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清澄の色探し  作者: あさり
序章 風信子石の道標
3/36

三話

「…はぁ」


両手を塞ぐ大きめの紙袋を抱え直し、ため息をつく。


私は学校が終わった後、街へと買い出しに来ていた。


別に自分のものが足りてないとかではなくて、純粋に押し付けられたのだ。


(ただでさえ一日中教科書を投げつけられるわ、足を引っ掛けられるわ、間違った情報を教えられるわその他諸々で大変だったのに…)


この学校は原則寮生活で、料理等も自分でやる。


場所によっては料理人がやったりもするらしいが。


私が今両手に持っているのは、一週間分ほどの食材。


ほぼ毎回のように押し付けられているので、もはや慣れた。


勉強の時間は減るから、面倒くさいことこの上ないのだが。


少しでも自由時間を確保すべく、早足で帰ろうとする。


その瞬間、視界がブレた。


「…っ!?」


思考が追いつくよりも先に、自分の左半身から強い衝撃が走った。


反動で少し跳ね返される体。


そのまま地面に落下した。


「…っは…っ」


衝撃により肺に何か起こったのか、うまく息を吸えない。


息苦しくて、少しもがいていると、自分の顔に影が落ちた。


「…なぁんだ、色なしか。」


なんとか顔を上げて、誰かを確認する。


相手の顔を視認した瞬間、私の顔が歪むのがわかった。


「ルーズ…ミリー…ッ」


「買い出しでも押し付けられたのかしら?可哀想に。」


「まあでも一般人に当ててなくて良かったー!教頭怒るとこえーもん。」


そこにいたのは、嫌がらせの主犯格である2人だった。


ビビったビビった、とわざとらしく二の腕をさする餓鬼がルーズ。


あらあらと頬に手を当てつつ、しゃがみ込んで私を覗き込んできているのがミリーだ。


あくまでも優雅で心配している人を装っているが、絶対に相手を助けはしない。


愉悦に歪んだその瞳と口角は、もはや隠す気はないのだろう。


ルーズが私の髪を掴み、顔を引き上げる。


私だって何もできないわけじゃない。不意を突いて殴り返すくらいはできる。


でも、それをすると後々困るのは私だ。


だって彼らは、学園のトップの実力を持つのだから。


ほとんどの先生がこの2人の味方であり、私の敵。


せっかく勉強しにきたのに、追い出されたらたまったものではない。


「大変だなぁ、お前も。」


「…」


口は開かない。


その代わりに、睨みつけておく。


ここは、学園の生徒が特に多く買い物に来る場所。

ほとんどの人が見て見ぬ振り。


「いい加減言えばいいんじゃねぇの?解放してやるって言ってんじゃんか〜」


「…」


さらに眉間の皺を濃くして、唇を噛む。


ルーズが言う言葉とは、『誠意のこもった謝罪』らしい。


一度、例を聞いたら、侮辱的なことを言われたので、絶対に言ってやらないと決めている。


「…チッ…はーぁ、つまんねぇよ、お前」


「っ…」


依然何も言わない私に飽きたのか、手を離され、地面に捨てられる。


頭をぶつけたため、少し視界が揺れた。


しかし何事もなかったかのように振る舞う。


ルーズの興味は、私に向かなくなったようだ。


ミリーは横で面白そうに見ていたが、立ち上がった。


胸元から杖を取り出すと、私に向ける。


「[清き水よ、舞い踊れ、かの者を取り囲み、水の檻へと成れ]」


「ッ!?」


(まずい!!)


魔法が発動されるまでの数瞬の間に、私は両手で自分の口と鼻を塞いだ。


「[イュー・スピアー]」


直後、私の顔の周りに水で球ができる。


もちろん、空気はない。


口と鼻を塞がなければ、肺にまで水が入っていただろう。


苦しいが、これが1番マシだ。


(普段通りなら、一分も経てば解放されるはず。)


耐えろ、と自分に言い聞かせる。


苦しそうな私の表情を、ミリーは楽しそうに見ている。


やり返せない悔しさを押し殺しながら、時間を待っていた。


わずかに視界が霞み、苦しさのあまり手を離したくなった頃、ふいに、息ができるようになった。


次の瞬間には、顔の周りの水球が割れて、服がびちょぬれになった。


「ゲホッゲホッ……」


今日は気分が良かったのだろうか、濡れた手を見下ろしていた視線を前へと向ける。


どうやら、そうでもなさそうだ。


「…!?なんで…!?」


魔法を発動した本人が、誰よりも驚いている。


杖は依然私に向けられており、わずかに発光している。


魔法を発動中である証だ。


異なる点といえば、杖の中程に見慣れぬリングがあることだろうか。


そのリングはどうやら魔力でできているらしい。


「こらこら、流石に死んじゃうよ?」


横から、見知らぬ声が投げられた。

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