男の狼狽、女のジェラシー
長らくお待たせしました、死にかけの桜のです
「オイ……どういうこと、だよ!?
説明してくれ楓!!」
「あ、えっと……」
男が吠え、楓が少しから酷く怯えた様子となる。
……ストーカーか?
まぁ、オレから説明しようか。
なるべく、男が納得するようにストーリーを即席に作り上げ、楓と男に割り込むように立った。
「自分は、亜人種課の源 未音と申します。
お知り合いでしたら申し訳ありません。
自分も彼女とは高校から知り合いでして。彼女が第一級指定悪鬼である伊藤 守人に命を狙われている可能性があるので、私が近くに住んで身を守るように行動しております」
「第一級悪鬼……?」
……あぁ、そういや知らないよな。
別に機密情報ではないし説明しよう。
その方が相手も納得するし、丸く収まるハズだ。
「要はランク付けされた指名手配犯のようなモノです。
凶暴さ、残忍さ、強さの三つを統合して一から三の数字でランク付けしております。
一級が最上位となっております。
自分は知り合いということもあって、上層部に強く志願して彼女を守るようにしてもらいした」
最後のは当然、でっち上げている。
しかし、納得するならそういう他ないだろう。
どこか納得しない様子で、男が恨めしそうにオレを睨みながら訊ねた。
「狙われてるってなんで知っているんだ、アンタは知り合いだけだというのになんで彼女を守ろうとしているんだ!!」
「彼女の妹さんが自分の恩人ですので。
妹さんを悲しませないように、自分が命に変えても守ろうと思ったわけです。
……さて、訊ね遅れましたが貴方の名前は?
それか橘花さん、貴女は彼の名をご存知でしょうから貴女からお聞きしてもよろしいですか?」
「な、なんでアンタなんかに名前を教えないとダメなんだ!!
教える理由なんてな───────」
「……いえ、私は彼の名を知りません。
たまたま、店内で働いてたら声を掛けられました。『一緒にお茶を飲もう』、そう言われて私も悪い気はしなかったのですが仕事中なので断ってから一ヶ月近くの間ずっと声を掛けられるようになりました」
「な、楓!!」
男が楓へ詰めよろうと一歩踏み込む。
彼女の前に立つオレが男を睨む、すると男は怯えるように動きを止めた。
「もう一度お訊ねします。
貴方の名前はなんですか?
そこまで頑なに言わないのであれば貴方を伊藤守人と関わりのある人物として拘束させていただきますが」
尤も、ストーカーなので規制法で彼女への接近を禁止するが。
「……佐藤、鉄雄だ!
ほら、これでいいだろう!?」
免許証を渡され、住所等を記入する。
……よし。これで大丈夫だろう。
「佐藤さん、それでは貴方のこの行為を公安委員会にストーカー行為として提出させていただきます。
ほぼ間違いなく彼女への接近行為は禁止となると思われますがご了承ください」
「はぁ!?
なんでだよ、なんで名乗っただけでそこまでする必要があるんだよ!!」
「現場に出会した自分の判断です。
ご不満があるようでしたらどうぞ、この電話番号までお願いします」
そう言い、オレは亜人種課の電話番号を渡す。
「さぁ、行こうか橘花さん」
「え、えぇ。……ありがとう」
呆然とした様子でその場を動かない男の横を通り過ぎ、オレ達はそのまま帰路へと着くのだった。
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ストーカー男の件から一時間近く経ち、時刻は20時18分。
自宅近くのファミレスで軽く食事を終わらせたオレはというと。
何故か、何処か不満そうにする向かいの席に座る楓への接し方に困っていた。
否、何となく察しはつく。
橘花さん、という呼び方についてだろう。
楓は、その呼び方をとんでもなく嫌っているのだ。
しかし、あの場を乗り越えるには仕方がないわけで。
……マジでどうすればいいのだ?
「あの、楓さん…………?」
「なに? 源くん」
あからさまである。
しかし、楓がこんなに不機嫌な様子なのは珍しいな。
前のパスタ以来だろうか。
……否、あと一つあったな。
その事は記憶から抹消するとして。
説得を試みるべく、脳を必死に働かせた。
「あのストーカーを追い払うためだったんだ、許してくれ。
ほら、今日はなんでも言うことを聞くから」
「じゃあ、抱いてくれる?」
「あ、それ以外でお願いします」
そんなことをしたら天国にいる楓季さんが地獄までオレの事を殺しにくるでしょう。
あの人の親バカぶりは見事なものだからな。
オレの返答に楓はむっ、と眉をへの字に曲げた。
「へぇ、こーんなに美女が抱いてって誘惑してるっていうのに意気地無しね。
……前みたいにお風呂屋さんにでも行く気なのかしら?」
「いいえ違います!!」
ハッキリと即答する。
……あんな地獄はもう見たくない。マジで見たくない。
「オレはただ、楓には幸せに生きて欲しいんだ。
ほら、オレと仮にそういう関係になったらお前は伊藤の下っ端とかに命を狙われる可能性が出てくるワケで───────」
「なんか勘違いしてる見たいだけれど。
私、貴方が伊藤に復讐するって言った時からずっと貴方の傍で支えて、死ぬ覚悟よ?
貴方と人生を添い遂げるつもりなのに、察してるクセに貴方がいつまでも手出してくれないのって、勝手かもしれないけれど結構不満溜まるのよ?
それだけならまだ仕方ないけれど、橘花さんってあんな他人行儀で呼ばれたら……状況が状況だとわかってるけど、どうしてもね」
マドラーで中の珈琲を回しながら、彼女が翳りのある笑みを浮かべる。
しかし。どんなに彼女の表情を曇らせたとしても。
オレはやはり、楓に手を出すことは出来ない。
「ま、まぁ兎も角。
さっさと会計を済ませよう。
ほら、店の人に迷惑かけるしさ」
「……む、嫌な逃げ方ね。
まぁいいわ。どの道、貴方に逃げ場は無いものね?」
どっかの悪役か、なんてツッコミを無理やり抑えて。
オレは今のほぼ詰みな状況をどうするか思案していた。
家に帰ったら逃げ場はなく。オレは小動物のように逃げ回るしか無くなるだろう。
だが、そうすれば彼女を傷付けてしまうのは明白である。
そうだ、蒼龍に助けを……ダメだ、アイツ今ドイツだ。
神様、どうか助け舟を出してください。
内心で祈っていると、ふと電話が鳴る。
誰だ、救世主は。
画面には、光さんの名前が写っていた。
「ごめん楓、少し離れる」
それだけ言って席を離れる。
会話が聞かれないであろう外にまで出ると、応答ボタンをタップする。
「もしもし?」
『もしもし、未音くん?
ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな。私の家教えるから、来てくれる?』




