのかとキョロキョロしていた。
ドラムスティックの4カウントからセッションが始まると、会場がどよめいた。
「あの先生、めっちゃドラム上手くない!?」
「あの人、元プロなのかな?」
そんな会話が耳に入る。やっぱりそういう目で見られるのか。
俺が褒められるためにセッションしているわけじゃないから、複雑な気持ちになった。
どうしたら俺が目立たずにセッションできる?
ずっとそれを考えながら叩いていた。
そうだ、俺は自分の力を過信していたのかもしれない。
今までいつも自分が主役だと思って演奏してきた。
だからこの状況で部員を引き立たせるなんて、練習なしにできるわけがない。
でもそれを嘆いても仕方ない。
じゃあ俺が今できることは何だ?
そうか、フィルがあると目立つ。さっきの吉川みたいに。
もっとシンプルなビート打ちにしてみよう。




