第6話 全てを解決する為の答え
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『お前の幼馴染な、あの娘は人買いに売られるんだ』
「……え?」
父上の言葉に俺は一瞬反応できなかった。
売られるってどういう意味だ?
『言葉通り、奴隷として売られるんだよ』
「どっ!?」
何だよそれ!? 奴隷とかいつの話だよ!?
『お前の暮らしていた前世ではそうかもしれんが、この世界では珍しいものじゃない。そもそもお前の世界でも奴隷がなくなったのはそう昔の話でもないだろ』
「そんな、でもおじさんに限って……」
『あの夫婦だけじゃない。他の村人達も同じだ。子供を喰わせるだけの蓄えが用意できない家庭はどこも子供を売りに出すようだぞ』
「何で!? 幾ら食うものが無いからって自分の子供を売るのかよ!? 自分達だけ生き残ればいいってのか!?」
親友の子とはいえ赤の他人である俺を育ててくれたおじさんがそんな事をするとは思えず、信じられないと言う気持ちと、おじさん達がそんな事をするなんてという失望の感情が俺の心を滅茶苦茶にする。
『いいや、むしろ子供を愛しているからこそ売るんだ』
「何で!?」
愛してるのなら絶対売らないだろ!?
『売れば商品として扱われる。つまり売る前に死なれちゃ困るから最低限飢える心配はなくなるって訳だ』
「……あっ」
確かに、それはそうかもしれない。
『それは売られた先でも同様だ。せっかく働かせる為に買うんだ。買った連中も飢え死にされちゃ困るからな』
「そ、それは……」
父上の言い含める様な落ち着いた言葉に、俺は冷静さを取り戻す。
『とはいえ、だからといって無事に済むとも限らんがな』
「え?」
『従業員として雇うんじゃなく奴隷として買われるんだ。命の危険がある危険な仕事をさせられるのは当然だろうし、あの娘は女だからな。今はともかく成長すれば下卑た目的で使われる事もあるだろうさ』
「冗談じゃない!!」
アリアナは俺が小さい頃から見守って来た幼馴染だぞ!
俺からしたら娘、は流石に言い過ぎだが年の離れた妹くらいには大切な存在だ。
そんなアリアナをエロ親父の奴隷になんてしてたまるか!!
『まぁエロ親父とは限らんがな。エロ息子やエロ爺ぃ、そういった目的の店に買われる可能性もある』
「同じだよ!」
『だが真っ当なところに買われる可能性もない事はない』
「どのくらいの可能性ですか?」
『真っ当な連中は素直に雇うだろうからかなり低いな』
「じゃあ駄目じゃないですか!」
どのみち相手の善意を期待するとか無責任すぎる!
『じゃあお前には何が出来る?』
「え?」
『お前には村の状況をなんとかする方法はないだろう?』
「それは……」
『それともお前が代わりに売られるか? お前は男だからな。俺の指示を受けて鍛錬をこなしているから、同年代の子供よりは鍛えられている。それをアピールすればあの娘よりは高く買ってもらえるだろう』
「いや、でも……」
代わりにお前が売られるかと言われ、俺はたじろいでしまう。
『そうだ。それが当然の反応だ。他人の事より自分の事。生き物として当たり前の事だ』
「けどそれじゃ……」
お前は所詮自分の事しか考えていない偽善者だと言われたようで、胸が痛くなる。
『それに不作は今年だけで終わるとは限らん。お前を売って今年はなんとかなったとしても、来年以降はどうなる。あの娘は来年売られるかもしれん。それに売られるのはあの娘だけじゃない。他の子供達は放置するのか?』
「でも、子供の俺に出来る事なんて……」
ここまで言われて何一つ代案が出せない自分が情けなくなる。
前世の記憶を持ったまま転生したのに、神様二人から特別に加護を与えられたのに、何もできないなんて、何て役立たずなんだ俺は。
少しばかり狩りが上手くなっただけで、村の皆どころかおじさん一家すら食わせる事も出来やしない。
『あるだろう』
「え?」
『自分を犠牲にすることなくお前にだけできる事が、あるだろう?』
「な、何ですかそれは?」
そんな都合のいい方法が本当にあるのか?
『お前にはありがたい神託を与えてくれる、この世で最も頼りになる父が居るじゃないか』
「何かいい方法があるんですか!?」
『ああ、あるぞ。主狩りだ』
「え? 主?」
主ってアレか? 昨日父上の言ってた森とかを支配する動物の事か?
『そうだ。その主だ』
「でも主を狩ったら近隣の生き物の統制が取れなくなって大変なことになるって……」
『平時ならな。しかし不作で人も魔物も食うに困っているこの状況は既に統制などとれていないも同じだ。この状況なら主を狩っても問題ない。それどころか主が食う分の食料が減って他の動物の負担も減る。大抵の主はデカくてよく食うからな』
「な、成る程」
本当なら駄目な主狩りもこういう時は例外として許されるんだな。
でも問題は……
「主って倒せるんですか?」
そう、単純な実力差が心配だった。
『かなり分の悪い賭けだ』
駄目じゃん!!
『だが勝ち目がないわけじゃない。この戦いはこれまでお前が成してきた鍛錬の成果次第で変わる。そして足りない分は俺の作戦で埋めればさらに勝ち目は増すだろう』
俺のこれまでの鍛錬の成果と父上の作戦。
「その、主の強さってどれくらいなんですか?」
『この辺りの人間、動物、魔物。そのどれよりも強い。主というものは単純に強い。最低でも近隣に生きる生き物の二段階は上の強さを持っているのが常だ』
「二段階上の強さ……」
自然と体が強張る。本当に出来るのか?
間違いなくゴブリンなんかとは比べ物にならないくらい強いんだよな。
勝ち目があるって話だけど、そもそも一段階上の強さがどのくらいなのかも分からない。寧ろ負ける可能性の方が高いと思った方がいい筈だ。
『勿論諦めるのも選択肢だ。寧ろお前が諦めて自分の食料だけを集める事に専念した方が遥かに生き残る可能性が高くなる』
自分だけならと言われ心が揺らぐ。
どうする、どうする俺? ここで危険な賭けをする義務が本当に俺にあるのか?
ゴブリンとの戦いでも死にかけたんだぞ。
あの時の事を思い出すと、今でも胃が酸っぱくなる。
「……」
自分の事だけを考えれば俺はこの世界で安全に生き延びる事が出来る。
育てて貰った恩はあるけど……命を懸けなきゃいけない理由が俺にあるのか?
『どうする?』
問われたものの、喉から言葉が出ない。俺はどう答えるべきなんだ……
おじさん達は俺を攻める事はないだろう。
俺に家を出ろと言ったのも、もしかしたらこの時が来た時に俺を巻き込まない為だったのかもしれない。
それはきっと、俺が負担になっていたからだと自分を攻めない様にという配慮と言える。でもそれは俺の勝手な想像でしかない。
それに、もし俺がアリアナを見捨てる選択をしたら父上はどう思うんだろう。
神である自分が育てた人間が、他人を、親しい人を見捨てたら、どう思われる?
そんな俺の気持ちを察したのか、父上は俺の返事を聞かずにこういった。
『悩んでいるようだな。それで良い。どういう選択を選ぶにせよ、自分で選ぶという行為が生き物にとってもっとも大切な事だ』
「自分で選ぶことが?」
『そうだ。選ぶという事は、他人に自分の人生を委ねず自分で選択するという事だ。人は、生き物には己の意思がある。意思がある以上、選ぶことは義務だ。たとえその選択が原因で後悔することになろうとも、自分の意志で選んだと言う事実を神である俺は認め、評価する』
「……っ!」
それは、間違いなく父親の、人を導く存在としての言葉だった。
『いいか、お前に父として言葉を授けてやろう』
父上は続ける。
『悩んだ時は、自分がどうしたいのかを第一に考えろ。利益、成功率、しがらみ、そういった全てを放り投げて自分の根っこにある気持ちをまずは気付け。それはお前の根っこの部分だ。お前の本質であり、お前の目標であり、お前の信念となるものだ。それに気付け!』
「俺がどうしたいのかを第一に……」
その言葉が、転生前に女神様から受けた言葉を思い出させる。
『――強い思いがある程、来世での意欲に影響してきますから――』
そうだ、女神様はそう言っていた。
って事はここで悩むのは、俺が前世で抱いた気持ちが、後悔が強く働いているのかもしれない。
「俺のしたい事、来世に臨んだ事は……」
転生前に自分が願った事を思い出す。
本来なら思い出せない筈の、生まれ変わる前の出来事を……
『――やりたい事が出来たら諦めない――』
「っ!」
ハッキリと思い出す。自分が前世で願った事を。
失敗しても後悔しない様に、何もせずに後悔しないようにと願った事だ。
つまり、俺が今諦めたくない事は……
「幼馴染を見捨てて後悔したくない事だ!」
ただの身勝手。後味が悪いから見捨てたくないってだけの子供みたいな自己満足。偽善ってやつだ。
でもそれが、俺の偽らざる本心!
「俺は、ただ自分が気分良く生きていたいからアリアナを見捨てたくない!」
ヒーローになりたいわけじゃない。単に妹みたいに思っている幼馴染が酷い目に合うのが嫌なだけだ。
あとおじさん達に恩返しもしたい。
「そんな、薄っぺらな理由が、俺が諦めたくない理由です!」
到底決意とは言えないような浅はかな内容。死ぬかもしれない戦いをするのは怖い。
死ぬかもしれない、だから諦めた方がいい、なんていう理屈の奥にある俺のしたい事!
『よく言った!』
父上が認めてくれた。
『それでいい! 他人からどう思われようが、お前がどう評価しようが、お前がそうしたいと思った事が重要なのだ! ならば俺は神として、父としてお前を導いてやろう! 死を恐れるお前が生き延び! 目的を成し遂げ! いつも通りの明日にたどり着くための知恵を授けてやろう!』
「っ!!」
希望が、見えた……
『まぁ失敗したら死ぬが気にするな。闘いなんてそんなもんだ。全力で戦って死んだならお前の健闘を褒めてやるぞ!』
「台無しだよっっ!!」
気がしただけだったかもしれない。
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