悲劇
「未音、諦めろ。現実から目を背けるな」
「なに・・・・・・言ってんだよ、蒼龍?
生きてる・・・・・・藤也はまだ、生きてる。
なら───────」
「助かる? 出血量を見ろ、そんなわけが無いだろ。
・・・・・・さて、藤也。お前を今から処刑する」
冷淡に彼は言うと、藤也の方へと視線を向ける。
その視線に応じるように、藤也は微笑んだ。
「やっと来たか、処刑人め。
・・・・・・迷惑をかけるよ」
「全くだ、弟といいお前といい・・・・・・なんで俺が出る事態を引き起こすんだよ」
コツコツと足音を鳴らし、ジャラジャラと鎖を地面に擦らせる。
オレは、蒼龍の顔を見ることが出来なかったが、藤也は彼の顔を覗いたのだろう、
「・・・・・・なんだ、通り雨でも降ってたのかい?」
優しい声音で言う。
もう喋ることすらキツいだろうに、それを必死に耐えて、彼は平静を保っている。
・・・・・・分かっている、蒼龍に言われなくとも。
藤也が瀕死だということと、助からないということは。
それでも。それでも、オレは否定したかった。
友人が友人を殺させてしまう。そんなことを現実として受け入れたくはなかったのだった。
「・・・・・・違う、雨じゃない」
震えた声音で、蒼龍が否定する。
しかし、藤也はさらにそれを否定して言うのだった。
「いいや、雨だよ。
処刑人が感情なんて持ち合わすんじゃないよ。さ、とっとと殺してくれ」
「お前はそうやって勝手に・・・・・・!!
俺がどれだけ苦痛か考えろってんだ。
昔っからそうだがよ、お前がたまにするその身勝手な行動に俺はどれだけ頭を抱えてたことか。
高校の頃はせっかく出来た初めての彼女とデートしてたらテメェと未音が後ろを尾けて、隙を見てカバンの中にコンドームとエロ本入れやがって・・・・・・あの後、俺は局部を蹴り入れられたんだぞ!!」
「知ってる。泣きながら蹲ってる蒼龍を見て未音と一緒に爆笑してたからね。
でもキミも身勝手だ、キミだって僕が彼女が出来て、放課後に彼女と喋ってたら女性の名前に変えたLINEでまるで浮気しているかのような匂わせをする文面を送ってきたじゃないか。
そのせいで僕はその子の兄にかかと落としを食らったよ」
「お前が俺より先に彼女が出来んのが悪いだろうが」
ほら見ろと藤也が笑う。
他愛のない、二人の恨みのぶつけ合い。
それは、あまりにも最期には相応しくのない最低という名誉の押し付け合いだった。
二人してそう思ったのか、笑い合う。
「・・・・・・そういだよ、蒼龍。
キミは笑顔でいてくれ・・・最期にキミを泣かせたかったと僕を後悔させてくれ。
それが、生きたいと思ってしまった僕の贖いだ」
「・・・・・・こんな時、アレがありゃあなぁ」
口惜しそうに蒼龍が唇を噛み締め、柄を握り締めた。
面会の時間を終え、処刑執行の時間へと蒼龍は切り替えたのだろう。
「じゃあな親友。
・・・・・・暫くは会ってやらねぇから向こうで元気にしてろ」
「わかってるよ。
また会おう、親友」
風の切る音が聞こえ、肉が断たれる音が脳に響き渡る。
処刑人の役目を終えた蒼龍が膝を崩す。
きっと、目頭が熱くなっているのはお互い同じだろう。
「藤・・・・・・也・・・・・・!!」
オレと蒼龍は絞り出すように、亡き友の名を口にする。
───────この日、オレはまた大切な人を喪ったのだった。
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「起きろ、明導院」
真っ二つにされた玄司郎に触れながら、ソレが声を掛ける。
すると、時間が逆行したかのように真っ二つの身体が接合される。
むくりと起き上がり、玄司郎がソレに声を掛けるのだった。
「ありがとうボス。
アナタがいなかったら死んでたわァ。
御礼に抱かれてあげるけど?」
「要らない。君を抱くなんかよりも醜女を抱いた方がマシさ。
さて、弁明を聞かせてもらおうか?」
「弁明なんてしないわ。
アノ子の力を見誤った、アタシの最悪なミスよ」
「分かればいいです。
・・・・・・と、普段ならば言っていたでしょう」
ぐい、と玄司郎が腕を掴まれる。
「しかし、今回はいただけない。
ハロウィンを血祭りにあげるための計画に大きな亀裂が入った。
いくら恩があると言えど、今回ばかりは看過できない。
風魔蒼龍、奴を始末出来なかったのは大問題だ」
玄司郎の腕が、異形へと変化する。
苦痛に顔を歪めながらも、叫ばずに彼はただ耐えていた。
「荊棘、煌月・・・・・・その二人に匹敵する男だ、僕が荊棘を、煌月が奴で抑える、そういうプランだったんだがね・・・・・・それが白紙だ」
「そうね・・・・・・なら蒼龍チャンの相手はアタシがするってのはどうかしら?」
「君が?」
ソレが訝しむように玄司郎に訊ねる。
玄司郎は不敵に笑みを浮かべながら答えた。
「今回は計算が狂っただけ。
一回殺せばいいと思ってたら百回殺さないとダメだったって話だもの。
アタシもフルパワーで行くから安心してチョーダイ♡」
自信満々に、ウィンクをしながら玄司郎が胸を張って言う。
少しの間、ソレが思考して、
「・・・・・・了承した」
ソレが、彼の要求を渋々と呑み込む。
「だが、確実に殺してくれ明導院。
まぁ、田沼組と羅生会から何人か───────」
「田沼は五万歩譲るとしても羅生は辞めといた方がいいわ。
アイツら、仲間殺しも平然とするヤツらばっかだからリスクの方が大きいわ」
「・・・・・・そうか」
あっさりと納得し、ソレが歩き始める。
玄司郎もソレの後ろを守るように歩き出した。
「んじゃ、そゆことで頑張りましょボス♡」
「あぁ、頑張ろうか」
ソレが、ピエロの仮面を着ける。
ソレ───────道化師の姿は、その瞬間には消えていたのだった。
藤也くんはもう少し活躍させてあげたかった・・・・・・
一応、五章が終わり次第番外編をやるので、その際に彼は活躍します。
さて、次で第4章の衝動流転は最後です。
引き続き、楽しんで頂けましたら幸いです




