第4話 父神とのサバイバルな修行
「うおおおおお!」
「「ギャギャギャギャ!」」
森の中で、俺はゴブリン達に追われていた。
『急げ急げ急げ! もっと早く走らないと追いつかれるぞ!』
頭の中で師匠である戦神こと父上が俺を急かす。
『木の根に気を付けろ、絡まった草も足を引っかけて来るぞ。森の走り方は教えただろう。わざと狭い場所に飛び込め、相手は複数だ!』
「はい、父上!」
俺は父上の指示を聞きながら小さな木が密集した場所に飛び込むと、後ろから追ってくるゴブリン達がお互いを押しのけ合って我先に細い道に入ろうとしている。
『他人数が相手の時はとにかく逃げて複数の敵から一斉に攻撃されないようにしろ。どれほどの達人でも多人数からの同時攻撃には弱い』
「はい!」
『よし、敵が一列になった。速度を落とし体力を温存しながら追いつかれたら振り向きざま切れ!』
「はい!」
ゴブリンの足音が真後ろまで来たところで俺は振り向きざまにナタを振る。
「グギャアアア!」
ザシュッと肉を切る嫌な感覚が柄に響く。
『よし走れ!』
そして一目散に逃げだすを繰り返す。
『これを繰り返せば相手は出血多量で動けなくなる! そしたら一気に攻めたてろ!』
「分かりました父上!」
こうして、俺は複数のゴブリンを一人で討伐する事に成功したのだった。
「ゼーハーゼーハー……けど、ひたすら走り続けてたからキツ……い」
『だいぶ魔物との戦いに慣れてきたな。既に実感しているだろうが、戦いの基礎は体力と足だ。これからも足腰を鍛えるように』
「は、はひ!」
父上との衝撃的な出会いから二週間。
俺は森へ採取に行く名目で父上から戦い方を教わっていた。
その多くは実戦に根差した戦い方。多数から狙われた時はどうするのか、どういう動きをすればよいのかといった剣術以前の問題だ。
『お前の得物はナタだからな。正規の剣術ともナイフ術とも扱いが違う。それよりも最初は生き延びる事を最優先に考えて体力作りと足を鍛える』
と言われて俺は森の中で安全に走る方法を教わったり、魔物と遭遇した際には今回のようにどう戦えばいいのかを指示して貰っていた。
正直父上の指示がなかったら何度死んでいたか分からない。
『そうだろうそうだろう。普通の加護や神託ではこうも頻繁に言葉を届ける事など出来ないのだぞ。俺の『寵愛』を受ける事が出来た幸運を噛みしめるが良い息子よ!』
「はい、ありがとうございます父上!」
いやホント助かってます。
『おおそうだ。そこの気の根元を見ろ茶色のキノコが成っているだろう。それは敗残キノコと言ってな、森の中で飢えた兵の貴重な食料になるキノコだ。覚えておけ。目印はこの木だ』
「はい!」
特に戦いに関する食料の情報を教えて貰えるのが一番助かる!
最近は不作で食料が少ないもんなぁ。
『ただし兵狩りキノコには気を付けろ。そっちは毒キノコだ。見分けのコツはカサの端がふっくら丸いのが敗残キノコ。尖っているのが兵狩りキノコだ』
「はい!」
俺はキノコのカサの端を確認してからキノコを採取する。
「ところで食べれるの方が敗残って名前逆じゃないですか?」
なんか印象が悪い気がするんだけど。
『飢えた兵が生き延びる為に食べるものだからな。勝ち組はわざわざ自分でキノコを採ったりせずに自軍の配給を食べるだろう』
ああ成る程、そう言う皮肉もあるのね。
『帰ったら棒振りだ。若いうちから基礎の型を学んでおけばいつか剣を手に入れた時に役に立つ!』
「は、はい!」
ただ、父上の修行は凄くためになるし助かるんだけど、厳しいんだよなぁ。
さっきまで戦ってヘトヘトになってるのにまだ剣の修行をするんだもん。
『何を甘えた事を言っている。疲れている時こそ体に負荷をかけて筋肉を鍛えるチャンスだ。鍛錬はお前を裏切らん。鍛えた分だけお前は強くなれるのだ!』
「は、はい!」
◆
「はぁっ! とう!」
家の畑の横で、俺は棒切れを振る。
『振り下ろす軌道が歪んでいる! もっと真っすぐ振り下ろせ! 敵を切る時に刃が真っすぐに立っていないと威力が落ちるし最悪折れるぞ!』
(はい!)
心の中で返事をしながら、俺は無心で、しかし型を崩さないように棒切れを振る。
「ねぇ、キオって騎士になりたいの?」
と、俺の鍛錬をじっと見ていたアリアナが問いかけてくる。
村の中だとアリアナみたいに誰かが居るから森に居る時みたいに父上に返事しづらいんだよな。
「いや、そう言う訳じゃないけど」
「でも村に居る時は仕事してる時以外ずっと剣の練習をしてるじゃない。剣なんてこの村にはないのに」
「騎士の爺さんが持ってるじゃないか」
「うん、だから騎士になりたいんじゃないの?」
どうやらアリアナは俺が騎士になりたいから剣の練習をしていると思ったらしい。
「違うよ。前にゴブリンに襲われただろ。アレで強くならないといけないって思っただけだよ」
「……アレ、ビックリした」
と、アリアナがあの時の事を思い出したのか暗い顔になる。
「キオ血まみれで、死んじゃうかと思った」
「アレは殆どゴブリンの返り血だって言ったろ」
「でもビックリした」
「ゴメンて」
あの時は皆にビックリされたんだよなぁ。
そんで俺がゴブリンを倒したと聞いて二度ビックリされた。
大人達が確認の為に俺が溢した血の跡を辿って行ってグチャグチャになったゴブリンの死体を見てさらにビックリしたらしい。
おかげであの後アリアナは、俺が死ぬんじゃないかと不安になってどこに行くにも引っ付いてくるようになったんだよなぁ。
流石に森での採取にまでついてこようとしたのには参った。
文字通り兄妹同然に育ったから、いつも一緒にいるのが当たり前の俺が居なくなるかもしれないと思ったのがかなりショックだったらしい。
「大丈夫だって。どこにも行かないから」
正直魔物がウロウロしてる世界だからな。大人になってからならともかく子供の内は外に出る気もない。
幸い、師匠なら父上がいるし。
『うむ! 父を頼るが良い!』
かなり厳しい、けど穏やかな生活を送る日々。
食い扶持を稼ぐだけの生活なのは同じだけど、正直前世よりもよっぽどやりがいがある生活と言えるだろう。
何せ働いたら働いただけ成果が出るからな。
村に納める分は出るけど、基本は税と備蓄用だから、あからさまに搾取されるような事もない。
「晴耕雨読ってのはこういう生活のことをいうのかねぇ」
この村に本なんてないけどな。
けれどそんな優しい生活の日々は、人の身ではどうしようもない運命によって終わりを告げようとしていたのだった。