英雄譚は潰え、復讐が始まる
少し胸糞描写あります
時は遡り数分前。早朝から亜人種課にいつもより早く出勤して所長室へ赴くようにと指示を下された麻上は現在、逃げないように玄人の部下の一人に押さえつけられていた。
「さて、麻上巴ニュースの件を確認させてもらおう。
・・・・・・内容は全て事実か?」
署長室には木造の椅子に座る玄人と、押さえつけられている麻上、そして彼を押さえつけている玄人のボディーガードがいた。
署長であり玄人の叔父である煌月灰利は不在であったため、玄人が変わって麻上を問い質している状況だった。
先程からずっと同じ問いを続ける玄人に、麻上が怒りが爆発しそうになりながらも恍けるのだった。
「いやー・・・・・・なんの事っすかねぇ?
いや、マジでワケわかんねーから離してくれる? ウザイんスけど?」
「残念ながらそれは不可能だ。私の元に証拠が沢山あるのでね、君が認めるまでは返す気はない」
「冤罪を認めろとか魔女裁判みたいなもんじゃねぇかよ・・・・・・んじゃあこのSP殺してやろうか?」
「化けの皮が剥がれていっているぞ。
さて───────入って大丈夫だ」
玄人が扉の向こうにいる人物に声を掛ける。少し間が空いた後、「失礼します」と言いながら、署長室へと入る青年の姿があった。
眼鏡をかけた、少し長身ではあるがいまいち特徴がない普通の青年だが麻上はその青年のことを覚えていた。
何故なら、その青年は同じ亜人種課の同級生であり、自身が虐めて辞めさせた男だったからだ。
「彼の事は覚えているね?
佐藤 健。
亜人種課の訓練校では君と同級生の男だったハズだ」
「佐藤!!」
麻上が視線で「余計なことを言うな」と指示を送る。
しかし、今は麻上は化けの皮が剥がれ落ち、周りに味方などいない。
佐藤もそれをしっかりと理解している。
故に。そんな傲慢な指示を、従うことはなかった。
「どうした? いつもみたいにジミーって呼んで、俺の顔をバットで滅多打ちにしたり煙草を押し付けてこないのか?」
「テメェ・・・・・・!!」
麻上が激昂し、無理やり力を入れて佐藤に殴りかかろうとしたが、玄人の部下が更に力を入れて麻上を押さえ付け直すのだった。
そんな無様な麻上を、佐藤は大声で嘲笑うのだった。
「ぷッ・・・・・・ギャハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハ・・・・・・ッ!!!!
最高にざまぁねぇな麻上!!
あの、煌月さん!! 俺、コイツに今やり返してもいいですか!?」
「好きにするがいい。
───────しかし、同レベルの醜い争いならば私は今後、何も関与しないがね」
今にも蹴り上げそうだった自身の足をピタリと止め、佐藤が玄人を睨む。
しかし玄人の毅然とした姿に圧され、麻上へと睨み、舌打ちをして足を下ろした。
彼とて麻上の被害者、やり返したい気持ちは当然ある。
腐っても、父にやりたいことを阻まれてしまったとしても、彼は大企業の一人息子。
未だに、金を積まされて、警察を買収することは可能である。
「・・・・・・運が良かったな、クソ野郎」
それだけを言い残し、彼は立ち去るのだった。
「麻上巴、君は高校在学時にも目に余る行動を多々行ってきたのだろう?
ハッキリと言ってしまえば、君は亜人種課には必要が無い存在だ」
「・・・・・・どういうコトっすか?」
「君は最近、本当に鈍いな。
クビだと言ったのだよ、私は。人に頼まれたというのもあるが、元々解雇する予定ではあった」
玄人の言葉に、麻上は唖然とした。
そして、彼は一句一句を呑み込み、逡巡して悟った。
───────これは自身の父の仕業であると。
「その顔を見るにようやく悟ったみたいだな」
「なるほどね。
・・・・・・あのクソ親父が、余計なことをしやがって───────!!」
次第に麻上も、怒りのボルテージが上がっていく。
そんな麻上に、まるで燃え広がり始める炎に薪を焚べるかの如く。
「君は始めから、ヒーローになれる素質など無かったと言うわけだ。残念だったな、麻上巴」
冷たく、言い放つのだった。
「待て、待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て───────!!
なんでヒーローになれないって、テメェが言い切るんだよ・・・・・・ジョーダン言ってんなよ殺すぞ!!」
「少なくとも英雄は凌辱なんぞしないからな。
それに、今はハロウィンだ。エイプリールフールでは無い。
嘘だと思い込んでしまうのは勝手だが生憎と私は君に対してなんの同情も、憐憫も哀愁も抱かない。
善を騙り、英雄として象ることに成功してしまった偽物なんぞにはね」
歯を噛み締めながらも、言葉を紡げない麻上を見て玄人は部下に命令した。
「話はこれで終わりだな。つまみだせ」
「畏まりました」
襟を強引に麻上は引っ張られ、玄人と距離が遠ざかる。
「……テメェら」
わなわなと、静かに怒りの炎を滾らせながら麻上は、
「テメェら全員、死にやがれぇぇぇぇぇぇぇ───────!!!!!!!!!!!!!!」
そう慟哭にも、絶叫にも似た咆哮を亜人種課、東京本部内に轟かせる。
無様な負け犬のように、情けなく惨たらしく。
そして───────麻上は、亜人種課から追い出されたのだった。
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都内某所の大通りにて。
亜人種課を追い出されて少し時間が経った後に麻上は、呆けた表情で歩いていたのだった。
ゆらゆらと揺れ歩く、その姿はまるで幽霊のように。
野望を打ち砕かれた青年は、途方もなく、行くあてもなく彷徨い続けていた。
「クソ、なんで・・・なんで・・・・・・」
戸惑いを反芻させながら、麻上は歩く。
因果応報、自業自得という事実を認めず、拒んだまま彼は次第に、怒りを募らせていく。
幸い、顔は載らずに名前だけの報道であったため彼の憔悴しきった様子に対して、周囲は奇異な目で見ても悪人、屑だと罵倒する者はいなかった。
「─────アレ、麻上じゃーん」
「ホントだ、てめぇなんでそんなツラでノコノコ歩いてんの?」
しかし、神がこれは天罰だと言わんばかりに、彼の事を知る者が現れた。
男の呼び声に麻上は生気のない瞳を向け、その者の名を口にした。
「加藤・・・・・・」
加藤と呼ばれた男が口角を吊り上げる。
しかし、その笑みとは裏腹に拳は強く握り締められており、視線も麻上に対して憎悪を通り越して殺意が籠っていた。
「俺さぁ。お前のこと殺したくて殺したくて仕方がなかったんだわ。
お前に奪られて以降アイツ・・・・・・愛はどうなったんだっけ?」
「──────輪姦して、堕胎させたって話じゃねぇか。
知ってるか・・・・・・? その後、愛は飛び降りたんだぜ?
遺書も、なんも書けないくらいまでメンタルが潰れてたって話らしいなぁ!?」
加藤が麻上の顎に向かって蹴りを入れる。
放心していた麻上は、避けるのとなく情けなく蹴り飛ばされた。
アスファルトで舗装された地面へと背中が打ちつけられ、麻上が痛みに悶える。
「イッ・・・・・・てぇ!!
クソ、加藤さぁ・・・・・・なんで寝取られたか考えたこと無かったのかよ?」
悪態をつきながら、麻上が起き上がる。
ソレを言われるのが嫌だったのか、加藤は追撃を仕掛ける。
しかし、先程の蹴りを食らったのはあくまで麻上が加藤を認知しつつも、まだショックが抜けていなかったからだった。
鋭い右フックを麻上が掌で受け止め、加藤が言われたくない事実を、麻上が嘲笑いながら声を出して言うのだった。
「たんに、てめぇが短小だったからだよ。あ、剥けてもなかったか?
・・・・・・まぁどっちでもいいや。で、報復しに来たってのか?
残念だけどさァ、オレになんかやり返したりするってのは百年はや───────!?」
背後から、一人の青年が金属バットで麻上を殴打する。
最後まで言おうとした麻上は、後頭部に鈍い衝撃が走って言葉が止まってしまった。
その青年は麻上に過去に虐められており、たまたま知り合った加藤と結託していた。
麻上の最大の不幸は、結託したのはその青年だけでは無かったことだろう。
その青年に続くように、背後からゾロゾロと大人数の大人達が麻上を囲う。
その中にはまだ中学生くらいの少年もいた。
加藤が麻上の頭を掴み、その少年と目を合わさせる。
「・・・・・・」
「知ってるか、コイツの親、お前が自殺に追い込んだ教師らしいぜ?
後は・・・・・・アイツはお前にゲイバーに連れてかれて集団強姦にあったやつだな。
お前の悪ふざけで肩を潰されて柔道部を辞めることになったやつもいる」
「負け犬の集まりじゃねえか、『僕達は負け犬ですワン』って鳴けよ、笑ってやっからよ」
加藤が罪を自覚させようと説明するが、麻上は笑い飛ばして片付けた。
そんな麻上に容赦など不要であると。
そう告げる代わりに、彼の睾丸を全力で蹴り上げる。
悲鳴をあげないように麻上が歯を食いしばり、激痛に耐える。
そんな麻上の髪を掴み、加藤が唾を吐き捨てる。
「ここはよ・・・・・・お前に復讐したくてたまらねぇヤツらの集まりなんだわ。
今日のニュース、非常にいい報せだったわ。
まぁ、事前に佐藤って奴から聞いてたけどよ」
無理やり起こされ、抵抗しないように身体を抑えられ、集団での復讐を麻上がその身をもって味わうこととなった。
先ずは逃げれないように四肢を折られ、そして何度も鳩尾を踏みつけられる。
さらには、顔の原型が無くなるまで金属バットでひたすらに殴打された。
───────以上の過程を終え、最後に男達がゲイバーへ連れていこうと麻上を車へ乗せようとした時、近くにいた無関係の人から通報を受けて警察が駆けつけてきたのを察知した男達が逃げたことで麻上は助かったのだった。
その後、駆けつけてきた警察が即座に救急車を呼び、彼は病院へと搬送されるのだった。
「……な、で」
なんで、自分がこんな目にあうんだと。
麻上は、何度も心の中で問い掛けた。
他の誰にでもなく、自分自身に。
自分は何も悪い事などはしていない、そう言い聞かせる。
その様はとても惨めで。
そうだねと答えてくれる味方が誰もいない状況は、彼を虚しくさせた。
麻上くんが痛めつけられる回です。
次回は麻上くんが去った後の未音くんの同行を書いて、二週間程お休みをいただきます。
番外編で書かなければならない話があるのでそれを急ぎで書きます




