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2nd stage ─新染レンは普通の生活に憧れる─ その1


    2nd stage ─新染レンは普通の生活に憧れる─



薄暗い部屋に1人。

しばらくぼーっとしていると、外でワイワイと盛り上がる声が聞こえてきた。

そろそろ皆入る部活を決めた頃だろうか。


「そーだ、この学校って全員部活入らないと駄目なんだったよな」


『アイドル部』の無くなった今、入りたい部活などないのだが。


ため息をつきながら、シンヤは天井を仰いだ。


アイドルの糧になるようなダンス部や合唱部なんかに入ろうか。それとも体育系の部活で体を鍛えようか。

しかしそのどれも『アイドル部』には遠く劣る。


それでも現実は残酷なもので。


シンヤは重い腰を上げて、ゆっくりと出口の方へと向かおうとした。


その時。



バアアアン!!



大きな音を立てて眼前の扉が開き、何かが転がり込んで来た。


それはどうやら小柄な生徒らしく、立ち上がるや否や動揺するシンヤに向き直り扉を指差す。


「お願い!扉を閉めて!!」


それはまるで、絵本から飛び出して来たような可愛らしい見た目の生徒だった。


ショートカットの栗色の髪の毛は光を受けてキラキラと輝いている。

長いまつ毛の目は微かに潤んで、懇願するような眼差しを向けている。


息を呑むような美少女のような見た目だが、その声は柔らかくも確かに“男子の声”であった。


「お、おう!」


一瞬見惚れたシンヤだったがすぐさま我に帰り、急いで扉を閉める。

すると扉の向こうでドタドタと走る音が聞こえ、何やら女生徒の声がうっすらと聞こえてくる。


「あの男の子どこに行ったの!?」

「絶対にウチの部活に入って貰うんだから!!」

「何よ!!あの子は私たちのとこに入部するの!!」


黄色い怒号にも聞こえる言い争いは、おそらくこの少女のような少年を奪い合う声だろう。


首元に光るピンは赤色。つまりシンヤと同じく1年生だ。


二人とも緊張した面持ちで息を殺していると、足音が遠ざかっていく音が聞こえた。

そしてしばらくの静寂の後、堰を切ったように少年は大きく息を吐いた。


「っはぁ〜〜〜!!あ、ありがと〜。助かったよ」


「いや、いいけどよ…どうしたんだ?何があったんだ?」


「何ってわけでもないんだけどね…」


口ごもりながら少年は胸に手を当てて呼吸を整える。


「ここって強制入部でしょ?ぼく運動があまり得意じゃないから文化部を色々回ってたんだけど、なんだか女性の先輩達がぼくのことで揉めだして…」


「おぉ…お前モテるんだな」


「モテるっていうか、可愛がられるっていうか…ね?」


そう言ってテヘッと舌を出す少年の仕草に、シンヤも思わずドキッとしてしまう。


汚れちゃった〜と座り込んだまま体を払う少年に近づき、シンヤは手を差し伸ばした。

少年は少し驚いた表情をしたあとすぐに笑顔になり、シンヤに引き上げて貰い立ち上がる。


「えへへっ、ありがとう。僕の名前は新染(にいぞめ)レン。1年生だよ」


「俺の名前はシンヤ。おんなじ1年生だ。よろしくな!!」


「ところで…ここは何の教室なの?暗いけど…ダンス部かな?」


レンは鏡張りの壁やステージを見回して、不思議そうに尋ねる。


「ここは…『アイドル部』の部室だ。元、だけどな」


「元……?」


首を傾げるレンに、シンヤは今までの経緯を話した。



「…なるほど。それはなんというか、残念だったね」


「まぁ仕方ねーよ。アイドルになる一番の近道だったけど、アイドルになるって夢は変わらねーからさ」


ニカッと笑うシンヤを見て、レンは驚いた表情をし、そして少し俯く。


「すごいね…シンヤ君は」


「そ、そっかなー?」


急な褒め言葉に照れながら、頭をポリポリとかくシンヤ。


一度深く息を吐き出し、何かを決意した強い眼差しでレンはシンヤを見た。


「……どうせすぐバレると思うから先に言っちゃうけど、シンヤ君は"餡吉"って和菓子専門店知ってる?」


「ああ、CMで聞いたことあるな。安心・安全・安泰の〜歴史がありますっあ〜ん〜き〜ち〜♪ってやつだろ?」


指を指揮者のように振りながら、CMで何度も聴いたことのあるテーマソングを口ずさむ。


「そう。"餡吉"は老舗の和菓子屋から始まり、色んな製菓店や、コンビニなんかで気軽に買えるお菓子の開発なんかも手掛ける会社となって大きくなったんだけどさ」


そう言うとレンは自身の胸にそっと手を当てる。


「ぼくって、そこの跡取りなんだよね…」


一瞬フリーズするシンヤ。


「それって…レンは"餡吉"の御曹司ってことか?」


「正確には、"新染財閥"…かな」


「…すっげえええ!!超お金持ちじゃん!!!」


"餡吉"というブランドといえば、家にテレビがあれば知ってて当たり前というくらい、毎日のように広告が流れている大企業だ。


そんな大財閥の御曹司だなんて、一体普段どんな生活をしているのだろうか。


シンヤはハイテンションになり、レンの背中をバシバシと叩く。

レンはその行動に驚きながらも笑みを浮かべた。


「えへへっ……新鮮だなぁ〜こういうの」


「ん?なにがだ?」


「僕、ず〜っとお家で勉強してたんだ。おじいちゃんが心配症でさ。でもワガママ言って、高校は通わせてもらえることになったんだよ」


俗に言うホームスクールというものだろうか。

御曹司ともなれば、外に出るのも一苦労なのだろう。

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