第22話 不正を糾弾するもの
「異議あり!」
アリアナとの決着に疑惑が生まれたその時、勝敗に異議を告げる声が響いた。
「今の決着は明らかにおかしいです!」
そう言って現れたのは明らかに貴族、それも衣服から上位の貴族と分かる。
「試験参加者は名を名乗りたまえ」
審判が名を尋ねると、異議を唱えた生徒がバッと服を翻して名乗る。
「私はレダック=バルマイン。バルマイン伯爵家の長男だ」
「バルマイン伯爵家!?」
「マジかよ、大物貴族じゃないか!」
どうやら意義ありを唱えた貴族の少年はかなり大物っぽい。
「今の試合ですが、最期の瞬間明らかに女性受験者の動きが悪くなりました。私は彼女の試合を何度か見ましましたが、あのような負け方をする使い手には到底思えません」
レダックと名乗った少年の言葉に確かにと他の試験参加者達が同意する。
「男の方も悪い腕ではありませんでしたが、女性受験者の方が明らかに剣の腕は上でした」
そして俺をギラリと睨みつけるレダック
というかアリアナは女性受験者で俺は男かよ、男女差別では? いやどうでもいいけど。
「お前が何か不正を強要したのではないか?」
あまりにも堂々と疑いの言葉を投げつけてくるレダック。
いっそ清々しいくらいじゃん。
とはいえ心外だ。いくらアリアナが知り合いでも不正を頼むなんてありえない。
しかもこんな衆人環視の中であからさまな不正なんて論外だ。アリアナならもっとうまく不正できるだろう。いやさせないけど。
だいたい決勝戦まで来た時点で俺の合格はほぼ確定している筈だ。
それなのに折角の合格を不意にするような真似をして何のメリットがあるのか。
「どうした! 何故答えない!」
レダックはやはりそうなんだろうと勝ち誇った笑みを見せる。貴族の割には感情を隠すのが下手じゃないですかねぇこの人。
「それは聞き捨てならないな」
と、ここで俺達の間に一人の少年が割って入る。バレンだ。
「誰だお前は」
「バレン=ロードレック。ロードレック家の次男だ」
「ロードレック家!? こっちも結構な家系じゃないか!」
そうなのモブの人? ところでこの世界の貴族ってわざわざ長男とか次男を名乗るルールとかあるのか? 分かりやすくていいけど。いややっぱ余計な情報だわ。
「ロードレック家が何故庇う?」
「コイツは俺の対戦相手だ。その実力は俺が保証する」
バレンが俺の実力を保証すると、周囲がざわめく。
「それは君が弱かっただけじゃないのか?」
「なんだと?」
一瞬で険悪な空気になるバレンとレダック。
「そう思うならお前がキオと戦えばいい。その実力を自分の身で確かめてみろ」
「ほう、面白い。だが良いのか? 大勢の前で恥をかくことになるぞ」
あのー、俺を置き去りにして勝手に話が進んでゆくの勘弁してほしいんだけど。
「そんな事する必要はありません」
そんな一触即発の空気をアリアナが破った。
「アリアナ」
「私が負けた理由は一目瞭然。審判もそれに気づいていたからキオの勝利を宣言したんです」
え? マジ? と審判を見ると、審判もえ? 俺が? と言わんばかりにびっくりした顔で驚いている。うん、めっちゃ意外そうな顔してるぞ。
アリアナはそんな審判を無視して試合場の中に入っていくと地面を指差す。
「ここで私はキオに負けました」
アリアナが指さした地面か周囲に比べて明らかに土がえぐれていて、足場が悪そうになっている。
「私はの足場の悪い地面に誘い込まれた事で踏み込みに失敗して不覚をとったんです」
アリアナの説明に周囲が騒然となる。
「成る程、だから最後に動きがおかしくなったのか!」
「でもなんであそこだけあんなに荒れているんだ?」
「多分皆さんが試合をしていた際にたまたまこの場所で激しく動く人が多かったんでしょう」
まじかよ。スゲェ偶然じゃん。
「誘導というがそれが本当だったとしてもただの偶然じゃないのか!? 実力で負けた訳じゃないだろう! 偶然足場の悪い場所が決勝に選ばれ、偶然そこで切り結んだだけじゃないか!」
アリアナの証言に食い下がるレダック。それは本当にそう思う。
「あなたは戦場で殺されても実力で負けた訳じゃないから死んでないといえるのですか? キオなら別の場所で戦うことになったとしても別の勝ち方を見出したと思います。そもそもキオは足場の悪い森で沢山の魔物を相手に実戦経験を積んできました。地形を利用するなんてわざわざ考えるまでもない程に体に染み込んでいるんです」
いやそこまで染み込んでないよ。
「貴族との混合戦が始まってから試験管達が地面を整えたりする様子はありませんでした。間違いなく学園側が地形を利用する事も考慮して試合を進めていた証拠です」
でも審判は初耳みたいな顔してたけど……いや学園を運営する学園長あたりのお偉いさんの方針とか?
ともあれここまでハッキリと自分が負けた理由を説明されると、レダックも他の理由が思いつかないらしく反論が無くなる。
「話はついたようだな。実技試験の優勝者はキオ選手とする!」
「「「「おおぉぉぉぉぉぉっ!」」」」
「平民が優勝したぞ!」
「最後に残ったのはどちらも平民だったが剣の腕は間違いなく騎士を目指す相応しいものだったな」
「ああ、少々悔しいがフリーなら是非家臣に勧誘したいな」
「ロードレックが庇っていたし、あの家に囲われてるんじゃないか?」
「あー、そうか。しかしこうなると異議を唱えたバルマイン家は恥をかいただけだったな」
止めて、変なフラグ立てないで! あーほらレダックがこっち睨んでる!! 絶対今度こそ変な因縁出来ちゃったよ!
「ははははっ! 変な言い掛かりが付いたが丸く収まったな! 流石は俺に勝った男だ!」
と上機嫌なバレンが絡んでくる。
「庇って貰って助かりましたよ」
「ははは、詰まらん言い掛かりをする奴が悪いんだ! その内授業で試合をする事もあるだろう。その時に思いっきり叩きのめしてやれば奴もお前の強さを思い知るだろうさ!」
それはそれで余計に恨まれそうなんですけど。
ともあれこれで漸く入学試験も終わりか。
今日は本当に疲れたなぁ。
「それではこれより筆記試験に移る!」
と思ったら筆記試験もあったよ。
疲れた体でテストとか居眠りしちゃいそうだよ。
「せめて逆ならよかったのに」
「それについては同意だな」
「はぁ、アリアナ行こうか」
「うん」
俺が呼ぶとアリアナはトトトッと俺の横ぴったり引っ付くようについてくる。
「ふふ、キオに勝利を譲る為に全部の試合場の状態を悪くしておいてよかった」
……今、何か聞き捨てならないこと呟きませんでした?




