プロローグ それは、拷問のような動画から始まった
『ピンポーン』
「はーい。だーれ?」
「俺だよ、開けてくれ。」
「意外に早かったね。もっとかかるかと思っていた。」
「おまえ、俺で実験でもしたかったのか?」
「なんの事?」
「おまえのCD見たよ。」
「そう、どうだった?」
「なにが入っているか分からないし、『このCD見てくれない、あと、番号順にお願いね。』そう言って置いて行っただろう。」
「そうね、面白かった?」
「な訳ないだろう! 言われたから真面目にみていたら、30秒もしないうちに眠気がきて、(おそらく)2分で爆睡してた。」
「ハハハ、どうしてみんな眠くなるのでしょうかね。」
「他にも犠牲者がいたのか・・・」
「犠牲者ってなに、それって、ひどくない。・・まあいいわ、それで、今日までかかったという事は、見終わったのね。」
「あぁ、何とか見たぜ。とにかく酷い目にあった、この埋め合わせは高いからな。」
「ふふっ、そうねちゃんと考えてあげるわよ。」
「期待していいのか・・?」
「ふふふ・・」
「なんだよ。」
「本題に入りましょうか、内容はどうだった?」
「おまえ、あれで漫画とか小説とかだすのか?」
「?・・・あぁ・・そうね。・・いや、今は出さないわ。」
「じゃ、宗教でも始めるのか?」
「うーん、それに近いかも。」
「どれもやめておけ、ろくでもない事になりそうだ。」
「そう?どうして?」
「あれの中は、【神】について色々言っていただろう。あんな内容では売れないし、それに誰も信じないからさ。」
「あれってさ、全部真実だって言ったら信じる?」
「ハァ!?正気か?」
「うん、本気。」
「・・・・・」
「そんな目で見ないでよ。」
「で、あれで何をするんだ?」
「えーと、皆に見てもらう。」
「だれにだ?それに絶対無理だ、5分以内に全員爆睡すると、俺の全財産掛けてもいい。」
「そうなの?まあ、みんなそれに近い反応だから、そうだろうと思うけど・・でも何とかしたいの、だから見てもらったよ。」
「もしかして・・俺の仕事ともうすぐ定年って、関係あるのか?」
「ピンポーン!大正解。あれ、わたしが作ったんだけどね・・まあ、作っててみたけど結果はね。だから、お願い作り直して。」
「暇になるだろうから、俺に作れって?」
「うんうん、この前『総選挙が終わったら有給とって定年まで休暇だ』って言っていたわよね。」
「ああ、そのつもりだけど。」
「だったらいいじゃない、お願いよ。」
「まてまて、おまえ勘違いしていないか?俺はカメラマンだぞ。カメラなんて三脚でスマホを固定すれば終わりだろう。俺いらないだろう?」
「あら、見てもらうアーツとかあるでしょ。近寄ったり、色々切り替えたりとかね。」
「それは、ディレクターとか編集の仕事だろう。俺は、カメラ1台持って映すだけ。そんなに器用にできないよ。おまえ、俺の仕事知って言っているのか?」
「ええ、そうなの?・・だったらどうすればいい?」
「そんな事いわれてもな・・・・」
「まあ、なにが悪いかなら言えるぞ。」
「ありがとう、で?」
「おまえ。スマホを三脚で固定し、机を前に椅子に座って、ただしゃべりているだけだろう。後ろにホワイトボードがあっても使わないし、画面の端には、説明なしで変な天狗?の人形があったし。いつ説明するのかと気になるだろう。」
「ああ、あれね。あれ、気になるの?。取ればいい?」
「いや、そうじゃない。そもそも、ただダラダラと話してもだな、小学校の校長の話なんだよ、すぐに飽きて誰も聞かなくなる。」
「ぷっ。」
「あまえの事だ!」
「ひどい。・・でも、そうなのよね。・・ねえ、どうすればいい?」
「順に言うぞ。まず誰に見てもらうのだ?」
「えーと・・信者。 あっ、冗談だよ。ゴメン、わたしある団体に所属していてね。結構おおきな団体なんだけど それが【神】に関係あるんだ。人数が多いから、みんな【神】に対する解釈が少しずつ違ったりするわけ。それの統一、が目的かな?」
「なんで疑問形なんだよ。・・・だと、撮影場所は、前と同じでいいか。次に、説明が口頭だけだと伝わらない。後ろのホワイトボードを上手く使った方がいいな。」
「わかった、図解とか考えてみる。他には?」
「おまえ一人だと、ただ聞いているだけだから飽きてくるし、話の途中で理解出来ない事があっても 聞く事も出来ないだろう。」
「そうねぇ。」
「二人で対話形式でやってみたらどうだ?もう1人は、内容をまったく知らない人にして。気になる事や分からない事は、話の途中で中断して対話で説明する。どうだ、これなら常に変化があって飽きないだろう。」
「それいいかも。で、相手は?」
「えぇ、お前の団体大きいのだろう。誰か信者?を連れて来いよ。」
「ダメよ、内容の理解度はどうであっても、言っている事はみんな知っているのよ。」
「そうか、神に無知なやつか、いそうで普段の話題にも出ないから、心当たりなんてないぞ。・・・それに、対話の相手ならキャスターっぽい技能もいるじゃないか。」
「キャスター?」
「あぁ、おまえの話を聞きながら、聞いている人に対して、話を分かりやすく聞き返したり話の筋が理解しやすいように誘導する仕事だな。」
「へえ。それいいわね、連れて来てよ。」
「おぃおぃ、それも俺の仕事かい?」
「だって、わたしにそんな知り合いいないし。お願いします。」
「そう言われてな、俺の局、内職禁止だぜ。だから、局の知り合いからなら無理だって。」
「フゥーん。ちょっと待って。」
「この子、知ってる?」
「あ!この本。うちの社内報・・無くなったと探していたら・・あ、CD持って来た時だな。」
「そうだよ、あれ、借りるって言っていなかった?」
「聞いていないし、この号は『新入社員の個人情報も載ってる特集だから、取り扱いに注意しろ』って言われていたんだぞ。無くなったって知れたら、始末書ものだぞ。あって良かった・・。」
「ゴメン、ゴメン。知ってる子に似たのが居たからついね。」
「ゴメンで済むか・・ん?知っている子?」
「この子」
「これって・・『カメカ』だよな?」
「カメカ?」
「そう、俺は仕事上の接点がないから、脇で聞いているだけだがな。とにかくどんくさいの、それで『カメ』。あとの『カ』って何だっけ?それに人の顔と名前を覚えない。これが致命傷だな。あんだけ怒られている新人初めて見たわ。って、これと知り合いか?」
「うん。わたし、前に小学校の養護教諭していたでしょ。その時の児童で間違いないと思うわ。」
「へえ・・この子な。あまりにどんくさいので、もう辞めるんじゃないかって、局内で噂になっているぞ。」
「そうなの?じゃ、都合良いじゃない。で、どんな仕事しているの?」
「新人は、研修の後、各職場を実習体験するんだ。それが終わったら、希望の職場に移動するのだけど、今あいつはADやっているはず。」
「AD?」
「アシスタントディレクター、まあ、番組全般の雑用係ってところかな?主に手配とかやっているはずだぜ。」
「ADって、キャスターの仕事もやるの?」
「どうだろ?新人研修の時には、新人同士でやるはずだけど。ロケの時にADがやっていたかな?」
「全く知らないって事は、ないってことよね。」
「まぁ、そうだろうね。」
「だったら、連れてきてね。」
「オイオイ、まだ辞めるって聞いていないし、本人がどう考えているか聞いてもいないんだぜ。」
「こっちは、急いでいるのよ。・・これ見ておいて、あんたが撮影の会社を作るのよ。それに必要な会社組織とか報酬とか書いておいたから。よろしくね。」