棺桶
お待たせしましたー
放たれた土塊の槍が走る。
蒼龍は、固まっていたが頭一つ分の距離でようやく槍に気付いてその槍をどうするかを即座に決定し、実行する。
避けようがない、ならば腕で殴るのみだ、と脳が判断したのだ。
穂先を拳で砕いて、頬を掠めながらも槍の軌道を逸らすのだった。
「あら、やるじゃない」
「ケッ。こんなもんよりもうちの弟の方が速いってんだ。
アイツは新幹線と同じ速さなんだぞ。
それに対応出来なけりゃ俺が死ぬってんだ」
「なるほどねぇ……それは知っていたけれども。
……どうやらアタシ達の見込みは甘かったみたいね」
自身の認識の甘さを理解し、玄司郎がその責任を負うべく即座に”余興“から、本気へと変わる。
指で空中に五芒星を描く。
しかし、その予備動作を見過ごす蒼龍ではなかった。
クナイを玄司郎へと放ち、妨害する。
それは間違いだと知らず、放ったクナイは玄司郎の腕へと深く食い込み、そこから血が流れる。滴り落ちる血液をインクに、玄司郎が指に血液を付着させて眼の紋様を描く。
瞬間───────周りが朱へと染まる。
ワインのような真紅、血液で蒼龍と玄司郎のいる空間を深紅で支配する。
「本気出しちゃう。アナタ、予想よりも何倍も強そうだし。
……ホントはその日まで隠しときたかったけれど……ここで殺さなきゃダメみたい。
乙女の直感は当たるもの、決定しちゃった♡」
もう逃げられない、それは空が朱となったことで悟った蒼龍は、肩を竦めて玄司郎へと軽口を叩く。
「……チッ、戦巧者め。テメェ最初の腕振りはブラフかよ
やられた、亜人種課を次席で卒業してるだけはあるな」
「いずれ、アナタもアタシみたいになるわ。
だって、アナタも次席でしょ?」
周りが、世界が赤色へと塗り替えられていく。
この世の景色が、張り替えられてゆく。
その世界の王は自分だと言わんばかりに、玄司郎の足元から赤いオーブが飾られた杖が現れた。
まるで心臓を掴んでいるかのようなデザインの杖、そのオーブから血が滝のように溢れ出ていく。
「……アタシ、さっき玄を司る男で玄司郎と言ったけれど。
玄は玄でも玄武を司ってるのではなくて。
”黒魔術“の使い手なのよ」
黒魔術、というワードを聞いて蒼龍が首を傾げた。
「魔術?
……魔術って、単に西洋での言い方じゃねえか。
黄色人種と一緒なのが気に食わないっていうヤツらが勝手に言い換えた───────」
「ノンノン、黒魔術って言ったでしょ?
コレはね……魔女の因子を身体に埋め込むことで使えるようになるの。
生贄を媒介して発動させるから、詠唱も無いチョー便利な力なの!!」
笑みを浮かべながら、玄司郎が唱え始めるのだった。
「”───────暁の夜に唄おう“
”深夜へと誘おう、そして遊びましょう“
”空け、削ぎ、流し、穢し、笑い、泣き、断絶しちゃいましょう“
”我が因子は、『城』。怨念血占城の主ホルンベルクが告げる“」
ホルンベルク、という言葉を聞いて蒼龍が眉を動かす。
それは、蒼龍に縁のある名前であったからだった。
「”今、此処に我は開く“
”受け継がれる血の門を───────!!“
”彩庭血戦城・ホルンベルク“」
瞬間、その場の世界は激変する。
金色だった月は凶悪な赫を纏い。
玄司郎の背後には赤き城が聳え建ち。
真紅のロングコートを玄司郎は羽織り、背後に現れた玉座にて座るのだった。
「なんだ……こりゃ」
唖然。蒼龍はただ、視界に移る光景に圧倒されるのみであった。
不敵。玄司郎は自身の作りあげたこの無敵空間に、勝利を確信させるのだった。
「あ、しくったわ。
紋様を描くだけでいいってのに、アタシったらついつい唱えちゃったわ。
まぁ、ムードって大事だしいいわね別に!!」
玄司郎の言葉に、蒼龍が我に返る。
否、言葉においてこんな光景などどうでも良い。
世界よりも大事な、家族の安否を不安視して。
そして、先程の詠唱について眼光を鋭くさせながら玄司郎に訊ねた。
「ホルンベルクに何かしたのか?
……ナイフ使いの男を、殺したか」
蒼龍の問いを待っていたと言わんばかりに玄司郎へと微笑み、答えた。
「あんたの弟でしょ?
殺したわ、お姫様に少し話があっただけなんだけど……邪魔しに来たからうっかりね。
てか、なんなのあの子。速すぎて手下二百人が一瞬で死んじゃったわ。
新幹線? 笑っちゃうわ、だってあんなの音速よ音速」
「……よくも、うちの弟の幸せを奪ったな明導院。
許さねぇぞ、アイツが幸せになれる道を潰しやがって───────!!」
言い終えると同時に蒼龍が跳ぶ。
驚異的な速さで玄司郎の眼前へと迫り、愛刀をレイピアのように刺突に特化させた形へと変化させる。
その速さは正しくジェット機そのもの。
殺意と共に、神風の特攻が玄司郎を襲う。
「だぁめ。アナタには殺されても、傷一つもつけさせてあげなーい!!」
しかし、触手のような血の塊が突如として現れ、蒼龍を弾き飛ばす。
飛ばされ、飛ばされた蒼龍の背後には無数の針鳶派の裏側に施された鉄の棺桶が待ち構えていた。
その中へと蒼龍が叩き込まれると同時に、その扉はゆっくりと閉まっていく。
「どうにかして壊す───────」
「壊れないわ。残念だったわねぇ……この空間はね、アタシの好きなように出来るの。
……ま、血が媒介してないとダメだけれどね」
足掻こうとする蒼龍の心を折るべく、玄司郎は説明という名の追い討ちをかけた。
抵抗は無意味だと悟った蒼龍は、腕の力を抜き、されるがままに受け入れた。
殺意、戦意が絶えていないのを疑問に感じながら明導院は唱えるのだった。
「さぁ、胎の中へと回帰しなさい。
─────聖処女の棺桶」
直後、アイアン・メイデンの扉が閉まる。
数秒が経過した後、その足元から蒼龍の鮮血が流れるのだった。
蒼龍くんの弟のモチーフはナイフ持ってメガネかけたどっかの吸血姫を十七分割した殺人貴です。
遠野志貴と検索すれば出てきます
てか、この作品はだいたい型月作品からモチーフにさせて頂いてます。
ホント、型月はいいですゾ




