2nd stage ─新染レンは普通の生活に憧れる─ その2
「はぁ〜…初めて見たぜそんな奴。でも大丈夫なの?金持ちには金持ちの学校とかあるんじゃねーの?」
「僕は普通の高校生の生活っていうのを送りたかったんだ。ここ東ノ宮学園って『アイドル部』が有名だから、他の学校よりセキュリティがしっかりしてるらしくって。だからこの学校ならって説得できたんだよ」
「なるほど、そんなところにも『アイドル部』の影響が…」
言い終わる前に、シンヤは考え込むように口元に手を当てる。
不思議そうに眺めるレン。
「…でもそれって、『アイドル部』無き今はどうなってんだろうな」
その言葉で重大な事実に気付いたレンは、口をポッカリと開け顔面蒼白になった。
「た…確かにそうなると、セキュリティに必要以上にコストを割く必要もないし…おじいちゃんにこのことがバレちゃったら、入学取り消しにされちゃうかもしれないよぁ…」
「ははっ確かにそうかもな」
笑いながら肩をポンポンと叩くシンヤだったが、思ったより深刻そうにレンは頭を抱えて悶えている。
不思議そうにそれを見ていたシンヤだったが、自分も『アイドル部』が無くなったことを聞いて同じように絶望したことを思い出した。
そうか…
アイドルになるっていう俺の夢は『アイドル部』じゃなくても叶えられるけど、レンの夢は今しか叶わないんだ…
シンヤはおもむろにレンの肩をガッと掴む。
少し涙目になったレンは、少しびっくりしながらもゆっくりとシンヤを見た。
そんなレンの目を真っ直ぐ見て、シンヤはニッと笑った。
「安心しろ!お前が危なかったら俺が守ってやるから。だから一緒にここに通おうぜ!」
一瞬目を見開いた後、レンは満面の笑みを浮かべた。
「うん、ありがとう…!」
天使のような笑顔にシンヤはドキッとして、慌てて取り繕うかのように喋り出す。
「ま、まぁ俺がそうするって言ったところで問題が解決するとは思わねえけどさ!友達としてやれることは何でもやるから、困ったことがあれば教えてくれよな!」
「…友達、か。初めてかも、こうやって誰かと友達になったの」
そう言い終えた後、レンは少し懐かしむような表情でカーテンの切れ間から見える空を見つめた。
「…いや、一人だけ。友達と思ってた子は居たなぁ。彼は僕をどう思っていたか分からないけど…」
寂しそうな表情。
なんとなく声をかけてはいけないような気がして、シンヤは不思議そうな顔でただレンを見つめた。
「…でもシンヤ君って、本当にアイドルみたいだね」
「うぇえ⁉︎急になんだよ…」
不意打ちで嬉しい言葉を貰ってしまい、思わずたじろぐシンヤ。
「僕、家の方針でテレビとかあんまり見せて貰えなかったからよく知らないんだけど、アイドルって人を元気にする仕事なんでしょ?だったら出会ったばかりなのに僕を元気付けてくれたシンヤ君は、僕にとってはアイドルみたいだよ」
「アイドルは人を元気にする仕事、か…いいなそれ!」
シンヤは勢いよく立ち上がると、レンの方に向き直り大きく手を広げた。
「俺、みんなを元気にするアイドルになる!まずはこの学校中を元気にして、それからこの町、この国、この世界‼︎皆に元気を与えるようなアイドルになるぜ‼︎」
自信満々の笑みで、シンヤは高らかにそう宣言した。
その眩い姿に、レンは圧倒され…
───刹那。
それは見間違いかもしれない。
カーテンの隙間から入ってきた光のせいで、そう見えただけかもしれない。
微かに。
でも確かに。
この薄暗い教室でまるでそこだけスポットライトが当たっているかのように。
赤色。
シンヤの髪と目が、鮮やかな赤色に輝いた。
レンにはそう見えたのだ。
「…どうした?俺、変なこと言ったか?」
ふと我に変えると、シンヤが心配そうに顔を覗き込んでいた。
レンは慌てて立ち上がると、教室のドアを指差す。
「も、もう人がいなくなったみたいだし、そろそろ僕らも入る部活を探さなきゃなあと思ってさ!ほら、絶対どこかの部活に入らなきゃ、でしょ?」
「そーだった!早く行こうぜ!もうみんな体験入部してるぜこれ!」
そう言って急いで『アイドル部』を飛び出すシンヤ。
その姿は黒髪黒目の普通の高校生だ。
「あっ、待ってよ〜」
小走りで追いかけるレン。
そして『アイドル部』のドアをゆっくりと開きながら、小さな声で呟いた。
「……気のせいだよね」