安楽椅子探偵
気取っている訳では無いのだろう。
それはその表情に表れていた。
知的に
優雅に
笑みを浮かべて
だとしたら
そして、昼下がりの午後とかの庭先でくつろいでいるようならば、そう受け取ったかも知れないが。
けれども目の前のその初老の男性に笑みはなく、冷たい表情で文庫本を開いて片ひじをついて、つまらなさそうに憮然としている。
明け方の近いこの時間帯に、暖炉の灯りがパチパチと音を立てて、暖房は十分なこの小部屋で。
声を掛けるのも躊躇われる雰囲気だ。
だけども無き妻の残した縁もあって一声かける。
「お休みなさい、お義理父さん」
ああ、とうっすらと返事をされた。
なんというか、探偵というよりは吸血鬼のような所作のように感じた。
吸血鬼という話しでしか知らない存在だけども。
いたらこんな感じじゃないかと思わされる。
生前の妻と同じような、あの古びた安楽椅子によく似合う。
代を歴て継がれていたのかも知れない。
九十九神というのだっけ?
この椅子は洋製だけども。
だけどこのどちらが主人なのか判らなくなりそうな、一枚の絵として完成されている。
そんな安楽椅子に据わる、お義理父さんを後にして小部屋を離れる。
夜明けまでもう一眠りしよう。
もう一度yamだよつに眠るのだ。
怪奇な音に浸されながら。