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清澄の色探し  作者: あさり
序章 風信子石の道標
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四話

「こらこら、流石に死んじゃうよ?」


横から声をかけられたと思ったら、服が一瞬で乾いた。


風魔法によるものだと思われるが、ここまで精度の高い魔法は『見たことがない』。


「…ッ…?」


なぜか少し頭痛がしたが、気のせいだろう。


先ほどの声の主の方を伺う。


そこにいたのは、女性とも男性とも見られるような見た目の魔法使い。


空色の三角帽子をかぶっていて、鍔の下からは水のような透き通る色の長い髪がのぞいていた。


片手でくい、と帽子の鍔を持ち上げて、にっこり微笑んだ。


「今の学生は過激だね〜、末恐ろしいよ」


「…どなたですの?あなた。私の邪魔をするなんて…」


「ただの通りすがり。でも、ちょっと見過ごせなかったかな」


ぱちん、と帽子の人が指を鳴らすと、杖が目の前から消えた。


直後に、ドン、と足元から振動が走るので、見ると、杖だけがピンポイントで地面に叩きつけられていた。


どうらや、重力魔法のようだ。


(杖だけに付与なんて、そんな細かいことできるの…?)


「はぁ!?なにしてんだお前…っが!?」


「ルーズ」


「…っち」


わたしが驚いている間に、ルーズがなにやら文句を言おうとしたようだったが、ミリーに止められる。


舌打ちをしながらも、引き下がるルーズ。


「…今日は帰るわね、ソージャ。また遊びましょう?」


そう言って、すれ違いざま、私の肩に手を添えて、そのまま去っていった。


ぽかん、としながらその背中を見送る。


邪魔が入ったとはいえ、あまりにもあっさりだった。


「大丈夫?水責めされてたみたいだけど…」


「大丈夫です、いつものことなので。それよりも、ありがとうございました。」


「いつものことなのでっていうのも複雑だけど…まあ、助けになったならよかったよ。」


先ほど自身で地面に叩きつけた杖を拾い上げながら、こちらに返事を返す。


折れてないかな、と杖を観察する様子を見ても、やはり信じられない。


あの練度の魔法は、人生を魔法に捧げたような人にしか使えない程だった。


しかし、見たところこの人はまだ若い。


(一体何者…?)


私の怪訝な視線に気がついたのか、こちらに向き直る。


「ごめんごめん、名乗ってなかったね。まあ、名乗るほどのものでもないんだけど…」


ぽりぽりと頬をかきながら、そう言ったあと、貴族のように一礼をした。


「はじめまして。旅するしがない魔法使いです。」


「っあ、ソージャ、です…よろしくおねがいします…?」


慌ててこちらも名乗って一礼をする。


別に慌てる必要はなかったか?と内心考えるが、まあ気にしないことにした。


「じゃあ、ソージャって呼ばせてもらうね。ソージャって、そこの魔法学校の生徒だよね?」


「…?はい、そうです。」


「ふーむ…」


そう言うと、じっ、とこちらを見て黙り込んでしまった。


ほんの居心地の悪さを感じながらも、相手の動きを待つ。


ふ、と顔を上げたと思ったら、なぜか腑に落ちた顔をしていた。


「なるほどねー、だからいじめられてたのか。」


「…!?」


あそこも落ちたなー、などとぼやいているが、それよりも。


(この人、今なんて言った…?)


『だからいじめられてたのか。』


まるで、私が『色なし』だとわかったかのように。


そんなの、水晶玉がないとわからないはずなのに。


驚愕に見舞われている私を置いてけぼりに、何かを考え込む魔法使い。


「あ、そうだ、ソージャ。君に提案がある」


「っはい?」


不意にぽん、と手を打ってこちらを向く魔法使い。

少しびっくりして声が上擦ったのだが、その人は気がついていないかの微笑みかける。


私に向かって手を差し出し、こう言った。




「____彼らを見返せる魔法が使えるようになる、って言ったら、どうする?」




「…それは」



その言葉に、私は目を見開いた。


そんなもの、今の私には、喉から手が出るほど、欲しいに決まっている。


私は今、邪魔されないで魔法を学びたい。


『色なし』でも、魔法が使いたい。


その障害を取り除くための手段があると言われたようなものなのだ。


加えて私の夢に近づく。


(最高じゃないか…!)


「もちろん君にも拒否権はある。それにこんなぽっと出の奴の言うことなんかってえぇ…?」


何やらつらつらと並べているが、知ったこっちゃない。


ガッ、と力強くその人の手を両手で掴めば、困惑した声が聞こえてきた。


その水面色の瞳をしっかりと見据えて、すうっ、と息を吸い込む。


「…っ私に、教えてください!!」


「おぉう…意欲的だねぇ…」


その時の魔法使いさんは、少しだけ引き攣った笑みを浮かべていた。




***




パチ、と小さな音がした気がした。


火の粉が散るように、少しだけ、体が熱くなった。


感情を忘れていた心に、少しだけ火が灯った。


きっとその火は、『怒り』から来る復讐だろう。


それでもいい。


(首洗って待っとけよ、ナルシスト共。)


ついてしまったからには止まる気はない。


私は、自分の運命を手繰り寄せるために、一歩を踏み出した。

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