第13話 未来への勧誘
「はー、つっかれたー」
村の皆にアリアナとの仲を変に勘違いされた所為でホント疲れたよ。
宴会が終わって家に送り返すまでピッタリくっついて離れようとしないし、おじさんの家に着いてからも一緒に寝よって甘えるしで諦めさせるのが大変だった。
そのうえおじさん達もお前なら良いぞとか言ってアリアナの背中を押す始末だし。
「俺の中身はおっさんなんだから勘弁してくれよ」
流石に子供に手を出す訳がないっつーの。
暗くなった道を進み、我が家に近づくと、家の近くに灯りが見えた。
「誰だ?」
冬場も近い事から薪を惜しんで夜に明かりをつけて出歩く人間は少ない。
村の中なら月明かりでも多少は見えるしな。
一体誰だと思って近づいてゆくと、見覚えのある姿が見えてくる。
「ガリン爺さんと……騎士様?」
何でガリン爺さんが騎士様と……ってそうか。ガリン爺さんは騎士だっけ。
「無事帰ってこれたようじゃの」
「うん、お陰様で」
ガリン爺さんは村の皆のように騒ぐことなく、何気ない様子で俺を出迎える。
「あっ、そうだ。これ返すよ」
借りていた剣を腰から外すと、俺はガリン爺さんに剣を返す。
しかしガリン爺さんは手のひらを向けて首を横に振った。
「返さんでええ。それはお前にやる」
「は? 何言ってんの!? 剣だよ!?」
剣は鉄の塊、俺達農民にとっちゃ一財産だ。
売って良し、溶かして鉄の農具にしても良しと金にしかならない。
「これは騎士になった時に授かったものなんだろ? それを勝手にあげたら怒られるだろ」
事実、以前ガリン爺さんに剣を見せて貰った時は「これは騎士の証であり誇りじゃ!」って何より大事なものだって言ってたじゃん。
「儂はもう騎士失格じゃ。村の皆が大変な時に立ち上がる事も出来なんだ」
「でもそれは腰を悪くしてる所為だし、ガリン爺さんだって代わりの騎士を寄こしてくれって国に頼んでたんだから悪くないだろ」
「いいや、歳は理由にならん。騎士の名を与えられた者が戦えなかった事が恥なのじゃ。じゃから儂は……今日を以て儂は騎士を辞する」
ガリン爺さんが信じられない事を口にする。
「はぁー!? マジで!? でも国が騎士を辞めさせてくれなかったんだろ!? 勝手に辞めていいのかよ!?」
「それはこちらの方が認めてくださった。わが村の窮状と儂がもう騎士として国の為に働けない事をな」
「うむ、王都いやある程度の町でもガリン殿ほどの高齢の方を騎士として働かせる事はあり得ん。国に何度も人員の交代を要請してそれが受理されなかった事は間違いなく国の怠慢だ。私が責任を以てガリン殿の代わりとなる人員を用意させる」
成程、それで騎士がガリン爺さんと一緒にいたのか。
「剣の事は気にしなくていい。元々騎士になった者には全員配られる量産品だ。寧ろこれまで買い替えることなくずっと同じ剣を使い続けて来た事に驚いたほどだ」
マジか、なんか国から与えられた大事な剣とかじゃなかったのかよ。
「そういう訳じゃから、もう剣を振れぬ儂よりもお前が使った方が剣も喜ぶ。儂に変わって村を守った報酬と思って受け取れ」
俺はチラリと騎士を見ると、騎士もそうしろと頷く。
「分かったよ。ありがたく使わせてもらう。でもうっかり戦いの最中に折っても許してくれよ」
「絶対に許さん、折るな」
「おおーい! 量産品なんだろ!?」
「冗談じゃ、がっはっはっ」
おいおい、急にマジな顔になったから本気かと思ったじゃねぇか。
ビビらせるなよガリン爺さん。
「それと私からも話があるんだが」
と、ガリン爺さんの横に居た騎士が俺の下までやって来ると、しゃがみ込んで俺と目線を合わせる。
不思議とフルフェイスで中の見えない兜の奥から優し気な気配を感じる。
「少年、騎士に成ってこの村を治めないか?」
「え?」
「君は主討伐で見事な活躍を果たした。不作の影響はこの村だけでなく近隣の村や町にも影響を及ぼしていたんだ。そしてあの主はその巨体から不作を加速させていた。故に私は主の討伐に赴いたのだ。君の活躍はこの村だけでなく近隣の村や町を救った事になる。騎士に推薦されるには十分な戦果だ」
驚く俺をよそに騎士は喋り続けるが、俺は驚きのあまりその言葉が頭に入ってこない。
「今夜はガリン殿の好意で村に泊めてもらう事にした故、一晩よく考えるといい」
そう言って騎士はガリン爺さんと一緒に去っていった。
そして一人取り残された俺は、呆然とその後姿を見つめる事しか出来ないでいた。
二人の姿が見えなくなり、俺は今しがたの会話を反芻する。
ガリン爺さんの剣を貰い、更に騎士からとんでもない提案をされてしまった。
「俺が、騎士に……!?」
この誘いこそが、今後の俺の人生を決める運命の分かれ道となるのだった。




