1st stage ─魚沼シンヤはアイドルになりたい─ その2
「は、廃部ぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜⁉︎」
絶望したシンヤは膝から崩れ落ちる。
気の毒そうに苦笑いを浮かべる凛子は、しゃがみ込んでシンヤの顔を覗き込んだ。
「そ、そうだよ?残念だったね〜…」
「全部『アイドル部』に入る為に頑張って来たのに、どうしてこんな仕打ちを受けなきゃなんねーんだよぉ…」
泣きそうなのをグッと堪えながら、それでも次々と湧いて出てくる悲しみにシンヤ耐えられそうになかった。
東ノ宮学園といえば『アイドル部』のはずじゃないか。
それなのに廃部だなんてあんまりだ。
よりによってどうして俺の入学した今年に廃部なんかに……
……あれ?
「……あの、なんで『アイドル部』って廃部なんですか?」
考えてみるとおかしい。
そもそも、伝統あるアイドル部が急に廃部だなんて普通じゃ起こり得ないはずだ。
一体どんな理由があれば、アイドル部は廃部になるというのだろうか。
すると凛子は少し悩んだ素振りを見せた後、ポケットからスマホを取り出し、シンヤに見せた。
画面にはキラキラと輝く4人組の男性アイドルが映っていた。
「シンヤ君は、『ダイナマイト・シンドローム』って知ってる?」
その問いかけに、シンヤは目を輝かせる。
「もちろん知ってる!『ダイシン』すよね!スーパーアイドルの!俺の憧れなんだ!」
『ダイナマイト・シンドローム』
それはアイドル界に彗星の如く現れた大人気グループ。
メンバーは全員未成年だが、そのセクシーな魅力で見る者を虜にする超新星アイドルだ。
去年で高校を卒業し、今年から本格的にアイドルとして活動していくという……
「あれ?そういえば『ダイシン』ってここの卒業生じゃ……」
そう、『ダイナマイト・シンドローム』は去年までこの東ノ宮学園の『アイドル部』に在籍していたはずだ。
シンヤもここ数年間は街でテレビカメラや、ファングッズを持った人々を見かけたことがある。
「その通り。『ダイシン』は去年の卒業生だよ」
「お、おかしくないっすか?去年まで大人気グループの『ダイシン』がいたのに、今年になって急に廃部だなんて…」
「そうだね…『ダイシン』は人気だった…人気過ぎたんだよ」
スマホをポケットにしまい、凛子は後ろの大きな鏡に背中を預ける。
「私が去年入学した時、『ダイシン』の人気は絶頂だった。だけど『アイドル部』には他の部員はいなくて、私たち新入生の中で『アイドル部』に入る生徒もいなかったんだよ」
凛子は大きく手を広げる。
「きっとみんな、この部室に今をときめくアイドルがいて、その人たちと肩を並べて練習をするだなんて考えられなかったんだよね〜。実際何人か入部したって話もあったけど、すぐに辞めちゃったんだ」
せっかく身近にスーパーアイドルがいて、切磋琢磨できたのに。
勿体ないと感じるのは、実際に彼らを目の当たりにしてないからだろうか。
シンヤはそんなことを思いながら、奥にあるステージを見つめた。
「…俺、夢があって…その為に俺は、絶対にアイドルになるって決めたんだ」
やるせなさから、シンヤは拳を握りしめる。
「決めたのに…」
ポンポンッ
凛子は励ますようにシンヤの頭を優しく叩いた。
「まーまー少年よ。『アイドル部』に入らないとアイドルになれない訳じゃないんだし、そんなに落ち込むことないさ」
確かに先輩の言う通りだ。
もうどうしようもないことで、落ち込んだって仕方ない。
「…そうだよな!アイドルになれない訳じゃないんだ、他に方法はいくらだってあるんだ。絶対にアイドルになるって決めたんだから、こんなことでクヨクヨしてられないぜ‼︎」
シンヤが闘志を燃やしていると、凛子が肘でグイグイッと小突いてくる。
「ねぇねぇ、今の私、とっても『先輩』っぽくなかった〜?頼りになる『先輩』感出てなかった〜?」
「良いこと言うなって思ったけど、それ自分で言うんだ…」
「いいじゃんか〜‼︎言っとくけど少年、君は私の高校生活で初めての後輩なんだぞ?」
「そっか、先輩って今日から先輩なんだ」
「なんかその言い方だと頼りにならなそうだけど…まぁ良しとしよう」
凛子はそう言うとつかつかと教室の入り口まで歩いて行く。
そして木の扉をぐっと引いて開くと、シンヤに向き直って手を振った。
「じゃあまたね、少年。私はすぐそこの手芸部にいるから、いつでも遊びにおいで」
「ありがとう凛子先輩‼︎助かりました‼︎」
「…もう一回先輩って言って」
「…凛子先輩?」
「よろしい‼︎」
満足そうな笑みを浮かべて、凛子は教室を後にする。
ガランとした一人取り残されたシンヤは、そのまま腰を落とした。
「…でもやっぱ、入部したかったなぁ」
夢にまで見ていたのだから。
薄暗い室内を見渡し、シンヤはポツッとそう漏らした。