プロローグ
トップアイドル。
それは眩く輝く一番星のような存在。
誰もが羨み、焦がれ、憧れる芸能界の頂点。
テレビやネットで、一日に一度は不可抗力で見てしまうような絶対的な人気者。
これは1人の…いや、4人の少年がトップアイドルになるまでの物語である。
───プロローグ───
桜舞う校庭。
体育館に集められた生徒は、延々と続く校長の話でさえもキラキラ目を輝かせ聞いていた。
そう、彼らは新入生。
この国内屈指の名門私立高校、『東ノ宮学園』の新1年生だ。
その中に一人、今にも入学式を飛び出しそうにそわそわとしている学生がいる。
彼の名前は魚沼シンヤ。
彼が遊ぶことを我慢し、睡眠時間を削って、そこまで得意ではない勉強を一生懸命頑張りこの高校に入ったのにはとある理由があった。
「……えー、ということで新入生諸君」
校長が咳払いをし、集中力が切れていた生徒も座り直す。
「これから3年間、この学舎で切磋琢磨し、充実した高校生活を送るように。これにて、入学式を終わります」
場内は一斉に拍手で包まれる。
もちろん校長の話に感動したからではなく、その長々とした話からの解放の為なのだが、校長は誇らしげに壇上を降りていった。
すると生徒が集められていた体育館後方の扉が開き、体育教師であろう男性が声を張り上げた。
「それでは新入生諸君‼︎今から『部活動勧誘』が始まります‼︎外では皆さんを勧誘するために今か今かと先輩達が首を長くして待っていますよ‼︎もし上級生のしつこい勧誘があればすぐに私たち教師に告げ口して下さいね‼︎」
ちょっとしたユーモアにクスクスと笑う生徒をよそに、シンヤは体育館を飛び出した。
体育館を飛び出すとそこにはプラカードを持った様々な格好の生徒たちがひしめき合っていた。
ユニフォーム姿のテニス部に弓道着姿の弓道部、ポンポンを持って踊るチアリーディング部。
果ては畳と大きな唐傘をたてて、簡易的な茶室を作っている茶道部まで。
そんな騒がしく雑然とした人混みを掻き分け、シンヤは一目散に校舎を目指す。
「おっ!元気な新入生だな!我らがラグビー部に入らないか‼︎」
「そこのいい汗かいてる君!是非テニス部に入らない?」
「すんません!俺入りたい部活あるんで!」
伸びてくる手を会釈しながら躱して、シンヤは校舎の入口へとたどり着いた。
そのまま階段を駆け上がり四階、そして廊下の一番奥へ。
シンヤがこの東ノ宮学園に入学する決め手となった部活の部室がそこにはある。
道中の入り口を鮮やかに飾り付けた文化部の部室には目もくれず、シンヤは目的の部屋の前にたどり着いた。
他の部室とは明らかに違う。
重厚感のあるローズウッド製の開き戸に、金色のドアノブが上品に輝く。
扉の上の光沢のある黒いプレートには、白字でこう書かれている。
『アイドル部』
深呼吸して高まる鼓動を抑えるが、口元が思わず緩んでしまう。
やっと。
夢にまで見たこの場所にやっと辿り着いた。
シンヤは顔をパンパンとはたき、拳をグッと握る。
ここから俺は…トップアイドルを目指すんだ。
コンコンッとノックする。
そして返事も待たずに、シンヤは勢いよく扉を開いた。
「俺、アイドルになりに来ました‼︎」