代行者降り立つ
いつもと変わらない日々だった。国会では野党が与党の失策や不祥事を責め立て厳しい言葉を浴びせ、不祥事を起こした者は『答えは差し控えさせて頂く』『記憶にございません』といういつも通りの言葉でその場を凌ぎ、国民の関心がなくなるのを待つ。
そんな政治家に国民は嫌気が差し、益々政治への関心が薄れていった。SNS上では時折政治家への不満が爆発してデモまで発展することも稀にあるが、暴動などになることはなかった。日本国民であればほとんどの者が今のままでは良くないと分かってはいながらも自らは行動せず現状に嘆きつつも受け入れていたそんなある日だった。
「皆様こんにちは。」
その大きくはないがよく通る声で国会内が静まり返った。いつの間にか国会の議長席に見知らぬ人がいた。元々いた議長は椅子からどかされ倒れている。
一体誰でいつからそこにいたんだというどよめきが起こる。身なりも今の日本から考えると少しおかしかった。年はおそらく10代後半あたりで身長はおよそ170cm前後、黒髪で腰あたりまである。そして神主のような服装をしていて男か女かはっきりしない。何より目が金色だった。その不審者は続けて言った。
「私は神の代行者です。神が今の日本の現状を憂い、私が遣わされました。」
その声と同時に我に返った警備員か取り押さえようと走り出した。しかしあと数mというところで全ての警備員が突然倒れ動かなくなった。
「ごめんね。少しの間眠っていて。」
代行者は申し訳ないという顔をしながら呟いた。
「国民を代表する国会議員の皆さん、今この場から去ることは叶いません。外からも何人たりとも入ることは叶いません。私の話を最後まで聞くまではね。」
〔総理大臣視点〕
何がどうなってあるのだろうか。今日は予算審議を行なっていたが、先日大臣の失言により野党から厳しく追及され、大臣もこの場を切り抜けようとあれこれ言葉を変えながら答弁していたとき、神の代行者と名乗る者がいきなり現れた。なぜかあの姿を見た時から全身が震えるような生まれて初めての感覚に襲われた。絶対に逆らってはいけない、ただただ恐ろしいといった感覚だ。
気づいた時には警備員が倒れていた。死んだのか?眠っていてと言っていたから眠らせただけだろうか。そもそもこれはテロではないのか?外の警備員や警察が国会の中に入ってくる気配がない。若い議員が扉を開けて外に出ようとしているが開かないらしく扉を蹴り破ろうと躍起になっている。
「そんなことをしても扉は開きませんし壊せません。私がそう決めました。」
変な言い回しだ。『決めました』か。漫画のように超能力のようなものでも使えるのだろうか。そうこうしているう内に若い議員は扉を開けるのを諦めたらしい。何度も扉を蹴り、椅子などで破壊しようとしても扉に傷一つつかないところを見ると開かないというのは本当らしいな。
「えー、あなたはどちら様でしょうか。あなたの目的は何でしょうか?」
「もう一度自己紹介が必要ですか?私は神の代行者です。目的は元々神が創り出した国である日本を穢れたものたちから守るために遣わされました。我が神は酷く憂慮されています。諸外国から国を侵され、本来国民を導き守るはずの国会議員や官僚が国を裏切り売り渡す。許されざることです。よって神は日本に介入することを決定しました。」
この方は何を知っているのだろうか。確かに中国や韓国から金を受け取っていたり女で良い思いをしている議員は何人かいる。しかしそれが表に出ることは確実にないと断言できる。あれだけ金をメディアに流したのだ。メディアの上層部が情報を売ったのか?分からないが……
「それは大変失礼ではありませんか?我々国会議員は日本国民の為に働いております。根拠のない言い掛かりはやめて頂きたい。そして我々を解放しなさい。国会議員全員を監禁など国家転覆罪が適用される事案です!」
ここまで言えば怯むだろう。初めて見た時は見た目で少し驚いたがまだ二十歳にも届かない子供だ。説き伏せてしまえばいい。それにこの審議は生中継されている。このテロリストに堂々と渡り合えば下がっている支持率も上がるだろう、それにニュースではこのことが持ちきりになり大臣の失言など有耶無耶になるはずだ。いいぞ、ツキが回ってきたかもしれ……
「黙れ、俗物が。やはり優しく説いてやってもダメだな。馬鹿は死んでも治らないらしいからな。そういう者たちには首輪でも着けて大人しくさせるしかないか。」
な、なんなんだ。急に足の震えが止まらない。息が上手く出来ない。無意識に首に手を当てると、は?何だこれは。首に鎖の様な物が付けられている。いつの間に?力を込めて引っ張ってみても取れない。周りを見ると議員の中にも同じ様な鎖を首に着けている者がいる。与党だけでなく野党の方にもだ。
「こ、これは何ですか!今すぐに外しなさい!」
「言ったであろう、首輪だと。首輪を付けている者は全員日本を売ろうとした穢れた者たちだ。その首輪は生きている内は取ることは出来ない。諸外国から金や女を受け取っている者、有力者として女を献上させていた者、親戚類に天下り先を斡旋した者、裏金を作り私腹を肥やしていた者、様々おるな。穢らわしい。お前達はこの国に必要ない、消えてもらう。そしてここに日本国憲法の上位存在として神法を定めることを宣言する。内容はまた改めて通達する。それとお前達の裁判も改めて行うから覚悟しておくといい。それとこれも言っておかないとな。その首輪がある限り逃げることは出来ない。国を出ようとすれば首輪が締まり十秒ほどで死に至る。犯罪行為を行おうとすれば同様だ、またお前達の資産はすでに没収されている。海外口座も含めて一円単位でな。」
「何を勝手な!許されるはずがない!誰も認めません!」
「わ、私は何もしておりません!何故首輪が!裏金の指示は幹事長がされていたもので私は指示に従っただけです!」
大臣を任されていた女が悲痛な叫び声をあげたが代行者は全く取り合う気配がなかった。
〔野党議員視点〕
これはある意味面白くなってきたかもしれない。私は今まで嘘偽りなく日本の為に働いてきた。我が党の者全てだ。確かにハニートラップと思われる誘いや賄賂のようなものを持ち掛けられたことは何度もあった。それらも全て断っているともう誘いは来なくなった。党の全員に首輪が付いていないところを見ると本当に安心した。
この状況どうすればいいのだろうか。今動かなければいけない気がする。
「あ、あの一つお聞きしてもよろしいでしょうか。」
勇気を振り絞り問いかけたが、声が震えてしまった。しかし代行者と名乗る者は先ほど総理に向けていた厳しい目をすることなく優しい目でこちらを見てくれた。それだけで安心する。
「はい、何でしょうか。」
「我々は今後どうなるのでしょうか。首輪が付いている議員が不正や国を裏切っていたということは分かったのですが、それを止められなかった我々議員も責任を追及されるのでしょうか。」
「そんなことはありません。あなた達に罪はありません、特にあなた。二十三回もの不正等の誘いを全て断り、若い議員に対しては経済や憲法に関しての勉強会を親身に行なっていますね。それに家に帰れば三年前に亡くなった奥様の代わりに家事を行い、子供の弁当まで作っている。見本の様な人間です。あなたの妻から伝言がありますので伝えます。『実は良いカバンをプレゼントしたくてへそくりを貯めていました。子供の学習机の三段目の引き出しを抜くと封筒が入ってます。それでカバンを買ってね。あと約束してた旅行行けなくてごめんね。』とのことです。」
あぁ、今本当に納得した。この人は神の代行者なんだ。妻は三年前に交通事故で亡くなった。私の誕生日の一週間前だった。その頃の妻は何か隠し事をしているみたいだった。嘘をつけない性格だったので私の誕生日に何か計画しているのだろうとは思っていたが。そうか、新しいカバンか。妻から直接受け取りたかったなぁ…
妻からの伝言も嬉しかった。そして自分が今まで真っ当に議員の仕事に打ち込んできたことを認めてくれたのも心にくるものがある。いくら政策を訴えようがメディアには相手にされずSNSなどでは都合よく切り取りされ本質と違う様な内容で発信されてしまいバッシングをされた。街頭演説では選挙の妨害は当たり前にされ続けた。だが、無駄ではなかった。見ている人は見てくれていたんだな。
「妻からの伝言を含め、ありがとうございます。それで、今後の国会はどうなるのでしょうか。また代行者様ですが、恐らく今国会の周りには自衛隊や警察が囲んでおり、国会の扉が開き次第逮捕されてしまうと思いますが。」
「心配には及びません。全都道府県の警察と自衛隊、各省庁、米軍基地は私の配下である神兵がすでに掌握しております。各国の首脳陣にも私から今回の件についての説明もこの後する予定ですのでご安心を。首輪の着いていない皆様には本日は帰宅して頂きます。心の整理として三日与えますので三日後再度国会に集まって頂きます。国会議員を辞めたいのであればその時に国会議員のバッジを返納してもらいます。また先ほど伝えた神法と今後についてはその際ご説明します。」
全て掌握済みか…神の代行者なのだから何でもありか。神兵と言っていたが、何人くらいいるのだろうか。まぁ今はいい。三日の間に色々考えなければならない。党としても皆と話し合わなければ。
そうこうしている内に国会の扉が開き、次々と人が入ってくる。代行者様と同じ様な服装をした者達だ。だが代行者様な服装が白に対して神兵と思われるもの達の服装は黒だ。その者達が首輪を着けた議員達を連行していく。激しく抵抗する議員がいたが神兵が手をかざすと意識を失い、担がれて運ばれていく。それを見た不正議員は恐れ大人しくついて行くようになった。どこに連れて行かれるのだろう。まぁ、裁判をすると言っていたからすぐに殺すということはないと思うが。私はとりあえず党の皆と合流し今後の対策を立てよう。
〔代行者視点〕
とりあえずは一区切りですね。課題は山積みですが、国のトップのゴミは掃除できました。あとは各省庁のゴミと日本に入り込んでいる諸外国のゴミ掃除、そして各首脳との話し合いですか。
「代行者様、ご報告です。各省庁と警察、自衛隊はすでに掌握しました。諸外国ですが、アメリカ、中国が日本の状況を見て戦闘準備に入っております。すぐに軍を差し向けることはまだありませんが予断を許さない状況です。」
「分かりました。まずはアメリカ合衆国と話しましょうか。とは言ってもいくら軍を差し向けようが核を落とそうが意味がないのですがね。そう言えば神兵であるあなたには名前がないのですよね?今後私の代理を行うこともあるでしょうから名前を与えます。そうですね、アクラとしましょう。どうですか?」
「かしこましました。これよりアクラと名乗らせて頂きます。アメリカ合衆国とのテレビ電話の準備は出来ております。会議室にご案内します。」
さて、まずはアメリカ合衆国ですか。相手がどう出てくるか楽しみですね。未来を見ることは可能ですが、それをしてしまっては面白くありません。我が神にも力は使っても良いが自重するように言われていますからね。これから忙しくなりそうです。