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復讐螺旋  作者: 桜野 ヒロ
道化終劇
34/50

死者の行進

なんで昨日投稿してからまた投稿するんだ僕は???(困惑)

 十月二十四日、午後の十三時。

 亜人種課の会議室にて。

 先日、オフィスで注目を浴びた二人が入室した。


「これが君が以前見たがっていた資料だ。

 辛いと思うが、読んでくれ」


 灰色がかった長髪の男性、煌月玄人こうづきくろとが甘栗色の髪をした女性、麻上光あさがみひかりへと分厚い資料を渡す。

 表紙には、『煌月家』としか書かれていなかった。


 光が、資料を読み進める中、実験についてと記載された頁に目が止まった。


「この、実験についてと記載されてあるの部分ですが・・・・・・」


「読むといい」


 そこに記載されてある、数多の事実は思わず目を逸らしたくなるほどであった。

 何故ならばそこには、いかに煌月という鬼狩りの名家が非人道的な行いをしてきたかが如実に記されてあったからだった。

 口を手で覆い隠す光に、玄人は僅かながらの罪悪感を抱きながら資料の内容を口にした。


「鬼と人間との混血についてだが。

 父親が鬼の場合は呪変臓は存在せず、鬼に等しい身体を持っている。

 鬼の身体能力は確かに素晴らしい。しかしその代わりに彼等は元々の寿命が短く、医学が発展した現代ですら寿命はおよそ五十後半で死ぬとされている。

 それは、父親が鬼の場合の混血もそうだ」


「・・・・・・ならば、父親が人の場合はどうだろうか?

 そんな疑問を抱いた我が父、煌月こうづき 荼毘だびは鬼と交わり子を複数生み出させ、そしてそのサンプルの子たちを観察 したところ、実に興味深い結果が現れた。

 生まれた子達は悉く十代で亡くなったという」


「・・・・・・不可解です、あまりにも短すぎる」


 そうだ、その通りだと玄人が頷く。


「・・・・・・父、荼毘だびは愚か者だった。

 彼はせっかくの実験を、有耶無耶な結果にして自らの手で潰したのだ」


「潰した……それは、」


「殺したんだ」


 冷めた声音で、玄人が答えた。


「彼は産ませた子達を次々と殺して回った。

 父は、肝心なことを忘れてしまっていたのだ。

 我々、煌月家にはある呪術が継承される。

 当代の煌月家が死んだ場合、子の一人に受け継がれる仕組みとなっている。

 父は俺にその呪術を継承させたかったみたいでな、あまりに数を増やしてしまったせいでこれでは俺が受け継げる可能性が低くなってしまったと焦ったんだ」


 淡々と玄人は語る。

 その声音には哀れみが含まれていた。


「・・・・・・それが、今まさに巷で騒がれている鬼の冤罪の真相なのですか?」


「あぁ、そうだ。

 そしてその実験の中───────」


 そこから、玄人は光に静かに語り始めた。

 彼女にとっては苦痛に他ならない、残酷な事実。

 さらに、この亜人種課の悪行の数々を玄人は話す。

 彼のマスコミにすら話していない事実を、光は涙を滲ませながら聞くのだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 二人が話を済ませた四時間後、十七時六分。

 都内のある路地裏で、酒に溺れたスーツを着た男がいた。

 その男は、市民を守るべき立場にいる亜人種課の人間だった。

 そんな男が、情けなく酒に溺れている。

 その理由、原因は自身の不祥事だった。


 男の名は本多ほんだという。

 不祥事の内容は敵前逃亡、及び冤罪による鬼の死刑を行った事。

 明るみになった彼はすぐに玄人により無期限の謹慎を言い渡されていた。

 だというのに彼は、謹慎を無視して外を出歩き、溺れるように酒を飲み歩いていた。


「煌月のヤツ、なーにが足でまといだ。

 俺だって・・・・・・俺だってなぁ!!」


 虚空に向かい怒りを露わにする。

 勢いに任せ、酒瓶を放り投げる。

 ───その目の前に、人影があるのに気が付かずに。


「おっと、危ねぇ」


 難なく酒瓶を受け止めた白スーツの男は本多を一瞥し、


「気を付けな兄ちゃん。

 僕が人を殺す鬼とかだったら平気で殺されてたぜ」


 忠告をした。

 しかし、酔っている本多は男の発言に気が触れられ、さらに怒りを加熱させるのだった。


「うるせぇ!! 俺を誰か心得てんのか!?

 いいか、俺ァ亜人種課の───────」


本多ほんだ 勝二かつじ

 十月二十四日生まれ、四十二歳。

 身長は百七十八センチメートル、体重は七十五キログラム。

 配属したての頃に荊棘いばら たつみさんによるテロ事件が起きて、そこで名の知れた当時の殺人鬼を仕留めたことで一躍有名になった男・・・・・・だよね?」


 名乗ろうとした本多を遮り、男がすらすらと語る。

 ───────この時、本多はそれに違和感を気付ければ良かった。

 しかし、酒に酔っていたせいでまともな判断ができず、さらには自身の栄光をスラスラと語られ、完全に調子に乗って思考するということが放棄されてしまっていた。


「へぇ、アンタ物知りだなぁ!!

 気に入った、一緒に酒でも飲もうや!!」


「なら、オススメなバーがあるからそこに行こう。

 ・・・・・・あと、僕は君のファンなんだ」


 男の言葉に、本多はさらに男を気に入り、あっさりと男に連れられ、男の行きつけの酒場にまで案内された。




 酒場へと到着し、男がカウンターにいるバーテンダーに、


「いつもの」


 と注文を入れる。

 はいよ、とバーテンダーが答えてテキパキとカクテルを作り始める。


「あんたァ、名前なんて言うんだ?」


「……伊藤」


「伊藤ねぇ!! 勘違いされないように気を付けろよォ? 背もでけぇし、マジで誤解されて殺されるかもしんねーからな!!」


 そうだね、と男───────伊藤が答える。


「あ、そーだいいこと教えてやるよ!!

 十月三十日の夜にな、なんか避難勧告が出るたァ思うけどそりゃあ道化師の犯罪グループが次の日にテロ起こすからなんだよォ!!

 バレねぇように、すこーしずつ何かと理由つけて避難させるみたいだぜ。

 殺されねぇように気を付けろよォ、なぁ!!」


「どうぞ、お飲み下さい」


「へぇ・・・・・・なるほどねぇ」


 調子を良くした本多が伊藤に重要機構を漏らす。

 そして、バーテンダーに提供されたカクテルを一口飲む。

 柑橘系の、さっぱりとした味わいに本多は目を見開き、舌鼓を奏でた。


「いいねぇコレ!

 なァ、なんて酒なんだ?」


XYZエックスワイジー


「んぁ? XYZォ?」


 本多が、どういう意味だと、問おうとした直前───────視界が暗転し、前額部に強い衝撃が走った。

 白スーツの男・・・・・・伊藤いとう 守人もりとが本多の頭を掴み、カウンターへと打ち付けたからだった。

 衝撃で完全に酔いが覚めた、覚めてしまった本多は伊藤守人だと漸く認識する。

 その、本多に対して完全に冷めた表情をした伊藤に対して彼は思わず、恐怖を抱いた。


「た、助けてくれぇ!!

 情報、情報なら全部バラす、バラすから許してぇ……!!」


 そしてみっともなく全力で、命乞いをする。

 助かるために、生きる為にプライドなんてものをかなぐり捨てて本多は涙を流し、顔をぐちゃぐちゃにしながら、懇願したのだった。


「……ダメだァ、お前にゃ色々喋ってもらうよォ? なぁ、明導院?」


「えぇ勿論。ボスの命令だもの、諦めて頂戴ちょうだい本多チャン?」


 バーの隅で、一人酒を嗜んでいた玄司郎が振り返る。

 蒼龍によって両断されたハズの胴体はくっついており、傷は完全に癒えていた。

 グラスに入ったワインを飲み干し、ゆっくりとバーテンダーの元へと歩く。

 そっとバーテンダーの肩に腕を乗せると、バーテンダーは痙攣するかのように震えだす。

 そんなバーテンダーの緊張を解すように、玄司朗が笑みを浮かべた。


「演技、上出来だったわよ?」


「な、なぁ……こ、こ、これで俺は助かるん、だよな?」


「それは、守人の気分シダイよ♡」


 玄司朗が微笑み、ウィンクを飛ばす。

 その仕草に伊藤が舌打ちし、バーテンダーに残酷な宣言をした。


「ムカついたからお前も殺すね」


 バーテンダーは言ったことが理解出来なかった。しかしそれが不幸中の幸いだった。

 バーテンダーが目で捉えきれない速さで、伊藤が彼の頭を掴むと、彼が理解するより速くに握り潰した。

 最後は恐怖で染まらず、バーテンダーの男は本当に運が良かった。


「……あ、あぁぁぁ……」


 声を震わし、顎をガチガチと鳴らす本多はこの先の地獄絵図を思い描いて、さらに震える。

 まるで携帯のバイブレーションに震える本多を見て、伊藤は嗤う。


「無様だなぁ、滑稽だなぁ・・・・・・過去の栄光に酔いしれて、堕ちるに堕ちて言ったお前にゃ最高の末路だよなァ」


 本多の頭部を掴み上げると、伊藤は迷いなくもう一度バーカウンターへと打ち付ける。

 一度目はなんとか気が付いたが、二度目はそうはいかず、本多は気を失ってしまった───────



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そして、さらに二時間後。


「───────フゥ、気持ちよかったァ」


 地下一階の、八畳ある伊藤の専用部屋の中で、主である伊藤が恍惚とした表情となっていた。

 手には血塗れのペンチと、糸鋸が握られていた。

 殺風景な空間の中には、ポツリと椅子と、バケツが置かれていた。

 バケツの中にはぎっしりと爪が詰まっていた。


「コレクションがまた埋まりそうだなぁ……新しいバケツ買うかぁ」


「あら、守人。本多ちゃんは?」


 あっけらかんと入室した玄司朗が、真っ先に伊藤が拷問で楽しんでいたハズの本多の姿がないことに気付き、訊ねた。


「ん? 道化師のヤツが聞きたいことがあるって言って持ってったよ。

 ……アイツ、なんか最近は変な行動とるよね?

 僕がこうして捕まえた捜査官殆ど最後にアイツが貰ってくもん」


「んー・・・・・・まぁ、色々あるんじゃないかしら」


 玄司朗が視線を逸らし、天井を見ながら答える。

 明らかな誤魔化しだった。

 しかし、伊藤はただ睨むだけでそれ以上を訊ねるつもりは無かった。

 ここで無理に問い詰めようとしても、意味の無いことだと理解していたからだ。


「まぁ、いいよ。

 僕としては・・・・・・やあっと会えるんだからさ」


「良かったじゃないの」


 玄司朗の言葉に、伊藤は口角を上げて、笑みを浮かべる。

 来週の、作戦に彼は期待に胸を膨らませるのだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「・・・・・・こ、ここだ」


「“ここが・・・・・・かの殺人劇の主役の墓地か”」


 首輪を掛けられた本多が、道化師を墓石の前へと案内する。

 剥がされていたハズの爪は生えており、伊藤によって切断された四肢も、元に戻っていた。

 墓石の前に立った道化師は呟き、指を鳴らす。

 すると土が弾け、中から棺が現れた。

 蓋を空け、中にある骨に触れる。


「“……コレじゃない、コレでもない”」


 道化師が呟きながら、骨を投げていく。


 数分前、


『“命が惜しくば、ワタシを荊棘巽の墓へと案内しなさい。

 そうすれば、何をするかは……分かってますよね?”』


 そんな甘言に乗ってしまい、本多は目的地へと案内したのだ。

 彼の中に、罪悪感などなかった。

 そこを教えるだけで自身の命が助かるのだ、それに墓へ来てどうこう出来ることは無いのだから。


「“お、あった”」


 しかし、そんな甘い予想は簡単に覆る。

 ふと、骨の一片を持った道化師が背後の本多へと声を掛ける。


「”異能……って、知ってますよね?“」


「・・・・・・知ってるけど、それがどうしたんだよ?」


「”ワタシは、物体の記憶を把握する異能があります“

 ”人の体……もしくは骨なんかに触れるとね、その人の元々の身体の情報が脳にインプットされるのですよ“」


 道化師の言葉に、本多はすぐにあることに気付き、自身の考えの甘さを悟った。


「・・・じゃ、じゃあお前……その、物を変化させる力は・・・・・・!?」


「”えぇ───────禁呪です“」


 アッサリと道化師が答える。

 次の瞬間─────骨の一欠片だけだったモノは、人の形となり、肉や皮膚が復元されていく。

 ───────燃え盛る炎の橙のような髪色をしあ男が、骨の一欠片から現れる。

 否、蘇ったのだ。


「バ、馬鹿な・・・・・・そんなハズ、ない」


 声を震わし、本多が否定する。


「だ、だって、そ、その術は・・・・・・!!」


 ソレを言おうとした本多は、道化師に肩を触れられ、その直後に首を残して破裂した。


「───────オイオイ、楽しそうなことをしているじゃないか」


「”これはこれは失礼“

 ”初めまして、ワタシは道化師と申す者です“

 ”貴方はかの鬼の王と思いますが、正解でしょうか?“」


「当然だろう」


 堂々と男が答える。

 ゆっくりと道化師へと手を伸ばし、


「まずは服を寄越せ、蹂躙はそこからだ。

 源楓季みなもとふうき・・・・・・そして源義博みなもとよしひろの兄弟にもまた挑もうか」


 嬉々として言う。

 男の一言一言には重圧があった。

 逆らえば殺すと、宣告しているかのような。そんな重圧があったのだった。

 しかし、


「“お召し物は渡しますが、蹂躙はまだですね”」


 ひょうきんに道化師が答え、適当に掴んだ砂を龍の絵が描かれている着物へと変化させ、男へ投げた。


「”一週間後、十月三十日です“

 ”それまで、その欲求を溜めといてください。

 十八代目茨木童子……またの名を荊棘巽いばらたつみサマ?“」


 巽と呼ばれた男は、不敵な笑みを浮かべる。

 獲物を狙う獣のように獰猛な笑みを前に、ひょうきんな態度を振る舞う道化師は仮面の裏で笑みを浮かべるのだった───────


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