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女神の愛息は地方公務騎士を目指す  作者: 十一屋 翠


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第2話 初めての異世界生活と死闘

「はー疲れたー」


 異世界に転生した俺は、ひたすら草むしりに勤しんでいた。

 それと言うのも俺の住む村が農村だからだ。

 ファンタジー世界には草刈り機なんて便利なものはない。

 鎌は村じゃ貴重な鉄を使っているので子供は使わせてもらえない。

 つまり昔ながらの手作業という訳だ。


 はい、そうです。俺には前世の記憶があります。

 本当なら消えてしまった筈の前世の記憶が、何故か残っていたのだった。


「何でこんな事になったんだろうねぇ」


「キオー、ご飯だってー」


 そんな事を考えて黄昏ていたら、幼馴染のアリアナが飯が出来たと俺を呼ぶ。


「おー!」


 アリアナに返事をすると同じ姿勢で居続けた事で痛くなった腰を叩きながら立ちあがっておじさんの家に向かう。


「「「「いただきます」」」」


 皆でテーブルに座り、神への感謝の祈りを捧げるとまずおじさんがパンを食べる。次いで俺達も一斉にご飯を食べ始める。

 ご飯を最初に食べるのは家主の特権だからだ。


「モグモグ」


 口の中のパンは堅い。そして不味い。なんか中にツブツブしたものが混ぜ物として入ってるのは触感が変わって面白いけど、10年もすれば飽きた。


スープは小さな野草なんかが入っているが、アクが残っているのか少し渋く味も薄い。

それでも食べれるだけましだ。


「ご馳走様」


 パンとスープしかないからあっという間にご飯を食べ終わる。


「もっと食べたーい」


 アリアナが物足りないと不満を言う。


「しょうがないでしょ、冬も近いんだから食料を貯めないといけないのよ」


 けれどアリアナの我が儘はおばさんに窘められてしまった。


「むー、分かってるけどさー」


 とはいえアリアナが言う通り食事の量が減ったのは事実だ。

 おばさんは冬が近いからと言っていたけど、それだけじゃない。

 不作が原因で作物の収穫量が少なかったんだ。

 それに森で採れる山菜や狩りの得物も減っている。


「キオ、今日の仕事はどのくらいできた?」


 とおじさんが食後の白湯を飲みながら俺に聞いてくる。


「草むしりは終ったよ。食べれる奴は分けておばさんに渡したし、今日は干して明日乾いたのを燃やして灰にするつもり」


 そう、俺は10歳にして既に働いていた。

 というのも俺の両親は既に死んでいたからだ。

 俺が生まれた年に母は産後の肥立ちが悪くて病気にかかり死に、父は狩りの最中に運悪く魔物に襲われて死んだのだとか。

うん、魔物が居るんだよこの世界。おっかないね。


 そんな訳で生まれてすぐ天涯孤独になった俺は、父の親友だったおじさんに養われる事になった。

 とはいえ男手をタダで養うほどこの家も裕福じゃない。

 ある程度体が動くようになってからはすぐに自分が実の子供じゃないと知らされ、そして働くように言われた。

 文句はない。さっきも言ったけど赤の他人の赤ん坊の俺を育ててくれたんだ。感謝しかない。


「刃物の扱いも慣れて来たな」


「うん。もう薪割りで失敗もしないよ」


 自分の食い扶持は自分で稼げるようになれと、おじさんには色々教えられた。

 畑の手入れの仕方、マキの割り方、山菜や薬草の見分け方、そして獣を捕まえる為の狩りや罠の仕掛け方と様々だ。

 狩りの方はまだ10歳の子供なだけに弓の威力もいまいちで、さらに言うと子供に森は危険なので森の本当に外周、それも森の中から平地が見える距離までしか入っていけないというルールがあった。

だから得狩りの得物なんてめったに遭遇しなくて、もっぱら罠で捕まえたリスなどの小動物を捕まえるのが関の山だったりする。


「そうか、なら十の祝いを迎えたら家を出ろ」


「え?」


「お父さん!?」


 おじさんの言葉にアリアナが驚きの声を上げる。


ちなみに十の祝いというのはこの世界の成人式みたいなもんで、村の子供達を集めて10歳になったから一人前だよと祝うちょっとしたお祭りの事だ。


「お父さん急に何言ってるの!?」


「おかしなことじゃない。10歳になったら一人前だ。一人立ちしてもなにもおかしくない」


でもホント言うと10歳なんてマジで子供だから、実際にはもうちょっと大きくなるまで親の庇護下に居るのが常識だったりする。


「分かりました」


でも俺の場合は違う。俺は居候だし、それに……中身は立派な大人だ。


「キオ!?」


「10歳になったら森に入る許可も下りる。本格的な狩りも出来るから食うに困る事はない筈だ」


 森に入る、それは大型の獣や魔物が姿を見せる本当に危険なエリアへ入る許可が出るって事だ。


「お前の両親が暮らしていた家がある。村の共有物置になっていたが、俺が村長に頼んで家として使えるように許可を貰った」


「よく村の皆が納得してくれたわね」


 おばさんが共有倉庫を手放す事に同意して貰えた事に驚きの声をあげる。


「キオは働き者だからな」


 ああなる程、おじさんの指示で薪割りなんかを手伝った経験がここで活きた訳だ。


「最低限生活できるようにはしてある。畑も追加で耕させていた奴があったからアレはお前の畑にしろ。足りなければ自分で耕せ」


「え? あの畑も俺が使って良いの!?」


「お前が耕したモンだろうが」


 おいおい、もしかしておじさん、あの頃からここまで考えてた?

 だとしたらこの人、かなり先が見通せるって言うか地頭良くない?


「ありがとうおじさん」


「ガキを追い出すような奴に礼を言うんじゃねえ」


 寧ろここまでして貰ったら礼を言うしかないって。

 こうして俺は10歳の誕生日を機に一人立ちする事になったのだった。


 ◆


「おおー、狭いながらも愛しの我が家って奴か」


 翌日、村の共有倉庫だった家に俺はやってきた。

 中はスッカスカで何もないけど。

 そこに俺はおじさんから選別として貰った毛布を敷く。

 これと今着てる服、それに五歳の誕生日におじさんから貰った貴重な鉄のナタが俺の全財産だ。


「はは、ゲームの初期装備みてぇ」


 でもここから俺の新しい生活が始まるんだ。


「よーし、頑張るぞ!」


 10歳の誕生日を迎えた事で、俺は森へ入る許可を貰った。

 だからいつもより深い場所で採取や狩りが出来る。


「弓、ナタ持った。念のため薬草もある。深い所まで行く気は無いから食べ物はなし! よし行くぞ!」


 俺は意気揚々と森へ向かう。


「おーキオ、森へ行くのかぁ?」


「うん!」


 村で唯一の騎士のお爺さんが声をかけてくる。


「そうかー、気を付けるんじゃぞー。儂もついて言ってやりたいんじゃがなー」


「そんな事言ってるとまた腰をやっちゃうぞー」


「よけいなお世話じゃ!」


 爺さんは村の防衛と揉め事がおこった時の仲裁役に国から派遣されてきた騎士だ。

 前世の知識で言うと裁判官と警察をセットにしたような仕事で村の中じゃかなりの権力があるんだけど、見ての通りヨボヨボもお爺ちゃんで腰を悪くしてるから、防衛の役には全然役に立たないんだよね。

 まぁこの村は基本的に平和そのものだから、爺さんの出番は揉め事の仲裁くらいしかないんだけど。


「ほんに気を付けろよー」


「はーい」


 という訳で森へ入ってゆく。

 これまでは森の外が見える所までしか入っちゃいけなかったけれど、今日からは違う。

 俺はずんずんと森の中へと入ってゆく。


「っと、いけない。目印チェックと」


 俺は木に刻まれた模様を確認する。

 これは村の人間が森の外、村の方角を教える為に刻んだ交通標識みたいなもんだ。

 これを見ればどっちが森の外かが分かり、更にこれが刻まれていない場所に来たら村からかなり離れているから急いで戻れって意味でもある。


「やった、ネロ芋だ!」


 さっそく食材を発見する。

ネロ芋は味はイマイチだけど風通しの良い暗所においておくと長持ちするから冬の保存食に丁度いいんだよな。


「でも小さいな」


 最近のネロ芋は昔に比べて小さくなっていた。俺が大きくなったからというのもあるけど、それでも明らかに小さくなってる。

 多分大きくなる前に採取したことと、大物はもう皆が採り尽くしたからだろう。


「最近は食べ物が少ないからな。コイツでも貴重な食べ物だ。さて、この調子で罠も仕掛けておくか」


 俺は背負い袋にネロ芋を仕舞うと、獣用の罠を仕掛けて他の場所に採取に向かう。


 ◆


「んー、ないなー」


出だしこそ好調だったものの、その後の採取はイマイチだった。

 何とか見つかった食材も小さいものばかりで労力と成果が到底釣り合わない。


「それでも何もないよりはマシなんだけどさぁ」


 はー、後は罠に獲物がかかってると良いんだけどな。

 罠の場所まで戻ってくると、ガサガサと音が聞こえてくる。


「んん、もしかして!?」


 見れば罠を設置した場所からモフモフとした尻尾が動いているのが見える。


「リスだ!」


 リスは尻尾を激しく動かすもののそこから移動する気配がない。

 間違いない、罠にかかって逃げれなくなってるんだ!

最後の最後に獲物がかかった事で、俺はウキウキでリスを回収に向かう。

だから、俺は気付くのが遅れてしまった。


「リスー!」


「ギャギャー!」


 俺がリスに手を伸ばすのと同時に、藪の中から緑色の手が現れた。


「え?」


「ギャ?」


 何これと顔を上げれば、藪の中には緑色の人間のような存在が同じくお前誰とばかりに首をかしげている。

ええと、緑の肌の人間みたいな生き物と言えば……


「ゴブリンだぁーっ!」


「ギギェンギャーッ!!」


 何でこんな所に魔物が居るんだよ!?

 コイツ等もっと森の奥にいるんじゃなかったのかよ!?


「あわわ弓弓っ!!」


 俺は慌てて後ろに跳び退ると、肩にかけていた弓を構える。

 しかし絃から指を放したのに矢が飛ばない。


「って矢をつがえるの忘れてた!」


 合わせて背中の矢筒に手を伸ばすが、その時には目の前にゴブリンの姿が迫っていた。


「ギャギャー!!」


 ゴブリンが蔦で括られた石斧を振りかぶって来る。


「うわぁぁあぁ!」


 間一髪俺は転がって回避に成功する。


「ゆ、弓!」


 しかし矢筒に手を伸ばしても矢が無い!


「って、散らばってる!!」


 転がって避けた所為で、矢が散らばっていた事に俺は今更気付く。



「ギャギャギャ!!」


 ゴブリンが再び石斧を振り回して襲ってくる.


「おわぁぁぁぁ!!」


 再び転がってなんとか回避。


「弓は駄目だ! ナタ……ってあれぇ!?」


 気が付けば俺はナタを持っていなかった。


「しまったぁー! 弓を使おうとして放り捨てちゃった!」


 すぐに周囲を見回すと、無事ナタを発見する。


「げっ!」


 ただし、その一は俺の前に立ちふさがるゴブリンの後ろ。


「最悪の位置じゃねーか!」


 って言うか最初にナタで迎撃しておけばよかった! 何で至近距離で弓使おうとしたんだよ俺! パニックになり過ぎだろ!


「と、とにかく何とかしてナタを回収すれば……」


 この時の俺は本当に焦っていた。だからこの場はナタを失ってでも森の外に逃げるべきだったんだ。

 そうすればゴブリンも人間が沢山いる森の外まで追いかけようとは考えず、獲物のリスを自分の物に出きてご機嫌で帰って行ったことだろう。


 でも生まれて初めて魔物と遭遇して、慌て過ぎていたのと、大事な財産である鉄のナタを失う事を躊躇ってしまったんだ。

 その結果、俺の視線はゴブリンにもバレてしまい……


「ギャギャ?」


 なにを見ているんだとゴブリンがこちらへの注意を残したままチラリと後ろに視線を向ける。

そして森の土の上でキラリと光る鉄の輝きを見つけてしまった。


「ギャウ?」


「あっ」


 ゴブリンは俺のナタを手に取ると、それをブンブンと振り回す。そして片手に持つ石斧ともう片手に持った俺のナタを交互に見つめると、顔を上げてニヤーッといやらしい笑みを浮かべた。


「ギャギャギャオーッ!」


「うわぁぁぁぁぁ!!」


 敵の手数が二倍になって俺は必死で逃げ惑う。

 まともな剣術なんか学んでなくても、単純に刃物を振り回してるだけで危険極まりない。


「おおおおっ!!」


「ギャギャオオーウ!」


 もはや俺達はリスの事も忘れて逃げて追手を繰り返す。


「はっはっはっ!」


「ギャギャギャーーオ!!」


 新たな武器を手に入たゴブリンは完全に調子に乗っていた。


「くっそ! 調子に乗んじゃねーぞ!!」


 といっても今の俺には逃げる事しか出来ない。

 何とか、何とか逆転の方法は……!


 そんな考え事をして集中力を欠いたのがいけなかったんだろう。


「おわぁ!」


 俺は木の根に足を引っかけて盛大にスッ転んでしまった。


「あたたた……」


 鼻と全身の痛みを堪えながら立ち上がろうと地面に手をつくと、その前に緑色の足が現れた。

 はい、ゴブリンの足です。


「ギャギャーア」


「……」


 や、やばい。下手に動いたらやられる。

 でも何もしなくても……


「ギャオオーーーオ!!」


 ゴブリンが両手に掴んだ武器を振りかぶる。


「っっのぉ!」


 立ち上がろうとするも痛みで体が上手く動かない!


「~~~~っ!!」


 ゴブリンが両手を振り下ろす。

 死ぬ!

 無理!

 避けられない! 


「ぁ……」


 頭が真っ白になる。

 思い浮かぶのはゴブリンに切り殺される未来だけ。

 死ぬ。やっと一人立ちして森で狩りが出来るようになったと思ったのに。

 折角転生したのに、もう死ぬのか? まだ前世の半分も生きてないんだぞ!?

 というか、何一つやりたい事をしてないんだぞ!?

 食う為だけに働いていただけだ。転生する前に願ったような、やりたい事もまだ見つけてないんだぞ!?


「なのに」


 石斧とナタが迫る。


「こんな所で」


 死を伴った風が迫って来る。


「死ねるかぁぁぁぁぁ!」


 瞬間、額に熱を感じると共に体に力が戻った。


「っ!」


 何が起きたか分からない、だが、俺は本能のままに前に向かって突っ込んだ。


「ギャウアッ!?」


 ゴブリンの腹目掛けて頭突き気味のタックルをかます。

 子供の体だけど、地面を支えに突っ込んだ事でゴブリンのバランスが崩れる。

 それが幸いして、ゴブリンの攻撃の軌道がズレる。


 ズシャシャ!!

 腕と肩に熱を感じる。


「うっ!」


『止まるな! 武器を拾え!』


「!?」


 どこからか聞こえて来た声に俺は目を開くと、地面に転がっていたナタを掴む。


『叩きつけろ!!』


「おぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ドチャッという嫌な感触が手に響く。


「ギギャアアアアア!!」


 ゴブリンの悲鳴が森の中に響き渡る。


『攻撃を続けろ! 死にたくないなら続けろ!』


「ああああああああっ!!」


 俺は必死でナタを叩きつける。


『もっとだ! もっと叩きつけろ! 敵はまだ生きているぞ!』


「うわぁぁぁぁぁあ!」


 声に従い、俺はただひたすらにゴブリンへナタを叩きつける。


「ギャア!」


 肩に痛みが走る。

「ああっ!」


『堪えろ! 出来の悪い石器だ! 大した傷じゃない!』


 滅茶苦茶痛いんですけどぉぉぉぉぉ!

 痛みを必死に怒りと勢いに変換して、俺はゴブリンにナタを叩きつけ続ける。


「うあああああああああっ!!」


 そしてどれだけ時間が経っただろうか。


「はぁ……はぁ……」


 もう腕が動かない。でも攻撃を続けないと……


『よくやった。お前の勝ちだ』


「え?」


 声に呼ばれて前を見れば、そこにはグチャグチャになったゴブリンの死体らしき肉塊が広がっていた。


「うっ、オェェェェェェェッ」


突然のモザイク無しのグロ画像匂い付きと遭遇してしまい、思わず吐いてしまう。


「おえぇぇぇぇぇっ!!」


キツッ! めっちゃキモ! もう肉食えねぇ!



「おろろろろろ」


 胃の中の食べ物だったものが全部吐き出され、胃液すらも出なくなったころ、ようやく俺は落ち着きを取り戻した。


『やれやれ、たかがゴブリン程度に大げさな奴だ』


「たかがってお前! めっちゃグロ画像見せられたんだぞ!!」


『お前がやったんだろうが。生き残る為に』


「それそうだおけどさ……ってアンタ誰!?」


落ち着きを取り戻した事で今更ながら俺は自分が見知らぬ誰かと話していた事に気付く。

けれど周囲を見回してもだれの姿も見当たらない。


『はははは、どこにもおらんぞ。俺はここにはいないからな』


「ここに居ない?」


『そうだ。俺はお前の頭に話しかけているんだ』


 頭に? 何それテレバシー?


「その、じゃあアンタは一体誰なんだ? 何で俺を助けてくれたんだ?」


 声の主の正体は分からない。けど、この声が無かったら俺は何も出来ずに死んでいたのも間違いない。


『ははは、やっとか。いいだろう、よく聞け』


 声の主がもったいぶった物言いをしながら、その正体を明かす。


『俺は戦神、お前の……父親だ』


「…………は?」


 これが、転生した後の俺が関わることになる神々との最初の出会いだった。


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お母さんのつぎはお父さん!? 
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