八話
「いやー、派手にやったね。上出来だよ」
想像以上に、と少し遠い目で付け加える魔法使い。
ありがとうございます、とここまでのことも含めてお礼を述べた。
なぜ、常に受け身だった私が、ミリーに報復などしたのか、いや、できたのか。
それは、この魔法使いの仕業である。
あの買い物の日、魔法使いに提案されたのは、特訓。
知識、技術、そして実践。
様々なことを通して、学校では教えてもらえないことをたくさん教えてもらった。
その過程で、学校で分類されている下級、中級、上級という魔法の分類は、学園内しか通用しない、いわば箱庭のルールだったことを知った。
つまり、この学園を出れば、もっといろんな魔法を知れる、使える。
この魔法使いによって、ソージャには選択肢が与えられた。
それに無条件に飛びつくくらいには、ソージャは魔法に魅せられていた。
最後のケジメとして、ミリーに決闘を挑んだので、もう心残りはない。
「それじゃあ、今後はどうするの?」
「旅をしたいです。まあ、適当に生きようかな、と。」
「えぇ…ゆるいね。でも、旅はいいと思うな」
僕も旅人だから、と少しだけ楽しそうに、悲しそうに笑う魔法使い。
その姿に、どこか、『見知らぬ』はずの人を幻視した。
その次の瞬間、私の口からは、自分でもびっくりな言葉が飛び出ていた。
「___私も、着いていっていいですか?」
「えっ?」
ぱち、と空色の透き通った瞳が、瞬かれる。
この時、私は、人生で最大で最高の、英断をした。
渋った魔法使いに、全力で駄々を捏ねて、困らせるまであとすこし。
***
「うん、わかった。大した目的もない旅だから。いいよ、着いてきても」
「ありがとうございます!!」
表情は動いていないが、明らかに興奮した様子のソージャ。
魔法が絡むと豹変する子、ということを学んだ。
少しだけため息をつきつつ、でもまあ、賑やかな旅も悪くはないかもしれない。
ついておいで、と声をかけて、駅へと歩き出す。
少し驚いた表情をした後、慌てた様に着いてくる。
「魔法で移動するわけじゃないんですか?」
「できるけど、魔力の消費が馬鹿にならないからね。金銭的、時間的に余裕があるなら、普通に移動したほうがいいかな。」
「なるほど…」
メモメモ、と、どこからか取り出したメモ帳にサラサラと僕が喋ったことを書き連ねていくソージャ。
別にそんなに大事なこと喋っていないんだけどなぁ、と微妙な顔をする。
でもまあ、自分の基準でばかり物事を語ってはいけない。
この子にはこの子なりの、考え方があるのだろう。
そう思うことにした。
ふと、隣を歩くソージャの手元を見る。
そこには、小さめな行李鞄が揺れていた。
先ほど、学園の寮と見られる場所にすっこんだと思ったら、数分もせずに出てきたので、一体どれだけ荷物がないのだろう。
疑問に思いつつも、まあ、今はどうでもいいことにした。
思い出したら聞こう。
あ、と声を出す。
不思議そうにソージャが見つめてくるが、荷物関連で、思い出したことがあった。
「君って、身分証持ってる?」
「学生証とか、ってことですかね?」
「そうなるね」
「ないですね。学生証は失効しましたし、身分証明書は他に持ってないです」
一瞬、天を仰ぎたくなる気持ちに襲われる。
マジかぁ、となんとか表情には出さない様に抑え込んだ。
「…学園で、総括ギルドとかに登録とかって、しなかった?」
「それは3年次からです。私は1年次だったので、まだやっていません。」
恐る恐る聞いてみると、悩むそぶりも一切なく、キッパリと言い放った。
流石にため息をつく。
初めからやっとけよ学園長。
まあ、登録自体多少のお金がかかるものだし、節約したいのかもしれない。
しかし、旅をする上でギルドでの登録というのは、それを加味してもお釣りが来るくらいの恩恵はある。
仕方ない、と足を止め、ソージャの肩に手を置いた。
「この国の総括ギルドへ行こうか。」