慟哭し、覚悟する
前回のつづきぃ
王は去り、そして幹部たちも姿を消した。
その空間では、道化師の苛立ちによるためかピリついた空気が流れる。
その様子に呆れたのか玄司郎が肩を竦めながら、ソファへと腰を下ろす。
そのまま、目の前に置かれていたコーヒーカップを手に取り、淹っている珈琲を一口飲んだ。
「……やっぱり、ジャコウの珈琲は格別ねぇ、人でも同じことできるのではないかしら?」
「身体の構造が違うから無理だよ」
道化師がそれだけ言い、紅茶を一口飲む。
そして、仮面越しからでも感じ取れる殺意を溢れ出させて明導院に詰問した。
「─────余計なことを言ったな。
なんで、彼女の話を出した?」
「やる気が無いのは目に見えてわかったからよ。
無理にでも捻り出して貰わないと困るの、分かってちょうだい」
「彼女は死んだって……そう言ったよな貴方は!!」
床の一部を、杭へと変化させて明導院の頬を掠める。
これは道化師の感情が昂った事で雑把になっただけであり、冷静ならば彼は殺されていた。
その事実を気にすることなく、明導院が道化師へ優しく愉し始める。
「ごめんなさい、確かにあの子が生きてたってのはアタシのミス。
ホントに死んじゃったと思ってわ。
だから、アタシは貴方のその復讐心を利用しようと企んだ、コレは前に言ったわね?」
「あぁ、だから僕は滑稽な親玉を演じた。
やりたくなかったよ。無意味な人殺しも、あんな臭い演技も。
……荊棘を誘う事もッ!!」
床がヒビ割れる。
わなわなと震える拳を見て明導院は道化師の胸中を悟った。
そして、道化師の中で抑えていた激情を溢れさせることを許したのだった。
「なんで、あんな偽善者を誘う事にしたんだ!?
あんな奴、要らないだろう!!
荊棘巽の息子というだけで僕の立場が危うくなるんだ、それを貴方は知らないハズがないだろう!?
田沼も、羅生もそうだったがアイツらは荊棘巽を神格化していた、その息子すらも神格化していた!!
人殺しだってそうさ!
僕は殺したくなかった、麻上巴とその取り巻き以外の人を殺すなんて無益だ!!
でも耐えた……耐えたんだ僕は!!
全部、全部は彼女が死んだって、その事実を変えたいから……その為に奔走した、内臓を腹から出しながら這いずり回った!!」
「───────その結果がこれだ、結局は生きてました、僕の行動は無意味でした、だ。
笑わせてくれるよ」
項垂れるようにソファにもたれ掛かる道化師。
その仮面からは、煌めきが宿っていた。
心が折れた道化師を、明導院は
「……無意味じゃないわ。
なら次は、あの子が不幸な目に遭った事実を消せばいいのよ」
そう、耳打ちした。
彼の言葉を疑うように道化師が振り向く。
明導院は、ウィンクしながら続けた。
「呪力の使用量によっては、貴方のその禁呪は世界の理に触れることができるの。
……例えば、鬼の存在を消したりなんかは百万人分の呪力量でいいの」
「また、大量の人殺しをしろってか!?
しかも百万人だと、貴方は人の心を持ってるのか!?
僕はもう、これ以上は………!」
「アタシも貴方が決心する時間がいるとは重々承知よ。
でも、成功さえすれば光ちゃんはそもそも麻上巴に犯される事実も、洸一サンが刺殺される事実も無くなるんでないのかしら?」
「それ、は…………」
「光ちゃんが笑える世界を作りたいんでしょ?
なら、腹決めて貰わなきゃ困るわ。
それに、多分これ以上は待てないわよ彼ら」
明導院の言葉に、道化師は俯いた。
悩んでいる道化師に、彼はさらに追い打ちをかけるのだった。
「今さら日程を伸ばします、なんてなったらホントに寝首掻かれるわよ。
羅生のアイツら率いて、伊藤達も羅生に組み込まれてアナタは殺される。
そうなれば、目的を達成出来なくなるわよ」
「ならやはり……するしかないのか?」
そうよ、と玄司郎が頷いた。
目の前の子供を憐れむ視線を向け、肩に手を添えて。
彼は、少年を諭したのだった。
「貴方は辛いと思うけど、覚悟を決めてちょうだい…………巴チャン」
巴、そう呼ばれた道化師が顔を手で隠す。
数秒後、彼はただ
「わかった、理解した。
……彼女を幸せにする為に、僕はこの世界を捨ててやるよ」
そう、決意を表明したのだった。
ちょっとした実験も兼ねて道化師はこういうキャラにしています。
書いてて思ったのですが、道化師と明導院の関係性はなんとなく仮面ライダー鎧武の光実に対する戦極凌馬をフラッシュバックしてしまいますね




