3rd stage ─霜郡スグルは人の上に立ちたい─ その2
「ちょっとスグル君。2年生になってそうそう後輩いじめかな？」
助け船とはこのことか。
男子生徒を諌めるかのように、呆れ声で女子生徒が話しかけてきた。
その声をシンヤは知っていた。
「り、凛子さん！！」
見覚えのある赤縁のメガネ。
さっきの今でこんなに安心することがあるだろうか。
女神が地上に降り立ったかのようなありがたみを感じるシンヤを見て、凛子は憐れみの表情を浮かべた。
「おや、誰かと思えば少年じゃないか。君はなんというか、災難が続くねぇ」
「おい凛子。俺様を災い扱いするんじゃない」
ムッとする男子生徒に人差し指を立てて静止する凛子。
そのままその手を開き、イケメンの方を示した。
「彼の名前は霜郡スグル君。この学園では結構な有名人なんだけど、それに比例するくらいクセのある私の同級生だよ」
「……やっぱりお前、俺様をバカにしているだろ」
ヤレヤレと言いながら頭を横に振るスグル。
それはこっちが言いたいよ、という言葉はグッと堪え、シンヤたちはスグルに挨拶をした。
「俺は魚沼シンヤって言います。よろしくです」
「ぼ、僕は新染レン…です。よろしくお願いします」
「えっ君、男の子なの！？カワイイ〜！」
凛子がレンの頭をワシャワシャと撫でる。
レンはそれを小恥ずかしそうに耐えていた。
「シンヤにレンか。これから長い付き合いになるが、よろしくな」
ニヒルな笑みを浮かべるスグル。
すると凛子が古畑任三郎のようなポーズで、スグルとシンヤたちの間に割って入った。
「スグル君…帰宅部はね…部活じゃないんだよ？」
「な……なんだと…！？」
本気で耳を疑うかのような反応をするスグルに、呆れ疲れたような表情を浮かべる凛子。
「まぁなんとなく察しはついてるんだけど…どうして部活動を立ち上げようなんて思ったのさ」
「それはもちろん、放課後の貴重な時間で部活動をしようなんて気が、俺様には微塵も無いからだ。今年から校則を変えるなんて、全く信じられない学校だな」
シンヤたちは愕然とする。
まさか入部が必須の学校に入学して、ここまで潔く部活を否定する生徒に出会うとは。
「スグル君…それだけが理由じゃないでしょ？」
「……それに、俺様は誰かの下に所属するなんてまっぴらごめんだ」
「な、なんて偉そうな人なんだ…」
思わず声に出してしまうシンヤ。
口に出すのも無理はないと、レンと凛子はコクコクと頷く。
それを一蹴するかのように、スグルは手を広げて、芝居がかった口調で言い放つ。
「偉そうじゃない…俺様は偉いんだ！！」
空いた口が塞がらないシンヤとレンを可哀想に思い、凛子はスグルを指差した。
「この人ね…残念だけど本当に凄い人なの。霜郡医院って知ってる？この町で1番…いや、日本でも屈指の大病院。スグル君はそこの院長さんの息子でね」
霜郡医院といえば日本中から患者が集まると言われる名医揃いと名高い病院だ。
「しかもスグル君はなんと成績は学年トップ！身長180cm！更には英語とドイツ語を話せるトワイリンガル！とどめのこのルックス！」
凛子までもが芝居がかった手振りで、スグルの並外れたポテンシャルをつらつらと紹介していく。
まんざらでもない表情で腕を組むスグル。
シンヤとレンは凄いとは思っているのだが、素直に憧れることが出来ずに、とりあえずパチパチとまばらに拍手を送った。
「……でも、それゆえにちょっと態度が大きいのがたまに傷なんだよねぇ。新入生も入ってきたんだし、もう少しフランクな接し方のほうが話もしやすいと思うんだけどなぁ」
それを聞いてコクコクと頷く2人。
するとスグルは一歩下がり、3人を視界に入れると講演会のような口調で語り始めた。
「人には人の"見合う物"があると俺様は考えている。"見合う服装"、"見合う環境"、"見合う態度"。そのバランスが釣り合わなければ不和を生み、悪循環が生まれ、世の中の流れが淀んでしまう」
ポカーンと口を開ける2人を見て凛子は苦笑いしている。
「…つまり、何を言いたいのかな？」
「ドレスコードや肉食動物が肉しか食べないのと同じ。俺様が俺様らしくいることはマナーであり摂理なんだ！」
「……だから人の下に付きたくない、なんて、どうしようもないこと言ってるんだね」
はぁ…と呆れる凛子。
そしてチラッとシンヤとレンを見て、スグルを見る。
何かを考え込む仕草をしたあとに、凛子は人差し指を立てて3人の注目を集める。
「スグル君は"誰かの下につくのが嫌"なんだよね？」
「ああ」
「レン君は"シンヤ君と一緒の部活に入りたい"ってことでいいのかな？」
「う、うん…できれば…」
それを聞いたあと、凛子はシンヤの方を向いて微笑んだ。
「それなら私に、3人の望みを叶える秘策があるんだけど…」
「何！？」
「えっ！？」
スグルとレンが驚きの表情を浮かべる中、凛子はテクテクと歩いていき、シンヤの後ろに立つ。
そしてシンヤの両肩にポンッと手を置いて、後ろからひょっこり顔を出した。
「『アイドル部』を復活させるんだよ！」
シンヤ。
レン。
スグル。
3人は事態が飲み込めないまま、お互いの顔を見合わせた。
そして数秒の静寂の後。
「「「えええええええええ！！？」」」
3人の上げた驚きの声は、学校中に響き渡った。
