4th stage ─あと1人足りない!!─ その2
「シンヤ君、そっちはどう…?」
「見て分かるだろ〜…収穫ナシだよ」
シンヤとレンはげっそりとした顔を突き合わせる。
偶然にもシンヤと同じく1年1組だったレンはとても喜び、昨日まではずっとニコニコとしていた。
しかし2人とも『アイドル部』の勧誘に失敗続きで、今日は心身共に疲弊してしまっていた。
そもそもスグルの自信たっぷりの宣言を信じきって、昨日までのんびりと過ごしていたシンヤとレンだったのだが、昨日急にスグルに呼び出されて……
「ダメだった」
というシンプルな報告を受けたのだった。
スグル曰く、2年生のほとんどは部活に入っていて、また今の部活に愛着もある為入部を断られたらしい。
残っているスグルのように帰宅部だった生徒も、『アイドル部』に入る自信はないと断られたそう。
なにより自身で言っていた人気というものが悪い方向に働いたらしく、スグルの隣に立つということがおこがましいと一様に言うのだとか。
「人気者は孤独というが、まさにこのことだな」
得意気に言っていたスグルに、2人は呆れて物も言えず。
そして今日は金曜日。
凛子の言っていた通り、今日までに入部希望者を1人見つけなければ、『アイドル部』は本当に廃部になってしまう。
シンヤもレンも朝から駆け回り片っ端から声を掛けていたのだが、一年生も二年生と似たような状況でほとんどの生徒は部活に入部済みだった。
そんなこんなであっという間に3限が終わり、2人は絶望的な気持ちで4限の始業を待っていた。
「うぅ〜もう人に話しかける気力がないよぉ…」
「流石に俺も手応えが無さすぎて…しんどい…」
人に何かを断られるというのは思ったより負担がかかるみたいだ。
2人は肉体面より精神面の方に限界が近づいていた。
「はぁ……こうなったらまた凛子さんに頼みこむしかねーかなぁ…」
「いやぁ、凛子さんは無理なんじゃないかなぁ」
「…今、凛子って言った?」
突然、正面の席の男子生徒が振り返って話かけてきた。
シンヤはギョッとして身構える。
メガネを掛けている、どことなく軽薄そうな男子生徒。
茶色がかった髪の毛はパサパサと少し跳ねている。
確か名前は……
「ああ、ごめんごめん、急に話しかけて。俺は牧野卓。君らはシンヤ、とレン…君だよな?よろしく」
そう言ってスッと手を前に出す卓。
「お、おう…」
戸惑いながらもシンヤとレンは握手に応えた。
なにやら人の懐に入るのが得意そうな男だ。
「で、君らが話してた凛子って、もしかして2年生の亀井凛子先輩のこと?」
「ああ…そうだけど……」
「ビンゴッ!もしかして仲良い?だったら何でもいいから知ってること教えて欲しいんだけどさ!」
「…どうしてそんなこと知りたがるの?」
怪訝そうな顔で質問するレン。
それを聞くと卓は屈託のない笑顔を浮かべた。
「俺、小さい頃からの趣味で情報集めんのが好きでさ」
「情報?」
「そう。例えば……出席番号2番、青陵中学出身、身長166センチ、血液型はO型、お家は東ノ宮商店街の…魚沼シンヤ君。そして、出席番号18番、出身中学は…」
「ああ〜!分かった分かった!それ以上言うな!」
シンヤは慌てて卓を静止する。
自分のことをズバリ言い当てられた驚きもあるが、入学初日にレンが自己紹介した時の手のつけられない盛り上がりにうんざりしていたのが主な理由だ。
翌々日まで、特に女子が休み時間の度にレンの周りに集まり質問責めをしている光景は思い出しても胸焼けする。
とにかくあの光景の再来を防ぐためにも、迂闊に教室でレンの経歴や御曹司であることを話題にすることはやめようと2人は誓い合っていた。
そんな事情も露知らず、卓は調子良く話を続ける。
「1年生は大体コンプリートしたから今は2年生の情報集めてるんだけど、その中でも才色兼備と名高い亀井先輩の情報が中々集まらなくてね。気さくで友達も多いけど、プライベートが全く分からないんだ」
「プライベートって…ていうか情報集めて何するつもりだよ」
「言ったろ?趣味だって。それに情報っていうのは上手く使えば自分にとって有利な環境を作る材料にもなる」
屈託のない笑みで何やら怖いことを語る卓にシンヤは少し恐怖を覚える。
「お前…なんかきな臭いし、先輩のこと知ってても教えてやんねー」
「ひどっ!面と向かって言う台詞じゃないって!」
わざとらしくショックを受けた仕草をする卓。
こんな胡散臭い奴がこの世にいるのかと2人は呆れた表情を浮かべる。
「はぁ〜多分俺、君らが喉から出るほど欲しい情報持ってるかもしれないんだけどな〜」
「何のことだよ…」
じっとりとした目つきで卓を睨みつけるシンヤ。
しかしそれに怯む様子もなく、むしろ釣り針に獲物がかかったと言わんばかりに卓はニヤリと笑った。
「例えば……まだ部活に入部してない1年生のリスト、とか?」
「「!!?」」
シンヤとレンは思わず立ち上がる。
その爛々とした目を見て、卓は思わず大声で笑った。
「はっはっはっ!どーだ、これが情報の力だよ!」
2人の肩をバンバン叩く卓。
ふと我に戻った2人は、いそいそと座り直した。
「君らが部員欲しさに駆け回ってることは傍目でも分かってたからな。ていうか声かけられたし」
そう言いながら黒革のメモ帳をポケットから取り出す卓。
「基本、俺は相手の役立つ情報の取引しかしないし、相手の用途いかんでは情報は渡さない。でも見返りとして情報を貰うことで、より多くの人の助けになればなあなんて思ってんのさ」
「…凛子先輩の情報をどう扱えば人の助けになんだよ」
「それは趣味。ははっ…まあでも、情報っていうのはどこでどう繋がるか分からないピースみたいなものだからさ」
そう言いながら卓は、メモ帳から紙を一枚破り取ると、ささっと7人程度の名前を書いた。
そしてそれを折りたたむと、シンヤの目の前に突き出す。
「てなわけで、これが対価のリスト。だから教えてくれない?亀井先輩のこと」
「つってもなぁ…本当にほとんど何も知らないようなもんなんだけど……」
シンヤは頭を悩ませる。
しかしよくよく考えると、凛子に関して他人に話して問題になるようなことはそもそもシンヤは知らなかった。
「……裁縫部ってことと、スグル先輩と親しげってことと…あとアイドル部の再興になぜか乗り気だったってこと、くらいだぞ?俺が分かるの」
それを聞いた卓は満足そうに笑い、すぐさま手帳にメモを取り始めた。
「頂きました〜!裁縫部っていうのは知ってたけど、残りの二つは中々レアだぜ!実際に話した人しか知り得ない生情報だからさ」
「そ、そっかぁ?でもこんなこと何の役に立つんだよ」
「言ったろ?情報はピースだって。どんな些細なことでもパズルを完成させる欠片になり得るのさ」
上機嫌の卓はそう言いながら、部活にまだ入っていない生徒のリストをシンヤに渡した。
シンヤとレンは顔を寄せ合い、その小さな一枚のメモ用紙を見た。
「なるほど、こんだけなのか……ん?」
連なった7人の名前を見ていくシンヤだったが、最後の1人の名前が目に止まる。
「この牧野ジョーって、もしかして俺と同じくらいの身長で、肌が真っ白で、目がちょっと鋭い感じの…」
「おっ、知ってんの?意外だな〜」
卓は笑いながら頭の後ろで腕を組む。
牧野ジョー。
名前は知らなかったが、入学式の日にぶつかった男子生徒が牧野と名乗っていた。
きっと彼だろう。
「同じ苗字だから察してるかもしんないけど、俺とジョーは親戚なんだよ。だから分かるけど、ジョーは期待しない方がいいぜ。『アイドル部』なんて入る奴じゃねーよあいつは。だから1番最後に書いた」
確かにアイドルに興味があるような雰囲気はなかった。
しかし『アイドル部』の部室の前で立っていたアレは一体なんだったのだろう?
そんなことを考えていると、前のドアが開き教師が入ってくる。
「あ、もう授業だね!ありがとう卓くん!」
そう言うとレンは自分の席に戻っていく。
シンヤも改めて座り直すと、レンの方を見ていた卓が口を開いた。
「………もしかしたら」
「ん?」
微笑を浮かべながら、卓はレンを指差す。
「もしかしたらレン君なら、あいつを説得できるかもな」
「なんでだ?御曹司だからか?」
「……まっ、そんなとこ」
含みがあるような言い方をし、卓は前へ向き直る。
意外とミーハーな奴なんだなあと思いながら、シンヤは今一度牧野ジョーという人物を思い出す。
確かに口数は少なかったしアイドルには無関心そうなイメージだが、あのクールな雰囲気とルックスは正直格好良かった。
あと1人部員が必要という状況とは関係なく、『アイドル部』に入部してくれればとても頼もしい生徒だ。
いや、そもそも部活を存続できるかも分からないのに高望みするべきじゃないのかもしれないが。
そうだ、今日の放課後までに1人集めなければいけないのに先のことなんて考えてていいのか。
そんな思考がグルグルと回り、4限目の授業の内容が何も入ってこないシンヤだった。




