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第5話 冬の蓄えと食料の奪い合い

「キキッ!」


「ラッキー、今日はリスがかかってる!」


森に仕掛けた罠を確認しに行くと運よくリスがかかっていた。

前の時はゴブリンとの戦いのどさくさで逃げられちゃってたからなぁ。

リスは肉の量こそ少ないけど毛皮が金になるし子供の俺のサイズなら数を集めて縫えば敷物になる。冬を過ごす為には貴重な防寒具だ。


「駄目だ。大物は全然獲れん」


 村に戻ってくると、大人達が狩りの得物の前で溜息を吐いていた。

見ればそこにあったのは小柄な狼が二頭だけ。それにだいぶ痩せている。

 狼も食べるものが無くて飢えてるんだなぁ。


「もうちょっと奥まで行くしかないか」


「だが奥は魔物が居るぞ。連中も獲物が減って気が立っている筈だ」


 魔物の縄張りは森の奥の方だ。だから森の外側を縄張りにする俺達人間とはある程度の住み分けが出来ているらしい。

 おじさん曰く『魔物も人間なんて面倒な生き物と殺し合いなんてしたくないからまず森の外には出てこない』のだと言う。


 でも今回のように食料が少なくなると、お互い普段いかない場所まで狩りにでかけるもんだから、運が悪いと鉢合わせることが増える訳だ。

 そして、負けた方が勝った方のご飯になると。

 なんとも殺伐としているがそれがこの世界のルールなので仕方がない。


「奥に行くにしても準備が必要だ。すぐに向かうのは止めておこう」


 おじさんの決断に従うと大人達は少ない獲物を切り分けて各々の家に帰っていった。


 ◆


「「「「いただきます!」」」」


 両親の家に引っ越した俺だったが、未だ食事はおじさんの家でとっていた。

 というのも最近森も畑も不作なので、お互いが採れた獲物や作物を分け会おう……という名目でおじさんは俺が飢えない様にしてくれているんだ。


「今日はキオの取って来たリスのお肉入りよ」


「わーい! キオってばすっかり狩りが上手くなったよね! お父さんよりも上手になったんじゃないの?」


「……俺の方が大物を獲れる」


 ちょっぴりプライドを傷つけられたのか、おじさんがボソッと反論するが、久しぶりの肉に喜ぶアリアナは気付いていない。ドンマイおじさん。


「ふふ、本当にキオには助けられているわ。薬草を見つけるのも随分上手になったわね」


「おじさんに教わったお陰ですよ」


 事実俺は薬草を見つけるのが上手くなった気がする。

 でも大人達がよくそんなところにあるのを見つけられたなってよく言うので、多分体が小さいことで大人が気付かない位置にあったものに気付けたんだろう。

ともあれそんな感じで、俺はおじさんの家を出ても上手くやれていた。この秋までは。


 ◆


「今年は思った以上に不作だったな」


 秋の収穫を終えた大人達の顔は憂鬱そうだった。

 というのも畑の収穫がここ数年で一番悪かったからだ。

 俺の畑もそうだったし、いつもなら畑の手伝いでよその家から貰える小遣い代わりの作物もかなり少なかった。


「森もダメだな。浅い所は薬草一本ない。もっと奥までいかないと」


「だが、危険だぞ。魔物達も飢えているようで少し森の奥に入るだけで魔物に出くわすって話だ」


「危険でも行くしかないだろう。このままだと冬を越せない」


 大人達が殺気立った様子で、森の奥への狩りを決意する。

 これは俺も行くことになるのか? 一応父上に鍛えてもらっているけど、大人達と協力するような大規模な狩りはした事ないんだよな。


「キオは留守番だ。森の奥はお前にはまだ危険すぎる」


「う、うん」


 良かった。魔物に興味がないわけじゃないけど、大人が命の危険を危惧するような相手に子供の俺が参加しても足手まといにしかならないもんな。


『そうとも限らんぞ。今のお前なら魔物との戦闘経験もそれなりにあるし、この辺りの魔物なら主以外なら十分生き残れるだろう』


 主なんて居るんだ、この森。


『どこにでもいるぞ。寧ろ主が居ない場所の方が危ない。統率する者のいない集団は烏合の衆どころか無軌道な暴徒の群れだからな』


 ひえ、そう言われるとおっかなくなってきた。

 そして翌日、大人達は森へ狩りに向かった。

そして俺達子供は大人達の戦いから逃げだした魔物が森の外周にやって来るかもしれないからと数日間森に採取に行く事を禁止されてしまった。

仕方ないので村で出来る仕事を終えると、ひたすら棒切れを振って剣の修行に専念する。


「おお、今日も精が出るのう」


 そんな俺に話しかけてきたのは騎士のガリン爺さんだ。


「あっ、ガリン爺さん」


「お前さんの剣筋はほんに綺麗じゃのう。まるで王都の騎士達のようじゃ」


と、ガリン爺さんが懐かしむようにあごヒゲを撫でる。


「ガリン爺さんは王都の騎士を知ってるの?」


「当然じゃ。この村を守る騎士となる為、王都で騎士試験を受けたのじゃよ」


「へぇ」


 騎士になる為にはわざわざ王都まで行って試験を受けないといけないんだな。


「といっても、町で働く騎士なんて後を継げない貴族の次男三男や、平民上がりの騎士くらいしかおらんがな」


「そうなんだ。跡継ぎじゃないならもっと必死で仕事を欲しがると思ったのに」


「いやいや、お貴族様はこんな何もない田舎なんぞ行きたがらないんじゃよ。貴族のプライドと我が儘が娯楽もない田舎を嫌がるんじゃ。大きな戦いで手柄も立てられんからの。だから大抵の村はその村か付近の町で生まれた者が選ばれる。土地勘もあるしの」


 ああ確かに、森とか地元民じゃないと採取も難しいもんな。


「そんな訳だから貴族の息子達はなるべく大きな町で文官になりたがる。まぁ騎士として仕事を与えられん連中なぞ一般兵に毛の生えたような仕事しか割り当てられんが」


 どうやらどこの世界でも出来の悪い連中の扱いなんてそんなもんらしい。

 ただ仮にも貴族の息子だから最低限の役職は貰えるみたいだ。


「さて、皆も戻ってきたようじゃし儂も戻るか」


「え?」


 ガリン爺さんの言葉に耳を澄ませば、村の広場からざわめきが聞こえてくる。


「皆戻って来たんだ!」


「大猟だとええのう」


「だね!」


だが、俺達の機体とは裏腹に収穫は微々たるものだった。


「駄目だ、森の奥は魔物がうろついている。大した奴は居ないが単純に数が多い。食える奴なら良かったんだが、ゴブリンじゃ食えないからなぁ」


 やっぱり魔物も食材を求めているらしく、獲物の奪い合いになってしまったらしい。


「また日を改めて森の奥へ採取に行こう。念のため村の守りを強くする為に柵を補強しておこう」


「ガリン爺さんが戦えれば良かったんだが腰をやってるからなぁ」


 ガリン爺さんの仕事はこの村を守る事だけど、数年前から腰を悪くしていて騎士の仕事は開店休業中だ。

それでもクビにならずに騎士をやっていられるのは、単純に田舎に人材が居ないからだったりする。


 本来の騎士は田舎の派出所のお巡りさんみたいなもんで、村人同士の諍いを止めたり、魔物が村周辺にやって来たら村の若い衆を率いて魔物退治を指揮したり、簡単な戦闘訓練を皆に教えたりと色々するらしいんだけどね。

そんな訳で戦いは出来ないけど、村人同士の諍いの仲介役は出来るから今も現役で仕事をするというかさせられているらしい。


 ◆


 遂に冬が目前の時期になった。

 あれから何度か大人達が森の奥に狩りと採取に向かったけれど、やはり収穫は微々たるものでとうとう森に入るのも難しい冬になってしまった。

しかも遂に魔物が食料を求めて森の外周にまで出てくるようになったもんだから、大人でも一人で森に入るのは危険な状況だ。


「はー、一体どうなる事やら」


そんな事情もあって、ここ最近の食事はもはや料理と言って良いのか怪しいレベルで、もう殆どお湯同然だ。

それに辛うじて口にできる薬草を干したものを混ぜて無理矢理腹が膨れる様にしているんだけど、干した薬草は凄く苦いから、味は滅茶苦茶不味い。

おじさんですらスープを口にする瞬間に眉を顰める程だ。


 そして今日の夕食はいつもと様子が違った。


「キオ」


 おじさんが俺の名を呼ぶ。


「なにおじさん?」


「すまないがもうお前に飯を食わせてやる事は出来ん」


 ああ、やっぱりその事か。


「分かってるよ。どこも食べる物がないもんね」


「悪いな」


「いいよ。自分で何とかする」


 と言っても出来る事と言ったら森の奥に入って食べられそうなものを探すくらいだけど。

 ゴブリンの一匹二匹程度なら今の俺でもなんとかなるかな?


「キオ、いいの?」


 アリアナが俺を心配して、けれどおじさんを攻めてもどうにもならないと分かっているんだろう。

何を言えばいいのかと言葉に詰まっている。


「大丈夫だよ。それにおじさんには色々教わったんだ。今日までご飯を食べさせてもらえただけでも感謝しないとだよ」


「アリアナ、お前にも話がある」


 と、これで話は終わりかと思ったら、おじさんはアリアナにも何か話があるらしい。


「何、お父さん?」


「……」


 しかしおじさんは黙ったままだ。


「あなた……」


「いや、いい。俺が言う」


おばさんは悲しそうに、そしておじさんも何かを覚悟したかのように大きく溜息をはくと、本題を切り出した。


「アリアナ、お前にも家を出て行ってもらう。町に出て働くんだ」


「え? 私が?」


「アリアナが働く?」


 おじさんの言葉に俺達は思わず聞き返す。

 アリアナは子供だ。いやそれでもこの世界の人間なら働いていてもおかしくないけど。というか家事や内職を手伝っているから、働いているのは間違いない。

 それなのに町に出て働く? 食い扶持を自分で稼ぐ為って事か? 家の手伝いは分かるけど、アリアナの歳で働けるのか?


「わ、わかったよ! 私頑張って働くね! それで一杯稼いで沢山ご飯を買ってくるから!」


「あ、ああ。期待しているぞ。迎えの馬車は冬が本格的になる前に来る」


「ええ、ええ、期待しているわ」


 アリアナはやる気満々で稼いでくると宣言するが、奇妙な事におじさん達は凄く申し訳なさそうな顔になる。


 何か気になる。子供を出稼ぎに行かせることを申し訳なく思う気持ちは分かるけど、おじさん達の反応は妙だ。なんだか罪悪感に苛まれているかのようで……


『……なるほどな』


 そんな中、父上の声だけがはっきりと聞こえた。


 ◆


 夕食を終えて家に帰って来た俺は、巻きももったいないので早々に布団代わりの布切れとリスの毛皮のパッチワークに身を包む。正直地面の冷たさがキツい。


「父上……」


 暗闇の中で、俺は父上に語り掛ける。


『どうした? 眠れないのか?』


 父上は珍しく静かな様子で返事をよこしてくる。

 いつもならもっと暑苦しいくらいなのに。


「さっき、おじさん達との会話でなるほどって言ってましたけど、何か知ってるんですか」


『知っているというか、何をするか察したというところだな』


 やっぱり父上はおじさん達の違和感に気付いていたのか。


「おじさん達は何を隠してるんですか? それってアリアナに関係してるんですよね?」


『……』


 父上が無言になる。

 ただこの沈黙は、俺を無視するつもりではなく、どうやって説明したものか悩んでいる感じがした。


『あー駄目だ。オブラートに包むような気を使った言い回しは俺には無理だ。いいか息子よ。今からかなりショックなことを言うがしっかり受け止めろよ』


「は、はい」


 なんだ? ショックなこと?おじさん達は何か悪い事をしてるのか?


「お前の幼馴染な、あの娘は人買いに売られるんだ」


「……え?」


 売られるって、どういう意味だ?

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