第10話 咆え猛る猛追
突然主の攻撃パターンが変わった。
一瞬で姿が掻き消えたと思ったら、まるでハンマーを叩きつけたかのように地面に半分埋まっていたんだ。
「ブモォォォォ!」
更にそこから回転を始める主。
「うわわわわわっ!」
主の回転に巻き込まれ、周囲の土や石がまるでマシンガンのように飛んでくる。
「あたたたたっ!」
土はともかく石はマジで痛い。
『土にも気を付けろ! 高速かつ回転がかかっている所為でヤスリのようになっているぞ! 喰らい続けると肉を削られる!』
「うぇっ!?」
見れば土を受けた肌にうっすらと血がにじんでいる。
「ひぇっ」
土を飛ばすだけでこれかよ!
『障害物を盾にしろ!』
「はい!」
俺は堪らず物陰に隠れると、主の土砂攻撃から身を護る。
そして暫くすると土砂が収まる。
「よし、今のうちに……」
再び赤いマントを手に主の注意を向けようと物陰から出た瞬間、主が真上から突っ込んできた。
「って、おわぁぁぁぁぁ!」
間一髪飛びのくと、主は下にあった木々をなぎ倒して転がっていく。
「ひえええ、ブルドーザーかダンプかよ」
しかも頭部の先端にはツノが三本もあるから、まるで刃物を取り付けたボールが転がってるみたいに周囲をズタズタに引き裂いてゆく。
「ブモォォォ……!」
しかしようやく止まった主を見ると、おかしな状況になっていた。
主の角が木に刺さって動けなくなっていたんだ。
「おお! チャンス到来!」
これはラッキー! まるでアクションゲームでたまに見る突進系ボスの攻略ギミックみたいな状況になってるじゃないか!
「今だ! 主が動けないうちに攻撃だ!」
同じことを思ったのか、騎士の方も主目掛けて走り出す。
ふふふ、遂にガリン爺さんから借りた剣の出番だ!
「ブモォォォォォ!」
ズゴゴゴゴボコッ!
と思ったんだけど、主が体全体を持ち上げるとように動かすと角に刺さっていた木が地面から引っこ抜かれる。
『まぁあれだけの巨体だからな。普通の木くらいなら引き抜けてもおかしくはないな』
「マジで重機じゃんかよ!」
もでもあんな頭に気が突き刺さった状態なら、バランスが悪くて上手く動けない筈!!
それに足も怪我をしているから……
「ブモォォォォォ!」
「ジャンプ攻撃だったわぁぁぁぁぁ!」
だよね! ジャンプなら小回りとか足の怪我とか気にせず落ちてくるだけだもんね!
『それでも片足を怪我している分、跳躍の勢いは低いようだな』
「誤差範囲ではーっ!?」
間一髪思いっきり横に飛んで何とか回避に成功。
これも女神様の加護のお陰なんだろうか。
「ブモォォォ!」
更にさっきも喰らった回転土砂攻撃が来たので即物陰に入って回避。
ブォン! ドォン! バキバキッ!
「なんかすっごい音がした」
『角に刺さっていた木が遠心力で外れた音だな。凄いぞ、周囲のものをなぎ倒しながら飛んでいった』
「めっちゃやべぇぇぇ!」
さっきから殺意高すぎなんですけどぉぉぉぉっ!!
「くっ、これじゃ近づけないしマントで囮になるのも危険すぎる……どうすれば」
騎士の方も鎧を着ている分俺よりも小回りが利かないようで、攻めあぐねているようだ。
『落ち着け息子よ。こういう時の為に準備をしてきたのだろう?』
「でもアレは上から降って来るんじゃ意味がないですよ」
『いや、こちらが大きく動けば奴は斜めに落ちてくる。角度次第では十分隙を突ける』
「……どのみちこのままだとジリ貧か。それなら一か八か賭けてみるか!」
『その意気だ!』
俺は次の主の跳躍を避けると、マントをはためかせて走り出す。
「こっちだ!」
マントの赤色に反応したのか、俺の言葉に反応したのか、主が俺を追うように飛んでくる。
「どこに行くつもりだ!?」
主の落下音に紛れて騎士の声が小さく響く。
「主を罠にかけます! 動きが止まったら頭を狙ってください!」
「出来るのか!?」
「たぶん!」
正直保証も自信もない。けどやらなきゃ追いつめられて体力を削られてやられる!
ならやるしかないだろ!
「うぉぉぉぉぉっ!!」
俺は主の落下攻撃を必死で回避しながら走る。
『いいぞ、奴はお前を追う為に真下に落下する事は出来ない。これなら罠にかける事が出来る!』
「それは良いから早く罠の場所に着いてくれー!」
俺は休む事も出来ずにひたすら走り続ける。
そしてようやく見覚えのあるモノを発見した。
「あった!」
それは木に括り付けた目印だ。
俺はその目印目掛けて走る。
「この方向から!」
『主が跳んだぞ!』
「はい!」
父上の声に俺は真横に跳ぶ。
直後に俺を引き潰すべく転がってきた主が通り過ぎる。
そして、
ボゴッ!
突然主の体がガクンと下がった。
「かかった!」
そこに現れたのは大きな穴、落とし穴だ。
主狩りを決意してからコツコツ掘ってさっき漸く完成させた罠だ。
といっても主の超巨体を落とせるほどの広さも不可さもない。
せいぜいがひっかかってつんのめるぐらいだ。
それでも、予想外のトラブルに主の反応も遅れる。それを狙う……筈だった。
ガッ! ゴッ!
しかし、予想外はこちらにとっても同じだった。
主の頭部には三本の角が生えていて、それが周囲の木々を引き裂く事で脅威を増していたんだが、これが落とし穴にも作用してしまった。
その結果、なんか変な風に引っかかった角がボール状になっていた主の重心を崩した事で、主の体が吹っ飛んだ。
さしずめ、ゴルフで打ったボールの勢いが強すぎてカップに入りきらず、穴の淵にぶつかって吹っ飛んでしまったかのように。
主の体もなんかいい感じに吹っ飛んだ。
「って失敗したぁぁぁぁ!」
やっちまったぁぁぁぁ!
フタも壊れちまったからもう次は引っかからねぇ!!
「こうなったらもう逃げるしか!?」
『いや待て、様子がおかしいぞ?』
「え?」
罠の失敗に慌てふためいていた俺は、父上の冷静な言葉に我を取り戻して主の飛んでいった方角を見る。
するとそこには……
ジタバタ、ジタバタ
良い感じに角が地面に刺さって抜けなくなった主の姿があった。
「刺さってる」
「刺さってるな」
追いついて来た騎士も主の姿を見て困惑しているらしい。
『しかも丁度岩場に突き刺さったようだ。あれなら回転して土砂を吹き飛ばしたように脱出する事も出来んな』
ということはつまり……
「今だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
まさかの千載一遇の機会が訪れたのだった。




