第24話 学生寮の歓迎会
「いってー……あー、俺はポリタ……です!」
マーズ先輩が拳を握ったのを見て、ポリタは慌てて敬語を付け加える。
「まぁよし。俺達は騎士を目指すんだ。言葉遣いは日頃から気を付けないといざという時にやらかすぞ」
「はい」
「へーい」
ゴン!
当然のようにポリタがゲンコツを喰らう。
懲りない奴だなぁ。
『こういう奴は何度でもやるからな』
ポリタが来た事で改めて挨拶をすると、先輩達が立ち上がる。
「それじゃあ行くか」
「行くってどこへです?」
「良い所だよ」
「良い所って、もしかして綺麗なおねーちゃんがいる店っスか!?」
「んな訳あるか。良いからついてこい」
ポリタの期待をあっさり切って捨てると、先輩達はズンズン廊下を歩いてゆく。
やって来たのは少し大きなフロアだった。
そこには沢山の生徒の姿があり、やってきた俺達に視線が集まる。
「おお来たか」
「お前達が最後だぞ」
既にいた先輩らしき生徒達がマーズ先輩に親し気に語り掛ける。
「悪い悪い。遅れて来たバカがいてよ」
「いやー、ホント困った奴っスよね」
「お前の事だ!」
ゴンと、三度目の音が響き渡る。
「ははは、確かに困った奴だな」
しかし待たされた先輩達は怒ることなく大きなたんこぶを拵えて床をのたうち回るポリタを見て笑う。
「こういう奴は必ず出るんだよなぁ」
居るんだ他にも。
「それじゃあ歓迎会を始めるとしよう」
「歓迎会?」
「うん、君達は入学したばかりでお金も無いでしょ。だから初日の夕飯だけは歓迎を兼ねて僕ら先輩が奢るのが風習なのさ。ちなみにここは普段は談話室になっているから、他の部屋の生徒と交流を結ぶ為に定期的に通うと良いよ」
と、こっそりフィズ先輩が教えてくれる。
言われてみれば部屋に幾つも設置されたテーブルには料理や飲み物が乗っている。
「これって女子の方も同じ事やってるんですか?」
「あっちはもっと上品な料理だと思うけどね」
「俺は肉があれば良い!」
はいはい。
「私は三年生のハンテ。今日は楽しんでいってくれ。今日の料理は私達が狩ってきた魔物を使ったものだ。君達も鍛えれば毎日これを食べれるようになる。頑張って狩れるようになってくれ」
ああ成る程、先輩達が狩った魔物肉を振舞う事でお前等も頑張れば肉食えるぞって言いたいんだな。
「それじゃあ長々と話すのも野暮だ。食べて飲んで皆と交流を広めてくれ」
「「「「おおー!」」」」
ハンテ先輩の許可が出ると、皆が一斉に料理に群がってゆく。主に肉に。
俺は肉の奪い合いを避け、普段食べる機会のない料理を狙ってゆく。
俺が選んだのは村ではあまり食べる機会のない魚料理だ。
「おお、美味い!」
魚料理はしっかり身に味が染み込んでいて、前世の煮付けに近い味わいだ。
「珍しいな。普通新入生は肉に群がるんだが」
魚の味に舌鼓を打っていると、見知らぬ先輩達が話しかけてくる。
「肉は自分で狩って食べていたので、それよりも普段食べる機会のない料理を選びました」
「へぇ、もう自分で狩れるのか。それなら他の料理に行くのも当然だ。特に魚はこの歓迎会の真の主役だからな」
言われてみれば魚料理に居るのは俺達新入生よりもガタイの良い生徒、つまり先輩達ばかりだ。
そして肉に群がっているのはさっきの教室で見た顔が多い。
「優秀な新人は歓迎だ。授業外の金策でも役に立つからな」
そう言えば食費を稼がないといけないんだよな。
「学生の金策って何かお勧めありますか?」
「そうだな、やはり一番人気なのは冒険登録をして魔物狩りをする事だ」
おお、冒険者! ファンタジーのお約束だな。
「授業があるから日にちのかかる護衛依頼や遠方に行く依頼は受けられないが、近隣の魔物を狩るついでに小銭も手に入るから人気だな。戦闘訓練にもなるし」
「あとは町の店で働く事か。手先が器用なら職人や薬師の所で働く手もある。卒業できなかった時の就職先になるかもしれないしな」
「卒業できない事ってあるんですか?」
「そりゃあるさ。ウチの学園は三年制なんだが、一年の最期に試験があるんだ。この試験に合格できないと退学だ」
「ええ!? 退学なんですか!?」
一発退学は厳しくない!? 留年とか出来ないの!? 食費は自前なんでしょ!?
「学園側も優秀な人材が欲しいからな。出来の悪い奴が寮の部屋に居座っても迷惑なんだよ」
ああそうか、寮の部屋には限度があるからか。
「貴族としても留年するのは恥だからな、平民が進級してるのに貴族が留年したら笑いごとだから必死だよ」
意外と貴族も大変なんだな。
金や権力で留年しても居座り続けるとかありそうだと思ったけど。
「ただ例外として学園が認める程の功績を上げた生徒は留年を一度だけ許可される。例えば強力な魔物から人々を守った事で大怪我を負った生徒とかは、治療に時間がかった事で試験に落ちても留年が許される」
「最も学園が認めてくれる程の功績なんてめったに達成できないけどな。だから留年した生徒は結構な実力者でもあるって訳だ」
「だから留年性を見たら馬鹿にするんじゃないぞ」
「分かりました」
異世界の留年は前世の感覚と真逆だなぁ。
先輩達は他にもいろいろな事を教えてくれる。
「学校では上級生と組んで部隊訓練を受けることがある。上級生が隊長役で下級生が兵隊役になって騎士として戦う時の練習をするんだ」
「この時に重要なのは上官役の命令をしっかり聞く事だ。自分ならもっとうまくやれるとスタンドプレーに走ると減点になるからな」
「そういうのは傭兵や冒険者のやる事だからな」
と、騎士と他の戦闘職が重視するものの違いなども教えてくれた。
「よし、それじゃあ今日はこんなところでお開きだ。皆明日からは頑張ってくれ!」
食事も終えてまったりお喋りをしていると、ハンテ先輩が言葉と共に解散を告げる。
「あー、美味かったなぁ」
「俺も魔物肉を狩りまくって喰いまくるぞー!」
新入生達は料理が美味かった事や、明日からのことに希望を抱いて部屋へと戻ってゆく。
しかし俺はそんな光景を見てなんとなく居心地を感じて先輩達に声をかける。
「先輩、後片付け手伝いますよ」
「おお? そんな気を使わなくていいんだぞ」
「せっかく歓迎して貰ったんですから、このくらいは手伝わせてください」
そうなんだ。俺が気になったのは歓迎会の後片付けだった。
ほら、前世の学校生活でもこういう役割って下級生の仕事だったじゃん? だからセットされた会場を放って帰るのってなんか後ろめたさを感じるんだよな。
「変わった奴だな。普通は料理に満足してさっさと部屋に帰るもんだが」
そう言いつつも椅子やテーブルを運ぶ手伝いをする俺を先輩達は止めない。
「手伝てくれてありがとう。改めて私はハンテ。よろしく頼む」
と、歓迎会の幹事をしていたハンテ先輩が声をかけて来た。
「キオです。よろしくお願いしますハンテ先輩」
「困った事があったら悩まずに同室の先輩に相談してみると良い。それでも解決しなかったら私に聞きに来ると良い」
「ありがとうございます」
「君みたいな気遣いの出来る新人は大歓迎だよ」
おおっ、寮のまとめ役の先輩に気に入られたっぽい?
でもホントは気遣いとかじゃなくて染み付いた後輩根性なんだよなぁ……




