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3rd stage ─霜郡スグルは人の上に立ちたい─ その1


     3rd stage ─霜郡スグルは人の上に立ちたい─



結果から言うと、シンヤとレンは途方に暮れていた。


運動部も文化部も新入生の自己紹介などは終わり体験入部の活動が始まっていて、今更自己紹介から始めるような空気ではなかったため、主にレンが尻込みをしてしまったのだ。


文化部は運動部ほど入りづらい空気ではなかったのだが、レンの争奪戦が始まる危険もあった為あまり多くは回らなかった。


要は二人とも、歓迎ムードに乗り損ねたのだ。


そんなこんなでトボトボと歩いていると購買のおばちゃんに声をかけられ、言葉巧みに誘導された結果、何故かシンヤとレンは東ノ宮学園で一番人気のフルーツ・オレを買わされていた。


購買の隣にある長椅子に座りながら、これからどうしようかと考えるシンヤ。

すると隣に座っていたレンが、シンヤの肩をちょんちょんとつついてきた。


「ん?どうした?」


「……怒ってる?」


レンが肩をすくめて上目遣いで、おそるおそる聞いて来る。

まあなかなか入部できない理由の一端、というよりほとんどはレンが原因ではあるのだが。


しかしシンヤも今となっては、特にどの部活がいいという希望もないのでそこまで気にしていない。

ただレンはレンで、初めての友達に迷惑を掛けているという罪悪感があるのだろう。


それを軽くしてあげるように、シンヤはレンの持ってるフルーツ・オレのビンに、自分のビンをコンッと当てた。


「怒ってねーよ、気にすんなって。それよりこれ飲もうぜ」


「……うん」


紙蓋を開けるのに手間取るレンを手伝い、二人で同時にフルーツ・オレに口をつける。


ゴクゴクッ


するとなんとも濃厚な甘さと、ほのかに酸味のあるまろやかな風味が口の中いっぱいに広がった。


「うっっっま!!!何だこれ!?」


「うわぁ〜…口の中が幸せだよぉ〜」


今まで味わったことがない美味しさに、先程までの陰鬱な空気が嘘のように二人の表情が明るくなる。

それをクスクスと笑いながら、購買のおばちゃんが話しかけてきた。


「そうでしょう。このフルーツ・オレはおばちゃんの知り合いから仕入れてる特別な物だからねぇ」


「へぇ〜、これ本当にうんまいよ!ありがとうおばちゃん!」


(めぐみ)ちゃんって呼んでもいいのよ」


購買のおばちゃん、十野恵(めぐみ)はそう言うと、カウンター脇のフルーツ・オレがたくさん並べられた冷蔵庫をポンポンと叩いた。


「新一年でしょう?部活選びは迷うでしょうけど、すぐに決めなくてもいいんだから。何か悩み事があれば、ここに来てフルーツ・オレを飲んでゆっくり考えなさい。この学園の子はみ〜んなコレが好きなんだから」


微笑みかける恵の優しさが、落ち込んでいた二人の心にジーンと染みる。


確かに今日決めなくてもいいのだ。


『アイドル部』なき今、今後のアイドルになる為のプランを再構築して、入りたい部活を再考すればいい。

ちゃんとレンのことも考慮しつつ……。


などと考えていると、シンヤとレンの後ろからぬっと腕が伸びてきて、二人を覆うようにベンチの背もたれに手をかけた。


急なことに驚く2人。

そんな2人の頭の上から少し低めのセクシーな声が、恵に語りかけた。


「皆じゃないぜ。俺様はカフェ・オ・レ派だ」


見上げるとそこにいたのは、甘いマスクの高身長なイケメンだった。


肩まで伸びた黒髪はサラサラと風になびき、たまらなくセクシーな喉仏が見え隠れする。

乱雑に開けられたシャツからマーベラスな胸板をチラりと覗かせている。


そして悩ましい程にエレガントな瞳がシンヤ、そしてレンを映した。


「こんなところで油売ってるなんて、なかなか見所のある1年だな。まだ何部に入るか決めてないのか?」


首元のピンにはローマ数字でⅡと描かれた青色のピン。

この映画から飛び出してきたような男子生徒は、どうやら2年生のようだ。


「いえ、まだ入ってないっす…」


「僕も……」


それを聞いたイケメンは怪しく微笑む。

そしてそのままガバッと二人に覆い被さるように肩を組んだ。


「よーし、じゃあ俺様の部活に入らないか?なっ、それがいい、そうしよう」


「お、俺様の部活…?」


急な勧誘に驚きを隠せない二人。


レンはおそるおそる質問してみる。


「あの…それって何部ですか?」


すると男子生徒は腕を組み黙り込む。


「……まだ決まってない」


「「え!?」」


シンヤとレンは同時に聞き返す。


「いや、部活名はまだ決めてないんだ。俺様がこれから作るからな」


とんでもない話を持ちかけられていたことに二人は唖然とする。


「ただ部活内容は決めてある。即、帰宅だ」


「それ帰宅部じゃないっすか」


間髪入れずに指摘してしまうシンヤ。

それを聞いて、なぜか満足そうな顔になるイケメン。


「それがいい!帰宅部だ。俺様たちの部活が早速形になってきたな!」


「俺様……たち?」


楽しそうにシンヤたちの肩をバンバンとたたくイケメン。


勝手に一味に入れられてしまった。


あまりの強引さに付いていけてない二人。

特にレンはここまで強烈な人には慣れてないのだろう、目が泳いでいるのが見てて分かるほどだ。


しかしそれも仕方ない。

急にイケメンから妙な絡まれ方をされた時の対処法など、シンヤにも分からないのだから。

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