第26話 騎士学校の授業は意外とスパルタ
「以上が騎士としての最低限の振る舞いだ。今後はこの振る舞いを身に着ける為に学校内では常に行うように!」
「「「「はいっ!!」」」」
最初の授業は騎士としての礼儀作法をガッツリと学ばされた。
それも一日中。
立ち方、挨拶の仕方、失礼にならない視線の動かし方など、そんな事まで気にするのかってレベルの内容を徹底的に教え込まれる。
「この辺はガリン爺さん教えてくれなかったなぁ」
基本は戦闘訓練と入学試験の勉強だけだったもんな。
いや、単純に長年の田舎生活で忘れていた可能性も……
「明日は戦闘訓練を行う! 完全武装して教室ではなく訓練場に来るように」
それだけ言うと、今日の授業は終わりになった。
「はー、一日中面倒なマナーを詰め込まれて死ぬかと思った」
「この程度貴族なら幼い子供の頃に習う内容だぞ」
ぐったりしながらぼやくポリタにバレンが呆れたように言いながらやってくる。
「げっ、何で貴族様がこっちに来るんだよ」
「俺がようがあるのはお前じゃない」
当然のように俺に視線を向けてくるバレン。
「明日の戦闘訓練では前回の雪辱を払させてもらうぞ」
「授業だから模擬戦があるとは限らないですよ」
「騎士の訓練なのだ、当然あるだろう」
無いといいなぁ。下手にあったら俺に人が殺到してきそう。
◆
「本日は屋外での魔物討伐訓練を行う!」
「「「「ええ!?」」」」
まさかの実践訓練に思わず全員が驚きの声をあげる。
「せ、先生、俺達は入学したばかりでまだ戦闘訓練を受けていないんですよ!? いきなり実戦なんて無理ですよ!」
あまりにも真っ当な理由で悲鳴を上げる一部の生徒達。
「騎士になることを志してきたのだから当然入学前に訓練を積んできただろう」
「でもそれは自己流であって騎士としての正規の訓練を積んだ訳ではありません!」
「それがどうした。いつも万全の状態で戦えるわけではないのだ。だが騎士たるもの逃げる訳にはいかん。お前達は不利だからと主君や王族の方々を見捨てて逃げるか? 町が襲われた時そこに暮らす民を見捨てて逃げるか? ありえないだろう。そのような無様な真似をした時点で騎士失格だ!」
そこまで言われては文句を言っていた生徒達もこれ以上の反論は出来ない。
『これ以上食い下がったら騎士失格の未熟者と認めるようなものだからな』
『ん、早めに危険な目に遭わせる事で甘ったれた根性なしと実力の足りないのを振るい落とすつもり』
『未熟でも見どころがあればフォローはするだろう』
と、父上達は気軽にこの会話を眺めてのんきに話している。
でもそうか、そういう見方もあるんだな。まぁ学校としても芽の無い連中に構ってる余裕なんてないって事なんだろう。
「では訓練を行う際にチーム分けを行う。同時に地図を渡すので自分達のチームの番号が割り振られたエリアで魔物を討伐する様に。まずは第一チームから!」
そして俺は第一チームの一員として真っ先に呼ばれた。
次の呼ばれたのはアリアナ。
「よかった。キオと一緒のチーム」
俺と一緒のチームになったアリアナが嬉しそうにやって来る。
「なんだか久しぶりだな」
「うん、女子は危ないからって男子寮に行くのを禁止されているから」
まーむさい男の巣窟に華奢な女の子をいかせるわけにはいかないもんな。
いやでも騎士になろうとしている女の子は華奢と言えるんだろうか?
「アリアナも同じチームだったのね」
と、そこに二人の女子生徒がやって来る。
「はい、そうみたいです」
二人は貴族の生徒だったが、アリアナに対して随分と友好的だ。
いいなぁ、俺も友好的に接してくれる同級生が欲しかったぜ。あの二人はなんていうか微妙に違う感じだしなぁ。
「あら、そちらの彼は……私はミレディ、この子はリスタ」
「俺はキオです。よろしくお願いします」
「知っているわ……実技試験で優勝した方ね」
優勝の部分に随分と含みのありそうな言い方をする女生徒。
これはあれだな、この子達もあの判定に疑惑の目を向けてる訳だ。
俺自身そうだったから仕方ないとはいえ、早い所誤解……とは言いづらいからせめて実力を正しく認めてもらいたいもんだ。これでも一応は準決勝まで実力で勝ち進んできたんだぜ。
「おや、君達と同じチームとは奇遇だね」
更に現れたのは男子生徒で俺を疑っている人物筆頭のレダックだった。
何このチーム分け。悪意を感じるんですけどー。
「私はレダック。ああ親の爵位などは気にしないでほしい。学校にいる間はただのレダックと思ってほしい」
と、あからさまに俺を無視しながらアリアナに手を差し出すレダック。
「……アリアナです」
そしてアリアナもあからさまにレダックから逃れる様に俺の後ろに隠れる。
「ははは、どうやら嫌われてしまったようだ。それにして君もこのチームに居るとはね」
レダックはあからさまにここはお前には場違いな場所だと含みを持たせて話しかけてくる。
「学校がそう判断したからですよ。文句があるなら学校の先生達の判断に文句を言ってください」
『お、今のは良いぞ。ここで反論してきたら学園側の教師の実力を疑っていると認める事になるからな』
人の修羅場を娯楽にしないで貰えます?
「はは、そんなつもりは……」
「おい! 何故俺がこんな弱そうな連中と同じチームなんだ! 俺は正当な訓練を受けた貴族だぞ! もっとレベルの高い生徒と組ませろ!」
ないよと言いたかっただろうレダックの言葉が別の生徒の罵声でかき消される。
どうやら本当に先生に文句を言った生徒がいたらしい。
「このチーム分けは実技試験の結果を反映したものだ、当然同じチームの生徒は近い実力と判断されている」
「たまたま俺の相手が優勝候補で運が悪かっただけだ! すぐに別の奴と交代させろ! 運が良かっただけの奴なら他に居るだろ!」
その瞬間、俺に視線が集まる。
「チーム変更はない。少なくとも今日はな。チームの選定に不満があるのなら結果を出せ。魔物の討伐数及び強力な魔物を討伐した場合は上のチームに編入を考慮する予定だ」
「「「……っ!」」」
教師の言葉を聞いて他に不満そうだった生徒達がざわめきだす。
「なるほど、そう言う事なら俺の実力をすぐに示して……」
「ただし、チームから死者、重症者が一人でも出た場合は半年間昇格は無しだ」
「何故だ! 弱い奴が勝手に脱落するだけの事だろう!」
自分以外の生徒の問題に自分が巻き込まれるのは納得いかないと生徒が噛み付く。
というかアイツさっきから凄いな。
こっちとしては色々聞けて便利だけど、生徒を評価する教師にあそこまで噛み付けるのは身内だったら滅茶苦茶怖いんだけど。
「……お前は傭兵にでもなりたいのか?」
「な、なに?」
「自分一人が強ければよいのなら傭兵で十分だ。だがお前が目指すのは騎士なのだろう?騎士ならば部下を率いるものだ。部隊を率いるならば兵の損耗を最小限に抑えることも優秀な指揮官の役割だ。自分以外の兵を全て犠牲にするなど無能の極みだ。弱兵も管理できてこそ一人前の騎士と思え」
「……っ!」
ぐうの音も出ない正論でぶん殴られて無言になる生徒。
「やれやれ、無様な者だ。だが彼の気持ちも分からないでもない。自分の指揮下に致命的な無能が居たらそれこそ部隊が全滅する危険があるのだからね」
こちらを見ずにあからさまに悪意だけを向けてくるレダック。
お前も本当に性格悪いな。アリアナも相当気分を悪くしたのか、俺の腕を握る手の力が強くなるっていうか痛いですアリアナさん。
「では戦闘訓練を行う。太陽が真上に来る時刻に戻ってくるように!」
時計が無い世界なので凄く雑な就業時間を告げる先生。
「それでは行ってこい!」
先生の合図と共に生徒達が自分達の指定されたエリアに向けて向かってゆく。
慌てる様に走り出す者達、悠々と歩いて行く者達。すこしだけ小走りに移動を開始する者達。
「俺達のエリアは結構遠いな」
「成績の良い生徒はそれだけ危険な場所なんじゃない? ほら、あそこで魔物を探してる子達、実技試験で早々に離脱した子達よ」
ミレディの指差した先には武器を構えて焦る様に周囲をキョロキョロと見回す生徒達の姿が見える。
成程、弱い生徒は先生の目の届く位置で弱い魔物相手に経験を積ませるって事か。
話していたよりはちゃんと生徒の事を考えてくれているらしい。
そんな事を話しながら歩いているとようやく指定されたエリアに到着する。
「帰りも考えると結構討伐に使える時間は少なそうね」
魔物を探す手間もかかるだろうしな。
「その必要はなさそうよ」
と、リスタが指をさした方向を見ると、数体の魔物がこちらに向かってきているのが見えた。
「結構大きいわね。それが三体か。皆気を付けて!」
ミレディが指揮する形になって俺達は戦闘準備をする。
「ちょっと待ってほしい」
と、そこにレダックが割って入る。
「何? 魔物が向かって来てるんだから誰が指揮するとか言ってる場合じゃないわよ」
「いや、そうじゃない。単に私は実力を知りたいと思ったんだ」
「そう、実力。実技試験で頂点に立った彼の実力をね」
そう言って俺を見つめてくるレダック。
「貴方ね、こんな時にまで揉め事を……」
「いえ、私も気になる」
苛立つミレディだったが、意外にもリスタも同意を示す。
「リスタ!?」
これは不味い傾向だなぁ。
「待って待って、流石にそんな事を言ってる場合じゃないわよ。これは実戦なのよ!」
「ミレディの言う通り。ここは全員で協力して戦うべきだと思う」
意外にも俺の事を疑っていたミレディが庇ってくれる。アリアナはいつも通りだが。
「でもミレディも気にしてたでしょ? 本当の実力を知るには良い機会だと思う」
「その通りだ。もし君だけで倒せないのなら、私達が何とかするさ」
うーん、これは受けるしかないなぁ。
ここで正論を振りかざして説得する時間もないしされる気もないだろう。
寧ろ潔白を証明してやると積極的に受けないと疑いが深くなるばかりだろうな。
「分かった。俺がやる」
「キオ!?」
「決まりだな。それでは魔物は君に任せよう。なに、不正をしていないなら問題なく倒せるだろうさ」
こうして、初めての戦闘訓練で俺は、ソロバトルを披露する羽目になるのだった。




