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女神の愛息は地方公務騎士を目指す  作者: 十一屋 翠


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第18話 春の訪れ、騎士の訪れ

 春になった。

 森の主の肉と素材のお陰で村の住人は誰一人飢えることなく、無事冬を乗り越える事が出来た。


「森の中を回って来たが、主が居なくなったことで少しずつ森の恵みも戻ってきている」


 猟師のおじさん達からも森の環境が回復してきていると報告が上がって来る。


「これなら森の奥の魔物達との遭遇も減るだろう。まだ子供達が入るには危険だがな」


 一度壊れた自然が回復するのは難しい。特に食料関係は命に関わるから人間だけじゃなく魔物や動物も小さいうちから食べて完全回復までには時間がかかるだろう。


『ん、大丈夫。この世界は魔力で成長が促進される。この森の規模なら夏には元通りになる』


 この世界植物の生命力強すぎない?

 大丈夫? 森の浸食スピードが速くて村が森に沈んだりしない?


『んー、植物魔物の暴走でも起きない限り大丈夫。一応』


 一応!?


『過去にはそういった事例もあったな。その時も主の植物魔物が退治される事で被害が鎮められた』


 ほえー、異世界ってちょっとした事で大ピンチになるんだな。


『それよりもそろそろ騎士学校の入学の季節だろう。準備は良いのか?』


「そうだった!」


 そうなのだ、春になったら俺達は騎士学校に入学する事が決まっていた。

 入学が近づくと騎士様が連絡を寄こしてくれるらしく、それまでに準備をしておかないとだ。


「つっても荷物なんてたいしてないけどね」


 俺の荷物なんてせいぜい服と剣とナタくらいだ。

 あとは主を倒した時に得た素材の一部の代金。

 本当は全部村が冬を越す為に提供したんだけど、俺が騎士を目指すなら学校に通っている間の生活費は必要だろうって村長が売り上げの一部をくれたんだ。


「騎士学校かぁ、どんなところなんだろうな」


 やっぱ騎士を目指すだけあって貴族が多いんだろうか?

 そして平民が騎士になろうなんて生意気な! みたいな定番の展開がくるのかな。


 それから数日後、遂に騎士様からの手紙が届いた。

 手紙は偶に村に来る行商が運んでくるので明確にいつまでに来いとかは書かれておらず、行商の帰り道に同行させてもらう形だった。


「代金は払って貰ってるから、明日の朝に出発するよ」


「分かりました!」


 幸い行商のおじさんは昔からこの村に商品を売り買いしにくる人なのでそれなりに面識がある。


「それにしてもキオ坊が主を倒して騎士に推薦されるとは、大したもんだよ」


「運が良かっただけですよ。騎士様の力を借りれたからこその勝利だし」


「それでも主に挑んだんだから大したもんだ」


 なんか照れるな。


「しかし何でアリアナの嬢ちゃんまで騎士学校に行くことになったんだ?」


「あー、まぁ色々ありまして」


 そうだよね。普通に考えたら村の女の子が騎士学校に行くとか不思議だよね。

 ちなみにアリアナは冬の間に凄いことになっていた。どう凄いのかはおいおい説明する機会があるだろう。


 ◆


「それじゃあ行ってきます!」


「気を付けるんじゃぞキオ」


「頑張ってなキオ!」


 翌朝、行商のおじさんと共に旅立つ俺達を村の皆が総出で見送りに来てくれた。


「アリアナ、気をつけてな」


「無理だと思ったらいつでも帰って来ていいのよ」


「うん、大丈夫」


 対してアリアナとおじさん夫婦の別れの挨拶は凄くあっさりしていた。


「行こ、キオ!」


「いいのか? もっと話したい事とかないのか?」


「大丈夫、昨日のうちに終わらせたから!」


 そういうものなのか? まぁこういう時は女の子の方がさっぱりしてるのかもしれないな。


「じゃあ行くぞ! 乗ってくれ」


「「はい!」」


 荷台に乗りこむと、馬車がガタンと揺れて動き出す。


「「「「頑張れよー!」」」」


「行ってきまーす!」


 こうして、俺は生まれて初めて村を出た。


 ◆


 それから数時間、凄く退屈だった。

 最初のうちこそ森以外の村の外に興奮したんだが、街道は特に何か珍しいものがある訳でもなく代り映えのしない景色。


「馬車の上じゃ剣の修行も出来ないしなぁ」


 そして暇つぶしのゲームもないので暇を持て余す。


「町までどれくらいかかるんですか?」


「そうだなぁ。大体丸一日ってところか。なんかあったら野宿も考えんといかんな」


 うおお、一日丸々暇を持て余すのか。

 こんな事なら何か簡単なゲームでも作っておけばよかったな。

 そんな風に暇を持て余していたら、ふと違和感を感じた。


「ん?」


 違和感に周囲を見回すと、近くの木々の陰に何か動くものを発見する。


「あれは……魔物か!」


 間違いない。あれは魔物だ。

 物陰に隠れてこっちの様子を伺っているらしい。


「丁度いい、アイツでちょいと運動を……」


 だが、魔物相手に体を動かそうとした俺の肩を風が抜ける。

 いや違うアリアナだ。


「アリアナ!」


「魔物が居る!」


 アリアナはナタを片手に魔物が隠れている場所へ一直線に向かう。


「ああもう!」


「な、何だどうした!?」


「魔物です!」


 俺はアリアナに遅れて馬車を飛び降りる。

ただし向かう方向はアリアナの向かった方角じゃない。

 馬車の前方向にある茂み!


「そこだ! エアスラッシュ!」


「ゲェェェェ!」


 姉さんから習った風の斬撃魔法で茂みを切り裂くと、そこに隠れていたが悲鳴を上げて飛び出してくる。


「コボルトか!」


 出てきたのは犬の頭を持た小柄な魔物コボルトだ。

 知能はゴブリンとどっこいだが、コイツ等は鼻が良く獲物の匂いを頼りに執念深く追いかけてくる。


「俺がコイツ等を引き受けます! 馬車で突っ切って!」


「わ、わかった!」


飛び出してきたコボルト達は4体。

2体が棍棒をもち、のこり2体がかなり長い棒をもっていた。

 奇妙な事にコボルト達の持っている長い棒は二本の棒を紐で括って更に長さを延長してあったんだ。


「なんだアレ? 長槍?」


『いや槍替わりではないな。成る程。そう言う事か。最初に側面から奇襲をかけ、それに驚いて馬車のスピードを上げたところで茂みからあの長い棒を突きだして車輪にひっかけ横転させようとしたのだろう』


「コボルト思った以上に賢くない!?」


 とはいえアリアナが飛び出した事でコボルト達の作戦は台無しだ。

 俺は作戦が滅茶苦茶になって戸惑っているコボルト達の懐に入ると、先頭の一匹を切りつける。


「ギャウ!」


 仲間の悲鳴に我に返ったコボルト達が後ろに下がって武器を構える。

 やっかいなのは長い棒を持ったコボルトだ。間合いが長いから攻撃を避けるのが厄介だ。


「なので魔法でケリをつける! エアスラッシュ!」


 所詮は木の棒なのであっさり魔法で切り裂かれ、憐れ長槍はただの棒きれとなった。


「そりゃあ!」


 コボルトは強さもゴブリンと同程度だったようで、あっさりと勝負がついた。


「アリアナは!?」


「こっちはもう終ったよ」


 アリアナの援護に向かおうと振り返った俺はその光景に唖然となる。


「大したことない魔物だったね」


 そこには二十体近い数のコボルトの死体が積み上がっていたからだ。


「そっちにも魔物が隠れてたんだね。流石キオ! 魔物の奇襲を見抜いてたんだね!」


「あ、うん」


 見抜いてたは見抜いてたんだけど、こっちにこんなにいる事までは見抜けませんでした。


「はぁー、スゲェもんだな。最近は女の子も強くなったもんだ」


 いやおじさん、アリアナの場合は強くなったじゃなくて『凄く強くなった』なんだよ。

 何せ冬の間鍛えに鍛えたアリアナは、単純な剣の腕前だけなら俺をあっという間に超えてしまっていたのだから……


『いや才能というのは残酷だな』


『ん、弟は魔法に専念すべき』


 本当に、才能って残酷だよね……!!

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