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第17話 スタートライン【5月】

「おはよう。早速10時から合奏始めるから、準備よろしくな」

「はい!よろしくお願いします!」


教員の仕事は本当に忙しい。何かを深く考える余裕すらない。

でも『顧問』の俺は解放感と活気に満ち溢れていて、こんな自分は久しぶりだと思う。

あとは純粋に部員たちの成長をずっと見ていたい。

もっともっと音楽を好きになって、そして上手くなってたくさん楽しんでほしいと心から願う。

もうこれは、親心のようなものかもしれない。


「先生!準備終わりました!合奏よろしくお願いします」

「おう、じゃあ始めようか」


俺の指揮棒に合わせて、新歓でやったポップス曲のイントロが始まる。

驚いたな、全員とよく目が合う。ほとんど部員たちは譜面を見ていない。

この短期間で暗譜(譜面を暗記すること)しているということか。

1年生に至ってはまだ入部して1ヶ月も経っていないのに。


新しいパートが加わったことによる音の厚み、ハーモニー。

ひとりひとり丁寧に吹いて叩いているのが分かる。

やっぱり一番気にして聴いてしまうのはドラム。

でも、俺が心配することを忘れるくらいの安定感のある演奏だった。

そして吉川は楽しそうに叩いていた。


「はい、ストップ。8小節目からもう1回いくぞ」

「はい!!」


吉川がちゃんと譜面を理解しているかどうか、途中で止めて試してみた。

俺が4カウントを入れて、再度演奏スタート。

ほう、吉川はほぼ譜面通りに叩けている。

俺が教えた基本的な譜面の読み方だけで、これを叩けるのか。

俺の勘は間違ってなかった。


「ありがとうございました!」

「お疲れ。とりあえず、一旦聴かせてもらった感想は…みんないい調子って感じかな」

「わぁ〜!」


部員たちから安堵の声が漏れる。

そういえば、このメンバーでの合奏練習は初めてか。

俺も少し緊張していたけど、そりゃ聴かれる側のほうが緊張するよな。


「だが、分かりやすく言うと一体感が少し足りない。金管、木管はそれぞれ集まって合わせてみると、練習しやすいと思う。ドラムは俺が見る」

「はい!!」

「合奏は午後もう1回やる。それまでに調整してみてくれ」

「はい!ありがとうございました!」


今日は休日だから朝から夕方まで目いっぱい練習できる。

彼女たちならすぐ応えてくれると信じて、午後の合奏を楽しみにしておこう。

俺は吉川への指導を頑張らないとな。


「先生、ドラムどうでしたか?!」

「おぉ、いつも元気だな吉川は…」

「譜面頑張って覚えたんですけど、合ってましたか??」

「まぁほぼ合ってた。けどミスもあったから、そこを直していこう」


本番はもう今週末に迫っている。

でも現時点でこの完成度なら胸を張っていいと思う。

少数精鋭で真っ向勝負のポップスと、顧問参加のセッション。

普通の吹奏楽部にはない俺たちの『オリジナリティ』な吹奏楽を、まずはこの町から発信していきたい。

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