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女神の愛息は地方公務騎士を目指す  作者: 十一屋 翠


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第11話 戦い終わってまたピンチ?

「倒せちゃったよ」


 事切れた主の死骸を前に、俺達は木にもたれかかって大きく息を吐いて脱力する。

 まさかあんなあっけない決着になるとはなぁ。


「まさかこれ程の相手とは私も予想外だった。君の協力が無ければ危ない所だった。本当に感謝する」


 一緒に戦った騎士も流石に疲れたのか、木を背もたれにしながらお礼を言ってきた。


「いえ、こっちも目的があってやった事なので」


「そう、それだ。一体何故主に戦いを挑むなどという危険な真似をしたのだ。罠を用意していたと言う事は偶然迷い込んだ訳ではあるまい? あのような危険な存在は我々騎士に任せるべきだ」


「あーそれはですね……」


 まぁそうなるよね。騎士の仕事と言えば人を守る事なんだし。

 でも一緒に戦った感じじゃこの人も悪い騎士じゃなさそうだし、ここは素直に事情を説明しよう。


「……何と!? 近隣の村はそこまで困窮していたのか!? 何という事だ……」


 事情を説明すると、騎士は本当に驚いたらしく、村の窮状に心を痛める様子を見せる。


「委細承知した。ならば主の肉や素材は全て持っていくといい」


 そしてあっさりと肉や素材を譲ると言ってくれた。


「良いんですか!?」


「ああ、君の協力がなければ倒しきる事は出来なかった。最悪の場合半端に傷を負わせた状態で逃し、手に負えなくなるところだった」


『うむ、手負いの動物は生き残る為になりふり構わず暴れるからな。被害が拡大する危険は確かにあった』


 そんな相手を俺単独で狩りに行くよう唆したのかよこの人、いや神は。


「ただ、頭部は主を討伐した証明として私が貰うが構わないな」


「はい、大丈夫です。騎士様が一緒に戦ってくれなかったらとても倒せませんでしたし」


それに俺一人じゃ主が俺だけを追い掛け回して、息を整える事も出来ずに体力が尽きて死んでただろうからなぁ。


 それに頭は食えないからこっちも持て余すもんな。

 でも討伐の証明っていうけどあれかな。中世の貴族が狩った獲物をはく製にして飾ったみたいに主の頭を飾るのかな?

 いや、トラックサイズの三つ角の牛の頭って、トラックの本体部分サイズじゃん。

そんなバカデカいのを飾れる家とかさすがにないよな。


『良かったな。食料として不要な頭部だけで済んだのは最良の結果だ。あの角はそれなりに金になったかもしれんが、魔物化した主なら骨や皮だけでなく内臓も売り物に出来るぞ』


 まじか、熊の肝みたいなもんなんだな。


「問題は主の巨体をどう運ぶかだな」


と、騎士が肝心の主をどう運ぶかと頭を抱える。


「少年、すまんが村に戻って男手を連れてきてもらえるか。私は主の死骸が他の魔物に……」


 と、そこで騎士が言葉を切って腰の剣に手を当てる。


「しまった。遅かったようだ」


「え?」


「「「「グルルルル」」」」


 そこで俺は気づいた。自分達が何者かに囲まれていたことに。


「魔物!?」


「ゴブリンにオーク、主を恐れて隠れ潜んでいた連中か」


 物陰から現れた魔物の数は予想以上に多く、騎士の言ったようにゴブリン、オーク、それに大きな狼や熊などの獣の姿もあった。

 って囲まれてるじゃん!


『主によって森の恵みの悉くを奪われていたからな。餓死寸前になていたところで主が居なくなっただけでなく、その肉まで手に入るとあれば襲わない手はないな』


「どどど、どうしよう!?」


 流石にこんな数に一斉に襲われたらひとたまりもないぞ!?


「くっ、仕方ない。ここは主の肉を諦めて逃げるんだ」


「でもそうなったら村が!」


「確かに肉は食いつくされてしまうだろう。だが連中も満腹になれば骨までは食わないだろう。最低でも主の頭の骨を回収すれば、後で私が手を回して村に可能な限りの援助をすると約束する」


 援助って言うけど、どのくらいの援助ををしてもらえるんだ?


『本来手に入る金と肉には到底足りんだろうな。だがまぁ命には代えられんだろうし、少なくともお前の幼馴染は助けられるだろう? 今はそれで良しとするべきだな』


 でもそれじゃあ村の皆は助けられないってことじゃないか。

 せっかくここまできたってのに! 肝心の所で全部かっさらわれるってのか!


「くっ! どうにもならないのかよ……」


『ん、なんとかしてほしい?』


 その時だった。突然見知らぬ女の人の声が聞こえたんだ。


「え?」


 思わず周囲を見回すも、誰の姿も見当たらない。いるのは騎士と魔物達だけだ。


「どうした少年」


「あ、いやその、今……」


 しかし騎士は今の声が聞こえなかったのか、キョロキョロした俺に訝しげな声をかけるだけだった。


『ん、いい?『ゴ ラーガ オグヌス ガルガランダ ロ アレアリンア バ ロガンザ』と叫ぶ』


 しかも声の主はこっちの戸惑いを無視して話を進めるって言うか何それ? 呪文?


『急いだほうがいい。魔物達は今にも奪おうとしてる』


「わ、わかったよ! 『ゴ ラーガ オグヌス ガルガランダ ロ アレアリンア バ ロガンザ』と叫ぶんだ』!!」


「「「「っっっっ!?」」」」


 俺が発した奇妙な言葉を聞いた瞬間、魔物達がビクリと体を震わせた。

 一体何が起こってるんだ? 何かの呪文だったのか今のは?


「な、何だ今のは? 魔法なのか?」


 いや、俺の方が知りたいです。


『おいお前!』


『ん、話はあと。次は『ゴーゴーガ メラメヌンザ バーバーゴ オヴ ペンネル ゾザ』と叫ぶ』


「『ゴーゴーガ メラメヌンザ バーバーゴ オヴ ペンネル ゾザ』!!」


 俺は声の主に言われるままに謎の呪文を唱え続ける。


「「「「…………」」」」


 すると俺の呪文を聞いた魔物と獣達は互いに顔を見合わせ、そして静かにひれ伏した。


「魔物がひれ伏した? 何故だ?」


だから俺が聞きたいです。俺は一体何をしたんだ!?


『主を倒した俺が新しい主だ。俺に従うのなら前の主の内臓をお前達にやろうって言った。おめでとう、今日から君がこの森の主』


「俺が森の主っ!?」


 何それ聞いてないんですけど!?


『ん、危ない所だった。間に合って良かった。感謝するべし』


 ええと、ありがとうございます?


『むふー』


『おい、何でお前がしゃしゃり出てくるんだ! コイツは俺の息子だぞ!』


 んん? 声の主って父上の知り合いなのか?


『もとは女神の息子。それにこの子には私も加護を与えてある』


『何だと!? ああ! ホントだ! お前何勝手に人の息子に加護……って寵愛だと!?』


 え? 何? 俺また加護を貰ってたんですか?

 って事はこの声の主もやっぱり神様なの?


『ん、私の事は姉上と呼ぶように。あと早く主の腹を捌いて皆に臓物をあげる。皆待ってる』


「あ、はい」


 俺は謎の声の主にいわれるがままに主の腹を割いて内臓を取り出すと、魔物と獣達から歓喜の雄たけびが上がる。

 言葉はわからないけれど、興奮しているのははっきりとわかる。

 っていうか、狩りで内臓を取り出した事は何度もあるけど、このサイズになると内臓が俺よりもデカくてキツいんですけどぉ!


「お、おい何をするんだ!?」


 そして一人置いてけぼりの騎士が俺の突然の行動に困惑の声を上げる。


「えっと、魔物達に主の肉と骨に手を出さない代わりに内臓をやるって約束したんです。非常事態って事で勘弁してください。元々内臓は俺の取り分ですし良いですよね?」


「いやそれはそうだが君は一体……なぜ魔物の言葉を?」


 そりゃ気になるよなぁ。どうするよこれ。下手したら俺が魔物の仲間と思われんじゃねーの?


「ええと、昔旅の魔法使いに魔物の言葉を教わったんです。いざというときに交渉できるからって」


「魔法使いが魔物の言葉を!? いや、魔法使いなら…出来る……のか?」


 半信半疑ながらも騎士は俺の言葉に納得してくれたっぽい。

 

 俺は次々に寄って来る魔物と獣達に順番に内臓を切っては与えてゆき、ようやく最後の魔物に内臓を与えた頃にはすっかり血まみれになっていた。


「うげー、全身血まみれ」


『ん、何処からどうみても危険な殺人鬼』


「勘弁してー」


 ともあれ、この謎の声の主のお陰で、俺達は無数の魔物と獣達と争うことなく窮地を切り抜けたのだった。

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