奇襲
四章も折り返しとなりました。
走り進むこと数分で、藤也を見つけることができた。
ネオン街沿いの路地裏で、彼はオレを待つようにして立っていた。
「藤也!!」
俯いたままの藤也を見つけ、名を叫ぶ。
ピクリと動いた後、藤也は笑みを浮かべ、オレに顔を向ける。
「あぁ……なんだ、未音か。
……早速だけどさ。君には死んでもらおうかな。
目障りなんだ……あぁ、吐き気がするんだよ、その善人面が─────!!」
忌々しげにオレを睨み、友人は敵意を剥き出しに呪力を練り上げる。
ナイフの刀身を藤也へ向けて、オレは臨戦態勢へと移った。
「悪いけど、殺されるもんか。
オレはお前を助ける為に来たんだ、殺されるために来たわけじゃねぇ!!
大人しくお縄につけ、藤也……!!」
そう言い返し、藤也を警戒する。
……気張れ、オレ。
もっと気張れ、アイツの殺意を圧倒するほどの決意をアイツに見せろ。
気持ちで負ける訳には、いかない……!!
「助けに来た?」
しかし、そんな覚悟を見下すように藤也は鼻で笑い飛ばした。
「バカじゃないのか、僕は君の嫌う殺人鬼だ。
キミをこの血塗れた道へと誘った、伊藤守人と同じ種類なんだよ。
キミがそんなやつを許せるとは思えないな!!」
伊藤と同じ?
否、違う。
アイツは先天的なイカれた殺人鬼だが、お前は違うだろう藤也。
お前はその殺人衝動が抑えられている間、その衝動に流されることなく、困っている鬼達やオレに手を差し伸べてくれていた。
……家族のクソみたいな暗示で、お前は成ってしまった。
「……いいや、助けるぜ。
元々、オレは伊藤をぶっ殺したいだけだ。
でも、それと同時に守りたいものは守ろうって決めたんだ。
当然、お前もその守りたいものだ。
せめて、蒼龍との結婚式には面出してもらう……!!」
彼は裁かれるべき人間で、助かる資格はないのかもしれない。
けれど、オレが助けたいから、藤也は助かってもらう。
それが例え、オレにバチが当たろうとも構わない。
友との戦闘を決意して、オレは藤也へとひとっ飛びする。
十メートルくらい距離が離れていたが、それを一秒行くか行かないかの速さで詰、彼の手首に切り掛る。
普通の亜人種課の人ならば、対応は出来ないだろう。
現に模擬訓練ではこの一瞬での出来事を脳で処理しきれず、思考がフリーズして為す術なく一撃を受けていた。
しかし、藤也は涼しい顔のまま、背後から土塊の槍を飛び出させた。
「─────っ!!」
すぐさまナイフで打ち払い、その一撃を防ぐ。
しかし、それによりバランスが崩れてしまい着地に失敗して、転ぶ。
それを隙と見てか、藤也はすぐに今のと同じ土塊の槍を飛ばす。
「─────クソっ!!」
それを転がって避けて、近くにあった瓦礫を使って藤也へと投げる。
腕へ狙ったそれを、藤也は避けることをせずに受けた。
……それは、償いのつもりか。
それなら藤也、お前は大バカ野郎だ。
それは、ただの逃避だ。
「……やっぱり、痛いな鬼の投擲は」
そう言うと、藤也が背を向けて走り出す。
それと同時に放たれる槍を回避して、オレは藤也の後へと追った。
……よし、ここまでは順調だ。
蒼龍は現在、藤也は移動するであろう地点へと向かっている。
蒼龍はそこで待ち伏せして、挟み撃ちという算段だ。
後は藤也の一撃を回避しながら追えばいいだけだ。
蒼龍は絶対に間に合う。そんな確信がこの作戦の成功値をはね上げている。
そんな自信を持っている中、携帯に通知が入る。
ポケットから取り出して、携帯の画面を覗く。
そこには、『悪い、遅れる』と簡潔に済ませた蒼龍のメッセージがあったのだった───────
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───歓楽街の、ビルの屋上を忍びが如く駆ける姿が一つ。
全身を黒に染めたその格好はまるで鴉のように、風魔蒼龍は未音との合流地点に向かっていた。
「……未音、上手く誘導してくれよ」
その合流地点は、幼い頃に蒼龍と藤也がよく遊んだ歓楽街を出た少し先にある河川敷で、二人がなにかしでかした時に決まって避難する場所でもあった。
藤也はそこに逃げるという確信を、蒼龍は抱いていたのだった。
なんてことは無い、小さい頃からの絆が、蒼龍が確信を抱く証拠だ。
ビルの屋上を駆ける最中、蒼龍はたまたま視線を向けた先にいた、隣ビルの屋上にいる人物を見て、足を止める。
その男はかなりの美形で、一目だけでは女性と間違えるほどだった。
しかし、そんな彼の美しさではない。彼の危険度に、蒼龍は足を止めたのだ。
それは僥倖か、運命か。
次の瞬間、蒼龍のすぐ頭上に飛来するのは藤也が繰り出していたモノよりも遥かに精度が高く、大きい火球であった。
藤也が出していた野球ボールサイズの、可愛らしいモノではない。
ボーリングの球サイズのモノだった。
蒼龍は回避しつつ、機械的にその人物へ向けて袖口に仕込んできたクナイを、正確に投擲する。
「あっらぁ、アブナイわね!!
危うくアタシの綺麗な顔が悲惨なことになるトコだったワァ!!」
予想外の反撃だったはず。
しかしその男はサラリとかわしてみせて、ウィンクと同時に呪術の詠唱を唱え始める。
「“焔纏いた呪岩よ、砕け
朱雀・玄武の複合 ……炎岩”」
それは先程の火球を出す為の呪術、蒼龍は上空を見上げると、頭上、おそらく自身の背丈と同じくらいの間隔に生み出された炎の岩があった。
回避しても次の攻撃が飛んでくる。
そう確信した蒼龍は鬼忌廻改を巨大な刀へと、
否。
自身を包むほどの小さなかまくら状の鉄塊へと変化させて、その火球を防いだ。
口笛を吹いて、男は蒼龍に賞賛を送った。
「あらァ、素晴らしいわ!!
アナタ、最っ高に最っ高よぉ!!!!
顔もいいしわねぇ……アタシ、アンタみたいな男タイプよ、抱いてちょうだい!!」
「悪ぃけど、もう将来を誓った女がいる。
……つーかお前、明導院だな。
道化師の側近の呪術師、明導院 陸次郎!!」
蒼龍が問う。
その問いに、男は勢いよく腕を交差させてバツの形を作り、答えた。
「そんなセンスのない名前で呼ばないでちょうだい!!
アタシはね、迷える子羊を明るい道へと導く、黒を司る男……明導院 玄司郎よ!!」
男───玄司郎がそう名乗っている間に、蒼龍は着物の袖に入れていた携帯を取り出さず、見ずに未音へと『悪い、遅れる』と簡潔に済ませた文を送った。
お互い睨み合う中、最初に啖呵を切ったのは蒼龍だった。
「なぁ、田沼家でお仲間の錬鉄影爾が死んだけど感想を聞こうか?」
「あら、挑発?
それなら問題ナッスィングよ。あの子はあそこで死ぬ覚悟を背負っていたもの。
そんな男を、涙流さず見送るのが仲間の役目よ。
アナタ、十何年も一緒にいた仲間がいるのにそんなことも知らないの?」
あぁ、と蒼龍が頷き、答える。
「生憎、そんな関係の仲間を作れる環境ではなかったんでな」
「アラ、そうなの?
まぁ、アタシとしては錬鉄ちゃんはしっかりと役目を果たしてくれたわ。
あの子のおかげで、亜人種課が秘密裏に開発している新しい兵器を先に開発できたし、何より我らが王サマの覚悟も決まったみたいだし」
再び、玄司郎が詠唱を始める。
先程と同じ呪術詠唱を耳にした蒼龍はすぐさま、もう一度クナイを放つ。
それを、飄々と蹴り弾きながら玄司郎は再び語り始める。
「田沼家の作戦はね、アタシ達は当然予想済みだったの。
未音っちが玄人に言うのは確定だろう、そうすれば我らが『劇団』内で二番目に勢力があるともっぱら噂の田沼組は速攻狙われて、足並み潰されるだろうなって」
「……それと、あの掃討作戦は麻上が田沼家の居場所を知っていたのもデカい。
何故かは知らないけどな。
しかし、それを特定した麻上は更に黒い噂がたつようになった」
「アラ、知らないの?
あの情報、アタシが売ったのよ?
あの子、アタシの根城知ってるからね。
なんだっけ、どうしても成り上がって守人と未音っちをエンカウントさせたいんだって」
玄司郎の言葉は嘘か真か。
蒼龍には分からない。
しかし、分からないからこそ蒼龍はその場で固まってしまった。
麻上なら接触しかねないと。
彼にとって、未音は嫌いなタイプの存在だというのは間違いがない。
嫌いな人間を徹底して潰す麻上が未音を死なす為に工作をする姿など、容易に想像できてしまうほど、麻上の人間性は下劣極まりなかった。
だからこそ、玄司郎の真偽の分からない情報による衝撃で体が動かなくなり、玄司郎はその隙を見逃さなかった。
蒼龍の元へ詰め寄りながら、玄司郎は詠唱を唱える。
それは、先程の火球ではなく別の呪術だった。
「“帝に仕えし武士が残す、最後の呪いよ。
我が次なる主となるのを代償に、貫き給え。
玄武ノ五・土禍槍”」
同時間に、藤也が出したモノとは格別な土の槍が生成され、蒼龍に向かって放たれた。
土禍槍をどっかそう……ナンチテww
……はい、言いたかっただけです。
ところで、いいことではあるんですが一週間休むとかほざいた男はどこの誰でしょうね?
俺なんだよなぁ




