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第9話 深紅の攻防

「ブモォォォォォ!」


 主は俺を無視してよりダメージの大きい攻撃をしてくる騎士を狙い出した。


「かなり危険だけど、やってみるか!」


 けどアレをやってもらう為には、主の注意を騎士から俺に引き付け直す必要がある。

 俺は主の攻撃を必死で避ける騎士を追いながら、ボスの真横に出る。


「馬鹿者! 危険だ!」


 無謀な行動に騎士が叫ぶが、俺はそれを無視し主の目玉を狙って矢を放つ。

 どうせ向こうはこっちを無視するつもりなんだ。回避なんて考えずにしっかり狙って射ってやるぜ!


「全部の矢をくれてやる!」

「ブモガァァァァァッ!!」


 無数に放った一発が目玉に当たり、たまらず悲鳴を上げる主。


「ブガァァァァ!!」


 痛みと怒りで主が転げまわり、周囲の木をなぎ倒して滅茶苦茶に暴れる。

 騎士の方も巻き込まれてはたまらないと距離を開けて近くの木に隠れる。


「おわぁぁぁぁ!」


『傷を与えたはしたが、あの位置では失明には至らんな。寧ろ怒らせただけだ』


 冷静な父上の指摘に、しかし俺はニヤリと頷く。


「それで良いんですよ」


『ほう?』


「ブモォ! ブモォ!」


 主は自分の目を傷つけた俺を探して周囲を見回している。


『それで、これからどうするんだ?』


 父上の問いに、俺は声を上げる。


「騎士の人! 主は貴方のマントの赤色に反応して襲い掛かってます! 本来の牛の習性です! だからマントを外して放り投げてください!」


「っ! 分かった!」


 主が暴れる音に紛れてガチャガチャという音がかすかに聞こえてくる。


「そらっ!」


そして騎士が丸めたマントを宙髙く放り投げた。


「ブモ?」


丸めたマントは空中で解けると、バサリと音を立てて広がり赤い色を見せつける。


「ブモァァァァァ!」


 感情を刺激する赤色を目の当たりにしてボスが突撃する。

 しかし宙を舞うマントはまるで突風に煽られる落ち葉のようにふわりと主の突進が生み出す風によって宙を舞い、その攻撃を回避する。


「おっし!」


 俺はすぐさま駆け出し宙を舞うマントをキャッチする。


「はっ? 何故!?」


 突然の俺の奇行に騎士が素っ頓狂な声をあげる。


「ほーらこっちだこっちだ!」


 おれば真っ赤なマントをバッサバッサと振り回し、主を挑発する。


「ブモ、ブモォォォォォォ!」


 自分の眼を攻撃したムカつく奴+癇に障る赤いマントのダブルパンチで主の興奮が最高潮になる。


「ブモォォォォォ!」


「うおおおおっ!!」


 突進してきた主の攻撃を全力で跳んで転がりながら回避する。


『ああ成る程、そう言う事か』


 俺のしたい事を理解したらしい父上が楽しそうな声を上げる。


「何をしている! 早くそれを手放して隠れるんだ!」


 しかし騎士の方はこっちの意図を理解してなかったらしい。


「俺がコイツを振り回して囮になりますから、そっちは攻撃に専念お願いします!」


「無茶だ!」


「無茶でもやってください! でないと主はそっちに狙いを絞るんで!」


 囮をやると決めた以上、なんとしてでも囮を完遂しないといけない。

 いや、主の気を惹く程度で危険がないのが一番いいんだが、主に有効打を負わせられないならこうするしかないんだよな。


「くっ、わかった。だが無茶はするな!」


 いやー、これ以上の無理はないんじゃないかな」


「マジで一歩間違えたら死ぬもんなぁ」


 俺は決死の覚悟で赤いマントを振り回し、主の気を惹く。


『騎士の位置に気を付けろ。騎士に近すぎても巻き込むし、遠すぎたら騎士が攻撃できん』


「分かりました!」


 父上の指示に従いながら、俺はギリギリのラインで主の攻撃を引き付ける。

 時折回避がギリギリのギリギリになって、全身を捻って回避して尚髪の毛や肌がチッと何かに擦れる音が聞こえてきて肝が冷える。

 必死で回避に専念し、騎士が隙をついて主を攻撃する。


「足を狙う! 何とか頑張ってくれ!」


「はい!」


 騎士の言葉に俺は必死で避け続ける。

 だんだんと体に擦れる音と衝撃が増えてきて、体中に血がにじんでくる。


『大丈夫だ。まだ動ける。動けるうちはまだ死なん!』


 神様の励まし方が凄く雑で、もう応援されてるのか無責任な事を言われてるのか分かんねぇな!


「うぉぉぉぉっ!」


 時間にして数分間といったところだろうか。

 だが全力で神経をすり減らしての回避行動は経過した時間以上に俺を消耗させる。


『いいぞ、お前の必死の戦いは女神の加護を目覚めさせる。お前が全身全霊で動き続ける限り、女神の加護がお前の後押しをしてくれる』


「は、はい!」


 どうも俺の必死の囮活動は女神様の加護を引き出しているらしいが、反射神経を最大限に働かせての全力回避に集中している所為でその実感は全然ない。


「ぬおぉぉぉ!」


 主の攻撃をギリギリで回避し、騎士が攻撃をする。

 これがゲームなら単調過ぎて詰まらないと言われそうな行動の繰り返しだけど、これ以上複雑な動きなんて無理!


「はぁぁぁぁ!」


「ブグォォォォォ!」


 そんな中、騎士の攻撃を受けた主がこれまで聞いたことのない声を上げる。


「よし! 足を潰したぞ!」


 どうやら騎士が主の足を使え無くしてくれたらしい。

 そのおかげか、主はまだ動けるものの明らかに片足を庇うような動きになっていた。


「よし、これなら!」


 さっきまでよりは避けるのが楽になる筈……

 瞬間、主の姿が消えた。


「え?」


「ブォォォォォォッ!!」


 激しい音とそして影が俺に覆いかぶさる。


『馬鹿者! 油断するな!』


「っ!?」


 父上の叱責と同時、ゾクリとした感覚に襲われた俺は何も考えずに本能のままに飛びのいたと同時地面に巨大な塊がめり込んだ。


「……は?」


 それは、主の体だった。

 何が起きたのか、突然主の体がさっきまで俺が居た場所に埋まっていたんだ。


「え、なにが?」


『気を付けろ息子よ』


 困惑する俺に、父上が堅い声で語りかけてくる。


『奴が本気になったぞ』


 ようやく戦いの終わりが見えてきたと思ったんだが、どうやらここからが本番だったらしい。

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