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森のあと片付け➀


 気分がいい!!


 久しぶりに全力で力を出せて気持ちよかったのもあるし、新ワザも出せてかっこよかったし!


 ソニオさんの無理難題もこれで無事達成できた!


 もう空は真っ暗になりかけているせいもあって吹き飛ばしたナマケモノはもう見えない。


「でもちょっとこれはやりすぎちゃったかな」


 嵐は無くした。


 風も穏やかに吹いている。


 けど、空から落ちてくる物体は穏やかじゃないよねぇ。

 うまく風をコントロールしてボクに落ちてこないように調整してるけど、これはまずったかも。


 なによりこの森、よくあの町の子どもたちが遊んだりしてるみたいなことをソニオさんが話してた気がする!

 絶対このままじゃヤバイ! もう森って呼べる代物じゃないしこれ!


 辺りは変わり果てた姿になってしまっている。

 木は地面から抉られて根っこが飛び出し、ある程度整備されていた森の道はどこも歩ける状態ではなくなってしまった。

 大小さまざまな森の残骸が空から地面に勢いよく落下してきてそこらじゅうがぼこぼこになってしまっている。

 というか、 森の木がみんな倒れてしまったせいで町の方まで景色が続いてしまっている。


「う~ん絶対怒られる。間違いない」


 町はといえば、たぶんソニオさんが何か魔法を使ったのだろう、青い大きな壁が空高く伸びていて、特段ボクの力の影響を受けているようには見えなかった。これには一安心。


 とはいえ、やりすぎてしまったのは間違いない。


 力を思いっきり使えるからとはしゃいでしまったせいで、ちょっとテンションおかしくなっちゃったもんな……。


 服についた土汚れや埃を払いながら、ふわりと風に浮かびながら町の方へ近づく。

 この状態の地面の上ではまともに歩けそうにもない。


「あ、そうだ」


 ふと思い出す。

 

 テンペスト君は森には入ってこなかったよね?


 森を嵐で包んでいたのは外から人が入ってこないためでもあったけれど、テンペスト君もさすがにあの嵐を見て森に入ろうとは思わないだろう。


 それに、ソニオさんが魔法を使ったということはあまり心配しなくてもいいはず。


「いや……もしも森に来ちゃってたらどうしよう……」


 とはいえ思い出すと急に不安になってきた。


 自分勝手な理由で急に彼を故郷から連れ出してきてしまっているし、テンペスト君のお母さんやお姉さんに大見得切って「責任をもってお返しします」みたいなことを言ってしまった。

 もしこれでどっか遠くに飛ばされてちゃマジでまずい!!


 不安はどんどん大きくなって、町へ向かう速度が自然と上がる。気づけば、もう町の入り口にたどり着いていた。


 青く発光する壁が町を取り囲むように守っていて、壁の内側には全くといっていいほど被害はなかった。

 そんな光の壁のちょうど淵あたりで、一人蹲っている少年を見つけた。

 テンペスト君だった。


「テンペスト君! よかった、森には入ってこなかったんだね!」


 嬉しさもあって走って彼のもとに駆け寄って、壁を越えようと手を伸ばす。


「うわっ!?」


 壁に触れた瞬間、ビリビリと全身に電撃を受けたみたいに激しい痛みが走り、思わず壁から遠ざかる。


「なんだこの壁! なんでボク入れないんだ!」


 何度か指先だけでも壁に触れてみるが、そのたびに指先から電撃が走ったように全身が痛む。

 外からの侵入を完全に防ぐ壁……ってこと?


 そうしていると壁の向こう側にいるテンペスト君が頭を上げてボクに気が付いた。


「テンペスト君! なんかボク中に入れないみたいなんだけ……ど……」


 そうやって彼に呼びかけようとして、気付く。

 彼の顔が、ぐしゃぐしゃに涙を流していることに。


「え? どうしたの! なにかあった!?」


 彼はこっちを見て何かを叫んでいるようだった。

 

 なにやら立ち上がれないようで、必死にこっちへ何かを訴えかけ、拳で掴んだものをこっちへ投げてくる。


 べちっ。


 投げられた土の塊が胸にぶつかる。


 壁に隔てられているはずなのに、テンペスト君が投げた土が壁を通過している。

 この壁、内側からは自由に外には出れる仕組みなのかも。


「テンペスト君落ち着いて! たぶんそっちの音がボクには聞こえないんだ」


 テンペスト君は涙を流しながら、ボクに向かって何かずっと訴えている。

 その表情はさながら、何かを恨むような、憎むような。


 この感じ、たぶんボクの声もテンペスト君には聞こえてないっぽい。


 彼はずっと倒れこんだままの姿勢で、なんとか体を起こそうとしているけれど脚が動かないようだった。もしかして脚を怪我してしまって立てないのか。


「待っててね! 壁の中に入れないかちょっと入り口を探してくるから! って言っても聞こえないのかな」


 テンペスト君が辛そうで、近くにいてあげたいのにその表情は明らかにボクに対して何か言っているように感じて仕方がなかった。

 この森の惨状で彼を幻滅させてしまったのかもしれない。

 怒らせてしまったのかもしれない。


 胸がギュっと締まる思いで、彼から逃げるようにその場を立ち去る。


 とにかく今はここから離れないと、この壁から受けた痛みが全身にひどく残る。


 彼の言葉は何も聞こえないけど、届かないけど、ボクはそれを背中に受けることしかできなかった。




 それからしばらく走って町の周りを調べてみる。


 この壁はどうやら町の周りを全部隙間なく囲んでいるようで、中への入り口はどこにも見つからなかった。


 さすがの状況にボクも焦る。


「ハァ……ハァ……なんなのさこの壁」


 ずっと走っていたせいで息が切れる。


 風に乗って空から入る方法も考えたけど、壁は遥か空高くまで伸びていて上空から入り込めそうにはなかった。

 それに、仮に入れたとしてもこの壁はボクの力の影響そのものを弾いてしまう可能性が高い。


 ボクの力は大気の流れと風と天気を利用するから、壁の内側だけでしか効果が作用しなかった場合ボクが空から壁の内側に入った瞬間、力の作用が上手くいかずにそのまま地面に叩きつけられるかもしれない。


 そう思うとぞっとする。


「ソニオさん……なんて魔法を使ってくれたんだか……」


「悪かったわね、こんな魔法使って」


 ぎょっとして振り向くと、ソニオさんがいつの間にか背後に立っていた。


「うわ! 脅かさないでよ! ていうかこの壁なんなの? 町の中に入れなくて困ってるんだ」


「それはアナタのせいよ、ユーテルさん」


「どういう意味?」


「ほら、私は自由に出入りできるから」


 ソニオさんはそう言って壁に手を入れて、なんなく壁の内側に腕を通して見せた。


「盛大に森を滅茶苦茶にしてくれたわね。一通り見させてもらったわ」


 まるでボクを圧死させるみたいな声でソニオさんは話す。


「この壁は精霊魔法のひとつよ、聞いたことくらいはあるんじゃないかしら」


「……精霊魔法?! ソニオさんそんな神話級の魔法使えるの!?」


 ソニオさんの言葉に思わず声を上げる。

 精霊魔法なんて代物、昔話や神話で出てくるようなとても古いものだ。

 魔法使いそのものがとても珍しいのに、現代の魔法使いでそれが使える人なんて実在したのか。


「神話級だなんて、そんな大それたものでもないわよ。まあ、使える人間は私もほとんど見たことないけどね」


 ソニオさんって、実はすごい人なんだなぁ。

 と、テンペスト君のことが急に脳裏に浮かんだ。


「ていうかテンペスト君! 彼、立ち上がれなくなってたんだよ。脚を怪我してるのかもしれない、ソニオさん彼を治療してあげてよ」


「ああ。それなら私の魔法よ。もう少しすれば魔法が解けて元通り立ち上がれるから大丈夫よ」


「あー魔法だったんだ、怪我じゃなくて良かったよ~」


 彼が怪我で立ち上がれないという訳ではないことに胸を撫で下ろす。町に入れない焦りが少しほどけた。

 じゃあ怪我をしていなかったのにあんなに泣いてボクに何か訴えていたのはなんだったのか、それがとても胸に残る。


「それと、どうしてアナタがこの町に入れなくなったか、だけどね」


 ボクの心配も他所に、ソニオさんは話を進める。


「この壁からアナタが”有害”だと認定されたからよ」


「は? 有害? ボクが?」


 意味の分からない言葉にきょとんとすることしかできない。

 ボクは必死になってあのナマケモノから町を守ってあげた張本人なのだが!


「……懸念していたことではあったのよ。まさかあれだけの力をアナタが使えるとは思ってもみなかった。簡単な話、アナタはこの土地の精霊から害をなす存在だとみられてしまった。だから精霊の力で作られたこの壁に拒絶されたって事よ。わかった?」


「いやいやいやいや! 全っ然訳わかんないよ! ソニオさんがあの獣をちゃんと倒してこいって言うから!」


「ええ。そのことについてはありがたいと思っているわ。でもね、アナタはやりすぎたのよ」


「やりすぎたって、ボクが? 本気を出さなきゃあのナマケモノを倒せてたかなんて怪しいよ……」


「そうね、でもこの土地の精霊からすればアナタも危険な存在だとみられた、そんなところでしょうね」


「ええ……」

 

 ソニオさんの言葉を聞いて、全身からどっしりと疲れがあふれ出す。

 あんなに頑張ったのに、その見返りがこんなんじゃやり切れないなんてもんじゃない。

 ボクは一体全体どうしてそんなに頑張ったんだよ。


「これは慰めにもならないかもしれないけど、ユーテルさん」


 その場のしゃがみこんでしまったボクにソニオさんは近くに来て話しかける。


「アナタのおかげでサリエスも、この町も無事だった」


 そんな言葉本当かよ、と不貞腐れて、抱えた顔を更に膝にうずめる。

 こんなすごい魔法を使えるなら別にボクの出る幕なんてなかったんじゃないの。


「私の魔法は人間相手じゃないと効果がないのよ。そんな私の代わりにアナタが町を守ってくれた。本当にありがとうね」


 ボクが何を思っていたのかをまるで見通すみたいに、思ったことに対して答える。

 なんだよ、じゃあいいけど、なんでボクは彼に……テンペスト君にあんな表情向けられたのさ。


「とりあえずアナタには森の片づけをしてもらうけど、それは明日からね。今夜はもうゆっくりおやすみなさい」


 ソニオさんはボクの肩をぽんと叩いて壁の中に入っていく。

 それと同時に激しい眠気に襲われ、膝を抱えたまま、目を閉じる。

 

 こんなに疲れてたんだ、ボク……。


 遠ざかるソニオさんの足音を耳にしながら、ボクは眠りに落ちた。

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