プロローグ
初投稿ではないですけど初投稿みたいな感じで。
鬱蒼とした森の中、樹に登る二つの人影――
その樹は少し変だった。樹上には膨らんだ土の塊が全体を覆っている。遠目で見ればつくしか、きのこ、もしくは蜂の巣のような形状だが、当然比較にはならない大きさである。
二人が登っているのは大木だ。それを半分ほど覆っているのだから、その謎の構造物は”大きい”というより巨大というべきであった。
「この樹って高さ何メートルくらいなんですかね?」
登りながらふと気になった少年は、自分の一つ上にいる人間にそう尋ねた。
「さぁ? でも最低でも100メートルはあるだろうね」
「……すげぇっすね」
「そうでもないさ。この森の中では普通のことだよ」
上から降ってきたのは女性の声だった。
彼女はシルヴィア。経験豊富なハンターである。
そしてここは広大な森林地帯。
思い出せば、確かに馬車で二日も揺られていたなぁ、などと思う少年。
「なんで僕たちそんなところに来てるんですか?」
更に素朴な疑問をぶつける。馬車から降りてまだ数時間ほどしか経ってないが、既に都会の人混みが恋しくなっていた。
「そりゃあ……」
呆れつつ、分かり切ったことを教えようとするシルヴィア。しかしその言いかけた言葉が突然止まる。
黒光りする謎の生き物が木の上から現れたからだ。
「こいつを倒す為さ」
シルヴィアは振り返りもせずにその生き物を見つめる
その生物は黒かった。そして見覚えのある姿をしていた。誰でも見たことのある昆虫だった。
それは六本の足で木の幹をがっちりとつかんでいる。翅はない。鋭い歯が口の両脇から飛び出ている。それから鹿の角のように見える触覚が頭部に一対、今もわさわさと動いていた。
――そう、それは“蟻”だった。
だがただの蟻ではない。
形状や行動はごく普通の蟻だがその大きさは異常である。驚くべきことに人間の大人ほどの大きさがあった。
巨木の上に作られていた茶色い土の塊は、そんな化け物染みた蟻たちの”蟻塚”であった。
『ギチギチギチギチ……』
大きな顎をカタカタと鳴らしながら素早く近づいてくる一匹の巨大な蟻。
既に呑気に仲良くおしゃべりしているような状況ではなくなっていた。
突如現れた侵入者を警戒しているのは明らかである。
いや、既にこの蟻は殺意を持って巨大な複眼で二人を睨みつけていた。
少年は冷や汗をかき、生唾を飲み込む。
巨大蟻のそれからの動きは実に素早かった。
対話もできず、また殺すことに躊躇いもないのが昆虫である。
迅速な動きで一気に距離を詰める。
接敵。
あわや噛みつかれる、というところでシルヴィアの右手が動いた。
――ビシュッ!
それは目にも止まらない早業。
左腰に佩いていた短めの剣を抜き打ち蟻に人たちを浴びせ頭部を一刀両断。
頭部を正面から上下に真っ二つに切り裂かれた蟻は樹の上にとどまるだけの力を失い落下する。
少年は落ちていく巨大蟻を首だけを動かしつつ視界に入れている。
それから一拍の間をおいて、ドスンという音が響く。
それは一匹の蟻の生命が失われた音だった。
「すげぇ……」
目の前で行われたシルヴィアの卓越したその早業に、少年は素直に感嘆の声を漏らす。
「そうでもないさ」
しかし、そんな称賛の声にもシルヴィアはたいして面白くもなさそうな平坦な声で応える。
『『『ギチギチギチギチ……』』』
「まだまだ倒さなくちゃいけないんだから」
蟻塚から夥しい数の蟻が飛び出してくる。
先ほどの蟻は偵察兵だったようだ。死ぬ間際に仲間に何らかの信号を送っていたらしい。
状況を把握したシルヴィアは少年に短く命令――
「降りるよ」
「は、はい……」
既にここは敵地。
彼女は樹上での戦闘では不利だと判断し、地上に降りることにした。
シルヴィアと少年は幹をつかんでいた手を離し、重力に身を任せる――
「ふっ」
「……うわっ!?」
落ちつつも、予め枝にかけてあったロープに体重をかけることによってスピードを調整する二人。
――ドスンッ。
二人が難なく地上に降りれば、先ほど倒した蟻の死体が出迎える。
巻きつけていたロープを腰から外すシルヴィア。
「君は自衛だけしていればいい。数を減らすのは任せて」
「……は、はい」
そんな会話を交わした後、二人に遅れて蟻が地上へと降り立ったのを目にする二人。
シルヴィアは既に鞘から抜いていた剣を油断なく構えていた。その姿には一切の気負いもない。
少年も同じように少し緊張しながら正面に構えた。緊張しつつ、怯えつつ、それでいて僅かに勇敢に。
こうして少年――ライアットの、ハンターとしての初めての戦いが幕を開けたのであった。
――GROWTH×HUNTER――
文章はこれから上手くなる予定なんで大目に見てください><